報告:『バナナと日本人』その後-私たちはいかにバナナと向き合うのか?

2014年3月20日

3月16日(日)午後、立教大学にてセミナー「『バナナと日本人』その後-私たちはいかにバナナと向き合うのか?」が、107名の参加者を得て開催されました。

身近になったバナナという農産物がフィリピンでの民衆の権利侵害と危険な農薬散布を伴って行われていることを衝撃的に暴いた鶴見良行著『バナナと日本人』(岩波新書1982)が発行されてから30余年がたち、その現状はどう変わったのか、今後の私たちのバナナを通じたフィリピン民衆との関係はどうあるべきなのか、オルター・トレード・ジャパン(ATJ)はその課題に取り組むべく、NPO法人APLAとともに調査活動を開始しました。

このセミナーはバナナ調査プロジェクトを多くの人たちとともに作るためのスタートイベントとして、フィリピンバナナの現状と調査課題を提起して頂きました。その報告骨子をお伝えします。詳しい報告は後日、発表予定です。

ミンダナオ予備調査報告-『バナナと日本人』以後のバナナと日本人を考えるために

講演される市橋秀夫氏報告1. 報告者:市橋秀夫氏(埼玉大学教員)
市橋氏の報告は2月に行われたミンダナオ島での予備調査をもとに、バナナプランテーションが拡大する同島において、バランゴンバナナ交易の役割と可能性について問題提起する内容でした。以下、報告骨子です。
最初に統計から見るフィリピンバナナの現状について。日本の輸入バナナの90%以上がフィリピン産、フィリピンのバナナの輸出先のトップが日本という二国間の相互依存的な関係性、バナナ貿易量の大部分を多国籍企業が占めていることは『バナナと日本人』が出版された30年前と似ている。また、ミンダナオでバナナ生産が過去20年間増えており、それに比例して日本のフィリピンバナナ輸入量も増加している。バランゴン輸入量は全体の0.17%を占めるに過ぎない。

予備調査で訪問した3産地、マキララ(北コタバト州)、レイクセブ、ツピ(以上コタバト州)は、政府がバナナ産業を強力に支援しているソクサージェン地方に位置する。バランゴン生産者には先住民族、ムスリム、島外からの入植者がおり、そうした生産者やバナナプランテーションに土地を貸し働く農民、元農園労働者などを取材することができた。

ミンダナオの生産者の社会経済・文化・政治的背景は、バランゴン民衆交易の出発点、ネグロスとは異なるし、今回訪問した3つの産地でもそれぞれに特徴があり、多様である。バランゴンバナナが生産者にとってそれぞれ異なる意味を持っていることが感じられた。持続的有機農業の推進といったネグロス島との共通な意義もあれば、先住民族のアイデンティティの保持、森林と水源涵養地域の保全、先住民族、ムスリムと入植者間の平和構築、プランテーションの進出阻止など、ミンダナオ固有の役割も予備調査では見えてきた。

マキララとレイクセブでは産地付近に高地栽培バナナプランテーションが進出していた。元農園労働者への取材では、ノルマのため翌朝まで残業するパッカー、農薬で深刻な健康被害を受けるプランテーション労働者の事例が確認された。さらに高地栽培バナナの展開によって森林破壊、水源域の汚染は拡大されているし、土地も巧みに支配している。鶴見氏が指摘した問題は継続している。

予備調査から見えてきた調査課題のひとつは、多国籍企業プランテーションの実態の全体像を明らかにすること。もう一つはプランテーションと日常的に対峙している状況を含め、それぞれのバランゴン産地の多様性、地域性に即したバランゴン交易の意義、役割、可能性について深めること。これらを、調査を通じて検証し、明確にしていきたい。

バランゴンバナナの今日的意義—2014年国際家族農業年に問い直す

講演される関根佳恵氏報告2. 報告者:関根佳恵氏(立教大学教員)

関根氏は多様化するブランドバナナの中で見えづらくなっているバランゴン交易の価値を、世界的に再評価されている家族農業の視点から捉え直すという問題提起をしました。以下、報告骨子です。

『バナナと日本人』で鶴見氏が痛烈に批判した過酷な労働条件、農薬多用、安全にも問題があるプランテーションバナナしか市場に流通していない状況下で登場したバランゴンバナナはオルタナティブとして評価された。しかし、栽培方法、品種、社会貢献などで差別化したブランドが続々と登場し、バランゴンとの違いが見えにくくなっている。

『バナナと日本人』が出版された1980年代は、多国籍アグリビジネスに対する批判が高まり、国際的に様々な規制強化が図られた。1990年代、アグリビジネスは企業の社会的責任(CSR)戦略を導入し自主規制を強化、2000年代に入ると環境、労働、品質に関する民間認証制度、有機栽培、フェアトレードなどの認証を取得することでブランド化を進めていった。こうした動きはグリーン・キャピタリズムと呼ばれる。しかし、実態はどうかというとコスタリカのプランテーションの事例が示すように、環境・労働基準取得していても殺菌剤が河川に放出されたり、労働組合すらないことも指摘されている。

農業のあり方を評価する指標として「生存機会」という考え方を提起したい。農民が生きていくために、土地や農業資材などの生産手段、労働力、資金、市場を取得できるかどうか、という視点である。多国籍アグリビジネスは農民に不完全なかたちでしか生存機会を保障せず、不安定と格差を生み出すと言わざるを得ない。

今年は国際家族農業年。2008年の食糧危機をきっかけに世界的に環境負荷が小さい、雇用創出、生産性の点から家族農業・小規模農業の社会的役割を再評価する動きが活発になっている。その背景には多国籍アグリビジネスとの取引によって豊かになった農民は一握りであること、大規模多投型農業が環境汚染、資源枯渇、労働者の収奪を生み出しているという問題がある。世界的にアグリビジネスによる大規模農業から家族農業・小規模農業を支援する方向への大きな転換が起きている。

バランゴンバナナはフィリピンの小規模生産者の自立、環境保護、食品安全を促す。そして多国籍アグリビジネスに対して、生産者に生存機会を保障する民衆交易という対抗軸が設定できるのではないだろうか。多国籍アグリビジネスの操業実態を明らかにして規制強化を求めていくことも大切であろう。

大規模化・企業参入を促す日本の農業政策は世界の潮流に逆行している。日本とフィリピンの小規模生産者が置かれた状況は似ている。これまで築いてきたフィリピンの生産者と日本人消費者の連帯に加えて、日比および世界各地の生産者同士の連帯を提案したい。

『人口・食料・資源・環境 家族農業が世界の未来を拓く—食料保障のための小規模農業への投資』

関根佳恵さんは国連世界食料保障委員会専門家ハイレベル・パネルのメンバーとして、家族農業の意義を検証するプロジェクトに参加され、その結果は世界食料保障委員会(CFS)から調査報告書として出版されている他、その日本語版が農文協から『人口・食料・資源・環境 家族農業が世界の未来を拓く—食料保障のための小規模農業への投資』として出版されています。

ネグロス島の今—多国籍アグリビジネスと小規模生産者

ネグロス島の状況を語るノルマさん以上2つの報告を受けて、フィリピンのバナナ出荷団体であるオルター・トレード社(ATC)に設立当社から関わるノルマ・ムガール氏より次のようなコメントがありました。

多国籍アグリビジネスによるバナナのプランテーションは、これまでミンダナオで大規模に展開されてきた。今、多国籍アグリビジネスはネグロス島でのバナナやパイナップルのプランテーション進出を虎視眈々と狙っている。すでに南部では100ヘクタールの圃場で作付が始まっている。

2015年、フィリピンでは東南アジア自由貿易協定(AFTA)により多くの農産物の関税が撤廃される。サトウキビも関税が低くなり、タイからの輸入砂糖にフィリピン産砂糖は競合できないと見られている。サトウキビに代わる収入源を探すネグロスの農園主の戦略と、近年異常気象によりかつてはなかった台風に襲われるミンダナオ島からのリスク分散を図る多国籍アグリビジネスの意図が合致した結果だ。

ネグロス島は有機農業の島として遺伝子組み換えフリーゾーン宣言していたが、ドールの進出とともに、遺伝子組み換え禁止を撤廃させようとする動きもあり、私たちは懸念している。

ネグロスもこれまでミンダナオで起きてきた労働問題、環境汚染などに今後直面するおそれがある。ミンダナオの状況を農地改革で農地を手にしたネグロスの農民に伝えていくこと、バランゴン交易が生産者の自立をしっかりと支援できる内実を持つことが大事だと報告を聞いて感じた。

2014年3月16日セミナー『バナナと日本人』その後

オルター・トレード・ジャパンは、これからフィリピン・ネグロス島、ミンダナオ島を中心にアグリビジネス・プランテーションバナナの実態、バランゴンバナナの民衆交易が生産者や産地の自立にどう役立っているのか、民衆交易の新たな役割や可能性、意義について実地調査を通じて検証していきます。可能な限り、市民、消費者の方たちの参加を得て、このプロセスを進めていきたいと考えております。

次回のセミナーは6月を予定しております。詳細は決まり次第、発表いたします。ぜひご参加ください。

フィリピンの遺伝子組み換えによる被害をインドネシア農民に伝える

2014年3月10日

 フィリピンで遺伝子組み換えトウモロコシが導入された後、農民がどう影響を受けたか、調査に基づき作られたドキュメンタリー『10年の失敗—GMコーンに騙された農民たち』に日本語版を作成し、先日公開しましたが、インドネシアで活動するATINA(オルター・トレード・インドネシア)やオルター・トレード・ジャパンの姉妹団体APLAに関わるボランティアの方に翻訳いただき、インドネシア語版が登場しました。

 以下にそのインドネシア語版を掲載します。

 もしインドネシアの友人をお持ちでしたら、ぜひご紹介いただければ幸いです。インドネシア語版のリンク(YouTube)。日本語版はこちら

インドネシアへのモンサントの進出

 モンサントは遺伝子組み換え種子を商業栽培を米国で始めてほどない時期にインドネシアでも遺伝子組み換えコットンを承認させるための活動を始めています。遺伝子組み換え種子を環境審査なしに承認させるために1997年から2002年にわたり、インドネシア政府高官140人以上の役人とその家族に賄賂を贈ったことが暴露され、またその間に無理矢理始めたBt綿(虫が食べると死んでしまうBt毒素を作り出すように遺伝子組み換えされた綿)の栽培も干ばつや害虫の被害が出て、農民との争いとなり、2003年12月にモンサントは一時、インドネシアから撤退します。

 しかし、その後、再び、インドネシアに戻り、現在は2つの種子工場を稼働させ、1万トンのハイブリッド種子を生産し、その30%はタイやベトナムに輸出されています。

 さらにモンサントはインドネシアからフィリピンに遺伝子組み換えトウモロコシの種子を輸出する計画を持っていると報じられています。ベトナムが遺伝子組み換えの大規模商業栽培が始まる可能性もあり、そうなってしまえばインドネシアが東南アジアの遺伝子組み換え種子工場の拠点になってしまうことが懸念されます。

今年、本格的な遺伝子組み換え商業栽培が始まる可能性

 モンサントばかりでなく、インドネシア企業によって、干ばつに耐性のあるとする遺伝子組み換えサトウキビが開発され、インドネシア政府は世界に先駆けてその栽培をすでに承認しており、インドネシアで本格的な遺伝子組み換え栽培が今年2014年に着手される可能性があります。

 また遺伝子組み換えトウモロコシの栽培も今年2014年から始まるという情報があります。遺伝子組み換えの本格的な栽培により、フィリピンの農民に起きたことがインドネシアの農民に起きる可能性が高まっています。

 こうした現状を考える時、インドネシアでフィリピンの経験を伝えていくことは大きな意味があると考えます。姉妹団体のNGO、APLAと連携しながら、こうしたアジアの農民の経験を共有していきます。

フィリピン:遺伝子組み換えと闘う農民たちもぜひご覧ください。

資料:

  1. 『遺伝子組み換え食品の真実』 アンディ・リーズ著/白井和宏氏訳(白水社)の181〜184ページ。
    モンサントがインドネシアに入り込み、わいろで環境調査をパスして、Btコットンの栽培を始め、大失敗して撤退した経緯が書かれています。
  2. Monsanto Business Practice in Indonesia http://www.monsanto.com/newsviews/pages/business-practices-in-indonesia.aspx
    モンサント社自身によるインドネシア賄賂事件の自己批判文書。日本モンサント株式会社のサイトでは見つけることができません。
  3. How Monsanto brought GM to Indonesia http://www.gmwatch.org/index.php/news/archive/2005/9630-how-monsanto-brought-gm-to-indonesia-1012005
    GMWatch(遺伝子組み換え問題に関わる代表的NGO)によるインドネシアへ2001年Btコットンが持ち込まれた時の状況を説明した記事(2005年)
  4. 2013/05/18 Monsanto eyes RI’s corn rise on new seeds http://www.thejakartapost.com/news/2013/05/18/monsanto-eyes-ri-s-corn-rise-new-seeds.html
    Jakarta Postの記事(2013/05/18)。遺伝子組み換え種子をフィリピンに、と。
  5. 2013/09/27 Cultivation of GM crops, plants urgent: Farmers http://www.thejakartapost.com/news/2013/09/27/cultivation-gm-crops-plants-urgent-farmers.html
    Jakarta Postの記事(2013/09/27)2014年に遺伝子組み換えサトウキビ、遺伝子組み換えトウモロコシの栽培が始まる可能性を伝える。

フィリピン・ボホール地震、ヨランダ台風被災者へのご支援ありがとうございました。

2014年3月6日

2013年10月にフィリピン・ボホール島沖で発生した地震、続く11月にフィリピン中部を襲った台風ヨランダへの被災者支援へのご協力、誠にありがとうございました。
たくさんのご支援を頂戴し、心より御礼申し上げます。
2月末時点での、支援金額の報告をさせていただきます。

 

今回のヨランダ台風支援は、二つの支援の呼びかけを実施しました。
ひとつは、オルター・トレード社(ATC)を通じたバランゴンバナナ生産者とその地域への緊急支援と復興支援へのご協力でした。もうひとつは、APLAのネグロスでの活動を通じて知り合ったカトリック修道会(レコレトス会)が始めた緊急支援プロジェクト HEARTanonymous を通じての支援でした。
現在は、それぞれ緊急救援がある程度終了し、各地では復興支援へと活動が移っております。詳しい状況は、別途まとめて皆さまにご報告いたします。

 

※レコレトス会経由の支援に関して
レコレトス会の責任者であるタゴイ修道士により、今回の支援に関する方針が届きました。現地の状況やニーズを最優先に判断することを尊重し、APLAとしては、以下の要望を受け入れることにしました。
○ レコレトス会の緊急支援プロジェクトHEARTanonymousのみに限らず、今後長期化が予想される復興支援をより継続して、草の根の支援活動ができるように、ネグロス島内の教会グループ、NGO、ボランティアグループで結成したコンソーシアム「ASIN(Alternative Solidarity Initiative Network)」による支援活動としたい。(ASINの代表は引き続きタゴイ修道士が担ってくれる)。
○ 当初募金を呼びかけた際には、活動地域としてレイテ島が含まれていたが、国内外のメディアがレイテ島の報道に集中したため、たくさんの支援が入っている。一方、そのほかの島や地域でも甚大な被害を受けたにもかかわらず、支援が届いていないところが多くあるため、ASINではネグロス島北部、セブ島北部、パナイ島を活動地域としたい。

○ ASINによる写真の活動報告は、facebookページで確認できます。
https://www.facebook.com/asin.solidarity

 

支援金のご報告 (2月末時点)
支援金合計:35,046,864円(個人:2,951,710円、団体:32,095,154円)
<送金内訳>
・ATC(ボホール地震・バランゴンバナナ生産者への支援):13,000,000円
・レコレトス会(ASIN):12,324,010円
※2013年1月29日、2月18日と2回に分けて送金
・送金額計:25,324,010円

※残金は、3月~4月に送金を予定しています。