【PtoP NEWS Vol.8 特集】エコシュリンプの昔と今
1992年から始まったエコシュリンプの取り組みは、数々の困難に直面しながらも、多くの方々から叱咤激励をいただきつつ、食べ支えてくださっている消費者の皆さんのおかげで、今日まで続いてきました。
取り組みが始まった1992年といえば、まだ昭和の香りがプンプンしている時代。携帯電話やインターネットの普及はおろか、Jリーグさえもありませんでした。今と比べると、この20余年で日本も世界も、オタマジャクシがカエルになったような大変化を遂げているように思われます。これはエコシュリンプも同様で、今でこそ生産者と消費者の交流が可能となり、養殖池の確認などの管理体制も整いましたが、1992年当時、そのようなことはとてもできませんでした。
エコシュリンプ事業が始まる前、村井吉敬さんが著書『エビと日本人』(岩波新書/1988年)で指摘しているように、「外国産のエビを食べまくっている一方で、産地の事情はおかまいなし」という日本のエビ輸入の問題点が提起され、また輸入エビ自体の食品としての安全性に対しても、疑問の声が挙がっていました。これらの事情は輸入バナナのそれと共通するところも多く、そのような市販の輸入エビに対する”オルタナティブ”としての取り組みという主旨で始まったのが、エコシュリンプ事業でした。
インドネシアのジャワ島東部で、エビの粗放養殖を営む生産者や地元資本の中規模冷凍工場と出会ったことで第一歩を踏み出したエコシュリンプ事業ではありましたが、現地に常駐できる人材などは中々確保できず、実質的には、「粗放養殖エビを現地の協力工場が買い付け、保水剤等を使わずに一回凍結加工し、できた製品を輸入する」という状態がしばらく続いていました。
このような事業構造に対し、取扱い団体からも様々な意見が出され、エコシュリンプをより深化させていくための取り組みとして、「ATJがエビを買い付け、現地の協力工場に冷凍加工を委託する」という方式への転換を図ります。その一環として現地事務所を開設し、これが現在のオルター・トレード・インドネシア社(ATINA)の前身となります。その後、ATINAが自前の工場を稼働させたことで「生産者情報の把握・管理⇒原料買い付け⇒製造⇒輸出」というスッキリした流れに集約することができました。一方、エビを育てる生産者やそのグループとの直接の関係を構築していく中で、粗放養殖を営む人々の実態も見えてきました。
粗放養殖池は、ジャワ島東部では300年近く前から存在していたとも言われ、沿岸部に広がっています。それが紆余曲折を経て、今の生産者が親から譲り受けたり、知人から借り受けたりして営まれているため、同じ生産者の養殖池でも、脈絡なく点在することが多いです。さらに、その下で現場を監督する人や実際に池での作業をする人もいるため(いないこともあります)、ひと口に「生産者」といっても、そのステイタスから雇用形態まで、実に様々です。さらに地域の特性として、生産者と工場の間をつなぐ「仲買人」の存在を抜きにやり取りできないこともあります。20年以上かけて「顔の見える関係」を目指してきましたが、見える顔が広範囲にたくさんあるうえ、途中で変わることもあり、中々一筋縄ではいきません。
現在のエコシュリンプの産地は、ジャワ島東部(シドアルジョ、グレシック)とスラウェシ島南部です。多様な文化を持つインドネシアでは、地域によって人の気質も言葉も生活スタイルも変わります。時に余所者であるATINAが産地に入り込んでいくのは、容易なことではありません。それでも安心して食べられるエコシュリンプを届けるため、エコシュリンプの基準を策定して生産者に説明をし、養殖池を訪問して記録を取る仕組みを導入してきました。
ようやく市民権を得てきたそれらの取り組みは「自分の育てたエビが日本の消費者に届けられる」という事実を、生産者にきちんと伝えることにもつながります。生産者の中には「日本はゴキブリ1匹いないキレイな国」と勘違いしている人も多く、日本にエビを出していることは、密かに彼らの誇りになったりもしているようです。
これから先の大きな課題は、安心・安全なエコシュリンプを届けることだけでなく、伝統的な粗放養殖を維持できる環境を守っていくことにあります。経済成長著しいインドネシアでは、ただエビの交易を続けるだけでは、粗放養殖の環境を維持することは難しくなりつつあります。一度失われた文化や環境は容易に取り戻せない、という視点から、より積極的に産地に関わることで、生産者と一緒に産地のことを考えられる関係づくりを進めています。
若井俊宏(わかい・としひろ/ATJ)
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