投稿者: kobayashi
【バナナニュース296号】バランゴンバナナが日本に届くまで
1989年フィリピン・ネグロス島から始まったバランゴンバナナの交易は、現在5つの島(ネグロス島・ルソン島・パナイ島・ボホール島・ミンダナオ島)に広がり、約3,000人の生産者がバナナを届けてくれています。
①収穫
バナナは多年草で、1本の株が実をつけるのは一度だけ。次は株の根元から出てくる脇芽が成長して実をつけます。収穫はバナナの茎を切り倒して行います。
②集荷
収穫したバナナは畑や集荷所で房ごとに切り分けて、傷まないようにコンテナに入れるなどしてパッキングセンターまで運ばれます。
③洗浄/箱詰め
パッキングセンターでは、バナナを水でていねいに洗浄して、汚れなどを洗い落とします。そして、熟度、傷、サイズなどをチェックしてから箱詰めします。
④日本へ運搬
各産地から冷蔵コンテナ船や空輸でマニラやダバオの国際港に運ばれたバナナは、最終検品を経て、国際冷蔵コンテナ船に積み替えられ日本に向けて出港します。
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よろしければ、このニュースを読んだ感想をお聞かせください。
生産者へのメッセージは生産者に伝えていきます。よろしくお願いいたします。
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ビデオ『バランゴンとバナナ村の人々』 from フィリピン・ネグロス(PtoP NEWS vol.34/2019.10より)
フィリピン・ネグロスのバナナは、どんな人びとの手を通して食卓まで届くのか。その全行程を収録したのが『バランゴンとバナナ村の人々』というビデオです。舞台は1990年代初頭、バナナの主産地であったラグランハ地区、ネグロス島中央部にそびえたつカンラオン山の中腹に広がる通称「バナナ村」です。
60kg以上もあるバナナを天秤棒で担いで、山を越え、川を渡って集積所まで運ぶ生産者たち。着いたバナナを夜通し水洗いをし、乾燥させて箱詰めをするパッカーたち。人から人へ、手から手へ渡されるバナナ。何と1回の出荷に600家族が関わっていたそうです。まさしく人海戦術です。
バナナは温度管理が難しい果物です。プランテーションでは収穫してから24時間以内に冷蔵して、そのまま日本まで運んでいます。道路もない山中から、それが可能なのだろうか。バナナ業者からは「素人にバナナの輸入ができる訳がない」「無謀だ」と揶揄されたそうです。しかし、手探りの状態で試行錯誤を繰り返しながら、バナナを日本に届ける仕組みを整えることが出来たのです。それを実現させたバランゴン交易にかける人びとの熱い思いが映像から伝わってきます。
『バランゴンとバナナ村の人々』(1992年制作、26分)
ATJは過去30年間に民衆交易事業や商品に関するさまざまな動画やブックレットなどを制作してきました。創立30周年を機にウェブサイトでも見られるようにしていきます。
乞うご期待!
【バナナニュース294号】野菜の宅配事業「the BOX」
★バナナニュース295号のQRコードからアクセスしていただいた皆さまへ★
【お詫び】
バランゴンバナナお届けの際に同梱されている「バナナニュース295号」に記載されたQRコードが、294号のページが表示されてしまうQRコードとなっておりました。
ご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません。お詫び申し上げます。
295号はこちらから閲覧をお願いいたします。
バランゴンバナナの輸出を担うオルタートレード・フィリピン社(ATPI)は、バナナの輸出以外にマスコバド糖という黒砂糖の製造と輸出、そして野菜などの宅配事業を実施しています。
The BOX(ザ・ボックス)と呼ばれる野菜の宅配事業は、ネグロス島内のバランゴンバナナ産地(西ネグロスのパタグやパンダノン、カンラオンなど)やカネシゲファームで生産された野菜や果物などを、バコロド市内の消費者に届けるシステムです。
2019年7月現在のBOXの登録消費者数は235人で、定期的な注文をしているのは60-70人程度です。BOXは注文書が届けられ、好きな野菜や果物を注文する形です。毎週新しい注文書が印刷され、水曜日に注文書を回収、木曜に集約しながら袋分けし、金曜日に配達します。個人宅の他、職場への配達もあります。
野菜の買い取りは、注文書の締切日と同じ水曜日に実施されます。残った分は会社に併設された小さな店舗で販売したり、週末の屋外マーケットで販売したりしますが、受注予測を誤って発注数量が多すぎると、ロスが出てしまいます。また、野菜の買取時には生産者から翌週の出荷予測をもらいますが、翌週になったら予測通りに野菜が揃わないということもあります。その他、野菜の種類が少ない、出荷される野菜が消費者の需要とうまくマッチしていないこと、品質に関するクレームが多いことが相変わらず課題です。
現在the BOX用の野菜の生産者は60人。最も売上高が大きいのは鶏肉、次にサツマイモや卵、パパイヤなどが続きます。
私立学校などで保護者向けに講師を招いてのセミナーを開催して食に対する意識を高めてもらい、BOXの登録者を増やす努力をしていますが、2019年はまだセミナーを開催できていません。事業的にはまだ採算が合わない状況ですが、「ほんものの食べもの運動」を進めるATPIとしては、引き続き課題の解決に取り組んでいます。
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【バナナニュース293号】干ばつに台風、バナナへの被害が続いています
数ヶ月前のバナナニュースでは、西ネグロスのカンラオン市で雨が降り始めたということをお伝えしました。
ところが、同じネグロス島の中でも、東ネグロスの産地ではその後もなかなか雨が降らずに、深刻な干ばつに見舞われていました。
干ばつの影響でバナナは成育せず、実のなりも悪い状態でした。
実がなっても出荷基準のサイズに満たないまま熟し始めてしまうものもあります。
そのような中、6月に入って一部地域で雨が降り始めたものの、今度は別の問題が起きています。
干ばつの影響で弱った幹が雨に耐えられず、重たい実をつけたまま折れてしまったり、倒れてしまう株が続出したのです。
さらに7月中旬には追い打ちをかけるように台風5号がフィリピン付近を通過しました。
ネグロス島には上陸しなかったものの、東ネグロスでは強風が吹いて株が倒れたり、葉が細かく切れてしまったりする影響が出ています。
東ネグロスで再びたくさん収穫できるようになるのは、10月以降の予定です。
収穫から日本でのお届けまでには約1ヶ月かかりますので、みなさんへのお届けは11月頃になる予定です。
この時期は国産の果物も多くあり、日本での需要が落ちる時期でもありますが、度重なる天候被害からようやく回復してきたバナナを、ぜひたくさん食べてください!
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カカオ民衆交易をつなぐROSTRUMメンバー From インドネシア
エコシュリンプを製造するATINA社の従業員互助組合「ROSTRUM」。組合員の出資金や積立金を原資に組合員の日常必需品の共同購入や小規模融資、ATINA工場の食堂の運営などを担っています。
この他、組合の活動として、インドネシア・パプア州の生産者が育てたカカオがチョコレートになり、日本の人びとに届くまでの民衆交易の物流を支えています。
今回は、その活動についてROSTRUMメンバーのユディさんに聞いてみました。
ROSTRUMがパプアのカカオを支えるようになったのは2013年。
輸出港のスラバヤに近いという地理的な利点もあり、パプアから出荷されたカカオ豆を、その加工先のインドネシア珈琲カカオ研究所(ICCRI)へ移送し、加工されたカカオマス、バター等のカカオ製品をATINAのおひざ元のスラバヤ港へ運んで輸出するまでのお手伝いをしたのが始まりです。
現在は、パプア州で立ち上がったカカオキタ社の委託を受けて、カカオキタの委託先である①ICCRI(クラフトチョコレートを製造)、②テジャセカワンココアインダストリー社(カカオ豆をカカオマス、ココアバター、ココアパウダーに加工する工場)の2ヵ所で製造されたカカオ製品を集荷して、輸出のためのコンテナや航空便の手配、輸出書類の手配、そして積み込みの作業などをしています。
バレンタインシーズンを前にチョコレートが動き出す10~12月は、パプアから届いたカカオ豆の加工と輸出が一番忙しい時期となります。
例えば、ICCRIで加工されるクラフトチョコレートはATINAから173キロ離れたジャワ島東部から集荷されますが、手配したトラックは夜中にスラバヤを出発してICCRIでチョコレートを積み込み、その日の内にスラバヤに戻ってきます。
チョコレートは熱に弱く壊れやすいために冷蔵トラックを使いスラバヤまでの荒れた道路の振動で壊れないようにゆっくりと運んで来ます。
スラバヤに届いたチョコレートはATINAの倉庫でROSTRUMメンバーの手で保冷箱に詰め替えられ、ドライアイスを充填して翌日にはスラバヤ空港に運んで航空貨物として成田空港へ向けて送り出します。
「同じインドネシアで民衆交易を続けてきた仲間として、そしてROSTRUMの活動の幅が広がり収入にもつながるというメリットもあり、これからも出来る限りの協力を続けていきたいです。」と語るユディさん。まさに縁の下の力持ちです。
義村浩司(よしむら・ひろし/ATJ)
バナナ スムージー
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<材料 グラス3杯分>
●冷凍したバランゴンバナナ・・・・・中3本
●牛乳・・・・・250cc
●お好みで果物
※バナナ、牛乳や果物の分量はお好みで調節してください。[/box]
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<作り方>
1. バナナは皮をむき、ラップに包んで冷凍しておく。
2. 凍らせたバナナを適当な大きさに切り、牛乳と一緒にミキサーに入れてスイッチオン。完成![/box]
«ポイント»
◆冷凍バナナがあればいつでもお手軽に美味しいバナナスムージーが楽しめます。暑い季節にぴったりのレシピです。キウイ、イチゴや桃など季節の果物を加えると、また違った味が楽しめます。ヨーグルトやレモン汁をまぜるとさっぱりした感じになります。
◆バナナをそのまま牛乳とミックスした定番のバナナジュースもお勧めです。
粗放養殖は自然に近い環境がずっと残せるし、長く続けられる。スヘリさん(エコシュリンプ生産者)from インドネシア
スヘリさんは、インドネシアのジャワ島東部シドアルジョ県クパン村のエビ生産者。
「エコシュリンプ」として日本に輸出されるブラックタイガーの養殖を始めて7年の若手です。
エコシュリンプの養殖方法は「粗放養殖」。「粗放」という言葉から、放ったらかしにしているイメージがあるかもしれませんが、生産者は大変な手間暇かけてエビの養殖をしています。
スヘリさんもその一人。日々養殖池を見回り、エビが病気にかかっていないか、水質が悪化していないか、大雨が降った後は養殖池の塩分濃度が適切か、などを確認します。
ブラックタイガーは水の塩分濃度が下がりすぎると死んでしまうので、その恐れがある時は早めに収獲しなければならないからです。
こうして、稚エビを養殖池に放流してから収獲できる大きさになるまでの3~4か月、心配性のお父さんのように気をもみながらエビの成長を見守ります。
竹製の漁具のプラヤンに立派に育ったエビがたくさん入っているのを見た時の喜びはひとしおだと言います。
けれども、スヘリさんには喜びに浸っている暇はありません。
エビと氷がずっしり詰まった重たい保冷箱を抱えて、大急ぎでオルター・トレード・インドネシア社に運ぶ仕事が待っているからです。
特に、雨季は養殖池のぬかるんだ畔道を滑りそうになりながらバイクで保冷箱を運ぶのは、かなり至難の業です。
そんな苦労が絶えない粗放養殖ですが、スヘリさんは粗放養殖を止めようと思ったことはないそうです。
「大量生産・一貫管理ができる集約型養殖に切り替えたとすれば、たしかに一時的にはたくさんエビが獲れて収入が増えるかもしれない。
でも、人工の餌をあげたり、薬をたくさん使ったりすることで、やがてその養殖池は使えなくなってしまう。
それに対して、粗放養殖は自然に近い環境がずっと残せるし、長く続けられる」と自信を持って言います。
「それに、自分が食べる立場だったら、薬剤をつかったエビはやっぱり食べたくないよね…」とも。
スヘリさんのように、日々エビのこと、環境のことを考えて奮闘している生産者が、エコシュリンプの産地には大勢います。
山下万里子(やました・まりこ/ATJ)
エコシュリンプとブロッコリーのオリーブオイル炒め
<材料2人分>
●エコシュンプ下処理済(Lサイズ、殻つきでもOK)・・・7-9尾
●ブロッコリー・・・お好みの分量
●パレスチナのオリーブオイル・・・大さじ2
●にんにく・・・1かけ
●ゲランドの塩・・・適量
<作り方>
1. エコシュリンプは解凍し水気をきっておく。(殻つきの場合、尾だけ残して殻を剥き、背ワタもとる。)
2. ブロッコリーは一口サイズに切り、さっとゆでておく。(ゆで過ぎに注意!)
3. にんにくはスライス。
4. 軽く熱したフライパンにオリーブオイルをまわしいれ、にんにくをいれ、香りがたったらエビを投入。エビの色が少し変わってきたら、ブロッコリーも入れて炒める。
5. エビに火が通ったら(きれいに赤くなります)、塩で味をととのえて出来上がり。
ポイント① 背に切り込みをいれると、味がしみこみやすくなります。
ポイント② エコシュリンプとパレスチナのオリーブオイルとの相性は抜群!エビの香りが移ったオリーブオイルは、パンにつけたり、他のお料理にも使えます。
ポイント③ 殻まで美味しいエコシュリンプ。たっぷりの油で炒めるとパリパリとした食感と旨みが楽しめます。
ラオスコーヒー、いかがですか? from ラオス(PtoP NEWS vol.31 特集より)
「ラオスに行ってきます」と人に言うと、3回に1回くらいは「は?ラオス?どこそれ?大変だねー」というような反応が返ってきます。
一体「ラオス」をなんだと思っているのか気になるところですが、ラオスという国は日本人の間ではそれほど高い知名度は獲得されていない模様です。
まぁ向こうに行けば行ったで、「日本にはニンジャがいるんだろう?ぜひ会ってみたいなぁ」とか言われるので、どっこいどっこいな気がしなくもないのですが。
とはいえ、縄文人の骨とラオスで見つかった8千年前の人骨の遺伝子情報が似ていることがわかったり、ラオスの銘酒「ラオラオ」は泡盛のルーツと言われていたりと、ラオスと日本との間には浅からぬ縁を感じます。
まだまだ遠い存在、ラオス
そんなラオスから日本が最も多く輸入している品物が、何を隠そうコーヒー豆。
今を時めく日本政府の統計を信じることにすれば、2018年には、ラオスからの総輸入額の実に12%弱を占めています。
これをコーヒー豆の国別輸入量から見ると、ブラジルやコロンビアといった名だたる産地に続き、第9位の実績を誇ります。
2020年の東京オリンピックイヤーでは、ぜひとも上位入賞目指して頑張りたいところです。
しかしながら、巷でコーヒー屋を覘いてみても「ラオス産」を見かけることは、それほど多くはありません。
輸入量第2位のベトナム産と同様で、缶コーヒー等の加工用に多く使用される廉価なロブスタ種(病気には強いものの味としては劣る)が輸入のメインであるからだと思われます。
実は身近に飲んでいるはずにも関わらず、「コーヒー産地としてのラオス」の実態は、国家としての知名度に輪をかけて、一般消費者にとってはまだまだ遠い存在と言えます。
かく言う私も、たまたまATJに入社するまで、ラオスでそんなにたくさんコーヒーが採れることなんて、全く知りませんでした。
ラオス産コーヒーの実力
産地として無名だからコーヒーの品質が悪い、という訳では決してありません。
むしろそういう知られざる産地にこそ、キラリと光るうまいものが潜んでいることも珍しくはないのです。
そんなラオスコーヒーの秘めたる実力を日本の消費者にご紹介すべく、ATJではかれこれ10年以上にわたり、ラオスで採れたアラビカ種のコーヒー豆を輸入し続けてきました。
中でも主力である「ティピカ」は、その名の通りアラビカ種の「原種」に近いものと言われ、最もコーヒーノキ的特徴を有したコーヒー豆を産する品種のようです。
現在はコーヒーでも様々な品種改良がなされており、病気に強かったり、収量が多かったり、特定の風味に優れていたりするものが増えてきています。
それはそれで偉大なる人類の進歩と調和なわけであり、実際にラオスでもティピカ以外の品種も多数栽培されていますが、その中にあって細身かつ色白で弱々しく頼りなさげに風に揺られるティピカの木を見ると、それはもう“守ってあげたいお姫様”のような、何とも儚げな印象を受けます。
実際にラオスティピカの味は、もちろん焙煎の仕方によって変わりますが、ガツンと眠気覚ましに求める強い味わいよりは、フルーツの酸味やキャラメルのような甘みを持った、優しい風味の特徴があります。
生産者の「Jhai=心」が詰まったコーヒー
そんなラオスコーヒーの90%以上は、ラオス南部の主にチャンパサック県に広がるボラベン高原で生産されています。
標高1000m以上の冷涼な気候とミネラル分豊富な火山灰土壌がコーヒー栽培に適しているようで、20世紀初頭にフランスによって持ち込まれました。
ATJが輸入しているコーヒーは、ジャイ・コーヒー生産者協同組合(JCFC)という組合のメンバーが育てたもの。コーヒー栽培はもちろんのこと、共同で自家焙煎店Jhai Cafeを運営し、自他ともに「ラオスで3本の指に入る」と認める、日本の喫茶店とも遜色のない美味しいコーヒーを地元民や観光客に提供しています。
最近は生産者も色々な品種の栽培や加工法(注)に挑戦しており、在庫があれば「〇〇さんの育てたカトゥーラ」みたいな細かさでの注文も可能。
まさに地産地消を地で行く、コーヒー好きにはたまらないツウ好みな産地になりつつあります。
ATJとしても、今後はティピカ以外の品種や水洗式以外の豆を試験的に輸入することで、ラオスコーヒーの魅力をさらに広く伝えていきたいと思っています。
Jhaiとは、ラオ語で「心」。彼らのコーヒーに対するガッツやら何やらを感じられる「心あるコーヒー」、ぜひ一度飲んでみませんか?
(注)コーヒー豆は、果実の収穫後に中の種子を取り出して乾燥させたもの。そこに至る過程で、果肉を除いてきれいに水洗いしてから発酵・乾燥させる水洗式が一般的でしたが、敢えて果肉がついたまま乾燥させたり、果肉内部のムシレージ(粘液)だけを残して乾燥させたりすることで、果実の風味が感じられるコーヒー豆を得る方法にも挑戦しています。
若井俊宏(わかい としひろ/ATJ)
ラオスコーヒーについてさらに詳細を知りたい方は『ハリーナ』33号をご参照ください。
エコシュリンプ~スラウェシ島での新たなチャレンジ~ from インドネシア
遡ること27年前、オルター・トレード・ジャパン(ATJ)は、インドネシアから粗放養殖のブラックタイガー、「エコシュリンプ」の輸入・販売の事業を開始しました。
日本のエビ消費の裏側で
日本でエビの輸入が自由化されて以降、エビ好きな日本人の胃袋を満たすべく、天然エビが乱獲され、水産資源の枯渇が問題化した1960~1970年代。
それに代わるものとして、台湾で生まれた「親エビ革命(※)」というエビの養殖技術が、80年代にアジア各地に広がりました。
しかし、大量生産が可能な集約型養殖池の開拓により地域の自然が破壊され、養殖池では人工飼料や抗生物質が、収獲後にも薬が多用され、食品としての安全性が問題となりました。
「子どもたちも安心して食べさせられて、産地の環境にも負荷をかけないエビを買いたい」という消費者の願いと、集約型養殖池による環境破壊と汚染を非難し、「土地は子孫からの預りもの。次の世代へ引き継いでいかなくてはならないもの」という思いで粗放養殖を営む生産者との出会いから始まったエコシュリンプ事業は、ジャワ島東部から、スラウェシ島南部の生産者にも広がり、今に至ります。
※大量養殖のために、エビの眼を人為的に切断する技術。両眼を順番に切り落とす事で、エビは抱卵しやすくなり、稚エビの大量供給が可能となった。
後発産地スラウェシのジレンマ
ジャワ島東部では有機認定システムの導入や現地法人オルター・トレード・インドネシア社(ATINA)の立ちあげ、自社工場の設立と、エコシュリンプ事業を展開。
池への放流後に無給餌、無投薬の条件を満たす粗放養殖エビであることが、買入れ前に確認されている」というエコシュリンプの定義に適ったエビを日本の消費者に届けるために、生産者との関係強化・深化に取り組んできました。
一方で、後発産地であるスラウェシ島では、基準を満たすエビの買い付けを続けながらも、生産者との関係を深められないまま10年以上の月日が流れてしまいました。
とはいえ、ATINAはスラウェシの生産者との対話を通じ、また、刻々と変わる養殖環境の中で創意工夫しながら鋭意エビを育てている生産者の姿を目の当たりにし、いつかこのスラウェシ島でもジャワ島で取り組んできたような、エビの買い付けに留まらない活動を生産者と共に始めたいという思いを強くしていきました。
生産者のストーリーを伝える
2018年夏、ATINAは「アジアの水産物の向上のための協働体(ASIC)」と共に念願だったスラウェシ生産者との活動を開始しました。
ASICは、アジアに拡がる水産品の生産者組織、加工工場、環境NGOや認証団体などで構成された協働体で、バイヤーや輸出業者と共に地域の水産業の持続性や労働環境の改善などなど)などに取り組むことを目的に活動している組織です。
近年、持続可能な水産物に関する消費側の関心は高まり、そうした水産品の認証制度も徐々に認知されてきています。
一方で、認証制度を導入できるのは、費用負担が可能で複雑な記録作業やマネージメントの能力を備えた中規模、大規模の生産者団体や企業に限られており、市場に出回る水産品の供給を下支えする小規模な生産者にとっては高いハードルがあるのが現状です。
ATINAとASICは、認証制度に頼るのではなく、エコシュリンプの生産者のような小規模な生産者たちの生の声を拾い、生産者が持続的に粗放養殖を続けてゆくために必要な取り組みを行い、それを「ストーリー」として消費者に伝えることで、そのような水産物が消費者の選択肢の一つとなることを目指しています。
現時点では、今後の具体的な活動につなげてゆくためのワークショップを開催しています。テーマは、エビ産業における女性の活躍、生産者の組織化、環境変化によって影響を受けやすい粗放養殖を続けていくためのリスクヘッジなど、多岐にわたりますが、生産者の置かれている状況をより理解してゆくための大事なプロセスと考えています。
地道な活動ではありますが、これからもエコシュリンプ届けながら、スラウェシの生産者との取組みについても、お伝えしていきたいと思います。
山下万里子(やました・まりこ/ATJ)
【バナナニュース291号】エシカルバナナ・キャンペーン〜あなたのバナナはいいバナナ?〜
スーパーでは実にさまざまなブランド名のバナナが販売されています。選ぶポイントとして、価格、見た目、安全性などがあると思われますが、そのバナナは誰が、どう栽培しているのか知って買っている人は多くはないのではないでしょうか。
日本で流通しているバナナの8割以上を供給しているフィリピン、ミンダナオ島の大規模プランテーションでは、農薬による健康被害や環境汚染、大企業と生産者間の不公正な栽培契約などが問題視されています。
IDEALS(フィリピンの人権NGO)制作
“Destiny of Debt” 「債務の運命-フィリピン・バナナ農家らの苦悩」
(6分5秒、日本語字幕付)
バナナ農家の多くは日本向けにバナナを生産する契約を結んでいます。しかし、その契約内容は時に生活もままならないほど。作れども作れども借金が返せない農家、5年間しか契約しなかったつもりが25年間バナナを作り続けなければならなくなった農家―。バナナ農家の苦難の声は決して少なくありません。
事例②
IDIS(フィリピンの環境NGO)制作
(11分39秒、日本語字幕付)
プランテーションで育てられるバナナはとりわけ病気・害虫・カビに弱い作物。様々な外敵からバナナを守るために多様な農薬が大量に投入されます。「効率よく」その散布をするために用いられる手段は飛行機による空中散布。プランテーションの上空から多種類の農薬が振りまかれます。空高くから散布された「農薬カクテル」は風に乗って周辺の家屋やプランテーションで働く労働者に浴びせられることも。それはまさに「毒の雨」―。高地の栽培では先住民族への影響も無視できません。
そうした産地の実態を多くの人に知ってもらい、大企業に改善を求める動きを作っていきたい。そうした思いから、昨年「エシカルバナナ・キャンペーン」を立ち上げました。オルター・トレード・ジャパンも実行委員会メンバーです。最終的には日本に輸入されるすべてのバナナが「エシカル(倫理的)なバナナ」-持続可能な農法で作られ地球にやさしく、サプライチェーン上で働くすべての人の人権が守られているバナナ-になることをめざしています。2019年度はバナナの残留農薬や大手小売会社の調達方針を調査、公開する活動を予定しています。
エシカルバナナ・キャンペーンの公式ウェブサイトやSNSアカウントでは、エシカル(orエシカルでない)バナナに関する情報、キャンペーンの活動報告やイベント案内などを随時アップしています。ウェブサイトからキャンペーン個人賛同(メールニュースが届きます)も出来ます。キャンペーンにぜひご注目ください!
DVD
アジア太平洋資料センター(PARC)制作、ATJ編集協力)
『甘いバナナの苦い現実』(2018年)
フィリピンバナナとその最大消費国である日本との関係性、私たちの日常の食の在り方を問い直すドキュメンタリーです。
ビデオは3部構成となっています。第2部ではフィリピンの農民と日本の消費者が提携して持続的な地域作りをめざす取り組みとしてバランゴンバナナの民衆交易が紹介されています。
第1部「農薬の空中散布と健康被害」(30 分)
第2部「公正で持続可能な生産を求める農民・先住民」(28分)
第3部「どう変える?私たちの食と農業、消費あり方」(17分)
ぜひ、ご覧ください。
予告編はこちらから。
パレスチナの農民のために、オリーブオイルの評価を高めたい!イッサ・シャトラさん fromパレスチナ
パレスチナ農業復興委員会(PARC)が設立したフェアトレード事業会社(アルリーフ社)の副社長を務めるイッサ・シャトラさん。
イエス・キリストの生誕地、ベツレヘム出身のクリスチャンであるイッサさんは、高校生のときにPARCのボランティアとして活動を始め、PARCの奨学金を得てフランスの大学で農学を学びました。以来、さまざまな形で働いてきました。
イスラエル占領下にあるパレスチナ西岸地区において、農業が経済活動に占める位置は高く、オリーブは主要作物です。
1990年代よりPARCは農民への技術指導や搾油・保管施設の改善を通して、付加価値の高いエキストラバージン・オリーブオイルを生産し、欧米のフェアトレード市場に向けて輸出してきました。
しかし、知名度が低いパレスチナのオリーブオイルの市場開拓は容易なものではありませんでした。イッサさんはイタリアやスペインといった「オリーブオイル先進国」の事情を勉強して、品質を保証する制度や仕組みの必要性を痛感しました。
イタリアなどではワインのソムリエのように、政府公認のオリーブオイル・テイスター(鑑定士)がいます。エキストラバージン・オリーブオイルには酸度0.8%以下、過酸化物価20以下という国際的な基準があります。
テイスターの役割は、化学的数値では測りきれない質的特徴を判断し、粗悪なリーブオイルを発見することです。
PARCは、イッサさんのアイデアを受けて政府やNGO、農民団体と協力して認証制度を整え、テイスターを養成し資格を与えるパレスチナ基準協会(PSI)を1996年に設立しました。現在、パレスチナには24名(うち2名はPARC職員)のテイスターがおり、海外に輸出する前にすべてのオリーブオイルを検査しています。
品質の高いオリーブオイルを生産するには、何より最高のオリーブオイルを作りたいという農民の意識や熱意が必要不可欠です。
これまた「オリーブオイル先進国」に倣って、PSIは収穫が終わる毎年12月に品評会を開催しています。
化学的数値とテイスティングによって金賞、銀賞、銅賞に等級分けされ、農民の大きな励みとなっています。今では0.8%という基準よりもずっと酸度の低いオリーブオイルも生産されるようになりました。
イッサさんは、パレスチナ農民のオリーブ生産を後押しする認証制度の整備や品評会開催の立役者の一人です。こうした努力の積み重ねによって、パレスチナのオリーブオイルは欧米の市場でも評価が高まりつつあります。
小林和夫(こばやし・かずお/ATJ)
【バナナニュース290号】ネグロス島・カンラオン市プラ村のマルコス・アビラさん
カンラオン市プラ村在住のバランゴン生産者、マルコス・アビラさんは、2009年からバランゴンバナナの出荷をしていて、現在はカンラオン市のバランゴン生産者グループの代表を務めています。
カンラオン市は、ネグロス島で一番高いカンラオン火山(2,465m)の中腹に位置していて、島内で流通している高原野菜の産地としても有名です。全部で62人いるカンラオン市のバランゴン生産者の中には、自家消費用の野菜は植えていても、一般市場に出荷する野菜を生産している人はあまりいません。「一般市場は価格が不安定で、せっかく作った野菜を販売しても元手が取れないこともあるため、一定の価格で買ってもらえるバランゴンが安心だ」と皆口々に言います。
ただ、バナナ栽培にとって水は不可欠。今年はエルニーニョの影響で、なかなか乾季から雨季に移らず、生産者たちはみんな気を揉んでいました。4月になって何日か雨が降り、5月からはまとまって降り始め、バナナの収穫量も増えて一安心です。
マルコスさんの圃場では、バランゴンの間にコーヒーやカカオ、桑や果樹などが植わっています。バランゴンバナナの安定した収入に魅かれて、バランゴン栽培を始めたいという近所の仲間に、近いうちに苗を譲る予定です。
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【バナナニュース289号】フィリピン・ミンダナオ島ツピ町から生産者が来日しました②
去る3月に来日した、ミンダナオ島ツピ町のバランゴンバナナ生産者であり生産者協同組合の事務局長でもあるエンピグさんの報告第二弾です。
日本の納品先の担当者が集まる会議に参加した際、ツピで行なわれた作付け拡大の結果を報告してもらいました。作付け拡大には2つの目的がありました。
一つは、2016年に大干ばつに見舞われ減少したツピの出荷数を立て直すこと、もう一つは、日本でバナナの注文が増える時期である一方でフィリピンでは天候的にバランゴンの収量が伸び悩む時期である4~6月に収穫量を増やすことでした。
結果は計画通りには行きませんでした。植えつけた苗の半分近くが病気などの原因でうまく育ちませんでした。
また苗の準備が遅れたことや、4~6月にめがけて収穫するためには苗が育ちにくい乾季に植える必要がありますが、それを敬遠する生産者がいたことから、結果的に昨年4~6月に収量を伸ばすことはできませんでした。
健康な苗をどう確保するか、病害虫対策含めて生産性をどう上げていくか等が今後の課題として挙げられました。
日本でバナナの注文が伸びる4~6月にバナナを多く出荷することにも引き続きチャレンジしていきたい、とのことでした。
「ツピでは、キリスト教徒、イスラム教徒、先住民族が、皆で協同してバランゴンを出荷しています。バランゴンは組合のメンバー間に平和と団結をもたらしてくれています。
日本の皆さんの継続的な購入に感謝しています。日本で見聞きしたことはツピに戻って仲間に伝えます」と語ってくれました。
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【バナナニュース288号】フィリピン・ミンダナオ島ツピ町から生産者が来日しました①
去る3月にミンダナオ島ツピ町からバランゴンバナナ生産者のエンピグさんが来日しました。エンピグさんは、ツピ町にあるバランゴンバナナ生産者組合の事務局長も務めています。
生産者としてバランゴンを2005年から出荷しており、現在62歳。「この年になって有機栽培の大切さを感じる。農薬や化学肥料を使った農業は健康にも環境にも害を与えるから」と言います。
海外に出るのは初めてで、電車に乗るのも、シャワートイレに座るのも、羽根つき遊びも初めてのエンピグさん。日本の印象を聞くと、「会議が時間どおりに始まることが新鮮」(フィリピンでは会議の開始時刻に人が集まりだす)、「日本人は勤勉と聞いていたけど、実際にそうだった」、バナナの選別・パック詰め作業所では、てきぱき動くスタッフの皆さんに「結構お年を召されているのに、動きはフィリピンの若い人よりも格段に早い」と女性陣には微妙な賛辞を贈っていました。
配送トラックにも同乗させてもらい、スピーディーなスタッフを見失い、迷子になりかけながらも、自分で育てたバランゴンをおみやげに配りました。
配送スタッフと組合員が良いコミュニケーションをとっていたことが印象的だったそうで、顔の見える関係のつながりを通してバナナが届けられる一端を体感することができました。(次号につづく)
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【バナナニュース287号】西ネグロス州パンダノン村マイケルさん ⑥ ~ 若者たちにこの地域で活躍をしてもらいたい ~
前回に続き、APLA(ATJ関連団体)が運営をサポートしている研修農場を卒業した、バランゴンバナナ生産者マイケルさんのお父さんのお話をご紹介します。
「これからの農業を考え、息子のマイケルをカネシゲファーム・ルーラルキャンパス(研修農場:KF-RC)に送りました。彼が小さいときに私は病気をし、思うように働くことができませんでした。マイケルを学校に行かせることができずに畑で働いてもらい、他の兄弟を学校に送るために街に働きにも行ってもらいました。彼には本当に申し訳ないことをしたと思っています。やがて私も回復して働けるようになり、『また学校に通いだすか』と彼に聞きましたが、周りの小学生と比べて自分だけ大きいなかで学校に通うということを嫌がり、そのまま働き続けました。今では息子は農業が好きで、農家であることを喜んでいます。私はそんな彼を誇りに思います。
KF-RCに送り出すときに、『お前は周りと比べて、農民である時間が長い。KF-RCに研修をしに行くが、自分が何か教えられることがあればそれは伝えてくること。自分が何のために研修をしにいくのか常に考えながら過ごしてくること』と彼に伝え、送り出しました。
研修から息子が帰ってきて、まず驚いたことは彼が作るラスワ(フィリピンの家庭料理のスープ)の味が以前と違ったことです。私はこのとき初めてオーガニックの良さを舌でも理解しました。息子は以前よりもさらによく働き、家族のサポートをしてくれています。本当に自慢の息子です。」
インタビューまとめ NPO法人APLA スタッフ 寺田俊
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ほんものの食べものでつながりたい! ~フィリピン・ネグロス島での新たなチャレンジ~ from フィリピン (PtoP NEWS vol.17/2017.08 特集より)
宅配事業the BOXとは
the BOX (Bio-Organic eXchange)と呼ばれる宅配事業は、オルタートレード・フィリピン社[1] (以下、ATPI)が取り組んでいる食品の宅配サービスです。
ATPIが関わりを持っている、バランゴンバナナやサトウキビ生産者が育てた農産物を定期的に買い取り、それをバコロド市内の消費者に届けています。
日本の生協の仕組みに似ていますが、それもそのはず。この間、民衆交易を通じて積み重ねてきた日本の生協との交流から得た知識・経験を参考に立ち上げた事業だからです。
the BOXには様々な利点があります。例えば、生産者としては、定期的に安定した売り先があることで、安心して農産物を作ることができます。
また、ATPIと関係を持っている生産者の農産物を届けているため、消費者は、誰が作ったか分かる安全で健康に良い食品を食べることができ、自分が食べているものがどのように作られているのかを知ることができます。
生産者の一人、ボニファシオ・ビリアネリアさんは、「ATPIは、バランゴンバナナ以外の農産物も毎週定期的に買ってくれるので助かります」と感謝の言葉を述べています。
また、利用者からは「仕事が忙しく、買いものに行く時間があまりないので、産地・生産者がわかる農産物を買うことが難しかったのですが、ATPIが私の問題を解決してくれました」、「安心・安全な農産物を、お手頃な価格で購入できることが嬉しいです」といった声が寄せられています。
[1] バランゴンバナナやマスコバド糖の輸出事業を担ってきたオルター・トレード社(ATC)が再編され、新たに設立された。フィリピン国内での小売販売事業を主要に事業を展開。
オルタナティブな食のあり方をめざして
現在、食の生産から流通は、限られた一部の多国籍企業により支配されています。遺伝子組み換え食品やファーストフードの消費なども増えており、世界各地の伝統的な食文化は失われつつあります。
このような問題はフィリピンでも起こっており、ATPIが事業所を構えるバコロド市内にはコンビニやマクドナルド、ジョリビー[2] といったファーストフード店が数多く見受けられ、特に都市生活者の食文化が変わってきています。
ATPIは、フィリピン国内で「リアルフード(ほんものの食べもの)運動」を展開していくことで、生産者と消費者が繋がり、地域に根付いた、オルタナティブな食のあり方をめざしています。そして、その具体的な一歩がthe BOXなのです。
[2] フィリピン資本のファーストフードチェーン店。フライドチキンにご飯を添えたメニューなどが充実している。フィリピンではマクドナルドより人気のファーストフード店。
試行錯誤の連続
産地によって農産物の品質にバラつきがあるため、一定の品質を保証できない、生産者が出荷できる農産物に頼った販売を行っている、収穫量によっては買い付けを制限しなければならずその調整が難しい、など、the BOXにはまだまだたくさんの課題があります。
このような課題を解決してくために、ATPIは様々な工夫を凝らしています。消費者から品質に関するクレームが多かった時は、消費者に産地・生産者の現状をより理解してもらうために、産地での交流会を実施しました。
消費者と生産者がお互いに話し合ったことで、その後消費者からのクレームが減り、生産者に対する感謝の声や、届いた農産物をどのように料理したらいいのかといった問い合わせが増えたそうです。
それ以外にも、the BOXの利用を増やしていくために、カット野菜の販売、ポイント制度の導入、レシピの配布、生産者に関する情報の発信、食に関する定期的な学習会の実施などにも取り組んでいます。
the BOXは事業規模も小さく、試行錯誤の連続です。しかし、フィリピン国内の消費者と生産者をつないでいくための大きな一歩です。
今後もthe BOXが継続するよう、日本の生協の経験や知識を共有しながら、見守っていきたいと思います。
黒岩竜太(くろいわりゅうた/ATJ)
【バナナニュース286号】西ネグロス州パンダノン村マイケルさん ⑤ ~ なぜ持続的な農業をしているのか ~
若手農民の研修農場を卒業したバランゴンバナナ生産者のマイケルさんを、ATJの関連団体で研修農場の運営をサポートするAPLAのスタッフが連載で紹介しています。
APLAは定期的に地域訪問をして、生産者や地域の人びととじっくり対話し、家族の思いや今後の取り組みについて共有していきながら、寄り添いサポートしていくことを大切しています。そこでスタッフが感動・印象に残ったマイケルさんのお父さんのお話をご紹介します。
「ここの土地は先祖から受け継いできた土地。私も次の世代に継いでいかなくてはいけません。そのために、私なりに工夫をして耕し、土地をより良くしてきました。農業セミナーなどの研修にも参加しました。しかし、その多くが高度な技術のもので、実践することは難しく、この地には適していないように感じました。その後、有機農業に出会ったのです。」
「これこそが持続的なものだと思いました。化学的な肥料や農薬を使えば、もちろん一時的には生産量が増えて、収入は良くなるかもしれませんが、いつかはダメになってしまうかもしれない。“一時的”は、子どもたちやこれからの農業を担う世代のことを思えば、結果的に自分たちが損をすることにつながります」
以来、持続可能な農業を続け、その大切さを息子のマイケルさんをはじめ、地域の農民仲間に伝えながら、バランゴンバナナの生産もしています。
NPO法人APLA スタッフ 寺田俊
カネシゲファーム・ルーラルキャンパスなど、APLAの活動をぜひ支えてください!
【PtoP NEWS vol.30 2019.02】エシカルバナナ・キャンペーン~「甘いバナナの苦い現実」を変えるために~ from フィリピン
皆さんは、バナナを買う時にどんなポイントで選びますか? 日本バナナ輸入組合による2016年の調査(複数回答可)では、1位が「価格が安いもの」、2位が「見た目のきれいなもの」、3位が「本数が多い」という結果が出ています。
安くて手軽な果物として定着しているバナナですが、わざわざ海を越えてフィリピンからやってくるバナナがなぜ国産のりんごやみかんよりも圧倒的に安いのでしょうか?
こうした「価格が安く」「見た目のきれいな」バナナを好んで買う日本の消費者が、フィリピンのバナナ産地での様々な問題を支えてしまっています。
■農薬散布がもたらす健康被害と環境破壊
大規模なプランテーションで栽培されるバナナは、病虫害やカビに弱い作物です。バナナをそうした外敵から守るために多様な農薬(殺虫剤、殺菌剤など)が大量に投入されます。
そして、「効率よく」散布をするために用いられる手段は、小型の飛行機による空中散布です。広大なプランテーションの上空から散布された農薬は、農園で働く労働者の上に降り注ぎ、さらには風に乗ってプランテーションの外にも飛散します。
まさに「毒の雨」です。周辺に家屋や学校、水源がある地域では、住民が健康を脅かされていますが、病気と農薬の因果関係を証明することはほとんど不可能です。
■大企業とバナナ生産者との不公正な契約
1988年に包括的農地改革法が発布されたフィリピンでは、それまで地主の元で農業労働者として働いていた人びとも土地を所有できるようになりました。
ただし、土地代は30年かけて返済しなくてはならず、そのために多国籍企業との栽培契約を結んだバナナ生産者(農家)の多くが、農業労働者時代と変わらない貧困に苦しんでいます。
多くの生産者たちは、企業が一方的に作った契約書の内容を十分に理解することなくサインをさせられてしまっている実態が明らかになっていますが、不公正なのは契約のプロセスだけではありません。
「独占的生産販売合意」と呼ばれる契約の中身は、企業の利益を守るための条項のオンパレードです。たとえば、バナナの買取り価格。ある企業は1箱13.5キロ(約65本)につき4.25ドル(約460円)という価格で生産者と契約をしています。
さらに安い価格の企業もあります。しかも、生産者は、企業によって決められた農薬や肥料の代金などの様々なコストが差し引かれた金額しか手にすることができません。
さらに、この買い取り価格は、15年や20年という契約期間中ずっと据え置きで、物価の変動に関わらず、生産者には買取り価格について交渉する余地がありません。
◆農地改革で土地を得た農家の苦難の声を伝えるため、現地NGOが作成した動画「債務の運命」
■安い賃金と劣悪な労働環境
農園で収穫されたバナナは梱包工場に運ばれ、洗浄・箱詰めされます。ミンダナオ島のある梱包工場の労働者たちへの聞き取りでは、賃金は1日365ペソ(約780円)の最低賃金程度であることが明らかになっています。
フィリピン政府が発表した全国水準の生活賃金(家族6人が暮らしていくのに必要とされる賃金)は、月42,000ペソ(約90,000円)です。夫婦2人で働いても生活賃金には遠く及ばない金額しかもらえていないのです。
また、バナナの輸送中の品質劣化を防ぐ目的で使用する薬品によって、労働者たちが体調不良を訴える事例も報告されています。
しかし、マスクや手袋、エプロンなどの支給頻度が十分ではなく、労働者自らで防具を購入しなければならないこともあり、お金がなければ素手で薬品や刃物を扱うこともあるようです。
■バナナの消費地・日本でのキャンペーン
こうした現地の実態を日本社会に広く知らせ、多国籍企業に是正を求めるムーブメントを作っていきたい、そのような思いから、2018年夏に立ち上げたのが「エシカルバナナ・キャンペーン」です。
最終的には、日本に輸入されるすべてのバナナが「エシカル(倫理的)なバナナ」―持続可能な農法で作られた地球にやさしく、生産から流通・小売りまでサプライチェーン上で働くすべて人の人権が守られているバナナ―になることを目指しています。
ウェブサイトには、それぞれの問題について、より詳しい情報を掲載しています。ぜひ一緒にキャンペーンを広めてください。
野川未央(のがわ・みお/APLA)
【PtoP NEWS vol.29 2018.12】パプア・クラフトチョコレート「CACAOKITA PAPUA」の美味しさの秘密 from インドネシア
森からはじまる
チョコレートが恋しくなる季節の到来です!
インドネシア・パプア州のカカオ産地では今年もカカオ豆の収穫が始まっています。
パプアのカカオ栽培は、1950年代に当時この地域を統治していたオランダが苗を持ち込んだのが始まりでした。
その後1969年にパプアがインドネシアに併合されてからも、インドネシア政府がカカオ栽培を奨励したため生産者は増えました。
しかしながら、国際市場価格に左右され、買付価格が不安定なことに生産者の不満も多く、近年、カカオの木は鬱蒼とした森の中で放置される状態が続いてきました。
カオキタ社は、パプア州のカカオ生産者が収穫したカカオ豆を集荷・加工し日本へ販売しています。
2012年の活動開始以来、生産者とがっぷり四つに組んでカカオ栽培を改善するプログラムを進めてきました。それは村の生産者が協働でカカオの森の手入れをするというとても基本的な取り組みですが、これにより今まで他の樹木に埋もれていたカカオの木が姿を現し、太陽の光が十分に注ぐようになり、カビを原因とする病気や病害虫による被害が減ってきました。その結果、2018年前半には良質なカカオがたくさん収穫できました。
発酵
収穫されたカカオポッド(カカオの果実)から取り出した種(生豆)を発酵、乾燥させるといわゆるカカオ豆となります。
生産者はこれまで政府に指導された方法でカカオの生豆を発酵・乾燥させていましたが、日本のチョコレート作りの専門家から、周囲の気候に合わせ温湿度計等を用いて発酵状態をモニターする方法を教わりました。
それ以来、カカオキタの発酵担当者は毎日午前11時と午後6時に発酵箱内の豆の温度を計測し、発酵の終点を見極めて乾燥に回すなど、発酵の方法にも工夫を凝らしています。こうした積み重ねで、しっかりと発酵した風味の良い豆を作ることができるようになりました。
カカオ豆からチョコレートへ
こうして作られたカカオ豆は、ジャワ島の東部ジェンブル市郊外にあるインドネシア珈琲カカオ研究所(ICCRI)に運ばれます。
ICCRIはオランダ植民地時代の1911年にコーヒーとカカオの品種改良や栽培技術の普及のために設立された研究所ですが、所内の一角に機械工房があります。
毎日キーン、ガリガリーと鉄板を切り貼りしてチョコレートを作る機械を製造し、地域の生産者に届けています。
工房の創設者スリムラト博士はドイツでチョコレートの加工を学んだ後、生産者や地域の人びとが、自分たちの手でチョコレートを作って販売出来れば収入も増えて地域の活性化にもつながると考え、小規模で安価な製造機械の開発と加工技術の普及を20年以上前にスタートしました。
小さな工房の手作りチョコレート
ICCRI内にはここで作られたチョコレート製造機械を備えた小さな工房があり、ICCRI内の農場や近隣のカカオ生産者のカカオ豆を使って色々なチョコレートを製造し地元で販売しています。カカオキタは、この一角にパプア州産カカオ専用の工房を設け、クラフトチョコレートを作り、日本とパプアの人びとに届けています。
中南米や欧州では古くから小さなチョコレート工房が町に点在し、チョコレートが作られてきました。スパイスや砂糖と共にお店の中でザリザリと磨り潰して固めたザクザクのチョコレートは地元の人びとのおやつとして愛されています。
ここカカオキタの工房では、職人の手で毎日少しずつチョコレートが作られています。しっかりと発酵・乾燥されたパプアのカカオ豆には、ほのかに甘酸っぱい森の果実の風味が残っています。
「このカカオのおいしさを届けたい」というカカオキタの想いを受けたICCRI工房の職人たちは、カカオ豆を小型の焙煎機で少しづつ焙煎し、焙煎度合と味を確認しながら、カカオの果実の風味が残る様に少し浅めで焙煎を止め、ゆっくりと殻を取り除き、すり潰し、砂糖を加えてさらに数日間練り上げて行く作業を続けています。
パプアの森で育ったカカオは、ここで森の果実の香りを残したまま、ちょっと無骨な板チョコレートに変わり、日本やパプアの人びとに届けられているのです。
津留歴子(つる・あきこ/ATJ)
義村浩司(よしむら・ひろし/ATJ)