マリで国際アグロエコロジー・フォーラム

2015年3月24日

マリのニェレニで国際アグロエコロジー・フォーラム

 2015年2月24〜27日、アフリカのマリ共和国のニェレニで国際アグロエコロジー・フォーラムが開かれました。このフォーラムは昨年9月ローマで開催された国際アグロエコロジー・シンポジウムを受けて、開催されたもので、マリの小農民組織を中心に、アフリカの小農民組織、漁民組織、先住民族組織に加え、ラテンアメリカの団体も関わって開かれたものです。食料主権国際計画委員会(The International Planning Committee for Food Sovereignty、IPC)がFAOとの提携のもとに、このフォーラムを実現しています。

 そのフォーラムの宣言は長文なものとなっていますが、アフリカの土地をめざして多くの資本が土地強奪に関わっている状況、遺伝子組み換えなどのアグリビジネスが殺到している状況を表したものであり、それに対抗する食と農の包括的な提言となっており、ぜひ読んでいただく必要があると考え、日本語訳を掲載します。この宣言には遊牧的な生活をおくる先住民族の状況を踏まえたものもあります。


国際アグロエコロジー・フォーラム宣言

ニェレニ、マリ、2015年2月27日

 私たちは、小規模食料生産者と消費者の多様な組織と国際的運動を代表している。小農民(注1)、(狩猟採集民族を含む)先住民族とコミュニティ、家族農家、農村労働者、牧夫と牧畜民、漁民、都市住民からなる。私たちが関わる多様な組織を合わせると、人類が消費する食料の約70%を生産している。世界の主な仕事や生計の提供者であるのみならず、農業への最初のグローバルな投資者でもある。

 私たちは、食料主権を構築する鍵であるアグロエコロジーを共通に理解し、それを推進し、企業による乗っ取りからアグロエコロジーを守るための共同戦略を練るために2015年2月24〜27日にかけ、マリのセリンゲのニェレニ・センターに集まった。私たちは、この美しい土地で私たちを歓迎してくれたマリの人々に感謝している。私たちの知識は、相手の声を敬意をもって聞くことと、いっしょに決定をしていく共同の営みに基礎をおいていることを、彼らは自分たちの経験を通じて私たちに教えてくれた。最近、波のように押し寄せる土地強奪から自分たちの土地を守るために時には命をかけて闘っているマリの姉妹兄弟と連帯する。この土地強奪は私たちの多くの国でも大きな被害を与えている。アグロエコロジーとは、命の循環の上にともに立つことを意味する。そして、それを追求することは、土地強奪に対する闘いの輪の中に、私たちの運動を「犯罪」として封じ込めようとすることに対する闘いの輪の中に立たなければならないことを意味している。

歴史に立脚し未来の夢を描く

 私たち、メンバー、組織、コミュニティは、食料主権を、共同の闘いのための旗印として、また、アグロエコロジーのための大きな枠組みとして定義してきた。私たちが過去千年以上もの歳月のうえに発展させてきた祖先から引き継いだ生産システムは、この30〜40年に、アグロエコロジーと呼ばれるようになってきた。私たちのアグロエコロジーには、成功した実践や生産、農民から農民へと広げる運動、土地のプロセス、学校での教育が含まれ、私たちは、洗練された理論的、技術的、政治的構築を発展させてきた。

 2007年、連帯を強化し、多様な関係者たちの間での共同の構築作業を通じて、食料主権の理解を広げ、深めるために、私たちの多くは、ここニェレニで開かれた食料主権フォーラムに集まった。同様に、私たちは、消費者、都市コミュニティ、女性、若者たち他とともに、多様な食料を生産する人びとの間での対話を通じてアグロエコジーを豊かにするために、アグロエコロジー・フォーラム2015に集った。今日、食料主権のための国際計画委員会(IPC)により、グローバルに、また地域的に組織化された私たちの運動は新たな歴史的な一歩を踏み出した。

 アグロエコロジーに基づく小規模農民の食料生産の多様な形態が、ローカルな知を産み出し、社会的正義を広め、アイデンティティや文化を育み、農村地域の経済的活力を強化する。私たちが、アグロエコロジー的なやり方で生産することを選べば、小規模農民は、自らの尊厳を守ることになる。

多数の危機を克服する

 いわゆる「緑の革命」や「青の革命(注2)」とよばれる工業的食料生産によって荒廃された食料システムや農村世界で、いかに私たちの現実を転換し、修復するか、その答えがアグロエコロジーだ。私たちは、アグロエコロジーは命よりも利潤を優先する経済システムへの抵抗の鍵だと私たちは考える。

 私たちを毒づけにする食品を過剰生産する企業モデルは、土壌の肥沃さを破壊し、農村地域の森林破壊や水質汚染、海洋の酸性化、漁業を殺す原因である。欠かせない天然資源は商品化され、生産コストは高くなり、私たちを土地から切り離してしまう。農民たちの種子は企業に盗まれ、法外な値段で売りつけられるが、その種子は高くさらに農薬による汚染が伴う種子に変わってしまっている。工業型食のシステムが、気候、食料、環境、医療など多数の危機の主要因だ。自由貿易、企業の投資協定、ISD条項、炭素市場などの誤った解決策、土地や食料のマネー化の高まり。すべては、こうした危機をさらに悪化させる。食料主権の枠組みにあるアグロエコロジーは、こうした危機から前進するための共同の道を私たちにもたらす。

岐路のアグロエコロジー

 工業型食のシステムは、その内部矛盾ゆえ、その生産と利潤をあげる能力を使い果たし始めている。土壌の劣化、除草剤耐性雑草、魚場の枯渇、病害虫で破壊されるモノカルチャーのプランテーション、ますます明らかになっている温室化効果ガスの排出、工業的なジャンクフードの食事により引き起こされた栄養不良、肥満、糖尿病、結腸疾患、癌といった健康の危機による被害はますます明らかになっている。

 多くの国際機関、政府、大学、研究センター、NGO、企業などは、人びとからのプレッシャーで、ようやく「アグロエコロジー」を認めるようになってきた。けれども、彼らは、アグロエコロジーを工業型食の生産の持続性の危機を緩和する道具を提供する狭い技術のセットとして再定義しようとしている。そうして既存の権力構造は変えずに残そうというわけだ。環境に配慮するような表現でリップサービスをしながら、工業型の食のシステムにアグロエコロジーを適合させようとするやり方は、「気候にスマートな農業」、「持続可能」、「エコロジー的な集約化」、「有機食品」工業型モノカルチャー生産など、様々な名前がつけられている。私たちからすれば、これらはアグロエコロジーではない。私たちはそれらを拒絶し、アグロエコロジーのこの狡猾な盗用を暴露し、妨ぐために闘う。

 気候、栄養不良などの危機の真の解決策は、工業型モデルに順応させることからはもたらされない。私たちは、それを転換させ、小農民、伝統的漁民、牧畜民、先住民族、都市農民などによる本物のアグロエコロジー的な食料生産に基づき、新たな都市と農村のつながりを創造する私たち自身のローカルな食のシステムを構築しなければならない。私たちは、アグロエコロジーが工業型食料生産モデルの道具となることを許すことはできない。私たちは、アグロエコロジーをその工業型モデルに対する本質的なオルタナティブだと考える。そして、人間性や母なる地球にとってより良いものへと生産と消費を変換するための手段だと考えている。

アグロエコロジーの共通する柱と原則

 アグロエコロジーは、生き様であって、私たちが自然の子として学ぶ自然の言葉だ。それは、単なる技術や生産の実践のセットではない。それはどの領域でも同じやり方では実践できない。むしろ、私たちが多様な領域を超えて同様でありつつも、多様なやり方で実践されるとの原則に基づく。母なる地球と私たちが共通してわかちあう価値観を尊重しつつ、個々のセクタがそれ自身の地元の現実と文化の色で貢献するのだ。

 アグロエコロジーの生産実践(間作、伝統漁業、移動放牧、作物、樹木、家畜、魚の統合、厩肥、堆肥、ローカルな種子、家畜育種など)は、土壌の中の命を育てること、養分の循環、生物多様性のダイナミックな調整、エネルギーの保全をすべてのスケールにおいて、エコロジー的な原則に基づく。アグロエコロジーは、工業から購入しなければならない外部から投入される資材の使用を劇的に減らす。アグロエコロジーでは、農薬、人工ホルモン、遺伝子組み換えなどの危険な新技術は必要ない。

 土地はアグロエコロジーの根本的な柱だ。人びととコミュニティは、その土地との自分たち自身のスピリチュアルで、物質的な関係性を維持する権利を持つ。漁場を含めて、その土地と領域を管理するため、政治的にも社会的にも、慣習的な社会構造を維持し、発展させ、コントロールし、再建する権利が与えられる。これは、法律、伝統、関税、保有システム、組織、人びとの自己決定権と自治を全面的に認めることを意味する。

 コモンズ(共有財産)への共同の権利とアクセスが、アグロエコロジーの大黒柱だ。私たちは、共有地へのアクセスをわかちあう。それは、多様な仲間たちのグループの故郷だ。そして、私たちは、アクセスを調節し、対立を避ける慣習的なシステムを洗練させてきたが、私たちはそれを守り、強化したい。

 私たちの多様な知と学びの方法は、アグロエコロジーにとって基本となるものだ。私たちは、対話を通じて(知恵の対話)、知の作法を発展させている。私たちが学びのプロセスは、大衆的教育に基づく、水平で仲間から仲間のものだ。それらは、私たちの研修センターや村で生まれ(農民は農民を、漁民は漁民を教えるなど)、また若者と高齢者との知の分ち合いとして世代間で展開されるものでもある。アグロエコロジーは、私たち自身のイノベーション、研究、作物や家畜の育種選抜を通じて開発されている。

 私たちが宇宙観の核は、自然と宇宙と人間との必要なバランスだ。私たちは、人間が自然と宇宙のごく一部にすぎないことを認める。私たちは、大地と生命の網とのスピリチュアルなつながりをわかちあう。私たちは大地と人びとを愛する。それなくしては、私たちはアグロエコロジーを守ることはできず、自分たちの権利のために闘えず、世界も養えない。私たちはあらゆる形での命の商品化を拒絶する。

 家族、コミュニティ、共同体、組織、運動は、アグロエコロジーが繁栄する肥沃な土だ。共同的な組織化と行動によって、アグロエコロジーの拡大、地域の食のシステムの構築、企業による私たちの食のシステムに対する統制に挑戦することが可能になる。人びと相互の、そして、農村と都市住民との連帯が決定的な要素なのだ。

 アグロエコロジーの自治が、グローバル市場の統制に取って代わり、コミュニティによる自治をつくり出す。それは、私たちが外部から来る購入された投入資材の使用を最小化することを意味する。それには、連帯経済の原則、そして、責任を負う生産と消費の倫理に基づくように市場を作り直すことが必要となる。それは、直接的で公正な短い流通チェーンを促進する。それは生産者と消費者との透明な関係性を意味し、リスクとメリットをわかちあう連帯に基づく。

 アグロエコロジーは政治的なものだ。それは、社会の権力構造に挑戦し、変容させることを求める。私たちは、種子、生物多様性、土地と共有地、水、知、文化、コモンズのコントロールを、世界を養う人びとが手にすることを必要としている。

 女性とその知識、価値観、ビジョン、リーダーシップは、前進するために決定的だ。移住やグローバリゼーションは、女性の仕事が増えることを意味する。けれども、女性たちは、男性よりも資源にはるかにアクセスできていない。彼女たちの仕事は認められず、評価されないことが多い。アグロエコロジーがその完全なポテンシャルを達成するには、権限、仕事、意志決定、報酬が平等に分配されなければならない。

 若者も女性とともに、アグロエコロジーの発展のための二つの主な社会的基盤のひとつだ。アグロエコロジーは、私たちが社会の多くで進行中の社会的、エコロジー的な変容に寄与するため、若者たちにラディカルなスペースを提供できる。若者は、彼らの両親、年長者、祖先から学んだ集合的な知を未来へと運ぶ責任がある。彼らは、未来世代のアグロエコロジーのスチュワードだ。アグロエコロジーは、農村の若者にとって機会を産み出し、女性のリーダーシップを重んじる地域的で社会的なダイナミックをつくり出さなければならない。

戦略

Ⅰ. 政策を通じてアグロエコロジー的な生産を促進

  1. 社会的、経済的、自然的な資源問題へのアプローチにおいて、地域を重視し包括的な政策
  2. 小規模な食料生産者による長期的な投資を促進するため、土地と資源のアクセスを保障する。
  3. 資源の管理、食料生産、公的な調達政策、都市と農村のインフラ、都市計画で、包括的でアカウンタビリティのあるアプローチを担保する。
  4. 関連する地方政府や当局と連携し、分散型で真に民主化された計画プロセスを促進する。
  5. アグロエコロジーを実践する小規模な食料生産者や加工業者を差別しない、適切な健康や衛生規制を促進する。
  6. アグロエコロジーや伝統医療の健康面と栄養面を統合する政策を促進する。
  7. 伝統的な実践に基づき、伝統に共通性のある医療、教育、獣医サービスなどの移動サービスと同様に、遊牧民の牧草地、移住ルート、水源のアクセスを保証する。
  8. コモンズへの慣習的な権利を保障する。自分たち自身の種子を利用し、交換し、育種選抜し、販売する小農民や先住民族の共同の権利を保障する種子政策を保障する。
  9. 土地、天然資源へのアクセス、フェアな収入、知識交換や伝達の強化を通じて、アグロエコロジー的な食料生産に参加する若者を引きつけ、参加を支援する。
  10. 都市農業と都市郊外でのアグロエコロジー的生産を支援する。
  11. 伝統的なエリアでの野生生物の狩猟や採集や狩猟を実践するコミュニティの権利を保障すること。そして、彼らの生活圏がかつてそうであったような豊かさへのエコロジー的、文化的に復元を促進する。
  12. 漁業コミュニティの権利を保障する政策を実施する。
  13. 世界食料保障委員会(CFS)の保有ガイドラインとFAOの小規模漁場ガイドラインを実施する。
  14. 真の農地改革とアグロエコロジーの研修を含め、農村労働者の威厳ある暮らしを保障する政策やプログラムを開発し、実施する。

II 知識のわかちあい

  1. 新たなアイデアを含めて、世代間、そして、様々な伝統を超えた水平のわかちあい(農民と農民、漁民と漁民、牧畜民と牧畜民、消費者と生産者)。女性と若者が最優先されるべき。
  2. 研究アジェンダの目的、方法論の人びとによるコントロール。
  3. 歴史的な記憶から学びそのうえに経験を体系化する。

III 女性の中心的な役割を認識する

  1. アグロエコロジーのすべての領域で、女性の権利のために闘う。その中には労働者と労働の権利、コモンズへのアクセス、市場への直接的なアクセス、収入の管理を含まれる。
  2. プログラムとプロジェクトは、意思決定の役割とともに、すべての段階で、計画や実施の最も早期の公式化から、すべて女性を含めなければならない。

IV.地域経済を築く

  1. 地域の生産物のための地域市場を促進する。
  2. 生産者と消費者の双方を支援するため、オルタナティブな金融インフラ、機関、メカニズムの発展を支援する
  3. 生産者と消費者との新たな連帯の関係を通じて食料市場を作り直す
  4. 適した時期に連帯経済の経験と参加型認証システムの連携を発展させる

V.アグロエコロジーのビジョンをさらに発展させて広める

  1. エコロジーのビジョンをコミュニケーションを発展させる
  2. アグロエコロジーの医療と栄養面を促進する
  3. アグロエコロジーの地域的アプローチを促進する
  4. 若者たちがアグロエコロジーのビジョンを持続的に更新し続けられるように実践を奨励する
  5. 食のシステムでの食料廃棄物やロスを減らすためのカギとなるツールとしてアグロエコロジーを促進する

VI.同盟を築く

  1. 同盟関係を食料主権のための国際計画委員会(IPC)などと統合し、強化する
  2. 私たちの同盟を他の社会運動や公的研究組織や公的機関との同盟に拡大する

VII.生物多様性と遺伝資源の保護

  1. 多様性の管理を保護し、尊重し、保障する
  2. 自分自身の種子や家畜種を利用し、販売し、交換するため、種子を管理し、再生し、実施する生産者の権利を取り戻す。
  3. 漁業コミュニティが海洋や内陸の水路の管理で最も中心的な役割を果たすことを保障する

VIII.地球を冷やし、気候変動に適応する

  1. 「気候でスマートな農業」やそれ以外の誤ったバージョンのアグロエコロジーではなく、この文章で定義されたアグロエコロジーこそが、気候変動に格闘し適応する第一の解決策であることを国際機関や諸政府が認めるようにすること。
  2. 気候変動に対処するローカルなアグロエコロジーのイニシアチブの優良事例を識別し、文章化し、わかちあう。

IX.アグロエコロジーの企業や組織による乗っ取りを弾劾し闘う

  1. 遺伝子組み換えやその他の誤った解決策や危険な新技術を促進する手段としてアグロエコロジーを使おうとする企業や組織の試みと闘う
  2. 気候にスマートな農業、持続可能な集約化、工業型水産業の「微調整」といった技術的修正に隠された企業利益を暴露しよう
  3. アグロエコロジーのエコロジ―的な長所の商品化や金融化と闘おう
 私たちは、多くのイニシアチブや闘争を通じてアグロエコロジーを築いてきた。私たちにはそれを未来へとつなげる正統性がある。政策立案者は、私たちなくして、アグロエコロジーで前進はできない。彼らは私たちのアグロエコロジーのプロセスを尊重し、サポートすべきであり、私たちを破壊する力を支援し続けるべきではない。私たちは、よりよき世界を、相互尊重・社会的公正・平等・連帯、そして、母なる地球との調和に基づく世界を構築するための人びとの闘争の一部として、共同のアグロエコロジーの建設のために、共に参画することを世界に呼びかける。
国際アグロエコロジー・フォーラムはマリのニェレニ・センターで2015年2月24日から27日まで以下の組織によって組織された。

議長組織:Coordination Nationale des Organisations Paysannes du Mali (CNOP Mali)

La Via Campesina (LVC)
Movimiento Agroecológico de América Latina y el Caribe (MAELA)
Réseau des organisations paysannes et de producteurs de l’Afrique de l’Ouest (ROPPA)
World Forum of Fish Harvesters and Fishworkers (WFF), World Forum of Fisher Peoples (WFFP)
World Alliance of Mobile Indigenous Peoples (WAMIP), More and Better (MaB)


注:

  1. 小農民と訳出した言語はpeasantsです。peasantやcampesina(スペイン語、ポルトガル語)にあたる日本語は歴史的経緯も踏まえると、百姓の方が近いと思われます。自然との生産活動に関わる多様な人を意味する百姓という言葉の復権は重要なことに思われます。
  2. 「緑の革命」とは化学肥料、農薬、F1種子がセットとなった工業型農業をもたらす技術パッケージによって成立する。「青の革命」は「緑の革命」の漁業版。集約的なエビ養殖など。どちらも生態系の破壊、小規模農漁業の債務負荷などをもたらし、その持続性に疑問符がついています。

英語原文は
DECLARATION OF THE INTERNATIONAL FORUM FOR AGROECOLOGY

アグロエコロジー特集サイトもご覧ください。

アグリビジネスと闘うブラジルのアグロエコロジーと世界の食料システムの危機

2015年2月13日

日本アグロエコロジー会議チラシ

 2月11日、明治学院大学で「日本アグロエコロジー会議第1回勉強会」が開かれました。400名もの参加者を得て、日本の有機農業を牽引してこられている金子美登(かねこ よしのり)さんが執筆された「アグロエコロジー推進宣言」が読み上げられました。

 この学習会の中で、ATJ政策室の印鑰(いんやく)が「アグリビジネスと闘うブラジルのアグロエコロジーと世界の食料システムの危機」をテーマに報告を行いました。時間が限られていたために十分報告できませんでしたので、この場で改めて報告させていただきます。

世界的な食のシステムの危機とアグロエコロジー

土から空まで アグロエコロジー対工業型農業

©The Christensen Fund 日本アグロエコロジー会議第1回勉強会日本語版作成。
印刷版PDFダウンロードはページ末尾で

 現在、世界で食と農に起因する危機が大きな問題になっています。本日配付された資料には工業型農業モデルとアグロエコロジーとが対照されていますが、この対比がとても重要です。国連機関の中でもこれまで推進されてきた工業型農業モデルをすぐにアグロエコロジーに転換しなければ世界は破局的なことになると警告する報告が出ており、アグロエコロジーへの転換の必要性、緊急性が語られています。

 しかし、一方、日本政府が「企業の農業参入」などと工業型農業の推進に固まっていますが、それはきわめて時代錯誤的な政策になっているといわざるを得ないと思います。

ブラジルでアグロエコロジーはどう生まれたか?

 まずブラジルでアグロエコロジーがどのように生まれたかについて、概観したいと思います。

続木善夫さん

続木善夫さん

 ブラジルでも1970年代頃から有機農業の実践が本格的に始まります。そして1980年にサンパウロ州農業技術者協会、ブラジル最初の有機農業の教習課程を開設します。講師は Ana Maria Primavesiさんと続木善夫さんでした。Ana Mariaさんは土壌の専門家でブラジルのアグロエコロジーの母と呼ばれている方で、オーストリア人移民、続木さんは日本人移民、移民の方たちがブラジルの有機農業の立ち上げに活躍されています。

 ブラジルでは農地改革が大きな課題です。日本では農地改革が戦後行われますが、ブラジルではポルトガルの植民地時代以来の巨大地主が土地を独占しており、1988年憲法でも農地改革が規定されているのですが、地主層は政治権力を握っており、農地改革はなかなか進んでいません。有機農業を学ぶ人たちの中にこの有機農業と貧困層を救う農地改革という社会変革を結びつけようと考える人たちが出てきます。この人たちによってオルタナティブ農業運動が1980年代後半から活発になっていきます。

『アグロエコロジー:持続可能な農業の科学的基礎』

『アグロエコロジー:持続可能な農業の科学的基礎』

 このオルタナティブ農業運動に『アグロエコロジー:持続可能な農業の科学的基礎』という本を通じてミゲル・アルティエリさんというチリ出身の学者の研究が伝わります。この概念がオルタナティブ農業運動に大きな影響を与え、科学としてのアグロエコロジーがさっそく取り入れられます。外国の学者の説を農民に押しつけるのではなく、地域の農民の伝統的な知恵と科学者の知見を対話させる中で、農民が自分の使う方法を選び取っていくという方法によって、ブラジルにおけるアグロエコロジー運動が始まっていきます。

アグロエコロジーとは何か?

 ミゲル・アルティエリ氏は「アグロエコロジーとはエコロジーの原則を農業に適用するものである」と1983年に定義します。ここではアグロエコロジーとは科学的な原則であると同時に農業のあり方に関わる定義となっています。

 しかし、現実に農業にエコロジーの原則を適用しようとしても、農業は実際の政治、経済に規定され、また文化のあり方とも関わっています。そのリンクを解明していかない限り、実現することができません。こうして農だけでなく、食のチェーン、消費者を含めた食のシステムすべてがその対象へと拡がっていきます。

ブラジルのアグロエコロジー

 こうした中で、アグロエコロジーは科学であると同時に、農業実践であり、政治的・社会的運動であるという3つの次元を含み込む概念に発展していきます。

 ちなみにブラジルにはアグロエコロジー全国連合(Articulação Nacional de Agroecologia, ANA)というネットワークがありますが、学者・研究者・学生中心のブラジル・アグロエコロジー協会(Associação Brasileira de Agroecologia, ABA)もあり、このABAはANAのネットワークにも加盟しています。つまりANAのネットワークには農民も、社会運動も、学者も参加しています。

ブラジルのアグロエコロジーが直面した課題第1ラウンド
「緑の革命」との闘い

 前に見たとおり、ブラジルでは農地を得た人びとが最初からアグロエコロジーを実践するケースもありましたが、一方で80年代、90年代は支配的な農業のあり方、つまり化学肥料、農薬、ハイブリッド種子の「緑の革命」パッケージを導入する人びとも少なくありませんでした。

 しかし、そうした技術を導入した農園ではその後借金漬けとなるケースが続出し、さらに農薬被害なども出てきて、農地放棄することも出てきました。

 一方、アグロエコロジーを選択した農園は生産力も上がり、成功率が高くなりました。10数年の試行錯誤を経て、MST(土地なし地方労働者運動)は2000年前後にアグロエコロジーこそ進むべき道と決断するに至ります。

 この転換は大きな意味を持ったと思います。以前は農薬や化学肥料を使う農民たちと環境運動とが対立することもありました。しかし、今や農民運動も環境運動もアグロエコロジーに賛同し、互いを支援し合う関係に変わったからです。

ブラジルのアグロエコロジーが直面した課題第2ラウンド
遺伝子組み換えの侵略

 ブラジルのアグロエコロジーが直面する問題、その第2ランドが、第2次「緑の革命」とも言われる遺伝子組み換えの「侵略」と書きました。大げさに思われるかもしれませんが、実際の事態を見ればそれが「侵略」といわざるをえないものなのです。1988年、ブラジルの裁判所は遺伝子組み換えの耕作を禁止します。しかし、この禁止にも関わらず、遺伝子組み換え大豆がアルゼンチンから密輸され、その栽培が既成事実化されてしまいます。その当時、ブラジルの世論も圧倒的に遺伝子組み換え反対でした。そして遺伝子組み換え禁止を公約として労働者党のルラが大統領に当選します。

 しかし、その後、遺伝子組み換え大豆を耕作した大規模地主層の力に屈し、ブラジル政府は2005年、遺伝子組み換えを合法化してしまうのです。

「大豆連合共和国」

遺伝子組み換え企業シンジェンタの広告「大豆連合共和国」

 こうして遺伝子組み換え大豆の耕作、そして後ほど、遺伝子組み換えトウモロコシ、コットンなどがブラジルに続々と入っていきます。ブラジルだけでなく、アルゼンチン、パラグアイ、ボリビアにも広がり、この地域は遺伝子組み換え企業が「大豆連合共和国」と呼ぶなど、遺伝子組み換え大豆に支配された地域に変わってしまいます。

 こうした耕作地域では100ヘクタールに1人か2人の職しか生み出しません。100ヘクタールあれば小規模家族農業であれば地域にもよりますが50家族が生きることも可能であるにも関わらず、農民のいない農業が拡がっています。

 遺伝子組み換え大豆の生産が国外の家畜飼料やバイオ燃料原料としての需要に駆られて急激に伸びたこともあり、土地の独占、森林破壊(実際には牧場が大豆耕作地に転換され、追い出された牧場が森林破壊するケースが多い)、そして農薬使用の激増が引き起こされました。アルゼンチンやパラグアイでも、出生異常、流産、ガン、白血病、糖尿病が急激に上昇してしまっています。ブラジルでは農薬の使用量が2008年に世界一位となってしまいました。それに対して農薬反対運動が全国的に取り組まれています。

遺伝子組み換えと健康被害

自閉症とグリホサート散布量

自閉症とグリホサート散布量

 こうして拡がった遺伝子組み換えは健康にどのような影響を及ぼすでしょうか? そのことを考える上で、同様に遺伝子組み換え生産の集中している米国における疾病の動向がひじょうに参考になると思います。

 米国では近年、慢性疾患が急激に高まっています。アレルギー、糖尿病、ガン、さらには自閉症や認知症という神経系の病気、さらには不妊などの問題も指摘されています。

遺伝子組み換えとの関連が疑われる疾病

 この慢性疾患が急激に増え出したのが1996年の後、つまり遺伝子組み換えが登場してからです。これ自体は因果関係を立証するものではありません。しかし、そこになんらかの関連があると考える研究者は増えており、これらの病気と遺伝子組み換えとの関連を指摘する研究が最近山のように発表されています。

危険度が増す遺伝子組み換え

 1996年から商業栽培ー流通を始めた遺伝子組み換えがもたらす健康被害についてその懸念が世界的に高まっていますが、これまでの遺伝子組み換えはそれでもまだ「古き良き」遺伝子組み換えだったと言えるのではないかと思えるほど、今後、危険度が大幅に増していく危険が高いことに注意いただきたいと思います。

グリホサート散布量とスーパー雑草 http://www.examiner.com/gmo-in-seattle/nancy-swanson

グリホサート散布量とスーパー雑草

 その主要原因はモンサント開発の除草剤グリホサート(ラウンドアップは商品名)の効力が失われていることにあります。このグラフの青の線はグリホサートの使用量、赤いグラフはグリホサートをかけても枯れないスーパー雑草の出現数です。グリホサートが効かなくなっており、そのために散布量が増えていることがわかります。その結果、大豆やトウモロコシに含まれる残留農薬も増え続け、米国環境庁は2013年にこの残留農薬許容量を市民の反対を押し切って大幅に引き上げる決定を行いました(2014年に実行)。

 輸入される遺伝子組み換え大豆やトウモロコシの有害性は以前よりも今後高まっていく可能性が極めて高くなります。

 そしてさらに問題であるのは、新しい遺伝子組み換え作物の導入です。グリホサートだけでは対応できないとして、ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤、2,4-D、ジカンバなどをまぜて使うことを遺伝子組み換え企業は考えました。これに対して、米国でも大きな反対運動が起こり、50万人以上が反対のパブリックコメントを送るなど、2年にわたり、米国政府も承認できない事態が続きました。

 しかし、昨年9月から今年1月にかけて、これらの遺伝子組み換えは相次いで承認されてしまう事態になっています。米国ではこの問題は大きな騒ぎになったのですが、日本ではマスコミは報道しませんでした。国会も社会も問題をほとんど知らないまま、2年前にすでに日本ではこうした遺伝子組み換えは米国に先んじて承認されてしまっています。

 日本には遺伝子組み換え食品表示義務はありますが、ひじょうに緩い義務となっているため、家畜の飼料や加工食品に遺伝子組み換えが使われていてもその表示義務はありません。だから日本の住民はその肉や食品に枯れ葉剤が入っていることも知る術がありません。そのため、米国で生産がそうした新しい遺伝子組み換えが始まってしまえば知らない間に日本の食卓に上がって、胃の中に枯れ葉剤が入っていく事態になっていってしまいます。

 この枯れ葉剤耐性の新しい遺伝子組み換えは現在、世界最大の市場である中国が承認していないため、まだ本格的な耕作が始まっていませんが、もし中国が認めてしまえば、米国だけでなく、南米、さらには南アフリカなどでも耕作が拡がってしまう可能性があります。

「モンサント法案」

 しかし、遺伝子組み換えはどんどん拡大するという状況では必ずしもありません。その1つの要因は遺伝子組み換えの危険性に気がつく人が世界で増え、反対運動が日々強まっていることが上げられます。そしてもう1つの要因は農民の中に遺伝子組み換えの耕作から離反する動きも出ているからです。実際に、遺伝子組み換えの耕作国は20年近くたっても大きくは拡がっていません。遺伝子組み換え企業も減収の傾向を見せています。

遺伝子組み換え世界地図

遺伝子組み換え世界地図
国連貿易開発会議“Wake up before it is too late” 2013から作成。2007年の推測。クリックで拡大

 それではこうした遺伝子組み換えに基づく工場型農業は衰退に向かっているのでしょうか? そうあってほしいのですが、政治的な力を持って、この農業モデルを維持しようとしています。

 それがここで申し上げる「モンサント法案」の動きです。この名前はこの法案がラテンアメリカで出された時、モンサントに代表される遺伝子組み換え企業を利するものであり、またモンサントなどが米国政府を通じてさまざまな国に押しつけているものだとして「モンサント法案」という呼び名がつけられました。もちろん、そういう名前の法案が存在しているわけではありません。

 この法案の原型は米国やインドでいち早く制定された法律にあると思われます。メキシコ、チリ、コロンビア、アルゼンチン、グアテマラにその法案が出され、コロンビアやグアテマラは成立してしまいます(ベネズエラでも似た動きがありました)。この法律が成立すると、農民が種子を保存することを犯罪として、登録された種子を毎年買わなければならなくなります。
 
 自由貿易協定の締結により、多くの国がこうした国内法の整備が強制されています。ラテンアメリカではすべての国で大反対により実質的に廃案になりました(コロンビアは2年間凍結、グアテマラは法の成立後、裁判所が違憲判決、国会が撤回)が、チリやメキシコではTPPによって、廃案に追い込んだ「モンサント法案」が再浮上する懸念が持たれています。ラテンアメリカだけでなく、アフリカやアジアでも同様の法制定が進んでおり、EUでもそれは進みつつあります。TPPは中でも一番もっとも強権的な権利をアグリビジネスに認める自由貿易協定になると懸念されています。

種子と農薬市場シェア

種子と農薬市場に占める遺伝子組み換え企業のシェア

 そもそも遺伝子組み換え企業は化学企業であり、農業関連企業ではなかったのですが、遺伝子組み換え種子を作り始めた頃から、種子企業の買収を進め、現在では6つの遺伝子組み換え企業が世界の7割近い種子市場を独占しているといいます。こうした種子市場の独占と、自由貿易協定で強制する国内法により、遺伝子組み換えでないにせよ、農民に種子を買わせることを義務付けることができるようになります。そしてその種子は化学肥料や農薬なしには育てることが難しいものであり、その結果、農民は否が応でも化学肥料や農薬を買わなければならなくなってしまいます(ただし、家庭内菜園などは除かれ、商業流通を前提とした農業活動に限られてはいますが)。

1996-2013 種子企業支配構図

1996-2013 種子企業支配構図。赤が遺伝子組み換え企業


 つまり、農民が農薬を使わない健康な作物を作りたいと欲しても、消費者がそれを望んでも、こうした市場独占と法律により、それをできなくさせてしまう動きが世界的に進んでいるのです。
 

食料主権を確立しよう!

 自分たちの食べたいものを選び、自分たちの作りたい作物を選ぶことができなくしてしまう。知らない間に枯れ葉剤の入った肉を食べ、農薬まみれの食品を食べることになってしまう。そんな危機的な世界の食のシステムを変えていこうという動きが世界で起きています。

食とは人間が生きる上でもっとも基本な行為です。作りたいものを作り、食べたいものを食べるというのは人間の基本的な権利でなければなりません。そして、人びとは食文化を自由に形成し、自分たちが依拠する食のシステムを選ぶ権利を持っているはずです。そうした権利、食料主権は今、アグロエコロジーの最重要課題であり、国際的な小農民の運動団体であるVia Campesinaは国際的に食料主権の確立とアグロエコロジー推進に向け運動を進めています。
 

アグロエコロジーが社会のオルタナティブの大きな軸に

アグロエコロジーがオルタナティブの軸に

 世界の食料システムが少数の多国籍アグリビジネスに支配されようとしている中、アグロエコロジーそして食料主権の追求は農民の枠を超えて、社会の多くの人びとが関わる大きなテーマとなり、連帯の軸になってきています。 

 ブラジルでも農民、環境運動、反貧困運動、女性運動、先住民族、マイノリティ、消費者運動、労働運動、住民運動、医療関係者を巻き込む大きな動きになっています。MST(土地なし地方労働者運動)は最初は土地を持たない人たちの生存のための活動だった、しかし、今は、健康な食を社会に提供する使命が加わった、とMSTのリーダー、ジョアン・ペドロ・ステジルも語っています。

ブラジルのアグロエコロジーを支えるもの

 農民や市民の自発的な動きだけではアグロエコロジーは成立しません。それを支える政府や自治体の動きが不可欠です。ブラジルの政府は大きな地主のための政策のみに関心を払ってきていますが、その中でもアグロエコロジーの運動の高まりに対して、いくつかの重要な政策を認めるにいたっており、それがアグロエコロジーの展開を発展させる基礎になっています。

2003年 種子法の中にクリオーロ種子条項成立
2003年 食料調達計画(PAA)
2009年 全国学校給食プログラム(PNAE)で地域の家族農家からの買い付け義務
2012年 アグロエコロジーと有機生産政策(2013年実施)
2014年 革新的な栄養ガイドラインを発表

セラードの大衆薬局方

セラード(ブラジル中央部のサバンナ地域)の大衆薬局方。コミュニティの古老(ハイゼイラ・ハイゼイロ)から伝統的薬草の知識の聞き書きをまとめた。遺伝子的資源と伝統的知恵の大全

 先ほど、「モンサント法案」について触れました。種子が握られてしまえば食料生産の自由は奪われてしまいます。それほど大きな問題ですが、ブラジルではアグロエコロジー運動の成果で、農民の権利として種子の権利が勝ち取られています。これがクリオーロ種子条項で、農民が長く育ててきた在来種子の権利を認めるものです。クリオーロ種子は人びとの共有財産であり、それぞれが自然の恵みとして保存し、共有することができます。

 2003年に作られた食料調達計画は貧窮者や戦略的な食料調達のために、家族農家から直接、国が農産物を買い付け、食料の権利を確保し、アグロエコロジー的な農業生産を振興させる政策です。2009年に学校給食プログラムは地域の家族農家からの30%の買い付けを義務付けます。このことにより、辺境地であっても、地域の家族農家がアグロエコロジー生産をしながら現金収入を得ることが可能になります。

 こうした政策の獲得を経て、2012年の画期的なアグロエコロジーと有機生産政策が実現することになります。ブラジル政府は相変わらず大規模地主の影響力が強いのですが、草の根のアグロエコロジー運動がついにその政府の政策にアグロエコロジーを採用させるまでに至ったのです。2013年から政府の予算がアグロエコロジー振興のために、使われますが、それは官僚が勝手に決めるのではなく、その使い道まで、市民組織であるアグロエコロジー全国会議との協議によって決めることになっており、地域の農家が必要な種子バンクや貯水槽などその地域にもっとも必要なアグロエコロジー政策が追求され、実施され始めています。

世界化するアグロエコロジー

 ブラジルの例を追ってきましたが、アグロエコロジーが盛んになっている国はキューバやブラジルだけではありません。英国でもアグロエコロジー研究はすでに年を重ねており、2013年には英国政府の政策を変えるためのアグロエコロジー連盟(Agroecology Alliance)が設立され、活動しています。フランスでは2013年5月 フランス、農業省、アグロエコロジー推進プロジェクトを開始し、2014年9月にはアグロエコロジーを推進させるために農業未来法が作られています。

 国連でも2010年12月、食料への権利特別報告者のオリビエ・デ・シュッター(Olivier De Schutter)が人権の食料への権利のためにアグロエコロジーこそ進むべき道であると報告し、2013年9月には国連貿易開発会議が『手遅れになる前に目覚めよ』と題したレポートでアグロエコロジーへの転換の緊急性を訴えています。

 2014年9月には国連食糧農業機関(FAO)がローマでアグロエコロジー国際シンポジウムを開催し、世界の学者が賛同するメッセージを表明しました。この場には日本政府の代表も参加しており、アグロエコロジーの振興に賛同しています。日本の政策への反映(日本国内の農業政策とODA政策)を求めていきましょう。

ジェンダー問題、若者との関係

横断幕:「フェミニズムなしにアグロエコロジーはありえない」第3回全国アグロエコロジー大会(ブラジル・バイア州ジュアゼイロ)パラ州北東部女性運動 2014年5月16日(撮影 Cintia Barenho氏)https://flic.kr/p/nP7vzF

「フェミニズムなしにアグロエコロジーはありえない」
© Cintia Barenho氏 https://flic.kr/p/nP7vzF

 農業が工業化されていく、工業型農業になっていく過程の中で、以前は大きな役割を果たしていた女性が工業型農業では排除されていきます。アグロエコロジーを進める中で、その問題が当然のことながら浮上していきます。右の写真の横断幕には「フェミニズムがなければアグロエコロジーはありえない」と書かれています。女性運動はアグロエコロジーを進める大きな要素です。

 日本の地域がアグロエコロジーで再生していく場合にもこの問題は避けて通れないことと思います。アグロエコロジーとは単に農法の問題ではなく、社会のあり方、主体のあり方に関わるものなのです。

 そして若者に対して何ができるかを問うことでもあります。ブラジルでのアグロエコロジー運動の中には若者の存在が目立ちます。大学でアグロエコロジーを学ぶ人の数も格段に増えており、新しい世代と古い世代の対話も活発になっています。

国際連帯の必要性

 アグロエコロジーは地域によって当然取り組み方も違いがあります。気候や自然環境が違えば当然、そのアグロエコロジーのあり方も変わってくるでしょう。しかし、ブラジルのアグロエコロジー運動は当初から積極的に国際連帯を追求しています。特にアフリカの農民運動への連帯も活発に行っています。

 工業型農業を進める多国籍企業が世界で破壊的な農業を進めようとすることに対して、それに対抗するアグロエコロジーが国際連帯で対抗するというのはいわば必須なことかもしれません。

 現在、日本は食料の6割以上を国外に依存しています。その問題を考える上でも、日本で、どうアグロエコロジーを通じて国外の人びとと国際連帯していけるかは、日本社会にとってもとても重要な課題になってくると思います。

 日本には世界に誇れる有機農業の実践経験があります。ブラジルでもこの日本人の経験は生かされており、この経験は世界的にも貴重なものだと思います。そうした経験を元にした日本独自のアグロエコロジーを発展させること、そしてそれを世界に向け発信することで世界に対しても貴重な貢献ができることと信じます。

 オルター・トレード・ジャパンでは国内外の小規模生産者とともにこのアグロエコロジーの可能性を追求していきたいと考えております。そのために必要な情報や経験を多くの方たちと分かち合うことができればと思います。ぜひ、進めていきましょう。

印鑰 智哉(オルター・トレード・ジャパン政策室室長)


資料

アグロエコロジーと工場型農業の対比をしたThe Christensen Fundのインフォグラフィックの日本語版です(翻訳:日本アグロエコロジー会議第1回勉強会)
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上記の講演のプレゼン資料

日本アグロエコロジー会議:アグリビジネスと闘う ブラジルのアグロエコロジー と世界の食料システムの危機 from INYAKU Tomoya

オルター・トレード・ジャパンによるブラジルのアグロエコロジー全国連合事務局長インタビュー(12ページ)
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