投稿者: tomo
Moms Across America ゼン・ハニーカットさんからのメッセージ
オルター・トレード・ジャパンでは遺伝子組み換えと健康被害の問題に焦点をあてたドキュメンタリー映画『遺伝子組み換えルーレット』の日本語版の企画を作り、多くの方のご支援を得て、昨年2015年10月末、完成にこぎつけることができました(制作販売PARC)。
この映画でも注目されたのが米国の子どもたちに急増するアレルギーや自閉症のケースです。映画の中では遺伝子組み換えを含む食品を一切食事から外し、有機食品に変えることによって、その症状が激減するケースが多いことが報告されています。
そうした情報は子どもを持つ多くの親に共有され、多くの改善例がさらに多くの親たちに広がる結果となり、急速に広がりつつあります。そうした活動を担っている団体の1つがMoms Across America(アメリカ中の母親たち)という市民団体です。
この団体を創設したゼン・ハニーカットさん(Zen Honeycut)にお話を伺いました。
ゼンさんのお話をぜひお聞きください。
ゼンさんのお話にあるように米国ではさまざまな慢性疾患が遺伝子組み換えの導入以降急増しています。しかし、その関連の証明は困難です。しかし、遺伝子組み換えを含む食品を食べないことで症状が改善するという事実は大いに注目すべき事実でしょう。そして、単に遺伝子組み換えでない、というだけでは十分でないとゼンさんは言います。
なぜなら、モンサントの農薬グリホサートは現在、小麦など遺伝子組み換えでない作物の収穫直前に収穫を効率的に行うために使われるようになっています。プレハーベスト散布とよばれます。右のグラフは小麦のプレハーベスト散布に使われるグリホサートの量とアレルギーに関係するセリアック病の発生数の推移を合わせたグラフです。このグラフではもちろん、因果関係はわかりませんが、グリホサートの危険の可能性は十分あると考えられます。ゼンさんはNon-GMOに留まらず、グリホサートなどの農薬が一切使われていない有機食品の摂取に切り替えます。その結果、息子さんの症状は改善に向かったそうです。
その経験を少しでも広く伝えたいと感じて、Moms Across Americaを創設し、お母さんたちからお母さんたちへと伝える活動を開始したということです。現在、米国ではNon-GMO市場、有機食品の市場が急激に大きくなっています(右グラフ参照)が、その背景には人びとの間にこうした食に対する懸念が深まっている状況があります。
昨年、米国では遺伝子組み換え作物の栽培が始まって初めて、遺伝子組み換えトウモロコシの耕作面積がわずかですが減りました。遺伝子組み換えの栽培国は20年かけて、世界で28カ国に過ぎず、一方、栽培を禁止する国は38カ国に及んでいます。世界の農地で遺伝子組み換え作物が占める割合はわずか12%に過ぎず、耕作国の中でも撤退を決めた国、規模を縮小した国も出てきており、広がってはいません。
しかし、一方で米国での遺伝子組み換えの耕作は大きくは減っていません。米国内でNon-GMOが求められ、遺伝子組み換えへのニーズは減っていることを考えると、それはどこに行っているのでしょうか?
残念ながら、その多くが日本を含むアジアに向かっていると考えざるをえません。日本では家畜の飼料の圧倒的な部分は遺伝子組み換えであり、食料油や加工食品の原料としても大量に使われています。日本の遺伝子組み換え表示制度はとても緩く、肉の飼料は表示の対象とならず、食料油、加工食品の多くのケースで、表示が必要ありません。知らない間に多くの遺伝子組み換えを食べているのが日本の現実です。そしてアジアの国々でも情報が十分共有されていない状況になっていると思われます。
そして、今、多くの食品企業が遺伝子組み換え原料を使い始めており、ますます多くの遺伝子組み換え食品が消費されている状況になっています。
今、日本でも、米国の消費者の声、特にお母さんたちの声に耳を傾け、その経験から学ぶべき時が来ているのではないでしょうか?
セミナー「農薬、プランテーションと私たち」報告
現在、アジア各地で日本向けの農産物に危険な農薬が使われ、その農薬を使って作られた農産物は日本にも輸入されています。使われている農薬には日本企業が作ったものも少なくありません。
バナナ・プランテーションはその1つで、日本市場向けにプランテーションがフィリピン・ミンダナオでは作られて、そこでさまざまな危険を持つ農薬が使われています。
オルター・トレード・ジャパンでは農薬を使わずに栽培されたバナナを育てるフィリピンの生産者から日本の生協などの消費者に届ける民衆交易を30年近くにわたっておこなってきています。しかし一方で、日本で消費される大部分のバナナを生産しているミンダナオ島では、大規模なバナナ・プランテーションが操業を続けており、多国籍アグリビジネスを通じて、日本のスーパーに出荷されています。
こうしたプランテーションでは農業労働者や住民への健康被害、環境被害、劣悪な労働条件などの問題がたびたび指摘されていますが、抜本的な改善はみられません。多くの人たちが知らない間に、これらのプランテーションはさらに拡大を続けており、自立を求める農民の生存の脅威ともなっています。
この問題を考えるために、アジアでの農薬規制に長く関わってこられた田坂興亜氏を講師に招き、2016年8月1日に学習会を開催しました。
田坂氏は国際農薬監視行動ネットワーク(PAN)の日本代表として、日本やアジアでの農薬規制に長く活躍されています。
農薬の歴史から、農薬がいかに人類の生存の脅威となっているか、この農薬に頼る農業に代わるオルタナティブについて語っていただきました。
日本向けのバナナ・プランテーションでいかに危険な農薬が使われているか、世界的に懸念の高まっている内分泌撹乱物質は日本ではほとんど報道されなくなっており、政府も対応しようとしておらず、さらに新しい農薬、ネオニコチノイドに関して、世界で規制が進んでいるにも関わらず、日本では規制が逆に緩められるなど、日本での対応のおかしさが浮き彫りとなりました。
その学習会のまとめを16ページの冊子としました。無料でダウンロードいただけます。少しでも日本やアジアでの農薬の被害が減らせるよう、どうぞご活用くださいますようお願いいたします。
セミナー「農薬、プランテーションと私たち」まとめ
ダウンロード(PDF 16ページ、2.6MB)
田坂さんは10月1日に開かれるフィリピン・ミンダナオと私たちの今を考える 『バナナと日本人』で描かれた問題は現在、どうなっているか? ミンダナオ訪問団報告会でも現地からの報告をされる予定です。こちらもぜひご注目ください!
フィリピン・ミンダナオと私たちの今を考える 『バナナと日本人』で描かれた問題は現在、どうなっているか? ミンダナオ訪問団報告
スーパーにならぶバナナのほとんどはフィリピン・ミンダナオのプランテーションで作られています。鶴見良行さんが『バナナと日本人』(岩波新書)でプランテーションでの農薬散布や過酷な労働条件を告発されてから30年あまりがたちましたが、今のプランテーションはどうなっているのでしょうか? 9月初頭に現地を訪れた訪問団がその生々しい実態を報告します。
韓国生協ハンサリムが『遺伝子組み換えルーレット』の韓国語版作成
オルター・トレード・ジャパンはドキュメンタリー映画『遺伝子組み換えルーレット』(原題Genetic Roulette ジェフリー・スミス監督)の日本語版作成を企画し、クラウドファンディングによって多くの市民、市民組織、生協などのご協力を得て、2015年10月末に実現することができました(製作・販売アジア太平洋資料センター[PARC])。
完成直後の11月、フィリピンのネグロス島で開かれたネグロス・フード・サミットでこの映画は上映され、サミット参加者に大きな反響を呼びました。韓国の生協、ハンサリムの代表もこのサミットに参加しており、ハンサリムによって韓国語版が企画され、それがこのたび、完成し、韓国でも今後、全国的に上映会が開かれることになりました。
この映画は遺伝子組み換えが健康に与える被害に特に焦点をあて、科学者、医師、子どもの健康被害に悩む親、飼料に悩む畜産農家など多くの人のインタビューで構成されます。見た人に感銘を与えるのは、Non-GMOに食事を切り替えた時に得られる効果とそのことを発見した人びとの笑顔です。
日本でも昨年の完成以来、北海道から沖縄まで全国的に上映会が開かれ、大きな反響が上がっています。
韓国においても、日本と同様に遺伝子組み換え大豆やトウモロコシが大量に輸入され、飼料や加工食品に使われており、健康被害に関する懸念が高まっています。さらに韓国政府は韓国農業の生き残り策として、医療用や化粧品用の原料としての遺伝子組み換えイネの開発を推進しており、韓国で遺伝子組み換え作物栽培が始まる危険も出てきました。
日本でも同様にアレルギー対策などに向けた遺伝子組み換えイネはすでに24品種、圃場実験が承認されており、韓国政府が承認した場合、日韓でGMライスの開発競争になってしまうことが懸念されます。
ハンサリム、プレスリリース(韓国語)
http://www.hansalim.or.kr/?p=42041
ハンサリム、「農業振興庁GM作物の開発に反対全国行動の日」(韓国語)
http://www.hansalim.or.kr/?p=41823
セミナー「農薬、プランテーションと私たち」
学習会イベントへ
ジェフリー・M・スミスさん講演報告
遺伝子組み換えと健康被害の関連について教育活動を国際的に精力的に行っているジェフリー・M・スミスさんを日本に招き、2月に福岡、京都、東京でのセミナーを開催しました。
ジェフリーさんからはこの講演資料を使って、ぜひ遺伝子組み換えを食のシステムから排除する動きを日本でも作り出してほしいという提案をいただき、その資料を公開しました(現在ダウンロードできるスライドの注釈は英語のままで、翻訳中です。3月中旬までに翻訳したものに差し替える予定です)。セミナーの報告については3月10日頃までに掲載を予定します。
PowerPoint形式のファイルをダウンロードすることもできます。
Slide Shareのサイトで見る、あるいはPowerPointファイルをダウンロード
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ジェフリー・M・スミスさん来日講演(福岡、京都、東京)
すでにお知らせしていますように、『遺伝子組み換えルーレット—私たちの生命(いのち)のギャンブル』の監督であり、長く、遺伝子組み換えによる健康被害の可能性について警鐘を鳴らしてきたジェフリー・M・スミスさんが来日し、講演会を福岡・京都・東京の3箇所で開催します。
ジェフリー・M・スミスさんについて、少し詳しくご紹介いたします。
ジェフリーさんは長く、遺伝子組み換え食品が持つ危険について調査、教育活動をされています。
その内容は2つの本と1つのドキュメンタリー映画にまとめられています。
『偽りの種子—遺伝子組み換え食品をめぐるアメリカの嘘と謀略』(家の光協会2004、原題”Seeds of Deception: Exposing Industry and Government Lies about the Safety of the Genetically Engineered Foods You’re Eating” 2003)
”Genetic Roulette: The Gamble of Our Lives” 2007 映画と同名の書籍。日本語訳はなし。
2003年にはInstitute for Responsible Technology (IRT)というNGOを設立し、食をめぐる消費者の教育活動を米国だけでなく、40カ国で積極的に行っています。
米国では近年、遺伝子組み換え食品への警戒心が高まりつつありますが、ジェフリー氏は医師、医学者などの専門家の協力を得ながら、科学的な研究に基づいて、遺伝子組み換え食品が引き起こす可能性のある健康被害、そしてそれをいかに避けるか、あるいは生じてしまった健康被害をどのように回復するかなどの問題について掘り下げて、その内容は米国での遺伝子組み換え問題への取り組みに大きな影響を与えています。
ドキュメンタリー『遺伝子組み換えルーレット』をご覧いただければ、遺伝子組み換えを避けることが持つ意味を多数の医師が語っていることに驚かれると思います。米国では実際に遺伝子組み換えとの関連と考えられる症例がいくつも出ており、それへの対処として遺伝子組み換えが避ける必要性が映画の中で語られています。米国から大量の遺伝子組み換え作物を輸入している日本ではこうした問題はまったく対岸の火事ではありません。
このドキュメンタリーの完成後もジェフリー氏はさらにこの問題を深めており、今回の日本訪問ではそうした最新の知見も踏まえて、遺伝子組み換え食品がどのような問題を引き起こしうるか、どうしていくべきか、語っていただく予定です。
下記の日程で3カ所で講演を行います。ぜひ、この機会にご参加いただけますようお願い申し上げます。
主催団体は3カ所すべて別々ですので、それぞれの講演についてのお問い合わせはそれぞれの主催団体にお願いいたします。
福岡
2月22日 10:30〜14:40
福岡国際会議場メインホール
主催:グリーンコープ共同体・グリーンコープ生協ふくおか
組合員向けのセミナーですが、一般の方もご参加いただけます。
詳細
京都
2月25日 18:30〜20:30
キャンパスプラザ京都
主催:ジェフリー・M・スミスさん招聘・京都実行委員会
詳細
(映画の上映は25日にはなく、13日に行います。ご注意ください。上映会情報)
東京
2月27日 13:30〜16:50
東京ウィメンズプラザ ホール
主催:ジェフリー・M・スミスさん招聘・東京実行委員会
詳細
なお、今回のジェフリーさんの招聘を実現するためにかかる費用をまかなうため、広く賛同を求めております。ご協力をぜひご検討ください。
招聘賛同のよびかけ
健康、環境そして食料保障—農薬その他の汚染物質
ネグロス島をはじめとするフィリピンのバランゴンバナナ生産者、マスコバド糖生産者、マレーシア、パレスチナの市民組織、日本と韓国の生協関係者、ドイツやフランスのフェアトレード団体が参加して、今後の取り組みについて協議しました。 2つの基調報告と3つの特別報告によるこのネグロス・フード・サミットの全容をぜひご覧ください。
今回紹介するのは、農薬問題の第一人者のロメオ・キハノ博士の講演です。農薬がいかに人びとの健康や生態系に大きな影響を与えているか、大きな枠組みで問題を提起しています(以下の記事は講演を元にオルター・トレード・ジャパン政策室が編集したものです)。
キハノ博士はフィリピン大学薬理学、毒物学、薬学部元教授、農薬アクション・ネットワーク(PAN)アジア太平洋の理事会メンバー、人権のための健康アクション(Health Action for Human Rights)代表、職業安全健康開発研究所の理事メンバー、国際POPs廃絶ネットワークの共同代表でもあり、長くアジアの農薬問題の先頭に立って活動されている研究者です。
健康、環境そして食料保障—農薬その他の汚染物質
ネグロス・フード・サミット特別報告 ロメオ・キハノ
健康を全体性の中で捉えること
医師を含む多くの人たちが考える健康とは十分包括的に捉えられたものではないと考えています。人びとの健康は環境中に放出される化学物質などによる撹乱から自由ではありません。食の安全や食料保障は工業型農業によって大きく妨げられています。アグロエコロジーを進めようとするみなさんにはご理解いただけると思いますが、私は健康を環境や食料保障とつながった全体性のあるものとして捉える必要性を強調したいと思います。残念ながらこうしたとらえ方は世界の研究者によってなされているわけではありません。
人間とは生きている地球の一部であり、環境の一部をなしており、切り離すことはできません。ですから環境を破壊するということは人間を破壊することになります。健康な状態というのは現在の医学が定義するようなただ単に病気でないということに留まらず、個々人と環境の間の調和された状態であると定義すべきです。そして病気とはその関係の乱れとなります。
その関係を示すのに私は下の図を使って説明します。人間と環境がいかに切り離せないかを5つの要素から表したものです。
これらの要素は互いに関係しあいます。ですからどれか1つを切り離すことはできません。1つの要素が阻害されたら他の要素も影響を受けます。遺伝子組み換え作物の導入は人間と環境の関係において生物学的な破壊を与えます。鉱物資源の採掘では大きな物理的な環境破壊につながります。プランテーションや鉱山開発のために、土地から人びとを追い出すことは人びとの社会面や精神的な面でも健康に悪影響を及ぼします。これらすべてが相互に影響します。個別に考えるのではなく、相互につながっていることを指摘したいのです。
世界を覆う農薬
さまざまな化学物質が環境に導入され環境を破壊しています。有害な化学物質を右にあげてみました。中でも農薬が私の懸念事項の中心となっています。私は食の中の毒について語ることを続けています。多くの人たちがこの問題に気がついていないことについて警告を発せざるをえません。まず、農薬が世界でひじょうに幅広く使われているかということです。農薬に汚染されていない地域は世界にはありません。どんなに離れた村に行っても、農薬は検出されるのです。
もしここフィリピンで農薬を使えば、たとえばカナダ北部の先住民族の村を汚染します。ですからフィリピンで農薬を使うということはカナダの先住民族の人びとを汚染することになってしまうのです。カナダの氷に囲まれ、農薬など使っていない地域で高いレベルのDDTが検出されるのです。大気の移動によってカナダのようなところにも汚染物質はビザもいりませんから国境を越えて広がります。この農薬がこのような広い地域に広がっているということは驚くべきことです。
そして、これがどのように影響を及ぼすかですが、それは現状ではとても影響を過小評価しています。なぜなら急性の症状しかみないからです。農薬は急性の症状をもたらすだけではありません。
毎年、世界で2500万人の農業労働者が1種類あるいはそれ以上の急性障害に悩まされています。しかし、それ以外に慢性の病気があります。ガンや糖尿病、腎臓の病気、内分泌系の異常、免疫系の異常などもあります。けれども、でもこの急性の症状があるというだけでも2500万人いるのです。
コスタリカの研究者の研究によりますと発展途上国においては95%以上の農薬による被害がほとんど報告もされていません。2500万人に含まれないもっと多くの人たちが、被害を受けています可能性が高いのです。この問題がいかに深刻かがわかります。食料には有機栽培を除き、ほとんど農薬の残留物があります。農薬は生物種を根絶させ、生物の熟成を失わせます。
このような病気、下に急性の症状のリストを掲げましたが、これらの症状を持ちながら、それが農薬のせいだということを知らない人が多い。なぜならこれらはどれも特別な症状ではないからです。他のものでも発生することがあるようなそれ自身はひじょうに普通の症状です。
農地から帰ってきた農民がたとえば眩暈をしたり頭痛を感じたりしたら、「これはたぶん、太陽の熱が強かったからだろう」と思ってしまうかもしれません。これが農薬のせいで起きたということを知らないからです。そして借金をいっぱいしているから頭痛がするのだろうというふうに思ってしまうかもしれません。実際、ひじょうに多くの借金をしている農民が多いのです。
このような病気は1つの原因によるものではなく、さまざまな要素が加わって発生する可能性があります。1種類の農薬だけでなく、さまざまな農薬、化学物質が加わって複合的にこのような症状が生み出されていることもありえます。
しかし、いかに慎重に科学的研究を行ったとしても因果関係を特定することは困難です。そして、現在の法的制度においては汚染した加害者の方ではなく汚染を受けて被害を者の方がその被害を証明しなければならなくなります。
科学的研究をいくらやっても、現在の状況では、農薬の有害性を立証する研究の方が間違っていると判断されてしまいます。ですからこの農薬が原因であることを確定することが難しい。そうして最終的に実際に病気を持っている人が責められてしまう、不幸なことですが。
慢性的な症状を下に上げました。私が医学生だったころ、40年も以上も前になりますが、ガンは死因のトップ10にも入っていませんでした。米国では今や2位か1位、フィリピンでは3位になっています。なぜ、印鑰さんの報告でガンなどの病気と農薬の増加のグラフが示されました。その因果関係が立証されているわけではありませんが、農薬のこのような大きな広がりと、急激な慢性疾患の増加という現象が起きていることは私たちにとっては大事な警告になっていると思います。
国家の義務としての食料保障、食への権利
それと関連して、食料保障という概念について考えてみます。もし食料の中に有毒物質が入っていればこれは食料保障とは言えません。しかし、食料の安全については残念のことに国連機関もあまり口にしてきませんでした。どれだけの生産がされたかに注目して、食料生産にいかに有害物質が使われているかについてはあまり論じようとしません。
しかし、最近、FAOはこの安全な食料について食料保障の中に入れることにしました。同時にアグリビジネスによる工業型農業を促進しているということで矛盾もあるわけですが。「食料保障とは人びとの活発で健康な生活のための食事のニーズと嗜好にマッチした十分安全で栄養のある食料にすべての人びとがいつでも物理的に、経済的にアクセスできる時に存在しているということができる」と1996年の世界食料サミットで定義されました。
それ以上に食への権利(Rights to Food)について考えた方が有益かもしれません。この概念は国連人権委員会の中で食への権利特別報告で使われたものです。この食料を得る権利の要素として私が重要と思うことを挙げました。食料主権、食料の自給、食料があること(availability)、食料の適切性(adequacy)、生物多様性、アクセス可能なこと(accessibility)、安全、持続性。このどの要素が欠けても基本的人権である食への権利の侵害となります。たとえば生物多様性は重要ですが、ほとんどの国連文書の中では欠如しています。アグロエコロジーの中でも生物多様性は重要な概念ですが。
食べものはある(available)けれども、アクセスができないということが発展途上国の貧しい人たちには問題です。食料は十分にあるのに、お金がない、あるいは交通手段がないということで食べることができないことがあります。世界で人口を養う食料は作られているのに、それにアクセスできない人たちがたくさんいる、という問題です。安全性はもちろん、持続可能性もまた重要な概念です。
すべての国家は食への権利を促進し、尊重し、守り、実行する権利があると国連は定めています。ですから私たちの政府にそれを要求することができます。
多国籍企業に対しても義務が定められています。食への権利についての多国籍企業の責務にはこう規定されています。「多国籍企業の活動やその影響を与えるさまざまな場面において、多国籍企業やその他の事業体は国内法だけでなく国際法において認められている人権を促進し、その実現を保証し、尊重し、尊重するように保証し、守らなければならない」「そして、こうした権利を妨害したり、妨げたりするあらゆる行動を避けなければならない」(多国籍企業とその他の事業体の人権に関する義務に関する基準[人権の促進と擁護のための小委員会とその多国籍企業に関する作業部会])。ここに何を守らなければならないかが書かれており、私たちは多国籍企業にこうした権利を守るように要求できるのです。しかし、こうした権利は多国籍企業によって実際には守られていません。各国政府はこの国連文書の存在すら知らないことが多いのです。
重要な概念、食料主権
この食料主権はさらに重要です。食料主権とは「生態学的に健全で持続可能な方法で作られた健康で文化的に適切な食料への人びとの権利であり、人びと自身が食料や農業のシステムを定義できる権利である。食料主権は市場や企業の要求以上に食料を生産する人、流通させる人、消費する人を食のシステムと政策の中心に置く」と定義されます。先住民族の食料主権を考える時は、土地に対する権利が守られなければなりません。食料保障の概念の中では述べられていません。特に先住民族の人びとにとっては食に対する権利というのは土地の権利に対する権利が尊重されない限り守られないのです。土地の権利が守られなければ、先住民族の文化も守られません。
ですから土地を失うことになれば食料に対する権利も守れなくなります。幅広い概念として食料主権を考えなければなりません。これは食料が安全であるだけではダメです。工業的な食の生産では彼らの安全は守られません。
プランテーションが破壊するもの
プランテーションの問題に移りたいと思います。バナナプランテーションはひじょうに広がり、毒物が広がっています。1998年、2000年にかけて私は農薬に対して反対する運動をしてきたために、バナナ企業に訴えられました。これはコタバトにあるプランテーションです(右)。ソリビオさんといっしょに行った時に撮った写真です。
これは農薬によって環境が破壊されているというだけの問題ではありません。物理的な破壊、人びとがこれによって土地から追い出されるということで、物理的な破壊があるわけです。人びとは自分たちの手で食べものを育てることができなくなっています。人びとは自分たちの土地から追い出されているわけです。
このように物理的にコミュニティを破壊するということが起きています。自分たちのルーツのあるところから追い出されるということによって、彼らは精神的にも破壊されます。彼らの霊的な、精神的な十全性、彼らの文化も破壊されます。そしてその影響は人間としての健康、尊厳にも関わってきます。
先ほどお見せしたダイアグラムをここで考えて欲しいのです。物質的な汚染に留まるものではありません。
彼女(右写真)は私の1997年に初めて農薬の汚染によって出会った甲状腺ガン患者の人です。写真を撮ってもいいかと聞いたら、自分のケースを農薬の汚染の被害例として撮ってくれと言いました。他の人たちが救われるなら私たちはここで死んでいくけれども、と言いました。
彼女は特に空中散布がされている地域について訴えていました。しかし、彼女のために私は十分することができませんでした。彼女は甲状腺ガンを患っていたのですが、病院に行くお金もありませんでした。出会って6ヶ月後、彼女はこのガンのために亡くなりました。私が行った時にはすでに遅かったかもしれません。しかし、病院に行っていればあと何年かは生きられたかもしれません。甲状腺ガンは治療を早く受けられれば治すことも可能ですから。ですので私はとても心苦しく思っています。
しかし、空中散布の問題についてのキャンペーンは国内だけでなく、国際的にも注目を集めました。大きなマスコミの注目を集めました。私たちは今もなお空中散布をなくすために闘い続けています。
右の男性はバナナプランテーションで農薬に曝され続けましたが、彼も亡くなりました。農薬への暴露の影響は疑うことができません。彼はとても若い時にプランテーションで働き始めたのですが、当時はとても健康でした。4年間、5年間ここで働いて、30歳にもなっていなかったのですけれども、深刻な腎臓の疾患で亡くなりました。この他にも腎臓の疾患でなくなった農業労働者は数多くいます。
パームオイル・プランテーションによる破壊
右の写真はパームオイル・プランテーションです。ひじょうに問題の大きいプランテーションです。農薬のせいだけではなく、先住民族を土地から追い出すという意味でも大きな問題を抱えています。パラコートというひじょうに有毒な除草剤を使っています。シンジェンタの農薬です。EUでは2007年に禁止されていますが、フィリピンなどの発展途上国では使われています。何百万人もの人たちの健康に影響を与えているでしょう。
インドネシアなどでは、このパームオイル・プランテーションを拡張するために、曇って先が見えなくなるくらいの煙害が起こっています。このように森が燃えてしまうという深刻なことが起きています。
下の写真はミンダナオ・アグサン地域のパームオイルプランテーションで出会った患者です。パラコートに特徴的なのは皮膚の病気です。そして視力を失うケースも多くあります。
下の写真はプランテーションの内部ですけれども、人びとはここを流れる水から、飲料水や料理のための水を得ます。しかし、ひじょうに農薬で汚染された水源なわけです。これはここに住んでいる人たち全員にどれだけの大きな影響を及ぼすか? 特に子どもたちが一番大きな悪影響を受けます。というのは体がまだ成長期にあり、影響は起きやすいわけです。農薬に対する耐性も低いわけです。また、体の表面積が小さいですので、動き回り、地面に寝転んだりして、体重に対して、農薬の曝露量というのは多くなります。呼吸数も多いです。そのために一番大きな影響を受けます。
目や皮膚に対する問題、胃腸や呼吸器系の疾患、新生児の奇形、精神障害、発達障害、貧血などの血液疾患に苦しむ子どもたちが多いです。私はインドでも多くの患者を診ましたが農薬エンドスルファンの散布されていた地域です。2012年にエンドスルファンの使用は国際的に禁止されますが、経過措置があり、まだまだインドでは使われています。
生態系に与える影響
農薬の与える影響は人体に対する悪影響に留まりません。農薬によって生物多様性が失われます。この写真は、空中散布が行われているところの1つですが、バナナプランテーションです。ここではココナツの木が破壊されています。
ココナツの木、農薬によって昆虫が殺される。それによって生物の生態系が狂ってしまうわけです。トンボ類がいなくなり、土壌の中にいる微生物も殺されてしまうことで、他の農薬がターゲットとしていない生物も死んでしまいます。オイルパーム以外の生物を土壌から殺してしまいます。このような除草剤のためにどれだけの種類の薬草が絶滅してしまったでしょう。以前は多くの薬草が見つけられたのですが、今ではほとんど見つけることができなくなっています。
魚もフィリピンの河川にはたくさんの魚がいるわけですが、それも消滅しつつあります。淡水魚がたくさんいました。ユゲンという魚ですが、昔はいっぱいいましたが、今はほとんど見ることができません。農薬がひどく使われるからです。貧しい人たちのために重要な食料源でした。私が小さな時にはよく魚を捕って家で食べたものです。しかし今では見つけることができません。売っているものもひじょうに高価になってしまいました。
WTO、TPP、自由貿易
そして大きな外国の農薬の企業、彼らの活動によって、食物の中の農薬の残留許容量がどんどんあげられていってしまっています。DDTは今や1000倍から5000倍まで上げられてしまいました。つまり、食べものをどんどん汚染していいということになっているわけです。特に発展途上国においてはそうです。日本ではこの残留農薬について規制が強いと思うのですけど、韓国においても。しかし発展途上国においてはそうではありません。グリホサートの残留許容量も同じです。
このような有害な農薬が世界中に広がっている。これは国際的なWTOなどの条約によって、そして今やTPPによって、どんどん広がっていくわけです。自由貿易協定によって。このような農薬を禁止することができないわけです。もしそんなことをしたら、訴えられてしまいます。
政府はこのような大企業の農薬を止めることができなくなります。毎年、1500から3000の農薬が世界中で売られています。十分な毒物学研究がなされないままに広がっています。今や世界市場では、10万種類の農薬がありますが、基本的な試験が行われないまま使われ、世界を汚染しています。しかし、農薬で悪影響を与えたとしても、その農薬のせいであるということの科学的証明を被害者がしなければ政府はその農薬を禁止することができません。
このような大企業は本当に強力です。政府の科学委員会にいたことがありますが、薬物についてこの政府に勧告を行う委員会だったのですが、どのような農薬は規制しなければならないかを勧告する役割があるのですが、エンドスルファンについて毒性を研究した研究者がエンドスルファンを禁止すべきだと主張しました。何が起こったでしょうか? この委員会のしたことはこの有害物質を禁止ではなく、私をこの委員会から追放することでした。この企業の働きでそうなったのです。エンドスルファンのような農薬は私も積極的に参加した国際的なキャンペーンによって結局、規制されるようになりましたけれども。
問題は科学ではないのです。科学的研究がどんなに正しかろうが、それは政策決定に影響を与えることはできないのです。ですから、ここでは力関係、この問題の構造的問題も知らなければなりません。特に現在、毒物学の勉強をした人たちはほとんどが、大企業のために働いている研究者です。独立系の研究者はなかなかいないわけです。私が学生の頃は8割の科学的研究は独立したものでした。公的な機関が出資して研究が行われていました。しかし、今や9割が大企業に支配された研究になっていると思います。
ですから私たちはいわゆる「科学者たち」の言うことに耳を傾ける時には注意する必要があります。いろんな科学的資料や調査を引用して話をしますけれども、そのほとんどが、大企業によって行われた研究です。科学的な研究の出版物のほとんどは大企業がコントロールしています。それが政策決定に使われているのです。政策決定の場にいる人たちというのはこのようなことにほとんど教育を受けたことがないような人たちです。
もし、研究者が大企業に対して異見を申し立てようでもするならば、その研究者はその地位を追われて、研究ができなくなってしまいかねません。
バナナプランテーションを運営する企業は政府の規制機関に働きかけ、私たちのガンについての医師資格を取り消すようにしようとしています。それだけ彼らは影響力を発揮しているのです。
ですから、毒物を禁止するだけでは足りないわけです。構造的問題に手をつけなければなりません。だから私は社会的側面を強調したいのです。そうしたことに取り組む国際的なキャンペーンも存在しています。Pesticide Action Network(PAN、農薬行動ネットワーク)です。
私の孫も、すでにこのキャンペーンに参加しています。農薬を禁止せよと言っています。国際的なキャンペーンに参加してもらいたいと思います。PANにはWebサイトもあります(PANアジア太平洋のサイト、Pesticide Action Network International) 。
今回は遺伝子組み換え作物は環境に最大の脅威を及ぼすものの1つですけれども、これについてはすでにお話があったので、省きたいと思います。
鉱山開発による環境破壊
先ほど鉱山会社の例を述べました。これはミンダナオで行われている鉱山採掘の例ですけれども、実はソリビオさんが活動されている地域で金銀ニッケルいろんな鉱物資源の採掘現場があります。ここではひじょうに有害な物質を使って鉱物の抽出を行っています。これが水を汚染しています。これによって土壌も重大に汚染されます。
精神の破壊=土地の破壊
霊的な面の破壊も大きな問題です。これは宗教について言っているわけではないのです。霊的という時にはみなさんが信じていること、動機、心理的なものすべてを含みます。特に先住民族の間で、大事な要素となっています。これは科学者や医者ではわからない。でも私は感じることができます。なぜなら、私の祖母は純粋な先住民族でした。ですから私は実際、先住民族でもあります。先住民族にとって、この霊的なものを感じることはとても大事なことなのです。そして、それは先祖から受け継いでいる土地と結びついています。
しかし、この土地を破壊することは、この人たちの霊的なもの、精神的なものを破壊することになるわけです。これは破壊される側だけでなく、破壊する側の人たちの精神も破壊していると思います。傲慢で無関心で鈍感な彼らの行動そのもの、これは精神が破壊されているということの兆候だと思います。
彼らの精神も破壊されているわけです。彼らはそのことがわかっていませんが。このような産業を進める側の精神の破壊ということです。
一部の富める人のためだけの開発
フィリピンのような国では植民地的支配の歴史の中で、社会がたくさん破壊されてきました。その影響を私たちは感じながら今まできています。さまざまな社会的な不正義が行われています。そしてこの構造調整政策と言われる政策によってもIMF世界銀行、WTO、TPPによる国際的な政策の変更によって、起こされている社会的な環境の破壊です。
開発プロジェクトが広がることによってゴルフコースができたり、お金持ちのためだけの開発が行われています。このためによって社会的政治的文化的環境が破壊され、これが不平等を広げています。これに対して私たちが、構造的に立ち向かうことができていません。こうした開発が貧しいコミュニティを抑圧する根本原因です。先進的医療で画期的な治療が開発されても、こうした構造的な問題を解決しなければ、人びとの本当の意味での健康は得られないのです。
この構造的・社会的な問題に取り組んでいかなければならないわけです。なぜ、このようなことが起きているかですが、もちろん、富の追求、権力のおごり、利益第一主義などがあります。なぜこうしたことが起きているのでしょう? 私が専門分野ではありませんが、ネオリベラルなグローバリゼーション、新自由主義的グローバリゼーションです。多国籍企業による支配、さまざまな富の集中、権力集中、アメリカのような国々によって規制緩和によって、起こされています。雇用が生まれるとか、経済的繁栄が起きるとか言っていますが、誰のためなのでしょうか? これは金持ちだけのためなのか、大多数の人たちのためなのか?
この企業中心のグローバリゼーションの本質はこれです。ひじょうに搾取的です。貧困、不平等を広げ、1%に満たない人が世界の40%以上の富を手にするということになっています。
今こそ、ピープルパワーが必要
私たちの戦略はどうあるべきか? 意識を高めること、他のグループとのネットワークを作ること、専門家に依存しないですむように市民の技術的専門的能力を付けること、そして情報を交流し、監視すること、そして理解を深めること、そして懸念を持つ人びとを組織化していくことです。大きな変化を作ることができます。そして、一時しのぎだけでなく、もっと根本的に変革を起こす行動をする、それによって人びとをエンパワーすることです。そして、すべては私たちの子ども教育するところから始めてみてはどうでしょうか?
私は息子、孫たちの教育から始めたいと思います。子どもたちは未来を作る人たちです。有機栽培の食料は健康に望ましいだけでなく、私たちの食料主権や独立性を高めていく上でも重要です。そうした認識を広げていくことは、私たちが闘うすべての中でもちろん重要なことです。
人びとのエンパワーについて話しましたが、私は、フィリピンにおいては人びとが力を付けたことで、独裁者であった大統領を追放することができました。今こそ、ピープルパワーがもう一度必要だと思っています。そしてこれに国際的な連帯を加えることができれば勝利を得ることができると思っています。
ありがとうございました。
参考サイト
ジェフリー・M・スミスさん招聘への賛同のよびかけ
『偽りの種子』などの著作で知られ、米国で遺伝子組み換え作物の問題に長く警鐘を鳴らし続けてきたジェフリー・M・スミスさんが監督されたドキュメンタリー映画『遺伝子組み換えルーレットー私たちの生命(いのち)のギャンブル』の日本語版DVDが10月末に完成いたしました。
遺伝子組み換え食品がいかに人の健康に害を与えるかに焦点を絞ったこの作品の日本語版が発表されるやいなや、大きな宣伝ができていないにも関わらず、多く の方々がご覧くださり、強い衝撃を受けた、などの反響をいただいています。
世界では遺伝子組み換え作物の問題に対する懸念が高まり、規制する傾向が強まっているにも関わらず、残念ながら日本では次から次へと遺伝子組み換え作物が承認される状況が続いています。このままではますます日本に遺伝子組み換え作物が輸入され、そしてTPPが発効することになれば、将来日本国内での遺伝子組み換え作物耕作が始まるという危険がないともいえません。
このような中、遺伝子組み換え食品が持つ問題、その農業が社会に与える影響をしっかり人びとに訴えていく必要があります。
ジェフリー・M・スミスさんは『遺伝子組み換えルーレット』を2012年9月に米国で公開した後も、遺伝子組み換え食品が健康に与える影響に集中して活動を行っており、さらに新たな知見をもって米国中で講演活動を行い、新作ドキュメンタリー映画“Secret Ingridients”も完成間近と聞いております。米国では急速に非遺伝子組み換え作物への注目が高まっているのも、ジェフリーさんのこうした活動に大きな影響を受けていると思われます。
日本ではそのような情報はまだまだほとんど知られていないというのが実際でしょう。こうした中で、ジェフリー・M・スミスさんを日本に招聘したいという話が持ち上がりました。ジェフリーさんの問題提起をしっかりと受け止め、市民の遺伝子組み換えに対する認識を喚起する機会としたいと考えています。
つきましては、遺伝子組み換え作物・食品問題に日ごろより取り組まれている団体・個人の皆さまに、2月20日午後 韓国YMCAホールにおいて映画の上映および ジェフリーさんの講演会へのご協賛をぜひいただきたく、お願いいたします。
ジェフリー・M・スミスさんはグリーンコープの招聘で22日に福岡でセミナーを開かれます。今回の招聘費用と交通費はグリーンコープと東京実行委員会で折半する形で実現をしたいと考えます。
【賛同金】
○団体1口1万円(何口でも可)
○個人1口3000円(何口でも可)
ぜひご賛同いただけますよう、お願い申し上げます。
2015年12月17日
【ジェフリー・M・スミスさん招聘・東京実行委員会】 (50音順/12月18日現在)
アジア太平洋資料センター(PARC)
オルタートレード・ジャパン(ATJ)
ルナ・オーガニックインスティテュート
【連絡先】
オルター・トレード・ジャパン(ATJ)
〒169-0072 東京都新宿区大久保2-4-15 サンライズ新宿3F
TEL: 03-5273-8176 担当:印鑰(いんやく)
アジア太平洋資料センター(PARC)
〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町1-7-11 東洋ビル3F
TEL.03-5209-3455 FAX.03-5209-3453
担当:内田聖子
賛同いただける団体、個人の方はぜひ以下のフォームからお申し込みの上、下記の口座にご送金ください(お申し込みいただいたメールアドレスにも口座情報はお送りします)。
賛同申し込みフォーム
[contact-form-7 id=”1623″ title=”ジェフリー・スミスさん招聘東京実行委員会賛同”]
お問い合わせがある場合はお問い合わせからご送信ください。
●郵便振替:振替口座番号 00160-4-163403
加入者名 アジア太平洋資料センター
●ゆうちょ銀行 〇一九支店 当座0163403
名義 アジア太平洋資料センター
ミンダナオにおける多国籍企業による農業の実態とそれに対する人びとの対応
ネグロス島をはじめとするフィリピンのバランゴンバナナ生産者、マスコバド糖生産者、マレーシア、パレスチナの市民組織、日本と韓国の生協関係者、ドイツやフランスのフェアトレード団体が参加して、今後の取り組みについて協議しました。
2つの基調報告と3つの特別報告によるこのネグロス・フード・サミットの全容をぜひご覧ください。
今回紹介するのは、フィリピン・ミンダナオの南コタバト州スララ町の元町長のロムロ・スリビオさんのミンダナオにおける多国籍企業が引き起こしている問題とそれに対する人びとの動きについての報告です。
ミンダナオにおける多国籍企業による農業の実態とそれに対する人びとの対応
ネグロス・フード・サミット特別報告 ロムロ・スリビオ
スリビオ(Hon. Romulo O. Sulivio)さんは南コタバト州評議会メンバー。南コタバト州スララ町元町長。町長として、スララ市で遺伝子組み換えを禁止し、有機農業を推進し、スララ町を有機米の有力な生産地への転換することで活躍された方です。南コタバト州有機農業条例の起草者でもあります。
スペインと米国の植民地支配とフィリピンの輸出志向経済
フィリピンはよく知られた輸出志向と輸入依存の農業経済が大半を占める国である。このようにこの国は主に農業生産物を他の国に輸出することによって生存している。「労働組合と人権のためのセンター」による調査研究から引用すると、この輸出志向経済システムはこの国のスペイン人、その後の米国人による長い植民地支配の歴史に辿ることができる。
スペインの植民地支配時代に発達したアシエンダ・システムはアシエンデロ(大地主)によって巨大な領地を輸出向けの単一産品生産地に変えていった。米国人が1899年に支配に来て、1946年まで直接統治した時には、輸出向け農業が維持されただけでなく、強化された。第二次世界大戦前にすでに、米国系多国籍企業(MNCs)はフィリピンにやってきている。多国籍企業は広大な土地をパイナップルやバナナなどの果物プランテーションに変えていった。フィリピンが独立した1946年の後、後を継いだフィリピンの統治者たちはこの国の農業発展の外向き志向をさらに拡大した。
多国籍企業にとっての「約束の地」ミンダナオ
ミンダナオはフィリピンを構成する3つの島群の中で2番目に大きく、2200万人の人びとが住み、6つの地方と26の州からなる。アジア・ビジネス・チャンネルでのミンダナオの記事から引用すれば、「この島の地域は13世紀にアラブの商人、17世紀にはスペイン人の入植者たち、最近の20世紀には国内再定住計画によって、フィリピンで文化的にもっとも多様な島となっている」のである。
ミンダナオは豊かな土壌や熱帯気候などによる天然資源が豊かなだけでなく、 この国の他の地域に比べてもっとも生育条件がいいことで知られている。パイナップル、バナナ、ゴム、カカオ、コーヒー、トウモロコシそしてココナッツなどのフィリピンでの多くの作物はミンダナオで育っているし、ミンダナオで見つけることができる。ミンダナオのほぼ3分の1の土地が農業に向けられており、三分の一の人口は農業、漁業、森林セクターで働く。フィリピンの「食料カゴ」として知られ、ミンダナオは国の40%以上の食料を生産し、30%以上の農業輸出を占める。
ミンダナオは常に政府によって「約束の土地」として宣伝されてきた。なぜなら、この島は島の資源、森林そして人びとゆえに発展の機会に満ちていると見られているからだ。政府によればミンダナオはうまく生かせば、国の持続的発展の基礎となるだろうという。確かに、ミンダナオは莫大な天然資源、地形学的発展、そして人的資源に満ちているから、その結果、アグリビジネス、養殖産業、環境産業の機会主義的な玄関口となる。
この観点こそ、国内・国際投資家がミンダナオのさまざまな地域に殺到し、外国投資家を継続的に呼び込む理由なのだ。
大規模投資家そして外国投資家は国内の当局や投資家にとって歓迎なだけでない。アグリビジネス企業協定(AVA)のコンセプトを導入した行政命令第9号という農地改革政策、ベニグノ・アキノ大統領のフィリピン発展計画211-2016、さらには大規模外国投資家に対する「税金ホリデー」まで提供され、ますます魅力付きで、外国人を招待している。
ミンダナオに多国籍企業がすぐに入れるように準備した政府の政策だけでなく、多くの貧困な民衆はこうした大規模投資家たちを知って興奮し、歓迎しようとした。というのも彼らはこれらの投資が切迫した彼らの生活条件を向上させる発展をもたらすと思い込まされたからだ。さまざまなステークホルダーと政府の行政は多国籍企業の誘致こそ、特にミンダナオに存在している貧困と紛争に取り組むために人びとの生活の経済発展をもたらすとして奨励している。今、第3世界にいるもので、誰が開発に抵抗するだろうか?
日本をはじめとする多国籍企業の展開
こうして多国籍企業はミンダナオのあちこちで貪欲に活動しており、悪名高い彼らの農法システムには50年にわたり続けられているものもある。ミンダナオのいくつかの地域での多国籍企業の継続的な拡大していることは、ここでの彼らのビジネスがブームであることを否応もなく示すものである。
ミンダナオに進出し、その活動領域を継続的に広げている少なくとも5つの大きな多国籍企業をあげて見よう。南ミンダナオ地域ではAJMRスミトモとドールは現在バナナとパイナップル農園展開を急速に拡大している。一方、国際チキータ・ブランドはタグム開発社(TADECO)との関係を維持している。
ソクサージェン地方では、ドールがすでに3万5000ヘクタールの一等地を取得していると公言しており、パイナップルのための土地を得るために食指をいくつかの待ちにさらに伸ばしつつある。一方、南コタバトとサランガニ地区では何千ヘクタールの土地を日本の住友商事の子会社であるスミフル・フィリピンズ・コーポレーションに提供している。
北中部ミンダナオ地域ではデルモンテ、ネスレ、サンミゲル社が今、ブキドノンと東ミサミス地域でのアグリビジネスを独占している。
ミンダナオにはすでに2万6505.48ヘクタールのパームオイル・プランテーションが存在し、そのうち、1万7415.15ヘクタールはカラガ地方(ミンダナオ北東部)に存在する。そして、これらは主にフィリピナ・パーム・プランテーション社(FPPI)、 Guthrie Planrtaion社(NGPI)、NDC-Guthrie Estate社(NGEI)、 Agusan Plantation社(API)とAgusan Milling社によって操業されている。
多国籍企業の操業がもたらすもの
アキノ政権によると、これらの多国籍企業のわが国での操業は大きな経済成長をもたらしているという。なぜなら、多くの税金が多国籍企業によって支払われ、生産物をより簡単に早く運ぶ畑から市場への道路などのインフラ建設だけでなく、何千という職の機会を提供しているからだという。しかし、貧しいフィリピン民衆は政府が自画自賛するすばらしい経済成長などは実感していない。統計をみれば、わずかなエリートで豊かなフィリピン人の富や資産は大きくなるが、多くの人びとにとっては職の喪失と貧困という結果になっているのである。
多くの多国籍企業はアグリビジネスを常に拡大させているが、大多数の農民と農業労働者たちは主にこれらの大企業や外国企業による搾取により貧しいままにされている。土地なしであること、低賃金、農場に投入するものの高価格、そして生産物の低い買い取り価格によって貧困は悪化する。その結果、農民や農業労働者たちは借金し、ローン漬けとなり、債務の積み重ねの中に埋没するしかなくなってしまう。ミンダナオを経済特区にする一方で、ミンダナオのすべての地域で武装紛争が激しくなっている。
ミンダナオの多くの地域で輸出向け作物の生産とアグリビジネスを行う多国籍企業は大規模土地取得、農地改革の土地転用、労働者の人権侵害、環境、持続できる発展や食料保障の悪化という本質的な問題に取り囲まれている。
多国籍企業の土地利用の方法
ミンダナオにおける多国籍企業の農業を取り巻く問題はアグリビジネス産業を管理するその実践とその方法に多くが根ざしていると思われる。自由化は進んでいるにも関わらず、買い手はドールとデルモンテしか見当たらず、輸出生産物の価格は大規模な組織の買い手によってコントロールされている。
アグリビジネス企業協定(AVA)によると、AVAのための土地はすべての商業的農地に適用できる。AVAの適用になる商品作物ははっきりとバナナ、パイナップル、ゴムと規定されている(Section 2(f), AO No. 9 of 1988)。前述の規定は多国籍企業によって所有されているかリースされている土地に適用される。こうしてアグリビジネスが農地改革計画の枠組みの中に導入されることになった。これに加え、アグリビジネスセクターへの国内はもちろん、外国からの投資を奨励し、引き寄せるための効果的手段を取ることが農地改革政策の中に組み入れられた。これが意味することは何かというと、農地改革の目標が農地の所有権の移転から生産性の増加を含むことに変わったということだ。これはフィリピンの「農地改革政策のパラダイムシフト」が起きたその瞬間として見ることができる。
AVAには7つの方法がある。合弁事業契約、リース契約、成育契約、管理請負、一括事業請負後譲渡(BOT)方式、生産、加工、マーケティング契約、サービス契約である。
どの方法を多国籍企業が取ろうとも契約はつねに一方的であり、多国籍企業の利益にだけなることがあきらかになっているケースがいくつもある。ほとんどのケースで、フィリピンの地主あるいは農民たちは多国籍企業との契約合意のコピーを持っていない。多くは合意書に規定されていることを理解しておらず、多国籍企業との口頭での約束だけを信じている。多国籍企業は農地改革コードであるRA 3844に規定された条項を違反する広大な土地で操業している。
コストカットが可能な労働契約
労働者は多国籍企業の農業生産のさまざまな生産過程の中心にいる。多国籍企業は「多元的あるいは多数のレベル」と説明する関係を労働者と結び、それは契約者タイプによって変わるが、ある共通の要素に縛られている。それは契約者は契約した主に外国に輸出する多国籍企業のバナナだけを栽培し、生産し、パックすることが法的に義務付けられることである。契約者の形態が個人であれ、協同組合であれ、連合体であれ、栽培者あるいは労働者であっても彼らは1つの会社のためだけに働くのである、つまり、ドールースタンフィルコあるいはスミフルのように。そして、18-A省令のおかげで、すべての操業における労働基準を完全に満たすことが連帯責任とされることになる。
この多数のレベルと多元的関係の雇用は実際に地主や栽培者、農民や労働者の犠牲のもとに、生産の利益を最大化するためにコストカットすることにおいて、多数の利点を多国籍企業に与えている。
多国籍企業の創業に存在する多数の労働基準の適用方法は(労働面でも環境面でも)より大きな操業においては、低賃金の生産、より権利の弱い労働者、栽培者たちが一方的な契約内容とよんでいる事態においても、一定の労働基準に適合しているように見せることができる。
多くの企業において、彼らはすばらしい労働慣行を自慢するが、現場からは多国籍企業の労働慣行が基準を守っているのはほんの一部であり、全般的には約束した基準違反が蔓延しているのが現実だというケーススタディー、報告、証言があがっている。
重い労働負荷に対する低賃金は多くのプランテーションで蔓延している。最低賃金やその他の権利の違反は多国籍企業の多くのプランテーションで広がっている。協同組合や仲介のさまざまな形態下のこうした農場操業での労働者の賃金は契約労働あるいはサービス・プロバイダーとよばれ、最低賃金よりもずっと安くなる。さらに彼らは有給休暇やボーナスや社会保険という権利は享受できない。組合を結成する権利や借地借家権の安定も保証されていないであろう。
借地借家権の安定や組合を作る自由の権利に関するコンプライアンスについていえば、これらの権利の侵害には歴史があり、ずっと侵害され続けてきている。CTUHRのケーススタディーから引用すると、圧縮された週労働時間(一日の労働時間を他の日との平均取る事で労働時間を増減できるようにすること)と長期の契約労働状況はこれらの権利を実現するための障害となっている。
退職を強制され、他の労働者に代わられる経験は法律や権利を侵害するだけでなく、あきらかに労働者への義務を回避するやり方である。口頭に過ぎないとしても労働者に労働組合を結成する権利を禁止することはフィリピン憲法を無視し、ILO条約(多国籍企業も誓約を誓っている)に組み込まれた結成権の自由を侵害する。
現在、もっとも多い契約の方式は固定期間の有限雇用であり、契約労働である。多国籍企業を含む多くの企業は労働コストを下げるためにこの方式を好む。なぜなら、もし正社員として雇えば、有効で法的な理由がなければ解雇できず、退職手当やその他の手当を払わなければならなくなるからである。
深刻な農薬被害
労働者の健康と安全については私の聞いた証言は例外的でも特別のものでもない。何人かの労働者は保護具の交換が必要な時に得られなかったと告げた。すべての労働者は彼らが使っている、あるいは彼らが工場や農場にいる時にさらされる化学物質の危険について完全にわかっているようではないようだった。
全国労働関係委員会(NLRC)に提出されたケースでは、(不当解雇や組合結成の権利など)バナナ産業においては不当労働行為が最近10年顕著となっている。
CTHURが調査した地域では、多国籍企業が20年から40年にわたり操業してきた南ミンダナオの地域では生物多様性、土壌、河川での環境が破壊されている。EUでは禁止されている Gramoxone【訳注:除草剤パラコート、シンジェンタの商品名】や、フラダン【訳注:殺虫剤カルボフランの商品名】のように米国ではすべての食料用の作物では使うことが禁止されているのような化学物質が継続的に使われていることはこうした環境上の被害を軽視したものであろう。最近の科学的調査と人びとの空中散布の悪影響に関する関心の高まりにより、バナナ・プランテーションの存在する地域の健康と継続的発展と環境的影響に焦点があてられるようになった。
脅かされる食料保障
プランテーションの中あるいはそばで生きている人たちはバナナ、パイナップルあるいはパームオイル産業になんらかの依存をせざるをえない。たとえばバナナを育てる以外に生きていく上で持続可能な経済活動が他に見当たらないからだ。このモノクロップ(単一作物)プランテーションへの依存は将来の世代にとって危険である。なぜなら土壌の大規模劣化によって将来的にはその土地が生産できなくなる可能性があり、持続できないからだ。
これはまた地域の食料保障の危険を意味する。さらに重要だが、バナナ生産は輸出市場に強く依存し、外部の市場の変化に特に脆弱である。それは何千人もの農業労働者の生活や地域の経済に大打撃を与えるかもしれない。中国によるフィリピンバナナへのより厳しい輸入規制はその1つの例である。
多国籍企業のプランテーションのある遠隔のコミュニティにおいて、道路や教育、保健サービスなどの重要なサービスのインフラが存在しないことは人びとの生活条件を引き上げる機会とともに地主や栽培者や労働者たちの他の市場へのアクセスや経済活動を妨げている。
しかし、食料保障と基本的社会サービスの欠如は、地域で操業する多国籍企業だけでなく、多国籍企業が創業する地域でより広い、より明確なフィリピン政府の政策形成と実行に関わる問題である。
バナナ・プランテーションに関する資料によると、「寡占的なバナナ生産の構造は多国籍企業の垂直的な統合と大きく関わっている」。これらの企業は種子の発展から栽培、そして消費者へのバナナの配送まですべての局面をコントロールしている。彼らは広大な土地を所有もしくはリースで持っており、無数のバナナ生産者と契約している。彼らはまた冷蔵船を保有し、貯蔵施設や熟成施設を持っており、世界大の供給ネットワークを持っている。多国籍企業は垂直統合によって、小規模生産者、流通業者に対する優位性を持ち、そのことによって価格設定や売る基準などを自分で決めることができる。こうして、多国籍企業は世界のどこでも消費者に比較的安い価格で継続的に供給することができ、さらに利益率を高く保つことができる」。
しかし、最近、多国籍企業が国内あるいは国際的基準に適合した認証を得るための関心や圧力が高まっている。
民衆がひとたび不平、苦情や問題を声に出して言うなり、多くのケースで警察や軍事組織は、人びとの権利を守るのではなく、企業の方を守ることに回っている。そのようなケースを見れば、多国籍企業による問題ある行動や権利の侵害はフィリピン政府にとっては許容できるものであり、彼らの利益を守るために投資防衛部隊(IDF)と認識される軍事勢力を配備するということになるのだ。
人びとの反応
こうしたミンダナオにおける状況やフィリピン憲法でうたわれている民衆の権利の明確な侵害となる多国籍企業の農業の操業を考える時、現在、政府が誰の利益をもっとも重視しているか、これらの政策、法律、状況は動かしがたい証拠となっている。政府とその政策は民衆の生活と福祉の改善に最大限向けられなければならないことはあきらかだ。われわれが作る政策は純粋な発展と真の社会的進歩のための有効なメカニズムである。そのような民主的成果が自動的には生まれない。しかし、それは肯定的な出発点である。
民衆の叫びは私たちが反汚職のキャンペーンを続ける必要性を示している。それこそが政府の官僚制を徹底的に見直す理にかなった道なのだから。多国籍企業と地域の経済利益への警告すべき従属により、国家主権はひどく害されてしまってきている。
絶え間ない多国籍企業の侵入は、これらは国の状況がどんどん悪くなるサインであり、一刻も早い対応を必要とする。国の真の民主主義と発展への挑戦は希望の理由がある限り存在し続ける。さまざまな社会運動や民衆の叫びとともに搾取された人びとはもはや空約束を受け取ることはできなくなっている。次の政権がすべての人びとが感じることのできる成長の利益をもたらさない限り。究極の貧困と悪くなるばかりの国の不平等によってすでに幻想は打ち砕かれている。ますます多くの人びとが真の民主主義と真の発展を求めている。民衆は人びとの権利と利益をなによりも重視する政府を求めている。もっとも重要なことは国の中でもっとも活発に変革を求めて闘ってきた社会勢力は暴力的な攻撃と抑圧に抗して負けない力を持ってきたことだ。
政府と軍部、そして彼らの外国ビジネスパートナーたちの自己利益の結託によって繰り返しなされてきたテロの中においても、小農民、先住民族、ミンダナオと他の地域の労働者たちは常に彼らの権利を進める力を示してきた。
ミンダナオの移住入植者と言われる子孫として、共通の正義を求めてきた者として、私は民衆の行動を求める要求に合意し、団結しなければならないと信じる。
本日、この会議で現場の民衆の状況を共有し、私の有権者と民衆の代表として話すこの機会を与えられたことに感謝したい。私はこの偉大な機会で、さらなる搾取を許さない信念、確信そして行動を強めることを求めたいと思う。
私たちの多様な信仰の中で、民衆の現実を聞いて、理解した人びとは民衆の現場で起きている深刻な人権侵害に対して生命、土地、そして、先人から受け継ぐものを守る揺るぎない団結を示されることを信じる。
ミンダナオに存在するこれらのひどい行為や継続する侵害に対して、何もしなければ、真の発展、持続性そして平和は得られないままであるだろう。なぜなら、生態系が死に、多国籍企業の侵略によってコミュニティが貧しくなるものを見るだけだからだ。
わが民衆の苦しみと死に責任があるものたちは創造もまた責任を持つ。
民衆と共に来た私は私たちの反応を彼らに伝え、創造の世話役として、先祖の土地を守るものとして、環境の守護者として、私たちの土地を守り、命を守り、伝統を守る。
私はさらなる破壊に抵抗するミンダナオのルマド、モロ、そして小農民コミュニティ、カトリックやプロテスタントの教会、そして支援団体によるミンダナオの今動いている運動に勇気づけられている。無限の信仰と確信を持つ運動は聖書のゴリアテに対するダビデの勝利、預言者モハメッドのメッカの抑圧的な大地主に対する勝利、リエンユワンの精神に守られた、我々の土地の守護者たちにインスピレーションを受けている。真実は多国籍企業のアグリビジネスによって作られたウソと神話に対抗する最大の武器だ。
ミンダナオの多国籍企業のこの状況に対して、問題はこの困難な状況の中にわれわれはどこにいるのかということだ。この残虐行為が続く中で傍観者を続けるべきなのか? ミンダナオへ移民あるいは初期移民定住者の子孫としてわれわれは今、この地域の多数者を構成しており、搾取されている民衆の声を広げる道義的責任を持つ。都市に住む住民として、あらゆる形態の不公正について声を出す上で都合のいいポジションにいる。われわれはこの利点を活用して、われわれの周辺化された兄弟姉妹たちへ手を差し伸べなければならない。
もし彼らの闘いが、後発で、前工業的、外国資本が独占するフィリピン社会を特徴付ける不正義であり、搾取の兆候であると見られればその理解と団結の必要はよりはっきりするだろう。
これらの問題はさまざまな質的に異なった特徴を持つものの、われわれが毎日直面する本質的に共通の問題に根を持つものだ。われわれはみな同じフィリピンの抑圧された民衆の一部であり、私たちは同じ厳しさと闘う。連帯を広げようとする精神の中にわれわれの共同の行動の基礎がある。
それゆえ、私はこの機会に以下の連帯を求めたい:
あなたたちは以下のことをやることで農民、農業労働者、先住民族、労働者を助け、連帯することができる。
- ミンダナオのコミュニティの現在の社会的現実と歴史的プロセスの知識と理解を深めること
- 戦争と平和の両方の時期に反応できるようにコミュニティの能力構築の機会を提供し、計画の作成、実施の促進を支援すること
- 学校、フォーラム、展示会、マルチメディアを通じたキャンペーンの普及によって、小農民、先住民族、労働者の社会的意識の向上
- コミュニティレベルでの人権教育を政府の担当部局、教会ベースの組織そしてその他の支援組織と共に行うこと
- 政府の担当部局や地域の組織、コミュニティと共に多国籍企業の違反行為をモニターすること
- 地方政府の担当部局などのキーとなる組織と調整し、小農民や先住民族の立ち退きに問題に対して、取り組み対応できるメカニズムを樹立すること
- 空中散布を禁止する私たちのキャンペーンに署名すること
- 多国籍企業が操業している地域でもっとも影響を受けているコミュニティに直接ボランティアで関わること
加えて、次のことに私たちが取り組んでいることをお知らせしたい
- 国際法や国内人権政策で重大な違反が起きていると考えられるコミュニティにおける真の農地改革に向けてロビーをすること
- 国連委員会、人権監視やその他の機構を最大限に生かすこと
- 多国籍企業に関わる人権問題を監視する人権委員会の組織的能力を強めることを働きかけること
- 多国籍企業の農業操業やそれに関する問題について政府の担当部局、軍の担当者、他の鍵となる組織と対話に努めること
そして次のことへの支援を懇願する。
多国籍企業(ドール・フィリピン・コーポレーションやスミフル・フィリピン・コーポレーションなど)に「出来高払いシステム」という搾取的な労働行為をやめさせることを求めること。そして、現在行っている契約労働政策を全面的にやめられないとしても、少なくとも最低賃金を与え、労働者にまっとうな生活賃金を与えること。
私たちのコミュニティを環境破壊の脅威に置く破壊的な農業操業を将来減らし、なくしていく方法を見つけるための調査と開発を再考し、重視すること。
私たちの立法部門で1年以上準備している私の条例草稿へのあなたの支持をお願いしたい。私たちの地方政府や中央政府に農業行為として農薬空中散布を禁止するように手紙を書いて送ることもできる。
私たちの国家遺産を守ろう! 農民、先住民族、労働者の闘いと要求に連帯しよう!
真の発展と純粋な民主主義を求めよう!
フィリピン最高裁、遺伝子組み換えナスの栽培実験禁止と新規承認一時停止を決定
フィリピン最高裁判所は、2015年12月8日に遺伝子組み換えナス(Btナス)の実験の永続的禁止と遺伝子組み換え作物の新規承認一時停止を命じました。農民と科学者の連帯ネットワークであるMASIPAGや環境運動団体などの市民による訴訟が実りました。
虫が食べるとその虫の腸を破壊するBt毒素を生成するように遺伝子組み換えされたナスのフィリピンでの商業栽培をめざして実験に対して、農民や消費者たちは、環境に与える影響や健康に与える影響、そして農業に与える悪影響を懸念し、訴訟を起こしていました。2013年9月に実験栽培を禁止する判決がすでに下っていましたが、今回の最高裁の判決はそれを支持するものです。
今回の判決は、遺伝子組み換えナスが安全であるとする科学的コンセンサスは存在しておらず、環境影響調査(EIA)も行われておらず、環境や健康にあたえる害を避ける予防原則の見地から、遺伝子組み換えナスの栽培の実験を永続的に禁止しなければならないというものです。MASIPAGのプレスリリースによると、最高裁は学識経験者たちに委ねるだけでなく、その決定には消費者、農民含むすべてのステークホルダーを含めていく必要があるとしたとのことです。バイオテク企業が研究所の予算の多くを握る現在、研究者でバイオテク企業の利益に沿わない判断を下すことは難しいとも言われます。それを考える時、画期的な判断だと言えます。
さらに、フィリピン最高裁は現在の政府による遺伝子組み換え規制システムが最低限の安全要件を満たしていないとして、2002年の農業省の行政命令(No.8-2002)の無効を宣言し、新規の遺伝子組み換え申請(新規の食用などの使用、栽培、輸入)を一時的に停止しました。
この決定をMASIPAGの全国コーディネーターであるチト・メディナ氏は「すでにフィリピンには70種の遺伝子組み換えを輸入しており、私たちが知らぬまに、同意もなく、食のシステムに組み込まれてしまっている。さらなる遺伝子組み換えの流入を止めたいという私たちの願いが届いた」とこの決定を歓迎しています。
この農業省の行政命令の無効措置は大きな意味を持つものです。というのも、この行政命令を根拠にフィリピンにモンサント、シンジェンタやパイオニアなどの遺伝子組み換え企業が入り込み、さらには国際稲研究所(IRRI)が開発を進めるゴールデンライスなどの栽培実験なども行われているからです。
フィリピンでは2002年12月に遺伝子組み換えトウモロコシの栽培が始まり、現在では80万ヘクタールで栽培されています。この栽培によって、環境破壊、人や家畜の健康被害、そして農民の債務化という社会問題も作り出されていることがこの訴訟の中心となったMASIPAGによる調査報告書(2013年)で明らかにされています(フィリピン:遺伝子組み換えと闘う農民たち参照)。
そのような社会的、環境的、さらには人びとや家畜の健康に与える大きな影響を調べ、明らかにするという地道な積み重ねがあり、その問題点が共有されたからこそ、このような判決が可能になったと言えると思います。
しかし、メディナ氏は警告します。「モンサントの研究者が11月24日、フィリピン国会で演説し、食料不足と低い食料生産に対して遺伝子組み換えを活用を議員に支持することを求めた」、「モンサントはフィリピンの種子市場をほしいままに取りこんで、そこから利益を得ようとしている」とモンサントの動きに警戒することを求めています( MASIPAGによるプレスリリース 2015年12月8日参照)。
この遺伝子組み換えナスの実験中止は大きな朗報であり、新規の遺伝子組み換え承認が止まったことも大きなニュースですが、フィリピン政府に深く入り込んだモンサントの動きは今後とも引き続き警戒が必要なようです。
一方、日本では12月1日に新たな枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えワタが二品種承認されています。日本の承認数は現在世界で断トツの一位となっています(遺伝子組み換え推進団体ISAAAのデータベースによると日本の承認数が214、2位の米国は189)。
参考
フィリピンにおける遺伝子組み換え問題
ネグロス島をはじめとするフィリピンのバランゴンバナナ生産者、マスコバド糖生産者、マレーシア、パレスチナの市民組織、日本と韓国の生協関係者、ドイツやフランスのフェアトレード団体が参加して、今後の取り組みについて協議しました。
2つの基調報告と3つの特別報告によるこのネグロス・フード・サミットの全容をぜひご覧ください。
今回紹介するのは、フィリピンのNGOで、科学者と農民の連帯組織であるMASIPAGの全国コーディネーター、チト・P・メディナ氏によるフィリピンにおける遺伝子組み換えに関する特別報告です。今回の報告はメディナ氏の報告を元に政策室の印鑰(いんやく)が編集したものです。
ネグロス・フード・サミット特別報告: フィリピンにおける遺伝子組み換え問題
チト・P・メディナ博士
(MASIPAG全国コーディネーター)
フィリピンでは2002年以来、62品種の遺伝子組み換え作物が承認されている(そのうち54品種は食品、飼料、加工食品用[つまり輸入用]として承認されており、商業栽培用には8品種が承認されている)。
フィリピンでは遺伝子組み換えトウモロコシは商業栽培されて今年で13年目となる。
トウモロコシ以外にもBtナスの商業栽培を目指して、圃場での実験栽培が行われていたが、訴訟を通じてその試験は停止処分となった。この他に、遺伝子組み換えコメであるゴールデン・ライスの実験が開放圃場で行われているが、2013年8月8日、ビコール小農民運動(KMB)に率いられるビコールの農民たちとSIKWAL-GMOの同盟が違法栽培されているゴールデン・ライスを引き抜きを行った(写真)。2013年2月5日、農民との対話で地元の農業省事務所は農民に対して、圃場実験はもう行わず、2013年1月に終了した圃場実験の結果を知らせることを約束していたにも関わらず、それを無視して栽培していたからである。
栽培される遺伝子組み換えトウモロコシでは最初はBtコーン(害虫抵抗性)が多かったが、その後、ラウンドアップ耐性(RRコーン。農薬耐性)が増え、現在は害虫抵抗性と農薬耐性の複数の性質を持つ多重スタック(複数の除草剤や殺虫成分を含む)遺伝子組み換えが主流になっている。
遺伝子組み換えはフィリピン農民に何をもたらしたか?
もしGMO種子を買ったらその種子があなたを買うことになる! つまり、農民は債務奴隷に転落してしまうのだ。経済的に大きな打撃を受ける。
その上に、遺伝子組み換え耕作による健康障害が生み出される。そして、作り出される食は有害であり、さらに遺伝的な汚染が広がっていく。
まず、経済的な影響を見てみよう。
遺伝子組み換えトウモロコシの種子の値段は非遺伝子組み換えトウモロコシに比べ倍近い価格になる。1ヘクタールあたり、5000ペソも高くつく。その種子耕作のための化学肥料や農薬も含めてかかる費用は収穫物を売ったとしても回収できず、農民は借金を重ねていかざるをえない。GM作物栽培では小農民は高利貸から金を借りなければならず、その利幅は50%に達することもある。
その結果、農民は自分の土地を失うケースが増えている。遺伝子組み換えではない種子を農民が植えたいと思っても、なかなか手に入らない。
また近年増えている気候変動による被害、台風やエルニーニョによる影響に加え、遺伝子組み換えトウモロコシに発生する菌病や害虫によって収穫の多くが被害を受け、収入が得られない事例も発生している。農民にとってはこうした病気の発生はひじょうに深刻な問題を生むことになる。
遺伝子組み換え耕作による健康被害
遺伝子組み換えトウモロコシ畑の周囲の作物が遺伝子組み換えトウモロコシ(ラウンドアップ耐性コーン)にかける除草剤グリホサートの影響を受けている。さらにその畑の周辺に住む人びとの間でも、皮膚のアレルギー、視力の低下、咳などの体調の悪化が報告されている。
モンサントの農薬ラウンドアップは今年WHOの外部研究機関であるIARCが2Aという発がん性物質に指定したが、多くの研究がグリホサートの発ガン性を含む多くの有害性を指摘している。フィリピンの農民はこのラウンドアップが撒かれる地域の井戸から地下水を飲んでいる。この井戸にはラウンドアップが染み込んでいると思われるが、農民には有害物質への知識がなく、この水を飲むことで、健康被害を受けていると考えられる。
- Kalyong, Bgy. Landan, Polomolok, South Cot. (>60 人)
- Bgy. Tuka, Bagumbayan, Sultan Kudarat (32 人)
- Bgy. South Sepaka, Sto. Niño, South Cotabato (9 nin )
- Bgy. Magallon, M’lang, North Cotabato (20人の子ども)
- Bgy. Kalapagan, Matti, Davao Oriental (1人)
Btコーンの場合には開花期のBtコーンへの接触により、頭痛、胃痛、風邪、めまい、下痢、嘔吐、呼吸困難、赤目、体力減退、皮膚の黄色化(肝炎に類似)という症状が多数の人から報告されている。Bt毒素に対する抗体が病気になった患者から検出されてもいる。
Btコーンを栽培しており、Btコーンも食べていた農民でこのBtコーンゆえと推定される病気で死亡したケースもある。
遺伝子組み換えトウモロコシを食べた家畜への影響
家畜への影響も深刻だ。カラバオ(水牛)が死んだケースもフィリピン各地で報告されている。豚が下痢などの病気を起こしたり、鶏の産卵がおかしくなっている。豚や水牛の子どもが未熟なまま生まれてきたり、早死するケースもある。
こうした報告を裏付ける研究結果も数多く報告されている。「Bt (Cry) プロテインはネズミの血液に対して有毒である」Mezzomo, B. P., et al. (2013). Hematotoxicity of Bacillus thuringiensis as spore-crystal strains Cry1Aa, Cry1Ab, Cry1Ac, or Cry2Aa in Swiss albino mice. J Hematol. and Thromboembolic Diseases 1(1)
フィリピン政府は安全性を確認したとして遺伝子組み換え作物を承認していながら、こうした問題への追跡調査は何一つ行っていない。
遺伝子組み換えが与える環境への影響
遺伝子組み換え農業は環境にも深刻な影響を与える。
まず花粉による交配の問題が起きる。そして、花粉以外でも種子になった状態で混ざっていく危険がある。フィリピンでは食用に白トウモロコシが作られているが、これに遺伝子組み換えトウモロコシの花粉が交配し、遺伝子汚染が起きていることがグリーンピースの調査によって明らかになっている(White Corn in the Philippines – Contaminated with Genetically Modified Varieties)。
遺伝子組み換え作物にかけられる除草剤ラウンドアップは毎年大量に撒かれる結果となり、耐性雑草が急速に増えていく。そして、土壌がキレート化され、土壌破壊を起こしていく。
そしてBt毒素は土の中に留まる。Bt毒素のCry1AbタンパクはBtコーンの根から滲出し、少なくとも180日間土壌の中に留まる。そして、少なくとも3年間Btトウモロコシのバイオマスに存在し続ける (Saxena and Stotzky, 2002; Stotzky 2002, 2004)Icoz, I. and G. Stotzky. 2008. Fate and Effects of Insect-Resistant Bt crops in soil Ecosystems. Soil Biology and Biochemistry. 40:559-586).
遺伝子組み換え農業に対するオルタナティブは存在する
遺伝子組み換えは20年近くにわたって遺伝子組み換え企業が広げようとしてきたが、世界の多くの農地はGMOフリーのままである。
キャッサバを例にとってみよう。1ヘクタールのラウンドアップ耐性コーンと同じだけの収入を得るために遺伝子組み換えでないキャッサバを植えるためにはわずか0.2ヘクタールの土地があれば十分だ。化学肥料も農薬も不要である。
モンサントなど世界の6大遺伝子組み換え企業は種子市場の6割以上を占めている。彼らは種子に特許を取得しており、彼らが販売する種子を農民が保存することを特許侵害として許さず、犯罪者とする。このことによって彼らは食料・農業生産を支配しようとしている。その支配を完成させるために彼らは種子が発芽できないようにするターミネーター技術まで作っている。
種子を守り、遺伝子組み換え企業にこれ以上、種子の特許、独占を許さないことが重要だ。伝統的種子を守り、農民の権利を守っていく必要がある。
[2015/12/08追記]
フィリピン最高裁は12月8日、フィリピンでの遺伝子組み換えナス(Btナス)の実験栽培の永久停止を命じました。遺伝子組み換えナスはフィリピンで栽培実験がなされており、MASIPAGなど市民組織の訴えに対して、その実験の停止が2013年5月に命じられていました。今回の判決は予防原則の立場から遺伝子組み換えナスの実験を取り返しの付かない生態系と民衆の健康へのダメージを与える可能性があるとして、その実験の永久停止の判断をしたものです。
さらにフィリピン最高裁はすべての新規の遺伝子組み換え作物の栽培・仕様・輸入などへの申請の停止を命じました。一方、日本は12月1日にまた新たな枯れ葉剤耐性ワタ2品種の承認を行い、日本の遺伝子組み換え承認数は世界で最大となっています。
[解説]
MASIPAGはフィリピンでの遺伝子組み換えトウモロコシの栽培がどのように農民に影響を与えたかについて、調査を行い、その結果を『フィリピンにおける遺伝子組み換えトウモロコシの社会経済的影響』というレポートにまとめている他、ビデオ・ドキュメンタリーも制作しています(2013年)。
このドキュメンタリーは遺伝子組み換えがもたらした厳しい現実を生々しい農民の声で語ったものです。ドキュメンタリーや調査報告書はフィリピン:遺伝子組み換えと闘う農民たちでご覧いただけます。ぜひご覧ください。
またMASIPAGは稲の種子バンクや従来の第3者認証による有機認証とは異なるユニークな参加型認証による有機農業を可能にする方法を創りだしており、IFOAM(国際有機農業運動連盟)によってもMASIPAGの参加型認証は有機認証として承認されています。この活動については近日中に紹介する予定です。
グローバルな食のシステムの危機:ネグロス・フード・サミット
ネグロス島をはじめとするフィリピンのバランゴンバナナ生産者、マスコバド糖生産者、マレーシア、パレスチナの市民組織、日本と韓国の生協関係者、ドイツやフランスのフェアトレード団体が参加して、今後の取り組みについて協議しました。 2つの基調報告と3つの特別報告によるこのネグロス・フード・サミットの全容をぜひご覧ください。
オルター・トレード・ジャパン政策室の印鑰智哉による2つめの基調報告です。
グローバルな食のシステムの危機
食のシステムの工業化に対して アグロエコロジカルな抵抗力の構築へ
ネグロス・フード・サミット基調報告2
印鑰 智哉(オルター・トレード・ジャパン政策室)
現在、私たちが直面しているグローバルな食のシステムの危機について問題提起をします。
現在の食に関わる危機について、3つの視点から考えていきたいと思います。
その3つとは気候変動、健康の危機、そして企業独占による危機です。この3つにより、私たちは前代未聞の大きな食の危機に立たされています。
気候変動を加速させる工業型農業
まず気候変動危機ですが、フィリピンはこの気候変動の影響を最も被る地域の1つと言われています。
この気候変動は何によって作られているのでしょうか? もちろん、言うまでもなく、石油や石炭などの化石燃料を燃やしてしまうことに大きな原因があるのは言うまでもないのですが、実は現在のように気候変動が厳しくなった大きな要素は食のシステムの工業化です。
食の生産から流通までのセクターで地球上に排出される温暖化効果ガスの44%〜57%が排出されているという指摘もあります。
しかし、農業は植物の光合成により大気中の二酸化炭素を吸収できる活動を行っているはずです。それでは、なぜ、農業関連セクターから温暖化効果ガスがもっとも排出されるようになってしまったのでしょうか?
そこには「緑の革命」つまり、石油や天然ガスから作った農薬や化学肥料を入れた農業の存在がまずあります。これらの化学物質を土壌に入れてしまうことで、本来、光合成によって大気中の二酸化炭素を土の中に取りこむ吸収源であるはずの土壌が逆に温暖化効果ガスの排出源に変わってしまいます。
この変化により土壌は崩壊し、雨や風により容易に流出してしまいます。今年は国際土壌年ですが、このままではあと60年で世界の土壌がなくなってしまうという懸念から国際的な取り組みが始まっています。
土地が痩せ、化学肥料を大量にいれなければ作物が取れなくなる。お金はますますかかり農民は土地を失って、さらに大規模なプランテーションに変わっていきます。
そしてグローバルな企業に食の生産が握られ、地球中のグローバルな輸送によって食料が運ばれる体制が作られ、その輸送の過程からも二酸化炭素が排出されます。
あとでもう一度、この問題に戻ってきますが、しかし、土壌は私たちの希望の源でもあります。現在の気候変動はこの土壌の力によって変えていくことができるからです。大気中の二酸化炭素を吸収できるのは地上の植物よりもこの土壌の方がはるかに大きく、土壌を回復することは気候変動を変えていく上でも決定的に重要です。
私たちが直面する危機の2番目に行きます。それは健康への脅威です。
食が作り出す健康の危機
今、米国でさまざまな慢性疾患が急激に増えています。
たとえば、糖尿病、腎臓や腸の病気、そしてがん、自閉症、認知症、パーキンソン症、アルツハイマー症、こうした病気が急激に90年代後半から増えています。
上図表2つはいずれもDr.Nancy Swansonによる
どのグラフも同じようなカーブを示します(ここでは右2つのみ)。すべてのグラフで棒グラフはそれぞれの病気の数の変化です。そして折れ線グラフは何を意味しているでしょうか? これらは米国での遺伝子組み換え大豆やトウモロコシの耕作されている割合とそれに使われるモンサントの農薬グリホサートの量を示しています。1996年に始まり、急激に増えています。
これらの病気と遺伝子組み換えの増え方は同じような傾向を示しています。これは偶然でしょうか? もちろん、これらのグラフからは因果関係は証明できません。
しかし、最近、多くの医学的な研究が行われ、遺伝子組み換えとこうした慢性疾患の急増には密接な関係がある可能性が高いことが指摘されています。何より、遺伝子組み換えのない食に変えることによって症状の改善が見られることが多数報告されており、遺伝子組み換えを食から排除すべき、という医師の数が増えています。
米国の健康被害以外のデータはないのか、ということが疑問になるかもしれません。このデータは自閉症や広汎性発達障害のデータと農薬使用量を示したものですが、日本と韓国での自閉症がひじょうに高いことがわかります。日本と韓国での農薬の使用に関係している可能性が高いと思われます。
さて、遺伝子組み換えはどう人びとの健康に問題を起こしうると考えられるのでしょうか?
遺伝子組み換えと健康被害
『遺伝子組み換えルーレット』より
遺伝子組み換えには主に2つの種類があり、その1つがBt毒素で害虫を殺すものです。Bt遺伝子組み換えは植物のすべての細胞でこのBt毒素を作り出すようになります。その毒素を食べた虫の腸には穴が開き、死んでしまいます。
遺伝子組み換え企業はBt毒素は哺乳類には安全だと言っていましたが、実際にそうではなく、哺乳類の腸にも小さな穴をあけ、消化される前の蛋白が血液中に入り込んでしまうために、アレルギーやさまざまな炎症が作られている可能性があります。自閉症、糖尿病、自己免疫疾患など多岐にわたります。
さらにもう1つの遺伝子組み換えの種類がこの除草剤耐性です。多くの遺伝子組み換え作物はモンサントのグリホサートをかけても枯れないように遺伝子組み換えされています。3月20日にWHOの外部研究機関である国際がん研究機関はモンサントの農薬、グリホサートを2Aの発ガン性物質に入れました。これは実験動物上での発ガン性が確認されたことを意味します。
グリホサートにより腸内細菌が壊され、慢性疾患の原因が作り出されます。グリホサートは神経毒として機能し、DNA損傷や内分泌撹乱など広汎な疾患をもたらす可能性が強く指摘されています。
さらにこの他に、GMOには抗生物質耐性菌を作り出す危険性が指摘されています。エボラ出血熱ではいったい何人の米国人が死んだでしょうか? 米国では毎年、抗生物質耐性菌に200万人が感染して、2万3000人が死亡していると米国政府が発表しています。これらはもちろんエボラ出血熱ではありません。この抗生物質耐性菌は抗生物質を大量に使う米国のファクトリー・ファーミングやその遺伝子組み換えの餌が原因になっている可能性があります。食のシステムがこうした病を作り出している可能性がひじょうに高いわけです。
一方、遺伝子組み換え農業は広大な地域に大きな被害をもたらしています。南米アルゼンチンでは遺伝子組み換え大豆の耕作によってガン患者や出生異常が続出し、特に子どもたちに多くの問題が起きています。皮膚などに大きな障害を持って生まれてくる子どもたち。あるいは複数の器官に大きな障害を持って生まれてくる子どもたちが出ています。まるでベトナム戦争のような現実が引き起こされています(El costo humano参照)。
今後危険をより増す遺伝子組み換え
さらに今後の遺伝子組み換えは危険がさらに増す可能性が高いことに大いに注意をよびかけたいと思います。米国で20年間近く、大量のグリホサートを噴霧し続けてきた結果、今では全米中でグリホサートの効かないスーパー雑草が増えて、グリホサートの使用量はそれと共にさらに増えました。その結果、2013年に米国環境保護庁(EPA)は主な作物のグリホサートの残留許容量を大豆で倍に、ニンジンは25倍へと大幅に引き上げました。
さらにグリホサートを増やすだけではもう効果がないとして、ベトナム戦争の枯れ葉剤作戦で使われた2,4-Dやジカンバなどの農薬をグリホサートにまぜて使うことが始まってしまいそうです。米国の遺伝子組み換え企業ダウ・ケミカル社はベトナム戦争で使用した2,4-Dをグリホサートに混ぜた農薬Enlist Duoに耐性のある遺伝子組み換えを開発しています。一方、モンサント社はジカンバというこれまた強力な農薬をグリホサートに混ぜた農薬に耐える遺伝子組み換えを開発しています。
これに対しては米国では50万人が反対の声を上げ、2年間にわたり承認を止めてきましたが、2014年9月以降、枯れ葉剤耐性遺伝子組み換え作物が次々に米国で承認されました。米国に続き、南米のブラジルやアルゼンチンでも相次いで承認されています。日本政府は米国政府に先んじてすでに3年前の2012年から承認してしまっています。韓国でも2014年に承認されています(2015年11月25日、米国環境保護庁はEnlist Duoの使用許可の取り消しを決めました。しかし、開発したダウ・ケミカル社は環境保護庁の決定は覆すことに自信を覗かせています)。
もし世界最大の輸入国である中国が承認すれば、本格的にこうしたさらに危険な遺伝子組み換え作物が大規模に作られるだろうと予想されています。栽培されれば他の遺伝子組み換えと混ざって輸入されますので、どれが枯れ葉剤耐性か知ることはできません。知らない間に胃の中に枯れ葉剤が入っていきます。
この問題はアジアの多くの国にとって大きな問題です。
フィリピンでも、インドネシアでも、日本でも、韓国でも、大豆は南北アメリカ大陸で作られる遺伝子組み換えのものに頼っているからです。右の図(クリックで拡大します)を見ていただければわかるように、同じ傾向が見られます。
こうした状況をどう変えていくか、私たちは共通の課題を抱えています。
遺伝子組み換えは工業型農業の氷山の一角
さて、こうした気候変動や健康被害、生態系破壊をもたらすものがこうした工業型農業であることがわかると思います。そして、その工業型農業においてはGMOの問題は氷山の一角であり、その裾野ではさまざまな農薬や化学肥料に頼った農業が展開されており、多くの人びとの健康を奪い、また生態系を破壊しています。遺伝子組み換えもモンサントが自分の農薬を特許が切れても独占的に売り続けるために開発したと言われます。この工業型農業の構造を超えていかなければならないと思います。
しかし、農薬企業は国際的な開発機関や政府援助を巧みに利用しながら、奥地の農村にもネットワークを張り巡らせています。生態系の力が弱って、病気が発生した場合など、「薬」としてすぐに農民に農薬を買わせ、このネットワークにとらえてしまいます。
企業独占による食の危機とそれに対抗する食の運動
そして、私たちが直面する危機として最後に指摘したい問題が大企業による食のシステムの独占です。種子や農薬、それから流通網まで現在、巨大な企業の手に握られています。TPPや自由貿易協定を利用して、遺伝子組み換え企業は農民の種子の権利を奪い、毎年、種子企業から買わなければ農業ができないような法制度を世界各国政府に強制しつつあります。
それでは私たちはこのシステムから逃げることはできないのでしょうか?
それを可能にするのに必要な要素は2つあると思います。1つは農薬や化学肥料に頼らず、生態系の力を活用するアグロエコロジーであり、もう1つは生産者と消費者を直結する産直であり、生協運動です。消費者と生産者がいっしょに動く産直が行われて、こうした企業型の食のシステムに対して対抗力を作ることができます。
しかし、そうした動きはどうすれば作れるでしょうか?
日本でもアジアのどの地域でもたぶん、共通していると思われることの1つはほとんどの消費者は食の危険について、ほとんど情報を持っていないということです。マスコミは大資本の影響下にあるため、食の危険をまず語ってくれません。
そうしたことを知らない消費者にとっては安く買えるものが近くにあれば買ってしまいます。それが続く限り、私たちにできることはほとんどありません。
この事態を変える大きな力は情報です。市民に、消費者であれ生産者であれ、食の危険を共有することだと思います。危険を知って、毒と知っていて食べる人はいません。知らないから食べてしまうのです。
ですからその危険を知らせることがこのシステムから逃れ、人びとの食料主権を打ち立てる上で不可欠な第一歩となります。
食のオルタナティブとしてのアグロエコロジー運動
先ほど言いましたアグロエコロジーは農薬や化学肥料を使わずに生態系の力を活用する科学であり、農業実践であり、社会運動です。農業生産としては農薬や化学肥料を使った農業に対して劣らない生産力があると評価され、キューバやブラジル、そしてフランスやインドなどですでに政府の政策に取り入れられています。FAOも推進を決め、アグロエコロジーのアジアでの地域会議は今月11月24日、25日にバンコクで開かれます。
アグロエコロジーでは
- 農業実践、社会運動/政策実現、研究が一体化
- 生産者の主体性を重視する
- エネルギー代謝を重視する
- 化学肥料や農薬も入れない(減らす)→土壌のエコシステムを復活させる
- 地域での栄養循環の必要、消費者と結びついた食のシステムを作り出す動き
が重視されます。
工業的農業によって壊された食のシステム、社会を取り戻し、作り直すものがアグロエコロジーということが言えます。
その1つの実践例を紹介します。
中米ベリーズでのカカオ生産のケースです。
毎年、ベリーズのカカオ生産者はカカオの収量が減り、病虫害にも悩まされ、それまで使っていなかった農薬を使い始めましたが、そうすると赤字が大きくなりやっていけなくなります。そこに支援者がバイオ炭を活用する方法を提案します。地域にある廃材を使って炭を作り、土壌に入れます。
炭は土壌での細菌の住処となり、雨にも流されにくくなります。その細菌はカカオの木にミネラルを提供し、カカオの木はその細菌に光合成の力で根っこから炭水化物のジュースを細菌にプレゼントします。この交換によって土壌内の有機物が育ち、カカオの健康は回復していきます。
その結果、土壌に水分も蓄えられ、干ばつにも強く、水害にも強く、しかもCO2を閉じ込めることができます。Biochar is ‘carbon gold’ for Belize’s cacao farmers(Ecologist)
現在、こうしたバイオ炭を使ったり、さまざまな方法を組み合わせて行うカーボン・ファーミングが注目されています。温暖化効果ガスをいくらこれから削減したところで、すでに排出してしまったガスは気候を激変させ、生態系を破壊し続けます。しかし、こうしたカーボン・ファーミングを世界レベルで実行すればわずか5年で大気中の温暖化効果ガスを安全なレベルで土壌に吸収させることができると研究者は指摘します。
そして同時に、土壌は水害や日照りから守ることができるようになります。病虫害にも強く、さらに生産性も上がることが期待できます。
Soil Solutions to Climate Problems 別ページで拡大して閲覧
現在の工業化された農業によって、私たちは前代未聞の危機の中にあります。生態系が壊れ、病気が発生し、しかも巨大企業によって小規模生産者が土地から追い出されています。
この危機の中で生き抜くためには、食のオルタナティブを求める地域的・国際的な運動が必要となります。地域の生産者と消費者を守る地域の安全な食を生産し消費するネットワークそして遺伝子組み換え、大規模工業的プランテーションに反対する国際的な連携です。
こうした動きを作っていく鍵は食の危機をしっかりと知らせていくです。危険を知らなければ毒を毒とも知らずに人びとはそれを食べ、病気になっていきます。そうさせない、食のオルタナティブをともに作り出す運動をネグロスの地域の人びとをはじめ、世界のさまざまな人びととの協力を得て、国境を越えて、進めていこうではありませんか?
最後に2つのことを強調したいと思います。
この運動を進めていく上で不可欠な要素です。それはこの工業型農業で一番犠牲になってきている人たちであり、またこの人たちなしには先に行くことはできないと思います。
それはまず、女性です。女性は命を育むアグロエコロジーの中心的役割を担います。アグロエコロジーはフェミニズムの種まきとも言われます。
そして、子どもたちです。子どもたちの輝く未来のために、民衆の命を生かす食のシステムを作り出していきましょう。
危機の中のネグロス:ネグロス・フード・サミット
ネグロス島をはじめとするフィリピンのバランゴンバナナ生産者、マスコバド糖生産者、マレーシア、パレスチナの市民組織、日本と韓国の生協関係者、ドイツやフランスのフェアトレード団体が参加して、今後の取り組みについて協議しました。
2つの基調報告と3つの特別報告によるこのネグロス・フード・サミットの全容をぜひご覧ください。
まずはオルター・トレード社代表のヒルダ・S・カドヤによる基調報告です。
危機の中のネグロス:ネグロス・フード・サミット基調報告1
ヒルダ・S・カドヤ(オルター・トレード社代表)
終わったばかりのマスカラ・フェスティバルでのほほえみのマスクや道路上でのあふれかえるパーティから殺到する交通や急増する建設まで、ブームを迎えるバコロド市を訪れる人は、西ネグロス地方やこのネグロス島全体が今、食料自給や食の安全の危機に瀕していることを想像することはできないだろう。
ネグロスの単一作物経済はその食料自給の最大の脅威であり続けている。一見、頑強な経済の利益に見える中心街のショッピングモールや商業複合地域、ビジネス・アウトソーシング企業や地方での多国籍企業の農地への進出はネグロス人の食の安全を脅かす。
サトウキビの単一栽培に依拠した経済
フィリピンの砂糖鉢とも賞されるネグロスは歴史的に国の半分以上の砂糖を生産している。過去2年収穫年において、ネグロスは全国の61.4%の砂糖を生産してきた。42万6328ヘクタールの半分を少し超える(51.22%)土地にネグロスでのサトウキビが植えられている(2012-2013収穫年)。ネグロスの約70万ヘクタールの使用可能な土地で22万ヘクタールがサトウキビに使われている。
国の27のサトウキビ製糖所のうち、12はネグロスにある。この島には国に13あるうちの6つの砂糖精製工場もあり、8つあるバイオエタノール製造者のうち4が、21あるサトウキビをベースにしたバイオマス発電所の12がネグロスにある。
ASEAN経済統合によって、砂糖などの安い農業製品が形ばかりの関税だけで輸入できるようになったため、政府はあわてて、コスト効果の高い生産を促進するための手段の実行に追われることになった。
サトウキビ産業は、グローバルにその産業の競争力を持たせるための法律の通過のためにロビー活動を行った。これらの法律はバイオエタノールのためのバイオ燃料法、発電のための再生可能エネルギー、新たに成立したサトウキビ産業発展法(SIDA)である。
最初の2つの法により、伝統的砂糖と糖蜜からバイオエタノールや発電向けに作物の多様な活用をする道が開けた。もう一方のSIDAはインフラ支援、製糖所に集中した包括的農業産業複合を作るための枠組みと提供すると同時に、規模の経済を作るために農地改革受益者や周辺化された農民たちの小さな農場をプランテーション規模のブロック農場に再編するものである。
生産効率を上げることを目指して(もっと多くのサトウキビを砂糖、糖蜜、バイオエタノール、そして発電のために)、SIDAの小規模農地の経済スケールと呼ばれるサイズに土地合併の推進によって「ランド・リターン」という行為(ランド・リフォーム、農地改革の言葉遊び)が正当化されてしまい、農地改革受益者たちの間の状況を悪化させている。
西ネグロス地方政府に委託された農地改革受益者たちに関する2007年の調査によると、59%のみが実際に自分たちの土地を耕作しているに過ぎないことが明らかになった。41%は元の地主に土地を貸し戻していた。その調査の8年後、「ランド・リターン」では農地改革省のスタッフや土地改革推進のはずのNGO役員たちが実際には農地改革受益者と地主の間のリースの期間交渉での仲介人となっていることがより頻繁となっていると考えられる明白な事例も見つかっている。
生産多様化と生産の規模の経済推進により、農地改革受益者の小さな農場への攻撃的な併合やサトウキビ地域の拡大が行われることになった。これによって、農地改革受益者たちに政府が与えた土地が農地改革受益者から効果的に取り上げられ、農地改革受益者たちは今や地主たちの単なる労働者という地位に落とされることになる。そしてその地主は今や農地価格受益者たちの土地の借地人となっている。
多国籍企業の進出と農地の大規模転換
サトウキビ地域の拡大による脅威が十分でないかのように、以前はミンダナオ島だけでバナナやパイナップルのプランテーションを操業していたドールのような多国籍企業はネグロスにプランテーションを広げることを考えるようになった。なぜなら、ミンダナオが今や台風の通り道となっているが、ネグロスは比較的台風がないからである。
ドールは西ネグロスのヒママイランにパイロットバナナ・プランテーションを開いた。米国系多国籍企業がヒママイランにパーム・オイル・プランテーションを同じ年に始めることを計画したが、教会グループがその登場に反対した。その理由はそのプランテーションが化学物質に汚染された実践を持ち込むことによって農民や環境の危険への不利益が生じるからである。ムルシアではアグリビジネスがパイナップルを輸出してもう2、3年がたつ。
食料生産は農地を商業用、住居用、エコツーリズム用、太陽光や地熱の発電用地へと大規模転換をすることの過酷な競争にさらされることになった。
Ayala North Pointはタリサイの200ヘクタールの農地をすでに転換した。 Megaworldは今年最初に350億ペソを次の10年に投資し、バコロド市とタリサイ市に2つの独立して統合した84ヘクタールの都市商業地域を開発することを発表した。
島の他の地区では森林地域がエコツーリズム地に転換されており、サトウキビ農地は分譲地、公園やその他の商業目的に転換されている。
化石燃料をコントロールする大規模ビジネスは再生可能エネルギーに進出してきており、ネグロスで太陽光ファームを建設している。 San Carlos Solar Energyはサンカルロス市に実質的に45MWのソーラー・ファームを建設し終わっており、ラカルロータに32MWのソーラー・ファームを、マナプラで48MWのソーラー・ファームの提案もしている。1MWの太陽エネルギーを得るためには1ヘクタールが必要とされるので、125ヘクタールの農地が我々の食料生産から1つの企業だけで取られてしまうことになる。
ネグロスの残された森のあるシレイ市のパタグ・バランガイではエネルギー開発企業が地熱発電開発の活動のための村全体におよぶ商人を得るために工作を行っている。この企業はバゴー・シティのマイルム・バランガイで計画した40MWの地熱発電に失敗し、その開発と撤退の際に何ヘクタールかの森林を破壊した同じ企業なのだ。
食料生産(米、野菜、肉、乳製品など)に使われていた土地が非農業的使用と同様にサトウキビや多国籍企業の拡大に使われる結果、ネグロスはますます他の地域や他の国からの食料の輸入に頼らざるをえなくなる。
さらに悪いことにネグロスの土地はプランテーション規模の農場で大量使用される化学的殺虫剤、除草剤、肥料がまかれ、その結果、土壌が劣化し、有機農業や化学物質を使わない農法を実践している周辺の農場を汚染する。
全国規模での食料生産の減少の影響を見れば、フィリピンは2016年の前半だけで150万メートリック・トンの米の輸入を見込んでいる。これはエルニーニョの悪影響で、12月に始まり、2月まで続く。その影響は2016年6月まで続くと予想されている。2015年通年すべてで輸入される米の見込みは190万メートリック・トンに過ぎない。
この2016年の前半期の150万メートリックトンの予測はアルセニオ・バリサカン社会経済計画書記官によって10月半ば、ランド台風がルソンの米作地帯を壊滅させる前に発表された。この台風による被害を加えると、この国は150万メートリック・トンよりももっと多くを来年の前半だけで輸入せざるをえなくなるだろう。
食習慣の変化による食のシステムのコントロール
ネグロスにおける食の危機のもう1つの側面は食の自給問題と経済成長に関わる問題である。
都市開発者たちはショッピングモールの存在を地域での経済成長と関連付けるだろう。投資家で、投資にリターンがなければ誰も自分の金を危機にさらそうとは思わない。
ロビンソンが1997年に最初のモールを開いてから、無数の商業複合地域やスーパーマーケットのチェーンが続いた。Gaisano、SM、888、Syala North Point、Puregold、セブンイレブン、City Square、City Mallなどである。彼らは市の中心部でビジネスすることだけにあきたらず、経済活動の画期のある遠い地域にも浸透しようとしている。
これらのビジネスはネグロス人に何千もの食を提供していることは事実である。その一方で、国内、国際フランチャイズが入り込むことで、地域で生産されていた食や他の商品を地域で売る手段が取って代わられてしまいなくなってしまった。
彼らはあたかも地域で生産されたように見せるが、彼らのショップは単に輸入された商品、化学物質で汚染された食品、あるいは遺伝子組み換えの食品の売り手であり、推奨者なのだ。
ニンニク、タマネギ、野菜、冷凍チキンや豚肉などのアグリビジネス製品がモールだけでなく、地域の市場にもすでに広まってしまっている。こうして入り込む製品は小農民の生計を破壊する。そして消費者の健康に脅威を与える。
ネグロスの消費者の購買力の上昇はこれらの投資家たちがバコロドやネグロスにモールやスーパーマーケットのチェーンを建設する動機となったが、地域で生産された食が売られている地域の生鮮市場ではなく、エアコンが効いて、よりきれいで、より整えられたモールで食を買おうとするように消費者が駆り立てられるコンビニエンスなライフスタイルを作り出した。
消費者の購買力はビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)企業のバコロドへの参入を強化した。ネグロス人の英語能力や人への気遣いや明るい性格もあって、20社近いBPO企業がバコロドに入ってきている。Convergys, TelePerformance, Panasiatic Call Center, Transcom, Teletech, Focus Pacific Communication, Alliance Call Centerそして、Ubiquity Global Servicesなどである。
バコロド・西ネグロス情報技術連合代表であるバコロド顧問官の Jocelle Batapa Sigueによると、BPO産業は全国では10から13パーセントの成長だが、西ネグロスでは100%の成長となっており、2010年には1万人、2014年には2万人の雇用者がいる。
資金的な権限と結びついた仕事のプレッシャーもあり、BPOの労働者たちはコールセンターのように冷房が効いて、便利に買い物ができ、リクレーション商品もあり、早く、出来合の食が得られるモールに浸ることになりがちである。しかし、そこでの食は輸入され多くの場合汚染されている。
彼らのライフスタイルや食習慣が変わってしまったことで、安全ではない食の消費が増えることになる。こうして地域の市場、食を扱う店で地域で育てられた食を消費することがなくなってしまう。
小規模農民にとっての脅威
ネグロスの農民はすべてのアングルからの脅威に包囲されている。
サトウキビ産業と多国籍企業の拡大、非農業目的への急速で大量の土地の転換、農民を土地から追い出すこと、人びとと同様彼らの農場を化学物質で汚染すること
プランテーションの拡大による森林の消失、地熱開発と製糖所や蒸留工場やその他の原因による汚染は気候変動をもっと激しくする。
最近のフィリピン気象地理天文サービス局(PAGASA)の発表では、ネグロスは乾燥の時期(3ヶ月連続で通常よりも低い降雨)を2015年末まで迎え、4月までは干ばつ(3ヶ月連続で大幅に例年を下回る降雨)の時期を迎える。
PAGASAはまた2015年12月までに2から5の熱帯サイクロンが、2016年6月までに4から8の熱帯サイクロンが発達あるいはフィリピン関連地域に入るとも予報している。
アグリビジネスの製品はモールやスーパーマーケットに潜り込むだけでなく、地域の生鮮市場にも潜り込み、地域の農民が作った産物に置き換わっている。
最近のネグロスの1つの地域への再編はこの国の有機農業の中心になるという島の目的を早く達成することを約束するものだ。10年前に行われた東ネグロス州と西ネグロス州政府による有機農業の島ネグロスの宣言にも関わらず、サトウキビ産業は化学物質の投入物に大きく依存したままで、小さな野菜と果物の農地が有機農業へと転換されたにすぎない。
しかも、政府の有機農業計画は選別的で資金や技術サポートは名前のある有力者か有機を儲けのチャンスと考えている企業に行ってしまっている。
古い家族が資源を支配し、政府を統轄するネグロスでは、農地改革受益者や周辺化された農民たちが政府が始めた有機農業支援計画で機会を得ることはほとんど考えられない。
同じシナリオが再生可能エネルギー市場にも当てはまる。ソーラーファームは島中に芽生えているが、再生エネルギー法の利益を享受しているのはわずかな大手だけだ。 太陽光発電の1KWHrあたり9.68ペソの固定価格保証買取制度は以前、周辺化された消費者には禁止されたままだ。食のためのお金は高い電気代の支払いにいってしまうが、それは小農民の活用できる再生エネルギーを活用することの必要性が強調されていることを意味する。
消費者と生産者の安全な食への連帯運動へのよびかけ
ネグロスはサトウキビと多国籍企業の侵略によるシナリオに直面している。そして、大規模農場転換、米や野菜、肉や乳製品といった地域の主食の生産の最低限の土地もさらに減らされるという危機に瀕している。
安全で国内で供給された食品が少なくなればなるほど、汚染され、有害な輸入された食への依存が高まる。そして、安全な化学物質の入らない、地域で生産された有機食が得られなくなる。
購買力の上昇によってもたらされたが食習慣の変化は、輸入された出来合の食がモールやコンビニで提供されることにより、消費者の即時でしかも長期的な健康の影響を与える。
もし何もなされないのであればネグロスは多国籍企業によってコントロールされた食のチェーンによってますます輸入された安全でない食の捨てる場所となるだろう。
安全な食を生産する周辺化された農民たちは経済的に生産することが困難になっていく。そして、大きなアグリビジネスや非農業企業に飲み込まれてしまう。
安全でない食が標準になり、ネグロスの子どもたちは有毒な化学物質や予期できない食の中の遺伝子組み換えによって苦しめられることになってしまう。
この文脈こそ、ATCは食料保障、食の安全、食料主権を獲得するために向けた発展に乗り出す。
このゴールを具体化するために、オルター・トレード社(ATC)は持続的アグロエコロジー・ビレッジ(SAVE)を作ることによる有機農法に取り組むことを生産者によびかける。
ATCは同様に消費者にも私たちの家族への安全な食を求める運動を作ることを共によびかける。オルター・トレード職員クレジット組合の動きは安全な食の生産と消費を促進させる正しい方向に向けられたものである。
それぞれのニーズをサポートする生産者と消費者の連帯を通じてこそ、私たちは食料保障と食の安全、そして私たちの家族とこれから来る世代のための食料主権を確保することができるのだ。
『遺伝子組み換えルーレット—私たちの生命のギャンブル』完成!
米国で長く遺伝子組み換え企業の批判を先頭を切って続けているジェフリー・M・スミス氏が監督して制作したドキュメンタリー映画『遺伝子組み換えルーレット−私たちの生命(いのち)のギャンブル』をぜひ日本語で見られるようにしよう、ということでアジア太平洋資料センター(PARC)のよびかけに応じて7月20日から始まったクラウドファンディング、おかげさまで当初の130万円を100万円以上大幅に上回る金額が集まり、このたび、日本語版DVDが完成しました。
ご協力をいただいたすべてのみなさまに感謝を申し上げます。
このドキュメンタリー映画は遺伝子組み換えがもたらす健康被害について、医療の現場(特に子どもたち)や家畜の病気について専門家、関係者の証言、そして数々の科学的研究結果を集めています。そして健康被害だけ警告するのではなく、どのようにそれから回復可能なのかを示す映画となっており、アレルギーや自閉症の症状に苦しむ子どもたちが回復していく、語る親たちの表情が見る者に勇気を与えます。
映画で登場する米国の医師たちはすでに遺伝子組み換えとの関連の考えられる症例をいくつも扱っており、その事実に驚くとともに、まずはその事実を社会に知らせることから始めなければならないと考えております。
この遺伝子組み換えによる健康被害問題は米国だけの問題ではなく、米国からの食料輸入に多くを頼る日本にとっても対岸の火事ではすまないものですが、また日本ばかりでなく、実は韓国や、フィリピン、インドネシアなどの国々でも同じ問題が存在していることと考えられます。とりわけ大豆は米大陸からの輸入に依存し、そのほとんどが遺伝子組み換えと考えられます。
フィリピンでは遺伝子組み換えトウモロコシの栽培が10年間にわたって行われ、深刻な問題になっています。オルター・トレード・ジャパン(ATJ)ではフィリピンの科学者と農民の連帯組織であるMASIPAGが制作した遺伝子組み換えトウモロコシがいかにフィリピン農民を苦しめているかを扱ったドキュメンタリーに字幕をつけて2014年2月に公開しています。 フィリピン:遺伝子組み換えと闘う農民たち
今年からはベトナムでの遺伝子組み換え作物の耕作が開始され、バングラデシュでは昨年始まったばかりの遺伝子組み換えナス(Btナス)が2年連続の凶作に終わったといいます。インドでは遺伝子組み換えカラシが栽培されようとしており、さらには遺伝子組み換えバナナの導入計画が検討されています。遺伝子組み換えコメであるゴールデン・ライスについては昨年、その承認に向けた宣伝キャラバンがフィリピンをかけめぐりました。
しかし、残念なことにアジアの生産者や消費者のもとにも、日本の市民と同様、遺伝子組み換えによる被害についてはまだ十分な情報がないというのが現状です。マスコミは語らず、農業指導者や仲介業者ががあたかも農民の問題を解決する技術であるかのような宣伝で導入されていってしまう危惧が高くなっています。こうした中で、この遺伝子組み換え問題をアジアの人びととともに考え、それへのオルタナティブを見出していかなければならないと考えております。
そして、このドキュメンタリーでも触れられますが、いよいよベトナム戦争で使われた枯れ葉剤に耐性のある遺伝子組み換えが生産間近といわれています。米国環境保護庁はWHOが発ガン性を認めたグリホサートの残留許容量を大幅(大豆などは2倍、ニンジンは25倍)に引き上げました(2013年決定、2014年実施)。遺伝子組み換えの健康被害の問題は今後、さらに深刻になる可能性があることにはやはり強く警鐘をならさざるをえません。
米国では今回のドキュメンタリー映画などが多くの人びとに見られた結果、遺伝子組み換え食品を規制する声は高まりました。その結果、30の州で遺伝子組み換え食品表示義務を求める動きとなりました。しかし、遺伝子組み換え企業、食品メジャー企業はそれに対して、州や自治体の遺伝子組み換えを規制する権限を奪う通称DARK法案(米国人の知る権利を否定する法案)、HR1599を通そうとしており、すでに下院を通過し、上院での公聴会が開かれています。
この事態に対して、このドキュメンタリー映画の監督であるジェフリー・M・スミス氏は表示義務を単なる「知る権利」としてキャンペーンするだけでなく、GMOによる健康被害こそ市民にしっかり伝えて、食の危険を知らせていかなければならないというメッセージを発表しています。まさにこの映画のコンセプトが今の米国で焦点となっているのです(DARK 法案、遺伝子組み換え食品表示義務化運動へのジェフリー・M・スミス氏からのメッセージ YouTube)
こうした事態に対して、日本やアジアで健康被害に警鐘を鳴らし、オルタナティブな食のシステムを消費者に提案していくことの重要性はかつてなく高まっていると思います。ATJでは今後ともアジアなどでの遺伝子組み換え問題の状況や健康被害問題などの問題については継続的に情報を発信していく予定です。
ぜひこの映画を活用して、まずは自分たちの食を変えていくことからはじめていきませんか?
この映画の公式サイトも作りました。上映会のお知らせフォームもあります。そうやって一人でも多くの人たちに遺伝子組み換え食品の問題を知らせていく運動を広げていければと考えます。
ぜひよろしくお願いいたします。
『遺伝子組み換えルーレットー私たちの生命(いのち)のギャンブル』公式サイト
http://geneticroulette.net/
DVDのお求め(アジア太平洋資料センターのサイトに飛びます)
http://www.parc-jp.org/video/sakuhin/gmo.html
セミナー報告書『バランゴン民衆交易の今と未来』
6月20日(土)に開催した公開セミナーの報告書『バランゴン民衆交易の今と未来~バランゴンバナナの民衆交易はどこまで生産者の自立に寄与できるか フィリピン産地調査報告~』が出来上がりました。
報告書には、ATJが3名の研究者に委託して実施したバランゴンバナナ産地の実地調査が収録されています。
〇調査報告①
関根佳恵氏(愛知学院大学)「未来をつむぐバランゴンバナナの民衆交易~コタバト州マキララ町を事例として」(調査地:ミンダナオ島マキララ)
〇調査報告②
石井正子氏(立教大学)「ミンダナオ島の先住民族がバラゴンバナナを売ること、とは?」(調査地:ミンダナオ島レイクセブ)
〇調査報告③
市橋秀夫氏(埼玉大学)「ネグロス島バナナ栽培零細農民と『自立』論」(調査地:ネグロス島東ネグロス州)
調査員からの貴重な調査結果を受けて、今後のバランゴン民衆交易事業の方向性に関してATJのまとめも掲載しています。報告書(A4サイズ、32ページ)はご自由にダウンロードできますので、ぜひ、ご一読ください。
政策室 小林和夫
【緊急アピール】イスラエルによる、パレスチナ人に対するテロ行為を止めて下さい!
パレスチナのオリーブオイルの出荷団体であるパレスチナ農業開発センター(UAWC)が緊急声明を出しました。UAWCはATJを通してオリーブオイルを日本に出荷する団体であると同時に農民の支援活動を行っています。
日本ではあまり報道されていませんが、10月に入ってヨルダン川西岸地区と東エルサレムでパレスチナ人とイスラエル人の間の流血事件が多発しています。この1か月間だけで50人を超えるパレスチナ人が死亡しています。これは、イスラエルによる長年の占領と抑圧、エスカレートする人権侵害や暴力がもたらした結果と言えます。
UAWCは声明の中で、イスラエルの占領と暴力行使を止めるよう国際社会に行動を起こすようアピールしています。
以下、声明文です。
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世界中の人々への緊急声明
イスラエルによる、パレスチナ人に対するテロ行為を止めて下さい!
現在、聖地エルサレムにおいて、イスラエル人入植者によるパレスチナ人に対する攻撃が、毎日のように続いています。その他にも、イスラエル軍による不当な逮捕や拘留に加え、パレスチナ人に対する組織的な拷問や入植者による犯罪が後を絶ちません。卑近な例としては、2015年7月31日、ナブルス南部のDuma村において、イスラエル入植者がDawabsheh一家の自宅を焼き討ちし、1歳6か月になる男の子が亡くなり、両親と4歳になる兄も、大きな火傷を負いました(両親はその後死亡)。イスラエルによる実質的な占領下にあるパレスチナ自治区において、イスラエルによるこのような継続的な犯罪行為が行われていることを、我々は断固拒否します。
パレスチナ自治区の農村では土地の収奪や入植地の拡大など、イスラエルの入植と占領行為も一向に終わりを迎える気配がありません。それは、パレスチナの経済を窒息させ、パレスチナ自治政府とイスラエルとの和平に向けた交渉を閉ざし、パレスチナの主権に対するイスラエルの占領と支配を強めることにしかなり得ません。イスラエルによるこのようなすべての暴力が、ヨルダン川西岸地区、エルサレム、ガザ地区といった占領下にあるパレスチナにおいて、怒りを表現する手段としてデモを起こさせることになります。そしてデモに対し、我々がアラブ系パレスチナ人であるという理由だけで、全世界の人々が見ている前で、イスラエル軍は抵抗する人々を残虐に殺害しているのです。
2015年10月以降、イスラエル軍は明らかにデモに参加するパレスチナ市民への暴力の行使を強めました。そこには、非武装の投石者には決して使用してはならないと国際法で決められている武器や兵器が使用されているのです。
10月に入り、ヨルダン川西岸地区とガザ地区だけで、イスラエル人により殺害されたパレスチナ市民は32人に上ります。その中には、血も涙もないイスラエル入植者の手によって命を奪われた7名の子どもが含まれます。殺された人々の多くは、上半身に攻撃を受けていることがわかっています。また、それ以外にも、200人の子どもと40人の女性を含む1,500人以上が実弾やゴム被覆金属弾を受けて負傷し、さらに150人がイスラエル軍や入植者によって暴行されています。さらに、エルサレム、ラマラ、ナブルス、ヘブロン、トゥルカレム、カルキリヤなどの街で、少なくとも800人以上が不当な逮捕をされており、しかもその半数はまだ子どもなのです。
イスラエル入植者による暴力・破壊行為は、人だけでなく、農地に対しても執拗に続けられています。最近でも、ナブルス県にあるブリン村やハワラ村では、数十ドゥナム(1ドゥナムは約1ヘクタール。もともとは大人1名が一日に耕すことのできる広さから来たと言われる単位)の土地が焼き払われました。昨年エルサレムで起きたMohammed Abu Khudair少年が生きたまま火をつけられて殺害された事件を模倣し、イスラエル入植者がエルサレムの学校に通う生徒の殺害を企てるという事件も起きています。
イスラエルの占領行為とそれに加担する入植者たちは、(美しいはずの)パレスチナの街並みや通りを死の風景に塗り替えてしまいました。我々パレスチナ人は、絶えず銃撃による死の恐怖-それも、武装したイスラエル入植者とイスラエル軍狙撃部隊の双方による-に晒されているのです。それにも関わらず、イスラエルの多くのマスコミは現実を無視し、シオニストの作った「イスラエル人が(パレスチナ人のテロ行為による)被害者である」というイメージにすり替えた報道を、意図的に繰り返しています。
その例の一つが、東エルサレム近郊のAl Issawiyaに住んでいた19歳のFadi Allounの事件です。これは、「彼が入植者をナイフで刺そうとしていた」というイスラエル側の主張により、「彼を追いかけ始めたイスラエル警察から逃げている最中に」射殺されたと報じられました。しかし、残った映像には、彼がナイフは持っておらず、イスラエル入植者に対して攻撃をしようとしていた証拠は認められなかったのです。
世界中の全ての人々は、パレスチナ人が殺されている現状に対し、沈黙したままではいないでしょう。負傷して倒れている13歳の少年Ahmed Manasrahに対し、罵声を浴びせ、「殺せ」と叫ぶイスラエル入植者や警察・軍隊の様子は、彼らがいかに非人道的な扱いをしているかを端的に物語っています。さらに、到着した(イスラエルの)救急隊員が必要な応急処置も施さず、他の入植者に応じて「死ね、死ね」と声を上げる様子に至っては、最悪の人権侵害と言う他ありません。「負傷した子どもの痛み」は、世界中の人々の良心を揺さぶり、イスラエルの組織的なテロを終結させることになるでしょう。
このように、耳を疑いたくなるような暴挙は枚挙に暇が無く、皆さんがこの文章を読んでいる間にも、次から次へとパレスチナ人が負傷し、殺されています。だからこそ、UAWCは全世界の人々に向けて、緊急に次の点を要請します。
- 国際社会の沈黙を破り、我々パレスチナ人を守るための行動を起こし、イスラエルの非道な占領を終わらせるよう、圧力をかけて下さい。
- 皆様の国において社会的な運動を起こし、我々に対するイスラエルの暴力が止められるよう、イスラエル大使館に対してデモを行って下さい。
- イスラエルの占領を支持せず、入植地で作られた製品の不買運動や、イスラエルの不当な政策を支援するような外交をやめて下さい。
どうか心よりの連帯をお願い致します。
パレスチナ農業開発センター(UAWC)[/box]
ネグロスに新たな“危機”が迫っている!―ネグロス・サミットを開催します
1985年の世界的砂糖価格の暴落によって始まったネグロス島の「砂糖産業の崩壊」は、底辺のひとびとすべてが飢餓と貧困にさらされ苦しむという大きな“危機”を発生させました。
あれから28年、いまネグロスは、再び苦難の危機を迎えるかもしれない瀬戸際に立たされています。
2015年、アセアン自由貿易協定により砂糖の関税が5%まで引き下げられます。「自由貿易」が事実化され、タイの「安い」砂糖がドーンとフィリピン市場に流入してくるはずです。この展開に怖れを抱いた農園主たちはサトウキビ生産に見切りを付け、はやばやと農園労働者を解雇しようと考え始めています。また、ミンダナオでバナナを生産しているドールなどのアグリビジネスたちが、これらの農園主の不安を見越して大規模な農地のリースや買い取りなどの話を持ちかけ、すでにある地域ではパイナップルの大規模生産が始まっています。新たな農薬汚染が心配されます。
ネグロス島は前の州知事が「GMOフリーの島」宣言を行っています。ところが水面下では、積極的にアグリビジネスを迎え入れるために、この「宣言」を反古にする話が持ち上がっています。
これまで、失業した農園労働者に仕事を産みだし、零細な開拓農民に新しい現金収入の道を開き、地主や企業に支配されない民衆のための地域経済を作り出した「バランゴンバナナ」が、これから大量の農薬やGMO作物に取り囲まれるかもしれないという悪夢のような“危機”が迫っています。
勿論、“汚染”されるのはバランゴンバナナだけではありません。ネグロス島に暮らす市民、農民、そして子どもたちの身体と健康がおびやかされるのです。
きたる11月6日には「互恵のためのアジア民衆基金(APF)」の年次社員総会がネグロス島バコロド市で開催されます。
この機会に、ネグロスのATC社と日本のATJ社は共同で、この危機に対して希望にあふれる前向きの対策を打ち立てるために、日本や韓国、アジアから来島するたくさんのひとびとの参加を得て、その知恵と経験と技術をわかちあえる「討論の場」をつくりたいと考えました。
それが「ネグロス・サミット2015」です!
この「討論の場」で、反TPPの経験や知恵、遺伝子組み換え反対運動の成果や対抗方法の発表、「身土不二」の国産農業振興の哲学などを、ぜひネグロスの農民や市民、アジアからのAPF参加者たちとわかちあっていきたいと思います。
Alter Trade Japan社長 上田 誠
Alter Trade Corporation社長 ヒルダ・カドゥヤ
ネグロス・サミット号外その1
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『遺伝子組み換えルーレット−私たちの生命のギャンブル』日本語版実現へ
少し前になりますが、2013年7月4日、米国独立記念日に米国の母親たちのグループ(Moms Across America)が全国172カ所で遺伝子組み換えに反対し、遺伝子組み換え食品表示を求めるパレードを行いました。
遺伝子組み換え作物の耕作が始まったのは1996年。それ以来、20年近くがたった米国では遺伝子組み換え食品がもたらす健康被害についてとても具体的に語られ始めています。それはお母さんからお母さんに伝わり、大きな動きになってきました。母親たちのグループは「止められない母親たち(Unstoppable Moms)」というニックネームで呼ばれ、米国の多くの州で米国では現在存在していない遺伝子組み換え食品表示義務制度を求める運動を大きくする上で大きな役割を果たしています。
なぜ、このような大きな動きが生まれたのでしょうか? その背景には、さまざまな病気が今、米国で激増しており、その原因として遺伝子組み換え食品が与えている影響が指摘されているという現実があります。そして、この動きは米国国内に留まりません。世界の母親たちと連携し、今年の5月にはオーストラリア、台湾、中国も含む母親たちが参加し、世界中の母親たち(Moms Across the World)として遺伝子組み換え問題について語り合うイベントが開催されています。
急増している病気は広範囲に及び、腸の病気、アレルギー、自己免疫疾患、自閉症、アルツハイマー症などの疾患、うつ病、不妊、出生異常、糖尿病、栄養失調、ガン、白血病、心臓病、喘息など呼吸器疾患など多岐にわたります。
「遺伝子組み換え作物は従来の遺伝子組み換えでない作物と実質的に同等であり、安全です」というのが遺伝子組み換え企業や政府の主張です。しかし、それならばなぜ、このような健康被害が急増しているのか。この問題に焦点を絞ったドキュメンタリーがあります。それが『遺伝子組み換えルーレット−私たちの生命のギャンブル(原題Genetic Roulette – The Gamble of Our Lives)』です。
この映画の中には遺伝子組み換えの健康問題に詳しい多数の専門家が登場します。医学者、獣医、遺伝子組み換え作物の承認に当たった政府機関の担当者、そうした人びとのインタビューから、いかに遺伝子組み換え食品が人体に危険をもたらしうるかが語られます。
字幕は本番ではプロフェッショナルなものが入ります
現在、もっとも遺伝子組み換えを食べさせられているのは豚や鶏などの家畜かもしれません。その家畜にも多くの病気が発生しています。それについても詳しくインタビューが行われます。そこで語られていることはこの遺伝子組み換え企業が説明してきたこととはまったく真逆の事態です。
こうした事態はあくまでも米国で起きていることであって、日本は関係ないでしょうか? 日本には遺伝子組み換え食品表示義務がありますが、その表示義務はひじょうに緩く、たとえば家畜の餌が遺伝子組み換えであったとしてもその肉や卵に遺伝子組み換えを使っているという表示は不要です。また加工食品の中で、遺伝子組み換え大豆やトウモロコシを使っていても、多くの場合には表示の必要がありません。
実際に日本に輸入される大豆やトウモロコシはほとんどが米国からの輸入であり、その大部分は遺伝子組み換えです。それはいずれ日本列島の住民の胃袋に消えるわけですから、そう考えると、私たちにとっても米国で起きていることがまったく対岸の火事では済まされないことになります。
このドキュメンタリーはこうした事実に警鐘を鳴らすだけでなく、いくつもの解決策を提示してくれています。遺伝子組み換えを一切食事から排除した時、その症状はどう変わったか。親たち、そして家畜と向き合う農家が証言します。さらに、こうした遺伝子組み換え農業をなくしていくことはできないのか、そうした疑問に対しても、実現可能な方法を提示しています。
このドキュメンタリーの監督を務めたのはジェフリー・スミス氏で米国で遺伝子組み換えに反対する論陣の先頭を長く担ってきています。そして、このドキュメンタリーにはこの間、遺伝子組み換え問題に影響を与えてきた人びとがオールスターで登場しています。単なるスローガンが並んでいるのではなく、具体的に遺伝子組み換えがどんな問題を引き起こしうるのか、客観的な観点を提供してくれています。
2012年に公開された後、このドキュメンタリーは大きな反響をよび、米国では多くの上映会が開かれ、遺伝子組み換え食品表示義務を求める運動や、遺伝子組み換えをやめることを求める運動を大きなものにしました。その変化はもはや米国での反遺伝子組み換え運動はティッピング・ポイントを超したと言われるほどのものとなっています。ティッピング・ポイントとは量的変化が質的変化に変わるポイントで、米国では確実な変革の段階に入ったということです。
一方、日本ではどうでしょうか? 実は日本では遺伝子組み換えが引き起こすさまざまな問題をマスコミがほとんど報道していません。米国では50万人以上が反対の声をあげ、2年以上承認されたなかった枯れ葉剤耐性遺伝子組み換えも、日本では2012年に何の報道もないまま日本政府が承認してしまっています。世界有数の遺伝子組み換え作物輸入国であるにも関わらず、世界で飛び交っている遺伝子組み換えやその農薬が持つ被害については、日本ではほとんど知られていないのが現実です。
こうした現実に対して、日本の中でこうした情報が日本語でわかるようにしていく必要があります。オルター・トレード・ジャパン(ATJ)ではアジア太平洋資料センター(PARC)とともにこのドキュメンタリー『遺伝子組み換えルーレット−私たちの生命のギャンブル(原題Genetic Roulette – The Gamble of Our Lives)』日本語版DVDを作成するプロジェクトを7月20日から開始いたしました。
ただ単にDVDを作るだけでなく、学習会の企画や関連する情報の発信も考えていきたいと考えております。ぜひ、このドキュメンタリー日本語版をいっしょに作っていきたいと思います。
10月初旬完成をめざして、クラウドファンディングによる資金集めと翻訳ボランティアを募っています。
クラウドファンディング
少額寄付でのオンライン寄付で資金協力いただける方は下のボタンでMotionGalleryからの寄付をご検討ください。可能な金額をお選びいただけます。
[button link=”https://motion-gallery.net/projects/parc201507″ newwindow=”yes”] 遺伝子組み換えルーレット日本語版製作プロジェクトを支援する[/button]
翻訳ボランティア
このドキュメンタリーの翻訳を手伝っていただける方を募集します。翻訳は編集の上、最終的に専門家のチェックを通しますので、プロフェッショナルな翻訳ができなくても、意味がわかる状態に訳していただければ十分です。翻訳の期間は8月末日までに仕上げることを目標にしております。4ページ以上を翻訳していただいた方には完成品DVD一部を贈呈いたします。
おかげさまで全文の翻訳をボランティアの方に分担していただきました。翻訳のピンチヒッター、あるいは編集でご協力いただける方をさらに募集いたします。どうぞよろしくお願いいたします。
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ネグロスに迫っている新たな“危機”
自由貿易体制における小規模生産者と消費者の連帯の意味
オルター・トレード・ジャパンの新たな挑戦
上田誠(オルター・トレード・ジャパン代表取締役)
1985年の世界的砂糖価格の暴落によって始まったネグロス島の「砂糖産業の崩壊」は、底辺のひとびとすべてが飢餓と貧困にさらされ苦しむという大きな“危機”を発生させました。1980年代後半、フィリピン・ネグロス島は飢餓に襲われました。国際的な市民による緊急支援の中から、「援助ではなく事業」による自立を選択したネグロスの人びとと、現在のマスコバド糖やバランゴンの民衆交易がスタートすることになり、オルター・トレード・ジャパンも生まれました。
あれから28年、いまネグロスは、再び苦難の危機を迎えるかもしれない瀬戸際に立たされています。
迫る食と農/社会の危機
2015年、アセアン自由貿易協定により砂糖の関税が5%まで引き下げられました。「自由貿易」が事実化され、タイの「安い」砂糖がフィリピン市場に流入してくることでしょう。この展開に怖れを抱いた農園主たちはサトウキビ生産に見切りを付け、はやばやと農園労働者を解雇しようと考え始めています。
また、ミンダナオでバナナを生産しているドールなどのアグリビジネス企業たちが、これらの農園主の不安を見越して大規模な農地のリースや買い取りなどの話を持ちかけ、すでにある地域ではパイナップルの大規模生産が始まっています。これまでネグロスにはなかったプランテーションによる新たな農薬汚染が心配されます。
ネグロス島は前の州知事が「GMOフリーの島」宣言を行っています。ところが水面下では、積極的にアグリビジネスを迎え入れるために、この宣言を反古にする話が持ち上がっています。
これまで、失業した農園労働者に仕事を産みだし、零細な開拓農民に新しい現金収入の道を開き、地主や企業に支配されない民衆のための地域経済を作り出した「バランゴンバナナ」が、これから大量の農薬やGMO作物に取り囲まれるかもしれないという悪夢のような“危機”が迫っています。
食の危機は健康・命の危機
もちろん、“汚染”されるのはバランゴンバナナだけではありません。ネグロス島に暮らす市民、農民、そして子どもたちの身体と健康がおびやかされるのです。実際に、ネグロスで消費される大豆の多くは米国やアルゼンチンから輸入される遺伝子組み換え大豆であり、トウモロコシはフィリピンでの地場生産がかなりの割合を占めていますが、GMトウモロコシの生産も増えています。
GM作物に大量に使われる農薬がさまざまな慢性疾患を作り出している可能性が指摘され、GM作物の生産が集中している米国では、GM登場以来、慢性疾患が急激に増えている実態があります。非GM作物にもネオニコチノイド系農薬やGM作物に使われるグリホサートが大量に使われていることがわかっています。
このような状況の中で、ネグロスの人びとの命と環境、土地を守っていく上で、何をしていくべきか、現在、オルター・トレード・ジャパンではそうした議論をネグロス側パートナーのオルター・トレード・コーポレーション(ATC)などと共にスタートさせています。
この問題はもちろん、ネグロスに留まることはありません。現在のグローバリゼーションの影響は東ティモールにもパプアにもインドネシアやパレスチナにも影響を与えており、そしてそれは日本も例外ではありません。このようなグローバルな食の危機、農の危機の中で、私たちは国境を超えた小規模生産者と消費者の連帯で何が実現できるのか、今後とも対話と民衆交易事業を通じて、具体的な行動計画を作り、命・自然・暮らしを守るオルタナティブの創出に向けて活動していきます。
今後、オルター・トレード・ジャパンでは「食の危機・農の危機をどう乗り越えるか」を切り口にした情報発信やさまざまな取り組みを計画しております。
その一環として、ネグロスの砂糖危機の問題について、マスコバド製糖工場(ATMC)工場長スティーブ・リンガホンさんのインタビューをまとめました(右表紙写真)。6月20日にはバランゴン民衆交易の意義を再検討する調査についての公開セミナーを開催しました。報告書は8月下旬発行をめざして現在、準備中です。
今後、バナナやカカオをめぐるさまざまな動向に光を当てたり、遺伝子組み換え農業によってどんな問題が世界で引き起こされているのか、遺伝子組み換えや農薬へのオルタナティブ/アグロエコロジーの有効性などの問題についても焦点を当てていく予定でおります。
ぜひ、ご注目いただけますようお願いいたします。