ジェフリー・M・スミスさん招聘への賛同のよびかけ

2015年12月28日

『遺伝子組み換えルーレット』バナー 『偽りの種子』などの著作で知られ、米国で遺伝子組み換え作物の問題に長く警鐘を鳴らし続けてきたジェフリー・M・スミスさんが監督されたドキュメンタリー映画『遺伝子組み換えルーレットー私たちの生命(いのち)のギャンブル』の日本語版DVDが10月末に完成いたしました。

 遺伝子組み換え食品がいかに人の健康に害を与えるかに焦点を絞ったこの作品の日本語版が発表されるやいなや、大きな宣伝ができていないにも関わらず、多く の方々がご覧くださり、強い衝撃を受けた、などの反響をいただいています。

 世界では遺伝子組み換え作物の問題に対する懸念が高まり、規制する傾向が強まっているにも関わらず、残念ながら日本では次から次へと遺伝子組み換え作物が承認される状況が続いています。このままではますます日本に遺伝子組み換え作物が輸入され、そしてTPPが発効することになれば、将来日本国内での遺伝子組み換え作物耕作が始まるという危険がないともいえません。

 このような中、遺伝子組み換え食品が持つ問題、その農業が社会に与える影響をしっかり人びとに訴えていく必要があります。

 ジェフリー・M・スミスさんは『遺伝子組み換えルーレット』を2012年9月に米国で公開した後も、遺伝子組み換え食品が健康に与える影響に集中して活動を行っており、さらに新たな知見をもって米国中で講演活動を行い、新作ドキュメンタリー映画“Secret Ingridients”も完成間近と聞いております。米国では急速に非遺伝子組み換え作物への注目が高まっているのも、ジェフリーさんのこうした活動に大きな影響を受けていると思われます。

 日本ではそのような情報はまだまだほとんど知られていないというのが実際でしょう。こうした中で、ジェフリー・M・スミスさんを日本に招聘したいという話が持ち上がりました。ジェフリーさんの問題提起をしっかりと受け止め、市民の遺伝子組み換えに対する認識を喚起する機会としたいと考えています。

 つきましては、遺伝子組み換え作物・食品問題に日ごろより取り組まれている団体・個人の皆さまに、2月20日午後 韓国YMCAホールにおいて映画の上映および ジェフリーさんの講演会へのご協賛をぜひいただきたく、お願いいたします。

ジェフリー・スミス氏

 ジェフリー・M・スミスさんはグリーンコープの招聘で22日に福岡でセミナーを開かれます。今回の招聘費用と交通費はグリーンコープと東京実行委員会で折半する形で実現をしたいと考えます。

【賛同金】
○団体1口1万円(何口でも可)
○個人1口3000円(何口でも可)

 ぜひご賛同いただけますよう、お願い申し上げます。

2015年12月17日

【ジェフリー・M・スミスさん招聘・東京実行委員会】 (50音順/12月18日現在)
アジア太平洋資料センター(PARC)
オルタートレード・ジャパン(ATJ)
ルナ・オーガニックインスティテュート

【連絡先】
オルター・トレード・ジャパン(ATJ)
〒169-0072 東京都新宿区大久保2-4-15 サンライズ新宿3F
TEL: 03-5273-8176 担当:印鑰(いんやく)

アジア太平洋資料センター(PARC)
〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町1-7-11 東洋ビル3F
TEL.03-5209-3455 FAX.03-5209-3453
担当:内田聖子

賛同いただける団体、個人の方はぜひ以下のフォームからお申し込みの上、下記の口座にご送金ください(お申し込みいただいたメールアドレスにも口座情報はお送りします)。


賛同申し込みフォーム

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お問い合わせがある場合はお問い合わせからご送信ください。

●郵便振替:振替口座番号 00160-4-163403
 加入者名 アジア太平洋資料センター

●ゆうちょ銀行 〇一九支店 当座0163403
 名義 アジア太平洋資料センター

ミンダナオにおける多国籍企業による農業の実態とそれに対する人びとの対応

2015年12月14日
 2015年11月7日、フィリピン・西ネグロス州タリサイ市において、オルター・トレード社(フィリピン・ネグロス)とオルター・トレード・ジャパン(ATJ、日本)共催によるネグロス・フード・サミットが開催されました。このサミットはASEAN自由貿易協定により多国籍企業が食のシステムをますます自由にできる時代の到来によって、危険にさらされる農業労働者・農民、そして消費者の状況を分析し、それに対して小規模生産者と消費者の連帯運動はどのように対抗していくかについて討議したものです。
 ネグロス島をはじめとするフィリピンのバランゴンバナナ生産者、マスコバド糖生産者、マレーシア、パレスチナの市民組織、日本と韓国の生協関係者、ドイツやフランスのフェアトレード団体が参加して、今後の取り組みについて協議しました。

 2つの基調報告と3つの特別報告によるこのネグロス・フード・サミットの全容をぜひご覧ください。

 今回紹介するのは、フィリピン・ミンダナオの南コタバト州スララ町の元町長のロムロ・スリビオさんのミンダナオにおける多国籍企業が引き起こしている問題とそれに対する人びとの動きについての報告です。

ミンダナオにおける多国籍企業による農業の実態とそれに対する人びとの対応
ネグロス・フード・サミット特別報告 ロムロ・スリビオ

スリビオさん

スリビオ(Hon. Romulo O. Sulivio)さんは南コタバト州評議会メンバー。南コタバト州スララ町元町長。町長として、スララ市で遺伝子組み換えを禁止し、有機農業を推進し、スララ町を有機米の有力な生産地への転換することで活躍された方です。南コタバト州有機農業条例の起草者でもあります。

スペインと米国の植民地支配とフィリピンの輸出志向経済

 フィリピンはよく知られた輸出志向と輸入依存の農業経済が大半を占める国である。このようにこの国は主に農業生産物を他の国に輸出することによって生存している。「労働組合と人権のためのセンター」による調査研究から引用すると、この輸出志向経済システムはこの国のスペイン人、その後の米国人による長い植民地支配の歴史に辿ることができる。

 スペインの植民地支配時代に発達したアシエンダ・システムはアシエンデロ(大地主)によって巨大な領地を輸出向けの単一産品生産地に変えていった。米国人が1899年に支配に来て、1946年まで直接統治した時には、輸出向け農業が維持されただけでなく、強化された。第二次世界大戦前にすでに、米国系多国籍企業(MNCs)はフィリピンにやってきている。多国籍企業は広大な土地をパイナップルやバナナなどの果物プランテーションに変えていった。フィリピンが独立した1946年の後、後を継いだフィリピンの統治者たちはこの国の農業発展の外向き志向をさらに拡大した。

多国籍企業にとっての「約束の地」ミンダナオ

 ミンダナオはフィリピンを構成する3つの島群の中で2番目に大きく、2200万人の人びとが住み、6つの地方と26の州からなる。アジア・ビジネス・チャンネルでのミンダナオの記事から引用すれば、「この島の地域は13世紀にアラブの商人、17世紀にはスペイン人の入植者たち、最近の20世紀には国内再定住計画によって、フィリピンで文化的にもっとも多様な島となっている」のである。

 ミンダナオは豊かな土壌や熱帯気候などによる天然資源が豊かなだけでなく、 この国の他の地域に比べてもっとも生育条件がいいことで知られている。パイナップル、バナナ、ゴム、カカオ、コーヒー、トウモロコシそしてココナッツなどのフィリピンでの多くの作物はミンダナオで育っているし、ミンダナオで見つけることができる。ミンダナオのほぼ3分の1の土地が農業に向けられており、三分の一の人口は農業、漁業、森林セクターで働く。フィリピンの「食料カゴ」として知られ、ミンダナオは国の40%以上の食料を生産し、30%以上の農業輸出を占める。

 ミンダナオは常に政府によって「約束の土地」として宣伝されてきた。なぜなら、この島は島の資源、森林そして人びとゆえに発展の機会に満ちていると見られているからだ。政府によればミンダナオはうまく生かせば、国の持続的発展の基礎となるだろうという。確かに、ミンダナオは莫大な天然資源、地形学的発展、そして人的資源に満ちているから、その結果、アグリビジネス、養殖産業、環境産業の機会主義的な玄関口となる。

 この観点こそ、国内・国際投資家がミンダナオのさまざまな地域に殺到し、外国投資家を継続的に呼び込む理由なのだ。

 大規模投資家そして外国投資家は国内の当局や投資家にとって歓迎なだけでない。アグリビジネス企業協定(AVA)のコンセプトを導入した行政命令第9号という農地改革政策、ベニグノ・アキノ大統領のフィリピン発展計画211-2016、さらには大規模外国投資家に対する「税金ホリデー」まで提供され、ますます魅力付きで、外国人を招待している。

 ミンダナオに多国籍企業がすぐに入れるように準備した政府の政策だけでなく、多くの貧困な民衆はこうした大規模投資家たちを知って興奮し、歓迎しようとした。というのも彼らはこれらの投資が切迫した彼らの生活条件を向上させる発展をもたらすと思い込まされたからだ。さまざまなステークホルダーと政府の行政は多国籍企業の誘致こそ、特にミンダナオに存在している貧困と紛争に取り組むために人びとの生活の経済発展をもたらすとして奨励している。今、第3世界にいるもので、誰が開発に抵抗するだろうか?

日本をはじめとする多国籍企業の展開

 こうして多国籍企業はミンダナオのあちこちで貪欲に活動しており、悪名高い彼らの農法システムには50年にわたり続けられているものもある。ミンダナオのいくつかの地域での多国籍企業の継続的な拡大していることは、ここでの彼らのビジネスがブームであることを否応もなく示すものである。

 ミンダナオに進出し、その活動領域を継続的に広げている少なくとも5つの大きな多国籍企業をあげて見よう。南ミンダナオ地域ではAJMRスミトモとドールは現在バナナとパイナップル農園展開を急速に拡大している。一方、国際チキータ・ブランドはタグム開発社(TADECO)との関係を維持している。

 ソクサージェン地方では、ドールがすでに3万5000ヘクタールの一等地を取得していると公言しており、パイナップルのための土地を得るために食指をいくつかの待ちにさらに伸ばしつつある。一方、南コタバトとサランガニ地区では何千ヘクタールの土地を日本の住友商事の子会社であるスミフル・フィリピンズ・コーポレーションに提供している。

 北中部ミンダナオ地域ではデルモンテ、ネスレ、サンミゲル社が今、ブキドノンと東ミサミス地域でのアグリビジネスを独占している。

ミンダナオにはすでに2万6505.48ヘクタールのパームオイル・プランテーションが存在し、そのうち、1万7415.15ヘクタールはカラガ地方(ミンダナオ北東部)に存在する。そして、これらは主にフィリピナ・パーム・プランテーション社(FPPI)、 Guthrie Planrtaion社(NGPI)、NDC-Guthrie Estate社(NGEI)、 Agusan Plantation社(API)とAgusan Milling社によって操業されている。

多国籍企業の操業がもたらすもの

 アキノ政権によると、これらの多国籍企業のわが国での操業は大きな経済成長をもたらしているという。なぜなら、多くの税金が多国籍企業によって支払われ、生産物をより簡単に早く運ぶ畑から市場への道路などのインフラ建設だけでなく、何千という職の機会を提供しているからだという。しかし、貧しいフィリピン民衆は政府が自画自賛するすばらしい経済成長などは実感していない。統計をみれば、わずかなエリートで豊かなフィリピン人の富や資産は大きくなるが、多くの人びとにとっては職の喪失と貧困という結果になっているのである。

 多くの多国籍企業はアグリビジネスを常に拡大させているが、大多数の農民と農業労働者たちは主にこれらの大企業や外国企業による搾取により貧しいままにされている。土地なしであること、低賃金、農場に投入するものの高価格、そして生産物の低い買い取り価格によって貧困は悪化する。その結果、農民や農業労働者たちは借金し、ローン漬けとなり、債務の積み重ねの中に埋没するしかなくなってしまう。ミンダナオを経済特区にする一方で、ミンダナオのすべての地域で武装紛争が激しくなっている。

 ミンダナオの多くの地域で輸出向け作物の生産とアグリビジネスを行う多国籍企業は大規模土地取得、農地改革の土地転用、労働者の人権侵害、環境、持続できる発展や食料保障の悪化という本質的な問題に取り囲まれている。

多国籍企業の土地利用の方法

 ミンダナオにおける多国籍企業の農業を取り巻く問題はアグリビジネス産業を管理するその実践とその方法に多くが根ざしていると思われる。自由化は進んでいるにも関わらず、買い手はドールとデルモンテしか見当たらず、輸出生産物の価格は大規模な組織の買い手によってコントロールされている。

 アグリビジネス企業協定(AVA)によると、AVAのための土地はすべての商業的農地に適用できる。AVAの適用になる商品作物ははっきりとバナナ、パイナップル、ゴムと規定されている(Section 2(f), AO No. 9 of 1988)。前述の規定は多国籍企業によって所有されているかリースされている土地に適用される。こうしてアグリビジネスが農地改革計画の枠組みの中に導入されることになった。これに加え、アグリビジネスセクターへの国内はもちろん、外国からの投資を奨励し、引き寄せるための効果的手段を取ることが農地改革政策の中に組み入れられた。これが意味することは何かというと、農地改革の目標が農地の所有権の移転から生産性の増加を含むことに変わったということだ。これはフィリピンの「農地改革政策のパラダイムシフト」が起きたその瞬間として見ることができる。

 AVAには7つの方法がある。合弁事業契約、リース契約、成育契約、管理請負、一括事業請負後譲渡(BOT)方式、生産、加工、マーケティング契約、サービス契約である。

 どの方法を多国籍企業が取ろうとも契約はつねに一方的であり、多国籍企業の利益にだけなることがあきらかになっているケースがいくつもある。ほとんどのケースで、フィリピンの地主あるいは農民たちは多国籍企業との契約合意のコピーを持っていない。多くは合意書に規定されていることを理解しておらず、多国籍企業との口頭での約束だけを信じている。多国籍企業は農地改革コードであるRA 3844に規定された条項を違反する広大な土地で操業している。

コストカットが可能な労働契約

スミフルに抗議する労働者

住友商事100%子会社スミフルでは労働争議が頻発

 労働者は多国籍企業の農業生産のさまざまな生産過程の中心にいる。多国籍企業は「多元的あるいは多数のレベル」と説明する関係を労働者と結び、それは契約者タイプによって変わるが、ある共通の要素に縛られている。それは契約者は契約した主に外国に輸出する多国籍企業のバナナだけを栽培し、生産し、パックすることが法的に義務付けられることである。契約者の形態が個人であれ、協同組合であれ、連合体であれ、栽培者あるいは労働者であっても彼らは1つの会社のためだけに働くのである、つまり、ドールースタンフィルコあるいはスミフルのように。そして、18-A省令のおかげで、すべての操業における労働基準を完全に満たすことが連帯責任とされることになる。

 この多数のレベルと多元的関係の雇用は実際に地主や栽培者、農民や労働者の犠牲のもとに、生産の利益を最大化するためにコストカットすることにおいて、多数の利点を多国籍企業に与えている。

 多国籍企業の創業に存在する多数の労働基準の適用方法は(労働面でも環境面でも)より大きな操業においては、低賃金の生産、より権利の弱い労働者、栽培者たちが一方的な契約内容とよんでいる事態においても、一定の労働基準に適合しているように見せることができる。

 多くの企業において、彼らはすばらしい労働慣行を自慢するが、現場からは多国籍企業の労働慣行が基準を守っているのはほんの一部であり、全般的には約束した基準違反が蔓延しているのが現実だというケーススタディー、報告、証言があがっている。

 重い労働負荷に対する低賃金は多くのプランテーションで蔓延している。最低賃金やその他の権利の違反は多国籍企業の多くのプランテーションで広がっている。協同組合や仲介のさまざまな形態下のこうした農場操業での労働者の賃金は契約労働あるいはサービス・プロバイダーとよばれ、最低賃金よりもずっと安くなる。さらに彼らは有給休暇やボーナスや社会保険という権利は享受できない。組合を結成する権利や借地借家権の安定も保証されていないであろう。

 借地借家権の安定や組合を作る自由の権利に関するコンプライアンスについていえば、これらの権利の侵害には歴史があり、ずっと侵害され続けてきている。CTUHRのケーススタディーから引用すると、圧縮された週労働時間(一日の労働時間を他の日との平均取る事で労働時間を増減できるようにすること)と長期の契約労働状況はこれらの権利を実現するための障害となっている。

 退職を強制され、他の労働者に代わられる経験は法律や権利を侵害するだけでなく、あきらかに労働者への義務を回避するやり方である。口頭に過ぎないとしても労働者に労働組合を結成する権利を禁止することはフィリピン憲法を無視し、ILO条約(多国籍企業も誓約を誓っている)に組み込まれた結成権の自由を侵害する。

 現在、もっとも多い契約の方式は固定期間の有限雇用であり、契約労働である。多国籍企業を含む多くの企業は労働コストを下げるためにこの方式を好む。なぜなら、もし正社員として雇えば、有効で法的な理由がなければ解雇できず、退職手当やその他の手当を払わなければならなくなるからである。

深刻な農薬被害

農薬に影響を受けた手

農薬に影響を受けた手

 労働者の健康と安全については私の聞いた証言は例外的でも特別のものでもない。何人かの労働者は保護具の交換が必要な時に得られなかったと告げた。すべての労働者は彼らが使っている、あるいは彼らが工場や農場にいる時にさらされる化学物質の危険について完全にわかっているようではないようだった。

 全国労働関係委員会(NLRC)に提出されたケースでは、(不当解雇や組合結成の権利など)バナナ産業においては不当労働行為が最近10年顕著となっている。

 CTHURが調査した地域では、多国籍企業が20年から40年にわたり操業してきた南ミンダナオの地域では生物多様性、土壌、河川での環境が破壊されている。EUでは禁止されている Gramoxone【訳注:除草剤パラコート、シンジェンタの商品名】や、フラダン【訳注:殺虫剤カルボフランの商品名】のように米国ではすべての食料用の作物では使うことが禁止されているのような化学物質が継続的に使われていることはこうした環境上の被害を軽視したものであろう。最近の科学的調査と人びとの空中散布の悪影響に関する関心の高まりにより、バナナ・プランテーションの存在する地域の健康と継続的発展と環境的影響に焦点があてられるようになった。

農薬空中散布

農薬空中散布する飛行機、子どもの通学路でも出くわすことも

脅かされる食料保障

 プランテーションの中あるいはそばで生きている人たちはバナナ、パイナップルあるいはパームオイル産業になんらかの依存をせざるをえない。たとえばバナナを育てる以外に生きていく上で持続可能な経済活動が他に見当たらないからだ。このモノクロップ(単一作物)プランテーションへの依存は将来の世代にとって危険である。なぜなら土壌の大規模劣化によって将来的にはその土地が生産できなくなる可能性があり、持続できないからだ。

 これはまた地域の食料保障の危険を意味する。さらに重要だが、バナナ生産は輸出市場に強く依存し、外部の市場の変化に特に脆弱である。それは何千人もの農業労働者の生活や地域の経済に大打撃を与えるかもしれない。中国によるフィリピンバナナへのより厳しい輸入規制はその1つの例である。

 多国籍企業のプランテーションのある遠隔のコミュニティにおいて、道路や教育、保健サービスなどの重要なサービスのインフラが存在しないことは人びとの生活条件を引き上げる機会とともに地主や栽培者や労働者たちの他の市場へのアクセスや経済活動を妨げている。

 しかし、食料保障と基本的社会サービスの欠如は、地域で操業する多国籍企業だけでなく、多国籍企業が創業する地域でより広い、より明確なフィリピン政府の政策形成と実行に関わる問題である。

 バナナ・プランテーションに関する資料によると、「寡占的なバナナ生産の構造は多国籍企業の垂直的な統合と大きく関わっている」。これらの企業は種子の発展から栽培、そして消費者へのバナナの配送まですべての局面をコントロールしている。彼らは広大な土地を所有もしくはリースで持っており、無数のバナナ生産者と契約している。彼らはまた冷蔵船を保有し、貯蔵施設や熟成施設を持っており、世界大の供給ネットワークを持っている。多国籍企業は垂直統合によって、小規模生産者、流通業者に対する優位性を持ち、そのことによって価格設定や売る基準などを自分で決めることができる。こうして、多国籍企業は世界のどこでも消費者に比較的安い価格で継続的に供給することができ、さらに利益率を高く保つことができる」。

 しかし、最近、多国籍企業が国内あるいは国際的基準に適合した認証を得るための関心や圧力が高まっている。

 民衆がひとたび不平、苦情や問題を声に出して言うなり、多くのケースで警察や軍事組織は、人びとの権利を守るのではなく、企業の方を守ることに回っている。そのようなケースを見れば、多国籍企業による問題ある行動や権利の侵害はフィリピン政府にとっては許容できるものであり、彼らの利益を守るために投資防衛部隊(IDF)と認識される軍事勢力を配備するということになるのだ。

人びとの反応

 こうしたミンダナオにおける状況やフィリピン憲法でうたわれている民衆の権利の明確な侵害となる多国籍企業の農業の操業を考える時、現在、政府が誰の利益をもっとも重視しているか、これらの政策、法律、状況は動かしがたい証拠となっている。政府とその政策は民衆の生活と福祉の改善に最大限向けられなければならないことはあきらかだ。われわれが作る政策は純粋な発展と真の社会的進歩のための有効なメカニズムである。そのような民主的成果が自動的には生まれない。しかし、それは肯定的な出発点である。

 民衆の叫びは私たちが反汚職のキャンペーンを続ける必要性を示している。それこそが政府の官僚制を徹底的に見直す理にかなった道なのだから。多国籍企業と地域の経済利益への警告すべき従属により、国家主権はひどく害されてしまってきている。

 絶え間ない多国籍企業の侵入は、これらは国の状況がどんどん悪くなるサインであり、一刻も早い対応を必要とする。国の真の民主主義と発展への挑戦は希望の理由がある限り存在し続ける。さまざまな社会運動や民衆の叫びとともに搾取された人びとはもはや空約束を受け取ることはできなくなっている。次の政権がすべての人びとが感じることのできる成長の利益をもたらさない限り。究極の貧困と悪くなるばかりの国の不平等によってすでに幻想は打ち砕かれている。ますます多くの人びとが真の民主主義と真の発展を求めている。民衆は人びとの権利と利益をなによりも重視する政府を求めている。もっとも重要なことは国の中でもっとも活発に変革を求めて闘ってきた社会勢力は暴力的な攻撃と抑圧に抗して負けない力を持ってきたことだ。

 政府と軍部、そして彼らの外国ビジネスパートナーたちの自己利益の結託によって繰り返しなされてきたテロの中においても、小農民、先住民族、ミンダナオと他の地域の労働者たちは常に彼らの権利を進める力を示してきた。

 ミンダナオの移住入植者と言われる子孫として、共通の正義を求めてきた者として、私は民衆の行動を求める要求に合意し、団結しなければならないと信じる。

 本日、この会議で現場の民衆の状況を共有し、私の有権者と民衆の代表として話すこの機会を与えられたことに感謝したい。私はこの偉大な機会で、さらなる搾取を許さない信念、確信そして行動を強めることを求めたいと思う。

 私たちの多様な信仰の中で、民衆の現実を聞いて、理解した人びとは民衆の現場で起きている深刻な人権侵害に対して生命、土地、そして、先人から受け継ぐものを守る揺るぎない団結を示されることを信じる。

 ミンダナオに存在するこれらのひどい行為や継続する侵害に対して、何もしなければ、真の発展、持続性そして平和は得られないままであるだろう。なぜなら、生態系が死に、多国籍企業の侵略によってコミュニティが貧しくなるものを見るだけだからだ。

 わが民衆の苦しみと死に責任があるものたちは創造もまた責任を持つ。

 民衆と共に来た私は私たちの反応を彼らに伝え、創造の世話役として、先祖の土地を守るものとして、環境の守護者として、私たちの土地を守り、命を守り、伝統を守る。

 私はさらなる破壊に抵抗するミンダナオのルマド、モロ、そして小農民コミュニティ、カトリックやプロテスタントの教会、そして支援団体によるミンダナオの今動いている運動に勇気づけられている。無限の信仰と確信を持つ運動は聖書のゴリアテに対するダビデの勝利、預言者モハメッドのメッカの抑圧的な大地主に対する勝利、リエンユワンの精神に守られた、我々の土地の守護者たちにインスピレーションを受けている。真実は多国籍企業のアグリビジネスによって作られたウソと神話に対抗する最大の武器だ。

 ミンダナオの多国籍企業のこの状況に対して、問題はこの困難な状況の中にわれわれはどこにいるのかということだ。この残虐行為が続く中で傍観者を続けるべきなのか? ミンダナオへ移民あるいは初期移民定住者の子孫としてわれわれは今、この地域の多数者を構成しており、搾取されている民衆の声を広げる道義的責任を持つ。都市に住む住民として、あらゆる形態の不公正について声を出す上で都合のいいポジションにいる。われわれはこの利点を活用して、われわれの周辺化された兄弟姉妹たちへ手を差し伸べなければならない。

 もし彼らの闘いが、後発で、前工業的、外国資本が独占するフィリピン社会を特徴付ける不正義であり、搾取の兆候であると見られればその理解と団結の必要はよりはっきりするだろう。

 これらの問題はさまざまな質的に異なった特徴を持つものの、われわれが毎日直面する本質的に共通の問題に根を持つものだ。われわれはみな同じフィリピンの抑圧された民衆の一部であり、私たちは同じ厳しさと闘う。連帯を広げようとする精神の中にわれわれの共同の行動の基礎がある。

 それゆえ、私はこの機会に以下の連帯を求めたい:
あなたたちは以下のことをやることで農民、農業労働者、先住民族、労働者を助け、連帯することができる。

  1. ミンダナオのコミュニティの現在の社会的現実と歴史的プロセスの知識と理解を深めること
  2. 戦争と平和の両方の時期に反応できるようにコミュニティの能力構築の機会を提供し、計画の作成、実施の促進を支援すること
  3. 学校、フォーラム、展示会、マルチメディアを通じたキャンペーンの普及によって、小農民、先住民族、労働者の社会的意識の向上
  4. コミュニティレベルでの人権教育を政府の担当部局、教会ベースの組織そしてその他の支援組織と共に行うこと
  5. 政府の担当部局や地域の組織、コミュニティと共に多国籍企業の違反行為をモニターすること
  6. 地方政府の担当部局などのキーとなる組織と調整し、小農民や先住民族の立ち退きに問題に対して、取り組み対応できるメカニズムを樹立すること
  7. 空中散布を禁止する私たちのキャンペーンに署名すること
  8. 多国籍企業が操業している地域でもっとも影響を受けているコミュニティに直接ボランティアで関わること

    加えて、次のことに私たちが取り組んでいることをお知らせしたい

  9. 国際法や国内人権政策で重大な違反が起きていると考えられるコミュニティにおける真の農地改革に向けてロビーをすること
  10. 国連委員会、人権監視やその他の機構を最大限に生かすこと
  11. 多国籍企業に関わる人権問題を監視する人権委員会の組織的能力を強めることを働きかけること
  12. 多国籍企業の農業操業やそれに関する問題について政府の担当部局、軍の担当者、他の鍵となる組織と対話に努めること

そして次のことへの支援を懇願する。

 多国籍企業(ドール・フィリピン・コーポレーションやスミフル・フィリピン・コーポレーションなど)に「出来高払いシステム」という搾取的な労働行為をやめさせることを求めること。そして、現在行っている契約労働政策を全面的にやめられないとしても、少なくとも最低賃金を与え、労働者にまっとうな生活賃金を与えること。
 私たちのコミュニティを環境破壊の脅威に置く破壊的な農業操業を将来減らし、なくしていく方法を見つけるための調査と開発を再考し、重視すること。
 私たちの立法部門で1年以上準備している私の条例草稿へのあなたの支持をお願いしたい。私たちの地方政府や中央政府に農業行為として農薬空中散布を禁止するように手紙を書いて送ることもできる。

 私たちの国家遺産を守ろう! 農民、先住民族、労働者の闘いと要求に連帯しよう!

 真の発展と純粋な民主主義を求めよう!

フィリピン最高裁、遺伝子組み換えナスの栽培実験禁止と新規承認一時停止を決定

2015年12月10日

 フィリピン最高裁判所は、2015年12月8日に遺伝子組み換えナス(Btナス)の実験の永続的禁止と遺伝子組み換え作物の新規承認一時停止を命じました。農民と科学者の連帯ネットワークであるMASIPAGや環境運動団体などの市民による訴訟が実りました。

 虫が食べるとその虫の腸を破壊するBt毒素を生成するように遺伝子組み換えされたナスのフィリピンでの商業栽培をめざして実験に対して、農民や消費者たちは、環境に与える影響や健康に与える影響、そして農業に与える悪影響を懸念し、訴訟を起こしていました。2013年9月に実験栽培を禁止する判決がすでに下っていましたが、今回の最高裁の判決はそれを支持するものです。

 今回の判決は、遺伝子組み換えナスが安全であるとする科学的コンセンサスは存在しておらず、環境影響調査(EIA)も行われておらず、環境や健康にあたえる害を避ける予防原則の見地から、遺伝子組み換えナスの栽培の実験を永続的に禁止しなければならないというものです。MASIPAGのプレスリリースによると、最高裁は学識経験者たちに委ねるだけでなく、その決定には消費者、農民含むすべてのステークホルダーを含めていく必要があるとしたとのことです。バイオテク企業が研究所の予算の多くを握る現在、研究者でバイオテク企業の利益に沿わない判断を下すことは難しいとも言われます。それを考える時、画期的な判断だと言えます。

 さらに、フィリピン最高裁は現在の政府による遺伝子組み換え規制システムが最低限の安全要件を満たしていないとして、2002年の農業省の行政命令(No.8-2002)の無効を宣言し、新規の遺伝子組み換え申請(新規の食用などの使用、栽培、輸入)を一時的に停止しました。

 この決定をMASIPAGの全国コーディネーターであるチト・メディナ氏は「すでにフィリピンには70種の遺伝子組み換えを輸入しており、私たちが知らぬまに、同意もなく、食のシステムに組み込まれてしまっている。さらなる遺伝子組み換えの流入を止めたいという私たちの願いが届いた」とこの決定を歓迎しています。

 この農業省の行政命令の無効措置は大きな意味を持つものです。というのも、この行政命令を根拠にフィリピンにモンサント、シンジェンタやパイオニアなどの遺伝子組み換え企業が入り込み、さらには国際稲研究所(IRRI)が開発を進めるゴールデンライスなどの栽培実験なども行われているからです。

MASIPAG フィリピンにおける遺伝子組み換えトウモロコシの社会経済的影響

MASIPAGレポート『フィリピンにおける遺伝子組み換えトウモロコシの社会経済的影響』

 フィリピンでは2002年12月に遺伝子組み換えトウモロコシの栽培が始まり、現在では80万ヘクタールで栽培されています。この栽培によって、環境破壊、人や家畜の健康被害、そして農民の債務化という社会問題も作り出されていることがこの訴訟の中心となったMASIPAGによる調査報告書(2013年)で明らかにされています(フィリピン:遺伝子組み換えと闘う農民たち参照)。

 そのような社会的、環境的、さらには人びとや家畜の健康に与える大きな影響を調べ、明らかにするという地道な積み重ねがあり、その問題点が共有されたからこそ、このような判決が可能になったと言えると思います。

 しかし、メディナ氏は警告します。「モンサントの研究者が11月24日、フィリピン国会で演説し、食料不足と低い食料生産に対して遺伝子組み換えを活用を議員に支持することを求めた」、「モンサントはフィリピンの種子市場をほしいままに取りこんで、そこから利益を得ようとしている」とモンサントの動きに警戒することを求めています( MASIPAGによるプレスリリース 2015年12月8日参照)。

 この遺伝子組み換えナスの実験中止は大きな朗報であり、新規の遺伝子組み換え承認が止まったことも大きなニュースですが、フィリピン政府に深く入り込んだモンサントの動きは今後とも引き続き警戒が必要なようです。

 一方、日本では12月1日に新たな枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えワタが二品種承認されています。日本の承認数は現在世界で断トツの一位となっています(遺伝子組み換え推進団体ISAAAのデータベースによると日本の承認数が214、2位の米国は189)。

参考

フィリピンにおける遺伝子組み換え問題

2015年12月4日
 2015年11月7日、フィリピン・西ネグロス州タリサイ市において、オルター・トレード社(フィリピン・ネグロス)とオルター・トレード・ジャパン(ATJ、日本)共催によるネグロス・フード・サミットが開催されました。このサミットはASEAN自由貿易協定により多国籍企業が食のシステムをますます自由にできる時代の到来によって、危険にさらされる農業労働者・農民、そして消費者の状況を分析し、それに対して小規模生産者と消費者の連帯運動はどのように対抗していくかについて討議したものです。
 ネグロス島をはじめとするフィリピンのバランゴンバナナ生産者、マスコバド糖生産者、マレーシア、パレスチナの市民組織、日本と韓国の生協関係者、ドイツやフランスのフェアトレード団体が参加して、今後の取り組みについて協議しました。

 2つの基調報告と3つの特別報告によるこのネグロス・フード・サミットの全容をぜひご覧ください。

 今回紹介するのは、フィリピンのNGOで、科学者と農民の連帯組織であるMASIPAGの全国コーディネーター、チト・P・メディナ氏によるフィリピンにおける遺伝子組み換えに関する特別報告です。今回の報告はメディナ氏の報告を元に政策室の印鑰(いんやく)が編集したものです。

チト・P・メディナ氏ネグロス・フード・サミット特別報告: フィリピンにおける遺伝子組み換え問題

チト・P・メディナ博士
(MASIPAG全国コーディネーター)

 フィリピンでは2002年以来、62品種の遺伝子組み換え作物が承認されている(そのうち54品種は食品、飼料、加工食品用[つまり輸入用]として承認されており、商業栽培用には8品種が承認されている)。

ゴールデンライスを引き抜く農民たち

ゴールデンライスを引き抜く農民たち

 フィリピンでは遺伝子組み換えトウモロコシは商業栽培されて今年で13年目となる。

 トウモロコシ以外にもBtナスの商業栽培を目指して、圃場での実験栽培が行われていたが、訴訟を通じてその試験は停止処分となった。この他に、遺伝子組み換えコメであるゴールデン・ライスの実験が開放圃場で行われているが、2013年8月8日、ビコール小農民運動(KMB)に率いられるビコールの農民たちとSIKWAL-GMOの同盟が違法栽培されているゴールデン・ライスを引き抜きを行った(写真)。2013年2月5日、農民との対話で地元の農業省事務所は農民に対して、圃場実験はもう行わず、2013年1月に終了した圃場実験の結果を知らせることを約束していたにも関わらず、それを無視して栽培していたからである。

 栽培される遺伝子組み換えトウモロコシでは最初はBtコーン(害虫抵抗性)が多かったが、その後、ラウンドアップ耐性(RRコーン。農薬耐性)が増え、現在は害虫抵抗性と農薬耐性の複数の性質を持つ多重スタック(複数の除草剤や殺虫成分を含む)遺伝子組み換えが主流になっている。

GMコーンが植えられた面積の割合

GMコーンの植えられた総面積

遺伝子組み換えはフィリピン農民に何をもたらしたか?

 もしGMO種子を買ったらその種子があなたを買うことになる! つまり、農民は債務奴隷に転落してしまうのだ。経済的に大きな打撃を受ける。

 その上に、遺伝子組み換え耕作による健康障害が生み出される。そして、作り出される食は有害であり、さらに遺伝的な汚染が広がっていく。

 まず、経済的な影響を見てみよう。

GMOとNonGMの種子の値段の違い
GMとNonGMの種子の値段 2012年

 遺伝子組み換えトウモロコシの種子の値段は非遺伝子組み換えトウモロコシに比べ倍近い価格になる。1ヘクタールあたり、5000ペソも高くつく。その種子耕作のための化学肥料や農薬も含めてかかる費用は収穫物を売ったとしても回収できず、農民は借金を重ねていかざるをえない。GM作物栽培では小農民は高利貸から金を借りなければならず、その利幅は50%に達することもある。

 その結果、農民は自分の土地を失うケースが増えている。遺伝子組み換えではない種子を農民が植えたいと思っても、なかなか手に入らない。

GMコーン栽培のコスト
GMコーン栽培のコスト、総利益、純利益のサマリー、ローンベース(2012)

 また近年増えている気候変動による被害、台風やエルニーニョによる影響に加え、遺伝子組み換えトウモロコシに発生する菌病や害虫によって収穫の多くが被害を受け、収入が得られない事例も発生している。農民にとってはこうした病気の発生はひじょうに深刻な問題を生むことになる。

遺伝子組み換え耕作による健康被害

 遺伝子組み換えトウモロコシ畑の周囲の作物が遺伝子組み換えトウモロコシ(ラウンドアップ耐性コーン)にかける除草剤グリホサートの影響を受けている。さらにその畑の周辺に住む人びとの間でも、皮膚のアレルギー、視力の低下、咳などの体調の悪化が報告されている。

グリホサートに汚染された井戸

グリホサートに汚染された井戸

 モンサントの農薬ラウンドアップは今年WHOの外部研究機関であるIARCが2Aという発がん性物質に指定したが、多くの研究がグリホサートの発ガン性を含む多くの有害性を指摘している。フィリピンの農民はこのラウンドアップが撒かれる地域の井戸から地下水を飲んでいる。この井戸にはラウンドアップが染み込んでいると思われるが、農民には有害物質への知識がなく、この水を飲むことで、健康被害を受けていると考えられる。

開花期のBtコーンへの接触による病気

  • Kalyong, Bgy. Landan, Polomolok, South Cot. (>60 人)
  • Bgy. Tuka, Bagumbayan, Sultan Kudarat (32 人)
  • Bgy. South Sepaka, Sto. Niño, South Cotabato (9 nin )
  • Bgy. Magallon, M’lang, North Cotabato (20人の子ども)
  • Bgy. Kalapagan, Matti, Davao Oriental (1人)

 Btコーンの場合には開花期のBtコーンへの接触により、頭痛、胃痛、風邪、めまい、下痢、嘔吐、呼吸困難、赤目、体力減退、皮膚の黄色化(肝炎に類似)という症状が多数の人から報告されている。Bt毒素に対する抗体が病気になった患者から検出されてもいる。

 Btコーンを栽培しており、Btコーンも食べていた農民でこのBtコーンゆえと推定される病気で死亡したケースもある。

遺伝子組み換えトウモロコシを食べた家畜への影響

 家畜への影響も深刻だ。カラバオ(水牛)が死んだケースもフィリピン各地で報告されている。豚が下痢などの病気を起こしたり、鶏の産卵がおかしくなっている。豚や水牛の子どもが未熟なまま生まれてきたり、早死するケースもある。

 こうした報告を裏付ける研究結果も数多く報告されている。「Bt (Cry) プロテインはネズミの血液に対して有毒である」Mezzomo, B. P., et al. (2013). Hematotoxicity of Bacillus thuringiensis as spore-crystal strains Cry1Aa, Cry1Ab, Cry1Ac, or Cry2Aa in Swiss albino mice. J Hematol. and Thromboembolic Diseases 1(1)

「Bt タンパクは人間の細胞に有害である」 Mesnage R., Clair E., Gress S., Then C., Székács A., Séralini G.-E., 2012. Cytotoxicity on human cells of Cry1Ab and Cry1Ac Bt insecticidal toxins alone or with a glyphosate-based herbicide. Journal of Applied Toxicology

 フィリピン政府は安全性を確認したとして遺伝子組み換え作物を承認していながら、こうした問題への追跡調査は何一つ行っていない。

遺伝子組み換えが与える環境への影響

 遺伝子組み換え農業は環境にも深刻な影響を与える。

 まず花粉による交配の問題が起きる。そして、花粉以外でも種子になった状態で混ざっていく危険がある。フィリピンでは食用に白トウモロコシが作られているが、これに遺伝子組み換えトウモロコシの花粉が交配し、遺伝子汚染が起きていることがグリーンピースの調査によって明らかになっている(White Corn in the Philippines – Contaminated with Genetically Modified Varieties)。

 遺伝子組み換え作物にかけられる除草剤ラウンドアップは毎年大量に撒かれる結果となり、耐性雑草が急速に増えていく。そして、土壌がキレート化され、土壌破壊を起こしていく。

RRコーン耕作の環境影響

ラウンドアップにより土壌に深刻な影響の出た土地(Guinbialan, Maayon, Capiz, 2015年5月)

 そしてBt毒素は土の中に留まる。Bt毒素のCry1AbタンパクはBtコーンの根から滲出し、少なくとも180日間土壌の中に留まる。そして、少なくとも3年間Btトウモロコシのバイオマスに存在し続ける (Saxena and Stotzky, 2002; Stotzky 2002, 2004)Icoz, I. and G. Stotzky. 2008. Fate and Effects of Insect-Resistant Bt crops in soil Ecosystems. Soil Biology and Biochemistry. 40:559-586).

遺伝子組み換え農業に対するオルタナティブは存在する

 遺伝子組み換えは20年近くにわたって遺伝子組み換え企業が広げようとしてきたが、世界の多くの農地はGMOフリーのままである。

遺伝子組み換え世界地図

国連貿易開発会議“Wake up before it is too late” 2013から作成。2007年の推測。クリックで拡大

 キャッサバを例にとってみよう。1ヘクタールのラウンドアップ耐性コーンと同じだけの収入を得るために遺伝子組み換えでないキャッサバを植えるためにはわずか0.2ヘクタールの土地があれば十分だ。化学肥料も農薬も不要である。

 モンサントなど世界の6大遺伝子組み換え企業は種子市場の6割以上を占めている。彼らは種子に特許を取得しており、彼らが販売する種子を農民が保存することを特許侵害として許さず、犯罪者とする。このことによって彼らは食料・農業生産を支配しようとしている。その支配を完成させるために彼らは種子が発芽できないようにするターミネーター技術まで作っている。

 種子を守り、遺伝子組み換え企業にこれ以上、種子の特許、独占を許さないことが重要だ。伝統的種子を守り、農民の権利を守っていく必要がある。


[2015/12/08追記]

フィリピン最高裁は12月8日、フィリピンでの遺伝子組み換えナス(Btナス)の実験栽培の永久停止を命じました。遺伝子組み換えナスはフィリピンで栽培実験がなされており、MASIPAGなど市民組織の訴えに対して、その実験の停止が2013年5月に命じられていました。今回の判決は予防原則の立場から遺伝子組み換えナスの実験を取り返しの付かない生態系と民衆の健康へのダメージを与える可能性があるとして、その実験の永久停止の判断をしたものです。

さらにフィリピン最高裁はすべての新規の遺伝子組み換え作物の栽培・仕様・輸入などへの申請の停止を命じました。一方、日本は12月1日にまた新たな枯れ葉剤耐性ワタ2品種の承認を行い、日本の遺伝子組み換え承認数は世界で最大となっています。

[解説]

MASIPAGはフィリピンでの遺伝子組み換えトウモロコシの栽培がどのように農民に影響を与えたかについて、調査を行い、その結果を『フィリピンにおける遺伝子組み換えトウモロコシの社会経済的影響』というレポートにまとめている他、ビデオ・ドキュメンタリーも制作しています(2013年)。

このドキュメンタリーは遺伝子組み換えがもたらした厳しい現実を生々しい農民の声で語ったものです。ドキュメンタリーや調査報告書はフィリピン:遺伝子組み換えと闘う農民たちでご覧いただけます。ぜひご覧ください。

またMASIPAGは稲の種子バンクや従来の第3者認証による有機認証とは異なるユニークな参加型認証による有機農業を可能にする方法を創りだしており、IFOAM(国際有機農業運動連盟)によってもMASIPAGの参加型認証は有機認証として承認されています。この活動については近日中に紹介する予定です。

【パレスチナ】ファラージさんからのお礼状

2015年12月1日

10月21日、20か月もの間、イスラエル政府により行政拘禁されていたパレスチナのオリーブオイル出荷団体、パレスチナ農業開発センター(UAWC)職員、アブドゥル・ファラージさんが釈放されました。

仕事に復帰し、久方ぶりに家族との時間を過ごしているファラージさんから支援してくださった日本の方々へお礼が届きました。

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親愛なる日本の友人の皆さまへ

私がイスラエルに拘禁されていた期間中、私自身、私の家族、そしてUAWCの同僚たちへの皆さまからのご支援に心から感謝申しあげます。

皆さまからのご支援は、パレスチナ人の拘禁者を心から支えてくださる方々が日本にそして世界中にいるということの証です。獄中で私の妻を通じて皆さまからご支援頂いていると聞いたことが、どれだけ私に楽観的な気持ちと希望を与えてくれたことでしょうか。

私は1か月前に釈放され、UAWCの仕事に復帰しました。釈放後は、20か月間に及んだ行政拘禁期間中にできなかったこと、そして、占領下においては普通の生活などないのが現状ですが、それでも何とか日常の暮らしを取り戻そうとしています。

皆さまからのお便り、そしてパレスチナで皆さまにお会いできることを楽しみにしております。

心からの感謝をこめて。

アブドゥル・ラゼック・ファラージ [/box]

釈放直後、迎えに来た家族と。

左から長男バジルさん、次男ワディさん、パートナーのラミスさん、ファラージさん。

政策室  小林