レポート

25年目のオルタナティブをめざして

2014年2月13日

上田誠(オルター・トレード・ジャパン代表取締役)

上田誠ATJ代表取締役

上田誠ATJ代表取締役

 今年2014年は国連食糧農業機関(FAO)が定める国際家族農業年です。なぜ、今年が国際家族農業年となったか、そこには大きな危機意識があります。このまま企業的大規模経営農業が進んでいくと、世界の飢餓や貧困が増加し、気候変動がさらに激化し、地球規模で破局的問題に陥るという認識が広がりつつあるのです。

 グローバリゼーションの拡大に伴い、多国籍企業の影響力はより強大になり、日本を含めた世界規模の問題となってきました。実際、フィリピンではミンダナオ島など遺伝子組み換えトウモロコシ畑が広がり、その影響で自立した生産者の営みはより困難な状況に陥っている地方があります。フィリピンはもちろん、日本を含むアジアでも、EUや米国、アフリカ、ラテンアメリカでも食の安全よりも、多国籍企業の利益を追求する大規模農業が力を拡大してきました。

 私たち日本人の食生活にも遺伝子組み換え食品はすでに深く浸透しています。日本に輸入される大豆の75%以上、トウモロコシの80%以上、ナタネの77%以上が遺伝子組み換えになっていると言われ、日本の食料依存、特に遺伝子組み換え依存はますます高まりつつあります。

 安心できる食を確保していくことは、それを生産する国内外の小規模生産者を守る活動と切り離すことはできないとATJは考えます。近年、アグリビジネスによる大規模農業に支配されない小規模生産者主体の農業を作り出す運動が世界各地に現れています。日本ではまだ聞き慣れぬ言葉ですが、アグロエコロジーという生態系を守り、食の安全と職の確保を求める農業運動がラテンアメリカでもアフリカでも大きく成長しつつあります。

ビア・カンペシーナ、FAOとアグロエコロジーの普及で提携

ビア・カンペシーナ、FAOとアグロエコロジーの普及で提携

 この動きは、南の国だけでなく、フランスや米国、英国などの国々で現在の農業に対するオルタナティブであり、気候変動を抑え、飢餓問題を解決できる農業であるとして注目され始めています。すでに、フランス政府の政策にも反映され始め、FAOはこのアグロエコロジーを世界的に推進するために国際的な小農民運動団体であるVia Campesina(ビア・カンペシーナ)と連携することを発表しています。

 こうした流れの中に今年の国際家族農業年があります。国連貿易開発会議は「手遅れになる前に目覚めよ」という激烈なタイトルを持つ報告書で企業的大規模経営モノカルチャー農業を小規模家族農業、アグロエコロジーへの転換を一刻も早く進めることを求めています。

 国際家族農業年は、家族農業が持つ社会的、文化的、自然的な役割と価値が、小規模生産者のくらしを改善し、持続的な生産を実現し、現在私たちが直面している飢餓人口の削減や貧困の削減といった様々な問題に対抗しうる力となりうることも、提示しています。

 世界で生まれているこうした流れはオルター・トレード・ジャパン(ATJ)にとっても重要な動きです。 私たちATJは民衆交易という生産と消費の場をつなぐ交易を通じて、「オルタナティブ」な社会のしくみ・関係を作りだすことを目的として、フィリピンを始めとする各国の生産者・パートナーとつながりを深めてきました。

 フィリピンでは多国籍企業が生産するプランテーションバナナではなく、裏庭にあるバランゴンバナナの交易を通じて、小規模生産者の自立を求めて取り組みを進めてきています。同様の地域に根差した取り組みは、インドネシア、東ティモール、パレスチナ、ラオス、そしてパプアに現在広がっています。

 2014年、ATJが民衆交易を開始してちょうど25周年を迎えます。同年に国際家族農業年が決定されたことに深い意味を感じます。なぜならば、ATJが25年間のアジアの小規模生産者との取り組みを通じて感じている私たちの危機感と、国際家族農業年にはっきりと現れた世界農業の危機認識が重なったからです。

 残念ながらこうしたオルタナティブを求める世界の動きは日本ではほとんど報道されません。企業的大規模経営農業、「競争できる農業」ばかりが推奨され、TPP交渉や国家戦略特区などを通じてそうした農業が政府の支援を受け、強化されようとしています。しかし、残念ながらそこに日本と世界の安心できる食の未来は見いだせません。

 ATJはこうした世界のオルタナティブな試みに光をあてるため、「世界のオルタナティブ」というWebサイトを開設しました。世界で躍進するアグロエコロジーのさまざまな試み、遺伝子組み換えやアグリビジネスと対決する小規模生産者の動き、消費者・市民の取り組みなどをお知らせしていきます。

 そして、その第一歩として、フィリピンのパートナーとともに、バランゴンバナナを通じた民衆交易が切り開く可能性を共同で調べる調査プロジェクトを開始いたします。そのプロジェクトをみなさまと共に進めていくために2014年3月16日に『バナナと日本人』その後 -私たちはいかにバナナと向き合うのか?と題したセミナーを開催いたします。

 今後も世界のネットワークを活かして、「ひとからひとへ、手から手へ」わたされる民衆交易によって共同体・地域づくりを進めながら、オルタナティブを求める世界の小規模生産者の営みを伝え、今後も食と職、農と地域のあり方を豊かにしていくための提言と取り組みを進めて行きます。

 ぜひ、みなさまもご参加いただけますよう、よろしくお願いいたします。

ネグロス東州バイス 生産者セミナー詳細: 『バナナと日本人』その後 -私たちはいかにバナナと向き合うのか? 2014年3月16日14:00~17:00 東京・池袋立教大学にて

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