報告:公開セミナー「バランゴンバナナの民衆交易はどこまで生産者の自立に寄 与できるのか」
6月20日(土)午後、公開セミナー「バランゴンバナナの民衆交易はどこまで生産者の自立に寄与できるのか~フィリピン産地調査報告~」が立教大学池袋キャンパス(東京都豊島区)で開催されました。
ATJとNPO法人APLAは昨年、日本で出回るバナナの90%以上を占めるフィリピンバナナを通じてフィリピンの人々との関係はどうあるべきか、を探る目的でバナナ調査プロジェクトを立ち上げました。
プロジェクトの一環として、2014年度は3名の研究者に委託してバランゴンバナナ産地の実地調査を実施しました。このセミナーは、調査で明らかになった産地や生産者の状況、提言を研究者より報告してもらうために開かれました。
〇調査報告① 関根佳恵氏(愛知学院大学)「未来をつむぐバランゴンバナナの民衆交易~コタバト州マキララ町を事例として」(調査地:ミンダナオ島マキララ)
〇調査報告② 石井正子氏(立教大学)「ミンダナオ島の先住民族がバラゴンバナナを売ること、とは?」(調査地:ミンダナオ島レイクセブ)
〇調査報告③ 市橋秀夫氏(埼玉大学)「ネグロス島バナナ栽培零細農民と『自立』論」(調査地:ネグロス島東ネグロス州)
各調査結果から、バランゴン民衆交易の次のような意義が浮かび上がってきました。
経済的意義:バランゴンバナナは定期的に安定した現金収入を得られる収入源の一つとなっており、必要としている生産者は多い。しかし、暮らしが十分豊かになるまでには至っていない。
社会的意義:ミンダナオでは民衆交易がプランテーション進出を阻止し、農民が労働者になることを食いとどめている。また、先住民族の暮らしを開発から守る機能を果たしている。アグリビジネにはできない「安全・安心」「環境保全」「民衆の食料主権」といった価値を具現化している。
一方で、インフレが続くフィリピンで生産者からの買取価格引き上げが急務である、萎縮病(バンチートップ病)などの病害が深刻で、有効な対策が講じることができていない地域がある、などの事業上の課題も指摘されました。
そして、もっとも本質的な問題として研究者から提起されたのは、民衆交易の理念、意義やミッションなどについて関係者(生産者、各産地の生産者支援・出荷団体、ATC、ATJ、消費者)の共通理解が十分確立できているとはいえない部分があることです。詳しくは後日発表する報告書の中でまとめる予定ですが、バランゴンバナナが持ちうるもっと積極的意義があるのにそれが生産者に認識されていなかったり、また逆に日本の消費者もバランゴンバナナを食べることのメリットを感じてもらえていないケースもあると指摘を受けました。
バランゴンバナナの民衆交易には現在以上にさまざまな意義を作り出しうる余地があることが指摘されましたが、それは逆にいえば、商品としてのバナナの価値である以上に、バランゴンバナナが持つ「社会的品質」(そのバナナが作り出すさまざまな関係、環境的、社会的価値などを含む品質)がまだまだ十分開発されていないということになります。
商品を超えたそうしたバランゴンバナナの持つ特性は単に売ると買うだけの関係では成立せずに、積極的に学び合う互いの絶え間ない活動なしにはなりたちません。ATJはバランゴンバナナ民衆交易に関わるすべての人びとと共に、こうした価値を再構築していくことで、この問題提起を受け止め、今後の活動・事業に生かしていきたいと考えております。
なお、本セミナーの報告書は8月までに制作、公開する予定です。
政策室 小林和夫
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