第2の砂糖危機に直面するネグロス

2015年6月11日

第2の砂糖危機に直面するネグロス

1980年代半ば、「砂糖の島」として知られるフィリピン、ネグロス島で経済危機(砂糖危機)が発生、多くの子どもが飢餓により命を失いました。飢餓救援をきっかけに始まったネグロスと日本の市民の連帯運動は、さとうきび生産者の自立支援の仕組みとしてマスコバド糖の民衆交易に発展しました。

それから約30年。ネグロスでは「第2の砂糖危機」の発生を懸念する声が高まっています。東南アジア圏内で進められている自由貿易協定により安価なタイ産砂糖がフィリピン市場を席巻し、いまだ砂糖産業が基幹産業であるネグロスの地域経済に大きな打撃を与えるおそれがあるからです。

植民地時代に輸出用サトウキビの栽培を強いられ、現在は新自由主義に翻弄されるネグロスの人々。今、人々の暮らしはどうなっているのでしょうか。そして、マスコバド糖民衆交易を通じてできることは何なのでしょうか。30年以上、現場で砂糖労働者と歩んできたマスコバド製糖工場(ATMC)工場長のスティーブさんにお話を伺いました。(A4版8ページ2.5MB)

政策室 小林和夫

 

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「国際家族農業年と人びとの食料主権」報告書

2014年7月28日

6月14日、上智大学グローバル・コンサーン研究所主催で「国際家族農業年と人びとの食料主権」をテーマに愛知学院大学の関根佳恵さんを講師としたセミナーが開かれました。

国際家族農業年と人びとの食料主権報告書

その報告集ができました。今年2014年は国連により国際家族農業年と定められています。しかし、なぜ今年が家族農業年なのか、単なるイベントではありません。そこには現在の大規模農業に対して小規模家族農業に転換しなければ食料保障や気候変動などの問題に対応できなくなってしまうという危機意識があります。

日本ではTPPなどの自由貿易交渉に関連して、輸出できる強い農業を、とか、農業への企業参入を促すことばかりが強調されますが、これを支える発想は関根さんによれば1980年代に発展途上国で行われていたものと変わりがないとのこと。なぜ、国際的な論議と日本で流れる情報が食い違うのか、まずは国際的潮流を学ぶことが必要になっています。

関根さんは世界食料保障委員会の下で作られる専門家ハイレベル・パネルのメンバーとしてこの国際的議論に日本から参加され、このセミナーでは、なぜ家族農業重視の潮流が生まれたのかを丁寧に説明していただいています。

この問題は日本国内の農業政策に留まるものではありません。日本はこれまで海外で大規模農業開発に政府開発援助を行ってきましたし、現在もモザンビークで開発計画を進め、大きな批判を受けています。これもまた問い直される必要があります。

日本の農民の実践と共に海外の農業開発問題(フィリピン、東ティモール、ペルー、モザンビーク)に関わる方のコメントもいただきながら、日本がめざすべき農業政策、食料政策を考えます。

内容(全28ページ 12MB)

テーマ 発言者
国際家族農業年と人びとの食料主権 関根佳恵氏 愛知学院大学
フィリピン・ネグロスと東ティモールの経験から 野川未央氏 APLA
小農経営の問題・障壁を理解する重要性についてーペルーの事例から 星川真樹氏 東京大学
モザンビークにおけるProSAVANA援助計画と小農民の求める政策 森下麻衣子氏 オックスファム・ジャパン
家族農業こそ世界市民の最先端 斎藤博嗣氏 一反百姓「じねん道」

 この報告書はダウンロードして自由にお使いいただけます。ぜひ、ご活用ください。

オルター・トレード・ジャパン政策室は小規模家族農業生産者と民衆交易を通じてつながっています。日本で活動される方たちとも協力しながら、小規模家族農業の重要性を今後も明らかにしていきます。

ぜひご注目ください!

オルター・トレード・ジャパン政策室室長 印鑰 智哉

「『バナナと日本人』以後のバナナと日本人を考えるために」 ー3月16日セミナー報告書が完成しました。

2014年6月10日
『バナナと日本人』その後—私たちはいかにバナナと向き合うのか報告書

『バナナと日本人』その後—私たちはいかにバナナと向き合うのか報告書

ATJはAPLA、フィリピンのオルタ・トレード社(ATC)とともに、鶴見良行氏が『バナナと日本人』(岩波新書)で非難したフィリピン労働者の権利侵害と危険な農薬散布は32年後の現在、どうなっているのか、そして、バナナを通じたフィリピンの人々との関係はどうあるべきか、を明らかにすることを目的としてバナナ調査プロジェクトを立ち上げました。

バナナ調査プロジェクトを多くの人たちとともに作るためのスタートイベントとして、3月16日(日)午後、立教大学で開催されたセミナー「『バナナと日本人』その後-私たちはいかにバナナと向き合うのか?」を開催しました。

報告1.『バナナと日本人』以後のバナナと日本人を考えるために

市橋秀夫氏(埼玉大学教員)
1.はじめに
2.フィリピンバナナと日本人
3.ミンダナオの現地予備調査
4.まとめ

報告2 バランゴンバナナの今日的意義-2014年国際家族農業年に問い直す-

関根佳恵氏(立教大学教員、当時、現在愛知学院大学教員)
・多様化するバナナの国内市場
・バナナと多国籍アグリビジネス…後退する多国籍企業規制
・「グリーン・キャピタリズム」の登場
・生存機会を保障する家族農業
・世界に逆行する日本政府の政策-国際家族農業年
・バランゴンバナナの今日的意義
・産消提携から産産連帯へ

フィリピン・ネグロスからのコメント:ネグロスにドールが進出する理由
ノルマ・ムガール氏
(オルター・トレード社コミュニティ開発サービス部部長、当時)

市橋氏は報告の中で、日本市場でも多く見かける甘さを売りにした高地栽培バナナについて、「高地栽培バナナの農園で働いた元労働者への取材では、ノルマのため翌朝まで残業するパッカー、農薬で深刻な健康被害を受ける作業員の実態が垣間見られた。さらに、高地栽培バナナは、農薬による森と水源域の汚染を考えると、自然への影響はより深刻化したと考えられる」と、その問題点を指摘しました。そして、今後の調査課題として、ほとんど情報を持っていない多国籍企業プランテーションの実態の全体像を明らかにすること、産地を取り巻くバナナプランテーションと日常的に対峙しているミンダナオのバランゴン事業の意義、役割、可能性について深めることを提起しています。

一方、関根氏は高地栽培、有機栽培、フェアトレード、社会貢献などで差別化したブランドバナナが多く出回っている日本のバナナ市場の変化について、1980年代に高まった多国籍アグリビジネスの操業実態に対する国際的な批判に対応するため、多国籍企業が労働、環境基準を自主的に規制する企業の社会的責任(CSR)戦略=「グリーン・キャピタリズム」を導入した結果と説明しています。しかし、エコロジー、社会貢献しているように見えて実質は何も変わっていないプランテーションの操業実態について事例を挙げて示しています。そして、現在、FAOなどの国連機関でも家族農業、小規模農業の価値が再評価されている国際的な流れを紹介しながら、生産者の「生存機会」を保障する家族農業を基盤と、その自立を支援していることに民衆交易の優位性と意義があるのではないかと提起されています。

ノルマ・ムガール氏は2015年の米・砂糖の関税完全撤廃を睨んで、有機農業の島で遺伝子組み換えフリーゾーンのネグロス島にもドールやデルモンテが入り込みつつあり、遺伝子組み換え禁止の撤廃など働きかけている実態を報告し、いかに小規模生産者を守れるかが問われていることを訴えました。

まだ、予備調査の段階ではありますが、「『バナナと日本人』以後のバナナと日本人を考えるために」重要な報告、提言が盛り込まれた報告書です。

報告書はご自由にダウンロードできます。ぜひ、ご覧ください。

オルター・トレード・ジャパン政策室 小林和夫