フィリピン最高裁、遺伝子組み換えナスの栽培実験禁止と新規承認一時停止を決定

2015年12月10日

 フィリピン最高裁判所は、2015年12月8日に遺伝子組み換えナス(Btナス)の実験の永続的禁止と遺伝子組み換え作物の新規承認一時停止を命じました。農民と科学者の連帯ネットワークであるMASIPAGや環境運動団体などの市民による訴訟が実りました。

 虫が食べるとその虫の腸を破壊するBt毒素を生成するように遺伝子組み換えされたナスのフィリピンでの商業栽培をめざして実験に対して、農民や消費者たちは、環境に与える影響や健康に与える影響、そして農業に与える悪影響を懸念し、訴訟を起こしていました。2013年9月に実験栽培を禁止する判決がすでに下っていましたが、今回の最高裁の判決はそれを支持するものです。

 今回の判決は、遺伝子組み換えナスが安全であるとする科学的コンセンサスは存在しておらず、環境影響調査(EIA)も行われておらず、環境や健康にあたえる害を避ける予防原則の見地から、遺伝子組み換えナスの栽培の実験を永続的に禁止しなければならないというものです。MASIPAGのプレスリリースによると、最高裁は学識経験者たちに委ねるだけでなく、その決定には消費者、農民含むすべてのステークホルダーを含めていく必要があるとしたとのことです。バイオテク企業が研究所の予算の多くを握る現在、研究者でバイオテク企業の利益に沿わない判断を下すことは難しいとも言われます。それを考える時、画期的な判断だと言えます。

 さらに、フィリピン最高裁は現在の政府による遺伝子組み換え規制システムが最低限の安全要件を満たしていないとして、2002年の農業省の行政命令(No.8-2002)の無効を宣言し、新規の遺伝子組み換え申請(新規の食用などの使用、栽培、輸入)を一時的に停止しました。

 この決定をMASIPAGの全国コーディネーターであるチト・メディナ氏は「すでにフィリピンには70種の遺伝子組み換えを輸入しており、私たちが知らぬまに、同意もなく、食のシステムに組み込まれてしまっている。さらなる遺伝子組み換えの流入を止めたいという私たちの願いが届いた」とこの決定を歓迎しています。

 この農業省の行政命令の無効措置は大きな意味を持つものです。というのも、この行政命令を根拠にフィリピンにモンサント、シンジェンタやパイオニアなどの遺伝子組み換え企業が入り込み、さらには国際稲研究所(IRRI)が開発を進めるゴールデンライスなどの栽培実験なども行われているからです。

MASIPAG フィリピンにおける遺伝子組み換えトウモロコシの社会経済的影響

MASIPAGレポート『フィリピンにおける遺伝子組み換えトウモロコシの社会経済的影響』

 フィリピンでは2002年12月に遺伝子組み換えトウモロコシの栽培が始まり、現在では80万ヘクタールで栽培されています。この栽培によって、環境破壊、人や家畜の健康被害、そして農民の債務化という社会問題も作り出されていることがこの訴訟の中心となったMASIPAGによる調査報告書(2013年)で明らかにされています(フィリピン:遺伝子組み換えと闘う農民たち参照)。

 そのような社会的、環境的、さらには人びとや家畜の健康に与える大きな影響を調べ、明らかにするという地道な積み重ねがあり、その問題点が共有されたからこそ、このような判決が可能になったと言えると思います。

 しかし、メディナ氏は警告します。「モンサントの研究者が11月24日、フィリピン国会で演説し、食料不足と低い食料生産に対して遺伝子組み換えを活用を議員に支持することを求めた」、「モンサントはフィリピンの種子市場をほしいままに取りこんで、そこから利益を得ようとしている」とモンサントの動きに警戒することを求めています( MASIPAGによるプレスリリース 2015年12月8日参照)。

 この遺伝子組み換えナスの実験中止は大きな朗報であり、新規の遺伝子組み換え承認が止まったことも大きなニュースですが、フィリピン政府に深く入り込んだモンサントの動きは今後とも引き続き警戒が必要なようです。

 一方、日本では12月1日に新たな枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えワタが二品種承認されています。日本の承認数は現在世界で断トツの一位となっています(遺伝子組み換え推進団体ISAAAのデータベースによると日本の承認数が214、2位の米国は189)。

参考

フィリピンにおける遺伝子組み換え問題

2015年12月4日
 2015年11月7日、フィリピン・西ネグロス州タリサイ市において、オルター・トレード社(フィリピン・ネグロス)とオルター・トレード・ジャパン(ATJ、日本)共催によるネグロス・フード・サミットが開催されました。このサミットはASEAN自由貿易協定により多国籍企業が食のシステムをますます自由にできる時代の到来によって、危険にさらされる農業労働者・農民、そして消費者の状況を分析し、それに対して小規模生産者と消費者の連帯運動はどのように対抗していくかについて討議したものです。
 ネグロス島をはじめとするフィリピンのバランゴンバナナ生産者、マスコバド糖生産者、マレーシア、パレスチナの市民組織、日本と韓国の生協関係者、ドイツやフランスのフェアトレード団体が参加して、今後の取り組みについて協議しました。

 2つの基調報告と3つの特別報告によるこのネグロス・フード・サミットの全容をぜひご覧ください。

 今回紹介するのは、フィリピンのNGOで、科学者と農民の連帯組織であるMASIPAGの全国コーディネーター、チト・P・メディナ氏によるフィリピンにおける遺伝子組み換えに関する特別報告です。今回の報告はメディナ氏の報告を元に政策室の印鑰(いんやく)が編集したものです。

チト・P・メディナ氏ネグロス・フード・サミット特別報告: フィリピンにおける遺伝子組み換え問題

チト・P・メディナ博士
(MASIPAG全国コーディネーター)

 フィリピンでは2002年以来、62品種の遺伝子組み換え作物が承認されている(そのうち54品種は食品、飼料、加工食品用[つまり輸入用]として承認されており、商業栽培用には8品種が承認されている)。

ゴールデンライスを引き抜く農民たち

ゴールデンライスを引き抜く農民たち

 フィリピンでは遺伝子組み換えトウモロコシは商業栽培されて今年で13年目となる。

 トウモロコシ以外にもBtナスの商業栽培を目指して、圃場での実験栽培が行われていたが、訴訟を通じてその試験は停止処分となった。この他に、遺伝子組み換えコメであるゴールデン・ライスの実験が開放圃場で行われているが、2013年8月8日、ビコール小農民運動(KMB)に率いられるビコールの農民たちとSIKWAL-GMOの同盟が違法栽培されているゴールデン・ライスを引き抜きを行った(写真)。2013年2月5日、農民との対話で地元の農業省事務所は農民に対して、圃場実験はもう行わず、2013年1月に終了した圃場実験の結果を知らせることを約束していたにも関わらず、それを無視して栽培していたからである。

 栽培される遺伝子組み換えトウモロコシでは最初はBtコーン(害虫抵抗性)が多かったが、その後、ラウンドアップ耐性(RRコーン。農薬耐性)が増え、現在は害虫抵抗性と農薬耐性の複数の性質を持つ多重スタック(複数の除草剤や殺虫成分を含む)遺伝子組み換えが主流になっている。

GMコーンが植えられた面積の割合

GMコーンの植えられた総面積

遺伝子組み換えはフィリピン農民に何をもたらしたか?

 もしGMO種子を買ったらその種子があなたを買うことになる! つまり、農民は債務奴隷に転落してしまうのだ。経済的に大きな打撃を受ける。

 その上に、遺伝子組み換え耕作による健康障害が生み出される。そして、作り出される食は有害であり、さらに遺伝的な汚染が広がっていく。

 まず、経済的な影響を見てみよう。

GMOとNonGMの種子の値段の違い
GMとNonGMの種子の値段 2012年

 遺伝子組み換えトウモロコシの種子の値段は非遺伝子組み換えトウモロコシに比べ倍近い価格になる。1ヘクタールあたり、5000ペソも高くつく。その種子耕作のための化学肥料や農薬も含めてかかる費用は収穫物を売ったとしても回収できず、農民は借金を重ねていかざるをえない。GM作物栽培では小農民は高利貸から金を借りなければならず、その利幅は50%に達することもある。

 その結果、農民は自分の土地を失うケースが増えている。遺伝子組み換えではない種子を農民が植えたいと思っても、なかなか手に入らない。

GMコーン栽培のコスト
GMコーン栽培のコスト、総利益、純利益のサマリー、ローンベース(2012)

 また近年増えている気候変動による被害、台風やエルニーニョによる影響に加え、遺伝子組み換えトウモロコシに発生する菌病や害虫によって収穫の多くが被害を受け、収入が得られない事例も発生している。農民にとってはこうした病気の発生はひじょうに深刻な問題を生むことになる。

遺伝子組み換え耕作による健康被害

 遺伝子組み換えトウモロコシ畑の周囲の作物が遺伝子組み換えトウモロコシ(ラウンドアップ耐性コーン)にかける除草剤グリホサートの影響を受けている。さらにその畑の周辺に住む人びとの間でも、皮膚のアレルギー、視力の低下、咳などの体調の悪化が報告されている。

グリホサートに汚染された井戸

グリホサートに汚染された井戸

 モンサントの農薬ラウンドアップは今年WHOの外部研究機関であるIARCが2Aという発がん性物質に指定したが、多くの研究がグリホサートの発ガン性を含む多くの有害性を指摘している。フィリピンの農民はこのラウンドアップが撒かれる地域の井戸から地下水を飲んでいる。この井戸にはラウンドアップが染み込んでいると思われるが、農民には有害物質への知識がなく、この水を飲むことで、健康被害を受けていると考えられる。

開花期のBtコーンへの接触による病気

  • Kalyong, Bgy. Landan, Polomolok, South Cot. (>60 人)
  • Bgy. Tuka, Bagumbayan, Sultan Kudarat (32 人)
  • Bgy. South Sepaka, Sto. Niño, South Cotabato (9 nin )
  • Bgy. Magallon, M’lang, North Cotabato (20人の子ども)
  • Bgy. Kalapagan, Matti, Davao Oriental (1人)

 Btコーンの場合には開花期のBtコーンへの接触により、頭痛、胃痛、風邪、めまい、下痢、嘔吐、呼吸困難、赤目、体力減退、皮膚の黄色化(肝炎に類似)という症状が多数の人から報告されている。Bt毒素に対する抗体が病気になった患者から検出されてもいる。

 Btコーンを栽培しており、Btコーンも食べていた農民でこのBtコーンゆえと推定される病気で死亡したケースもある。

遺伝子組み換えトウモロコシを食べた家畜への影響

 家畜への影響も深刻だ。カラバオ(水牛)が死んだケースもフィリピン各地で報告されている。豚が下痢などの病気を起こしたり、鶏の産卵がおかしくなっている。豚や水牛の子どもが未熟なまま生まれてきたり、早死するケースもある。

 こうした報告を裏付ける研究結果も数多く報告されている。「Bt (Cry) プロテインはネズミの血液に対して有毒である」Mezzomo, B. P., et al. (2013). Hematotoxicity of Bacillus thuringiensis as spore-crystal strains Cry1Aa, Cry1Ab, Cry1Ac, or Cry2Aa in Swiss albino mice. J Hematol. and Thromboembolic Diseases 1(1)

「Bt タンパクは人間の細胞に有害である」 Mesnage R., Clair E., Gress S., Then C., Székács A., Séralini G.-E., 2012. Cytotoxicity on human cells of Cry1Ab and Cry1Ac Bt insecticidal toxins alone or with a glyphosate-based herbicide. Journal of Applied Toxicology

 フィリピン政府は安全性を確認したとして遺伝子組み換え作物を承認していながら、こうした問題への追跡調査は何一つ行っていない。

遺伝子組み換えが与える環境への影響

 遺伝子組み換え農業は環境にも深刻な影響を与える。

 まず花粉による交配の問題が起きる。そして、花粉以外でも種子になった状態で混ざっていく危険がある。フィリピンでは食用に白トウモロコシが作られているが、これに遺伝子組み換えトウモロコシの花粉が交配し、遺伝子汚染が起きていることがグリーンピースの調査によって明らかになっている(White Corn in the Philippines – Contaminated with Genetically Modified Varieties)。

 遺伝子組み換え作物にかけられる除草剤ラウンドアップは毎年大量に撒かれる結果となり、耐性雑草が急速に増えていく。そして、土壌がキレート化され、土壌破壊を起こしていく。

RRコーン耕作の環境影響

ラウンドアップにより土壌に深刻な影響の出た土地(Guinbialan, Maayon, Capiz, 2015年5月)

 そしてBt毒素は土の中に留まる。Bt毒素のCry1AbタンパクはBtコーンの根から滲出し、少なくとも180日間土壌の中に留まる。そして、少なくとも3年間Btトウモロコシのバイオマスに存在し続ける (Saxena and Stotzky, 2002; Stotzky 2002, 2004)Icoz, I. and G. Stotzky. 2008. Fate and Effects of Insect-Resistant Bt crops in soil Ecosystems. Soil Biology and Biochemistry. 40:559-586).

遺伝子組み換え農業に対するオルタナティブは存在する

 遺伝子組み換えは20年近くにわたって遺伝子組み換え企業が広げようとしてきたが、世界の多くの農地はGMOフリーのままである。

遺伝子組み換え世界地図

国連貿易開発会議“Wake up before it is too late” 2013から作成。2007年の推測。クリックで拡大

 キャッサバを例にとってみよう。1ヘクタールのラウンドアップ耐性コーンと同じだけの収入を得るために遺伝子組み換えでないキャッサバを植えるためにはわずか0.2ヘクタールの土地があれば十分だ。化学肥料も農薬も不要である。

 モンサントなど世界の6大遺伝子組み換え企業は種子市場の6割以上を占めている。彼らは種子に特許を取得しており、彼らが販売する種子を農民が保存することを特許侵害として許さず、犯罪者とする。このことによって彼らは食料・農業生産を支配しようとしている。その支配を完成させるために彼らは種子が発芽できないようにするターミネーター技術まで作っている。

 種子を守り、遺伝子組み換え企業にこれ以上、種子の特許、独占を許さないことが重要だ。伝統的種子を守り、農民の権利を守っていく必要がある。


[2015/12/08追記]

フィリピン最高裁は12月8日、フィリピンでの遺伝子組み換えナス(Btナス)の実験栽培の永久停止を命じました。遺伝子組み換えナスはフィリピンで栽培実験がなされており、MASIPAGなど市民組織の訴えに対して、その実験の停止が2013年5月に命じられていました。今回の判決は予防原則の立場から遺伝子組み換えナスの実験を取り返しの付かない生態系と民衆の健康へのダメージを与える可能性があるとして、その実験の永久停止の判断をしたものです。

さらにフィリピン最高裁はすべての新規の遺伝子組み換え作物の栽培・仕様・輸入などへの申請の停止を命じました。一方、日本は12月1日にまた新たな枯れ葉剤耐性ワタ2品種の承認を行い、日本の遺伝子組み換え承認数は世界で最大となっています。

[解説]

MASIPAGはフィリピンでの遺伝子組み換えトウモロコシの栽培がどのように農民に影響を与えたかについて、調査を行い、その結果を『フィリピンにおける遺伝子組み換えトウモロコシの社会経済的影響』というレポートにまとめている他、ビデオ・ドキュメンタリーも制作しています(2013年)。

このドキュメンタリーは遺伝子組み換えがもたらした厳しい現実を生々しい農民の声で語ったものです。ドキュメンタリーや調査報告書はフィリピン:遺伝子組み換えと闘う農民たちでご覧いただけます。ぜひご覧ください。

またMASIPAGは稲の種子バンクや従来の第3者認証による有機認証とは異なるユニークな参加型認証による有機農業を可能にする方法を創りだしており、IFOAM(国際有機農業運動連盟)によってもMASIPAGの参加型認証は有機認証として承認されています。この活動については近日中に紹介する予定です。

フィリピンの遺伝子組み換えによる被害をインドネシア農民に伝える

2014年3月10日

 フィリピンで遺伝子組み換えトウモロコシが導入された後、農民がどう影響を受けたか、調査に基づき作られたドキュメンタリー『10年の失敗—GMコーンに騙された農民たち』に日本語版を作成し、先日公開しましたが、インドネシアで活動するATINA(オルター・トレード・インドネシア)やオルター・トレード・ジャパンの姉妹団体APLAに関わるボランティアの方に翻訳いただき、インドネシア語版が登場しました。

 以下にそのインドネシア語版を掲載します。

 もしインドネシアの友人をお持ちでしたら、ぜひご紹介いただければ幸いです。インドネシア語版のリンク(YouTube)。日本語版はこちら

インドネシアへのモンサントの進出

 モンサントは遺伝子組み換え種子を商業栽培を米国で始めてほどない時期にインドネシアでも遺伝子組み換えコットンを承認させるための活動を始めています。遺伝子組み換え種子を環境審査なしに承認させるために1997年から2002年にわたり、インドネシア政府高官140人以上の役人とその家族に賄賂を贈ったことが暴露され、またその間に無理矢理始めたBt綿(虫が食べると死んでしまうBt毒素を作り出すように遺伝子組み換えされた綿)の栽培も干ばつや害虫の被害が出て、農民との争いとなり、2003年12月にモンサントは一時、インドネシアから撤退します。

 しかし、その後、再び、インドネシアに戻り、現在は2つの種子工場を稼働させ、1万トンのハイブリッド種子を生産し、その30%はタイやベトナムに輸出されています。

 さらにモンサントはインドネシアからフィリピンに遺伝子組み換えトウモロコシの種子を輸出する計画を持っていると報じられています。ベトナムが遺伝子組み換えの大規模商業栽培が始まる可能性もあり、そうなってしまえばインドネシアが東南アジアの遺伝子組み換え種子工場の拠点になってしまうことが懸念されます。

今年、本格的な遺伝子組み換え商業栽培が始まる可能性

 モンサントばかりでなく、インドネシア企業によって、干ばつに耐性のあるとする遺伝子組み換えサトウキビが開発され、インドネシア政府は世界に先駆けてその栽培をすでに承認しており、インドネシアで本格的な遺伝子組み換え栽培が今年2014年に着手される可能性があります。

 また遺伝子組み換えトウモロコシの栽培も今年2014年から始まるという情報があります。遺伝子組み換えの本格的な栽培により、フィリピンの農民に起きたことがインドネシアの農民に起きる可能性が高まっています。

 こうした現状を考える時、インドネシアでフィリピンの経験を伝えていくことは大きな意味があると考えます。姉妹団体のNGO、APLAと連携しながら、こうしたアジアの農民の経験を共有していきます。

フィリピン:遺伝子組み換えと闘う農民たちもぜひご覧ください。

資料:

  1. 『遺伝子組み換え食品の真実』 アンディ・リーズ著/白井和宏氏訳(白水社)の181〜184ページ。
    モンサントがインドネシアに入り込み、わいろで環境調査をパスして、Btコットンの栽培を始め、大失敗して撤退した経緯が書かれています。
  2. Monsanto Business Practice in Indonesia http://www.monsanto.com/newsviews/pages/business-practices-in-indonesia.aspx
    モンサント社自身によるインドネシア賄賂事件の自己批判文書。日本モンサント株式会社のサイトでは見つけることができません。
  3. How Monsanto brought GM to Indonesia http://www.gmwatch.org/index.php/news/archive/2005/9630-how-monsanto-brought-gm-to-indonesia-1012005
    GMWatch(遺伝子組み換え問題に関わる代表的NGO)によるインドネシアへ2001年Btコットンが持ち込まれた時の状況を説明した記事(2005年)
  4. 2013/05/18 Monsanto eyes RI’s corn rise on new seeds http://www.thejakartapost.com/news/2013/05/18/monsanto-eyes-ri-s-corn-rise-new-seeds.html
    Jakarta Postの記事(2013/05/18)。遺伝子組み換え種子をフィリピンに、と。
  5. 2013/09/27 Cultivation of GM crops, plants urgent: Farmers http://www.thejakartapost.com/news/2013/09/27/cultivation-gm-crops-plants-urgent-farmers.html
    Jakarta Postの記事(2013/09/27)2014年に遺伝子組み換えサトウキビ、遺伝子組み換えトウモロコシの栽培が始まる可能性を伝える。

フィリピン:遺伝子組み換えと闘う農民たち

2014年2月17日

昨年10月に発表されたフィリピンのMASIPAG(Farmer-Scientist Partnership for Development、農民と科学者の発展のためのパートナーシップ)による『10年の失敗—GMコーンに騙された農民たち』のビデオドキュメンタリー、MASIPAGの協力やAPLAのボランティアの協力で日本語字幕版を作成した。

遺伝子組み換え問題に関するビデオは数多くあるが、ここまで農民の口から遺伝子組み換えがもたらす問題がなまなましく語られたドキュメンタリーは類を見ない。

25分弱にわたるものだが、ぜひご覧いただきたい。

このドキュメンタリーではモンサントが遺伝子組み換えが何であるか、まったく農民には情報をもたらさないまま、高収穫、高利益を与えるという偽りの宣伝で農民を騙す形で導入されていくことが語られる。

安かった種子は高くなり、肥料や農薬は年々必要量が増えた上、値段も上がり、農民は債務で土地を失い始める。そして、それまで主食の一部にもなっていたトウモロコシの種子を失った時、彼らは自分たちの食べるトウモロコシを買わなければならなくなってしまったことに気がついた。

自分が作ったGMコーンを食べれば下痢になり病気になる。カラバオ(水牛)に食べさせたら死んでしまう、という証言は衝撃的だ。米国の農民にとってGMコーンは自分たちが食べるものではないし、家畜も工場のようなところで数ヶ月餌付けするだけなので、どんな健康被害があるのか、知ることは難しい。しかし、主食に近いものとしてトウモロコシを食べ、さらに家畜が家族のように長く付き合う存在であるフィリピンの農民にとってはそのGMコーンが健康に与える影響はずっとはっきりと見えるのだろう。それだけにこれは欧米で作られたドキュメンタリーよりもはるかに生々しいものになっているのだ。

さらにGMコーンの導入後、土壌流出が続き、農地が石ころだらけになってしまったという。さらにGMコーンにかける有毒な除草剤が周辺のバナナやマンゴーも病気にしてしまう。

トウモロコシは自家受粉で実を付ける大豆と異なり、花粉が遠くまで運ばれてしまうので、GMコーンを始めるとその周辺のトウモロコシも汚染されてしまう。GMコーンをやめたくても、自分だけやめても汚染されてしまうし、さらに強力な農薬が流れてきてGMコーン以外は育たない環境になってしまう。

遺伝子組み換えにより、農民は種子を失い、食料を失い、土地を失う結果となった。その一方で、モンサントやデュポン(パイオニア)などの遺伝子組み換え企業は大きな利益を上げている。

MASIPAG フィリピンにおける遺伝子組み換えトウモロコシの社会経済的影響

MASIPAGレポート『フィリピンにおける遺伝子組み換えトウモロコシの社会経済的影響』

こうした動きに対して、遺伝子組み換えをやめ、有機農業によって村を変えていこうとする動きが出ている。個々の農家だけで変えようとしてもGMコーンによる汚染や農薬流出もあって、変えることは困難だが地域がいっせいに変わることで、この悪循環を止めることは不可能ではない。

その困難な闘いがフィリピンで進められていることをまずこのビデオから知ることができる。

なお、このMASIPAGの調査は80ページの詳細なレポートにまとめられており、全文をダウンロードすることができる。

ダウンロードはMASIPAGのサイト: Socio-economic Impacts of Genetically Modified Corn In the Philippines (2013年9月 PDF 2.1MB)

2014年2月20日追記

印鑰 智哉(オルター・トレード・ジャパン政策室室長)