レポート

【ハリーナ no.38 より】カカオの民衆交易とパプアの未来 ~カカオキタ社代表 デッキー・ルマロペン~

2018年1月22日
デッキーとブラップ村の女性たち

デッキー(左から2人め)とブラップ村の女性たち

インドネシア・パプア州でのカカオ事業で最初のコンテナを出荷した2012年から数えてすでに5年がたちました。

私は当初から民衆交易を通じて、パプアのカカオ生産者が消費者の要望に応えられる品質のカカオを生産し、そのカカオから確実な収入を得て経済的に自立していく、という道筋を描きました。

 

その歩みはゆっくりですが、確実に進んでいると思っています。

 

カカオを通じて幸せになる

先住民族たちが生活水として使う川に農薬は流せないのでその使用はない。

先住民族たちが生活水として使う川に農薬は流せないのでその使用はない。

パプアの先住民族は豊かな天然資源と共に生きているのに、経済的にはいつも敗者で、自分たちの土地の上で開発の傍観者となっています。

しかし、パプアの人と自然に心を寄せてくれる日本の友人たちと民衆交易を通じて学び合うことで、わたしはパプア人の誇りと尊厳を回復できるのではないかと期待しました。

カラフルな実をつけたカカオ

カラフルな実をつけたカカオ

そして、カカオ事業を推進する母体、「カカオキタ社」を立ち上げました。インドネシア語で「キタ」は私とあなたを含む「わたしたち」という意味です。カカオを生産する人、加工する人、出荷する人、チョコレートを製造する人、売る人、食べる人、そしてカカオを育む大地と森をも含めすべての仲間が協働することをイメージしています。

カカオの出荷。カカオキタのスタッフが生産者と品質の確認をします。

カカオの出荷。カカオキタのスタッフが生産者と品質の確認をします。

カカオキタのビジネスのなかでは「みんなで一緒に幸せになる」という考えを大切にしています。例えば、カカオキタは原則、生産者個人から直接カカオ豆を買付けています。

効率性を考えれば、村にいるカカオ集荷人からまとめて買った方がよいはずです。

しかし、それでは一握りの人のみに恩恵が集中し、大多数の人びとと民衆交易を共有するチャンスが生まれないシステムになってしまいます。

品質合格で生産者もスタッフも笑顔

品質合格で生産者もスタッフも笑顔

 

生産者との関係づくりはカカオキタのスタッフが村々に買付けにいくとき、集まった生産者たちとカカオ栽培や村で起きていること、人の噂話など多面的に話し合うことで築き上げています。

そこからいくつかのプログラムが生まれました。

豆代の支払いを受けた後、貯金額を通帳に挟みカカオキタに託す生産者

豆代の支払いを受けた後、貯金額を通帳に挟みカカオキタに託す生産者

 

「カカオを売っても手元に現金が残らない」と嘆く母親の声に応える形で貯蓄プログラムをはじめました。

カカオの売上の一部をカカオキタが町の銀行に代行で貯金するシステムです。

 

 

カカオの森の下草刈りは、一人ではなかなか大変な作業です。みんなで協力してやれば仕事ははかどり、みんなで森で食べるお弁当も格別です。

カカオの森の下草刈りは、一人ではなかなか大変な作業です。みんなで協力してやれば仕事ははかどり、みんなで森で食べるお弁当も格別です。

また、カカオの収穫量が少ないと嘆く生産者たちからよくよく話を聞いてみると、カカオ畑の手入れができていない。

それでは皆で力を合わせて畑の手入れをしようということになり、実行したら収穫量が増えました。

こうして、生産者とのコミュニケーションを大事にすることが問題解決に少なからずつながっています。

 

知識と技術を分かち合うことで……

次なるステップはパプアの人びとがカカオ豆からチョコレート素材を製造し、お菓子にして地元で販売することです。カカオキタは小規模のチョコレート製造所とそこに併設するカフェをつくる構想を立てています。

パプアのカカオを使ってインドネシアの工場でつくったチョコレート。パプア州のカカオキタ事務所で販売。訪れたジャカルタのジャーナリストがGood!

パプアのカカオを使ってインドネシアの工場でつくったチョコレート。パプア州のカカオキタ事務所で販売。訪れたジャカルタのジャーナリストがGood!

 

このチョコ工房&カフェは、「人びとの集いと学びの場」になり、生産者はここで自ら育てたカカオからチョコレート菓子作りを学び、それを村や町で売り副収入を得ます。

カカオキタのスタッフは、キッチンでチョコレートを手作りしてみました。

カカオキタのスタッフは、キッチンでチョコレートを手作りしてみました。

 

 

 

 

カカオキタがチョコ製造で独占的に儲けるのではなく、その知識と技術を学ぶチャンスを生産者と分かち合い、各個人がそこから小さな経済活動をはじめていくというイメージです。

小さな活動が集まって協働組合に発展するかもしれません。みんなで幸せになる夢は膨らみます。

 

 

パプアのカカオはパプアの森からの贈りもの

パプアのカカオはパプアの森からの贈りもの

最後に。悲観的に聞こえてしまうかもしれませんが、率直に言ってパプアの未来は前途多難だと思っています。

パプア先住民族に真の指導者がいないこと、パプア人政治家・役人の汚職、インドネシアの他の島からの移住民との経済格差・競争など、パプア社会に内在している分断と紛争の火種が大きくなりつつあります。

みんなでカカオキタの車に乗って、みんなの生活の糧がつまっているパプアの森の手入れに出かけます。

みんなでカカオキタの車に乗って、みんなの生活の糧がつまっているパプアの森の手入れに出かけます。

そんななか、パプアの民衆が経済的に安定することは外部の問題に安易に翻弄されないためにも必要です。パプアの未来を考えるとき、先住民族の暮らしや文化を生かしながらパプア人自らが身の丈にあった経済活動の担い手になることがどうしても必要なのです。民衆交易を活かしてそれを実現したいです。

 

自分たちでつくったチョコでつくったチョコアイス。近所で大評判!

自分たちでつくったチョコでつくったチョコアイス。近所で大評判!

 

 

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