投稿者: tomo
第2の砂糖危機に直面するネグロス
1980年代半ば、「砂糖の島」として知られるフィリピン、ネグロス島で経済危機(砂糖危機)が発生、多くの子どもが飢餓により命を失いました。飢餓救援をきっかけに始まったネグロスと日本の市民の連帯運動は、さとうきび生産者の自立支援の仕組みとしてマスコバド糖の民衆交易に発展しました。
それから約30年。ネグロスでは「第2の砂糖危機」の発生を懸念する声が高まっています。東南アジア圏内で進められている自由貿易協定により安価なタイ産砂糖がフィリピン市場を席巻し、いまだ砂糖産業が基幹産業であるネグロスの地域経済に大きな打撃を与えるおそれがあるからです。
植民地時代に輸出用サトウキビの栽培を強いられ、現在は新自由主義に翻弄されるネグロスの人々。今、人々の暮らしはどうなっているのでしょうか。そして、マスコバド糖民衆交易を通じてできることは何なのでしょうか。30年以上、現場で砂糖労働者と歩んできたマスコバド製糖工場(ATMC)工場長のスティーブさんにお話を伺いました。(A4版8ページ2.5MB)。
政策室 小林和夫
ゲランド塩田:この10年の歩みと発展
「おいしい塩が残るには、それなりの理由と社会的苦闘があるのだ。」この序文で始まるコリン・コバヤシ著『ゲランドの塩物語』(岩波新書2001年刊)との出会いが、ATJがゲランドの塩に取り組むことになった理由でした。ゲランドの塩では、フランスという日本と同じ「北」に分類される先進国、その中でも自分たちの環境や風景や技術を守るために活動している塩の生産者との出会いを通し、フランスの市民運動から日本の市民運動を見つめなおすきっかけを得る、「北と北の連帯」としての取り組みを始めたのです。
古い昔から延々と行われていた地場伝統産業としての天日塩づくりは、大量生産でつくられる工業的塩に押され、70年代にはリゾート開発に翻弄されながらも塩職人たちは地域住民と共に闘争してゲランドの塩を守り抜きました。塩職人たちは時代を越えてコツコツと塩田再興運動を積み上げてきたのです。それは、単なる塩づくりを越えた社会変革運動であり、生態系との共生を実現することなのです。
ATJがゲランドの塩の取り組みを開始してからの10数年間も、ゲランドの塩職人たちは綿々と塩田を復活させ、人材を育成し、自然と共生するゆるぎない地域事業としてゲランドの塩を育てています。そうしたこの10年間の「続ゲランドの塩物語」をコリン・コバヤシ氏がフランスからレポートします。
ATJ政策室 幕田恵美子
特別寄稿:コリン・コバヤシ氏
拙著『ゲランドの塩物語』が刊行された2001年当時と比べ、この10年ほどのゲランド塩田の歩みは、目を見張るばかりである。それは、生産レベルで言うなら、まず塩田開発面積で表すことが出来るだろう。6800あった採塩池が9000となり、塩田全体の三分の一の面積に相当する発展となった。それほど発展するのは当然、販売量もかなり拡大したからである。2003年に年7100トンだった販売量が、今日、年12000トンとなった。それは過去の販売量の70%の増加であり、劇的と言っていい発展である。そのおかげで、現在、組合員数200名ほどのル・ゲランデ生産者組合の給与は安定し、若い世代をこの職業に引きつけるファクターになっている。そのため、研修を受けた若い新参塩職人が毎年、4-5人の割合で、定着しており、またその他の若い塩職人がル・ゲランデ生産者組合に加盟するようになって来ている。現在、ル・ゲランデ生産者組合の生産量は、ゲランド塩田の全生産量の80%を占めている。
劇的な発展につながった地理的表示保護地域認定
こうした進歩は、むろん、欧州で認定されたラベル「IGP」(地理的表示保護地域認定)を2012年に獲得したことが大きく作用している。ゲランドの塩が職人的技術で収穫されているという、天日塩の特別な品質を公式に売り文句にすることが出来るようになった。今日では、フランス料理の代表的なシェフたちがゲランド塩を推奨しているし、自然食や安全な食品を求めている消費者たちにとっても人気商品となっている。
ル・ゲランデ生産者組合は、海外への販売戦略も様々な展開を重ねており、現在では54カ国が輸入している。
こうした販売上の向上は、当然、収穫した塩の貯蔵場の拡大なしには実現できない。貯蔵場面積はほぼ倍になり、中期的には、年間15000トンの量を取り扱うことが出来る機能と設備を完備した。55人の有給職員が勤務し、40人の身障者の下請け雇用者が製品のパッケージの一部の製造(例えば、布地の袋など)を請け負っている。
増築された社屋は、塩蔵様式を踏襲しており、建物の屋根には太陽熱パネラーが設置され、雨水は回収され、組合内での活動の自立が保障されている。持続的発展の前線に立とうとする組合の姿勢の表れである。
塩田と繋がる環境保護、そして南と北を繋ぐ塩田技術支援
もし、すべてが順調に行けば、あと10年で、ゲランド塩田の開発可能な土地はすべて復興されて、塩田全部が生産地として機能する旧来の姿を取り戻すことになるだろう。確かに、この10年で、荒れ地のように放置されていた塩田が数多く復興し、昔の設計図に基づいて再建され、若い塩職人たちが精を出して作業している光景を見ることが出来る。
塩田周辺の道路や周辺の観光名所の駐車場の整備も進み、観光客や訪問者を受け入れやすい体制がかなり整って来ている。組合社屋の横に出来た訪問者受け入れセンターである『塩の大地』は、今日では年中無休で開業している。この中には、野鳥保護協会やNPO『ユニヴェル=セル』(<ユニヴァーサル=普遍的な>と<セル>(塩)を連結させた造語)などが活動している。
前者は設立当時からのパートナーであり、塩田の環境保護と密接なつながりを持っている。その共同活動の成果で、1995年に国際的に重要な野鳥保護の湿地帯としてラムサール条約で認定されたのだ。今後、ユネスコの『生物圏保護地』として、認定される可能性がある(なお、野鳥保護協会は、現在、事務所を『塩職人の家』に移管している)。
後者の『ユニヴェル=セル』は、南と北の連帯を謳い、1994年に行なわれた最初の支援活動、アフリカはベナンでの塩田技術支援以来、塩職人の会員たち自身のボランティアの活動によって支えられている。彼らは、とりわけ、アフリカ諸国に行き、水田の灌漑や天日塩の製法をアフリカ現地の人々のやり方を尊重しながら、支援している。こうした支援のやり方は、組合設立後の第一世代が行なって来たことだが、新たな世代に継承され、繰り返し行なわれることが重要なのだ。
第一世代は、組合の設立、塩価格のアップと維持、販売戦略の発展とともに、天日塩の文化的価値の再評価、塩田作業と結びついた環境保護、塩田の国定保護地としての認定獲得など、多くの局面で闘って来た。それに続く第二、第三世代は、獲得されたものをさらに充実させることに向けて励んでいる。そして、第一世代が獲得したものをまた学び直してもいるのだ。その繰り返しがなくては、生態系は守れない。
彼らの価値観を要約すると、
- 協同組合的精神
- 北と南の連帯
- 先駆的精神
- 環境の尊重
である。
また品質の向上と保持にも務め、研修、製品の高品質維持への政策、トレーサビリティ、食品安全、天日塩としての正統性、品質管理と保証(ラベル)、有機食品としての認証、「IGP」(地理的表示保護地域認定)などに留意している。また地域でも根を下ろすべく、様々な近隣地域でおこなわれる地場特産品の市場に、地産商品として出展している。また商品アイテムも多様化されて、様々なタイプの塩が提案されている。一番摘みのフルール・ド・セルから、粗塩、細かく粉砕した塩や、様々なハーブや香料を入れた塩など、商品の多様化研究も怠らない。『赤ラベル』(フランス食品の最高品質に与えられる認証)や有機認定、またNPO『自然と進歩』が規定した生産様式で作った塩に与える認証付きの高品質のアイテムもある。そういった意味で、製品の価値/意味付けがうまく機能しているのである。
多様な価値の宝庫ゲランド塩田の街づくり
また、今後の展望として、塩田という希有な場所の様々な要素(塩田の植生、プランクトン、鹹水、ニガリ)などを価値付け、それを新たな発展のカギにしたいと望んでいる。
ゲランド塩田を訪れる観光客は、夏期だけでも2000年初頭は、1万人ほどだったのが、今では二倍から三倍近い。たしかに、塩田のみならず、近隣の市町村も受け入れ態勢が充実して来たし、たとえば、バ=シュル=メールの塩田博物館は、小さな田舎の民俗館といった趣だったが、近年3年間に大幅な増改築が施されて、国立博物館並みの立派な博物館となった。宿泊施設も増え、ツーリストも快適に過ごせるようになった。塩職人も、交代で観光客をグループで塩田に案内し、収穫の作業過程と、環境・生態系との関係を誇らしげに語る。
エコロジーへの関心が、単なるブームでなく、世界的に定着して来ていることも確かだが、ゲランド塩田は、人と自然の関わりの最も理想的なひとつの好例として、幾度引用しても、しすぎることはないだろう。
コリン・コバヤシ氏のプロフィール:
1949年東京生まれ。1970年渡仏、以来、パリ首都圏に定住。
美術家、著述家、フリージャーナリスト。
著書:『ゲランドの塩物語』(岩波新書、2001年。渋沢クローデル賞現代エッセイ賞2001年)、『国際原子力ロビーの犯罪−チェルノブイリから福島へ』(以文社、2013年)
訳書:『68年5月』(インスクリプト、2015年6月刊行予定)共訳書:『チェルノブイリの犯罪』(緑風出版 2015年)、『徹底批判 G8サミット』(作品社2008年)他
【公開セミナー】 バランゴンバナナの民衆交易はどこまで生産者の自立に寄与できるのか ~フィリピン産地調査報告~
日本の消費者がフィリピンの小規模農民の自立を応援し、安全・安心なバナナを手にできる仕組みとしてバランゴンバナナの民衆交易を(株)オルター・トレード・ジャパン(ATJ)が始めて四半世紀がたちました。2014年3月16日、ATJとNPO法人APLAは、セミナー「『バナナと日本人』その後-私たちはいかにバナナと向き合うのか?」を共催し、フィリピンバナナの生産から流通・消費を概観し、家族農業の視点からバランゴンバナナの民衆交易の今日的意義について考えました。
2014年度、農業経済学、社会人類学、欧米のフェアトレード運動に詳しい3名の研究者に委託してバランゴン・バナナ産地の実地調査を実施しました。そして、バランゴンの民衆交易が生産者や地域にもたらした影響は何か、そして民衆交易の意義や価値をどう評価するかについてさまざまな情報や傾聴すべき提言や知見をいただくことができました。
南の生産者の自立支援を掲げて始まった民衆交易事業。調査報告を受けて民衆交易事業が取り組むべき課題とめざす新しい地平について、調査結果をもとに皆さんと考えたいと思います。是非ご参加ください。
【公開セミナー: バランゴンバナナの民衆交易はどこまで生産者の自立に寄与できるのか~フィリピン産地調査報告~ プログラム】
〇調査報告① 関根佳恵氏「未来をつむぐバランゴン・バナナの民衆交易~コタバト州マキララ町を事例として」
〇調査報告② 石井正子氏「ミンダナオ島の先住民族がバランゴン・バナナを売ること、とは?」
〇調査報告③ 市橋秀夫氏「ネグロス島バナナ栽培零細農民と『自立』」論」
〇パネル・ディスカッション「バランゴン・バナナ民衆交易への提言」、他
【発表者】
〇市橋秀夫氏
埼玉大学教養学部教員、専門はイギリス近現代社会史研究。イギリスのフェアトレード文献の翻訳や、その歴史的変遷の調査などを行なう。2009年以降、バランゴンバナナ生産者の調査に断続的に関わっている。
〇関根佳恵氏
愛知学院大学経済学部教員、専門は農業経済学。バナナ・ビジネス大手の多国籍企業ドール社の事業について調査・研究を行う。2013年に国連世界食料保障委員会の専門家ハイレベル・パネルに参加し、報告書『食料保障のための小規模農業への投資』を分担執筆。
〇石井正子氏
立教大学異文化コミュニケーション学部教員。専門はフィリピン地域研究で、ミンダナオ島のムスリム社会を中心にフィールドワークを行う。鶴見良行さんの『バナナと日本人』に影響を受けて、ミンダナオ島の地方史のなかに事象を位置づける手法を大切にしている。
【日時】2015年6月20日(土)14:00-16:30(13:30開場)
【会場】立教大学池袋キャンパス8号館3階 8304教室
東京都豊島区西池袋3-34-1
池袋キャンパスへのアクセス
JR各線・東武東上線・西武池袋線・東京メトロ丸ノ内線/有楽町線/副都心線「池袋駅」下車。西口より徒歩約7分。
立教大学の案内
【主催】
(株)オルター・トレード・ジャパン https://altertrade.jp/wp/
NPO法人APLA(あぷら) http://www.apla.jp/
1986年からフィリピン、ネグロス島の飢餓救援活動を展開した日本ネグロス・キャンペーン委員会(2008年、APLAに再編)が、生産者の自立を促す手段としてマスコバド糖の輸入を開始しました。バランゴンバナナを輸入するために、生活協同組合や有機農産物の販売グループ、市民団体が共同出資して設立されたのが、草の根の交易会社であるATJです。以来、取扱い商品(産地)はエコシュリンプ(インドネシア)、コーヒー(東ティモール、ラオス他)、オリーブオイル(パレスチナ)、塩(フランス)、カカオ(インドネシア・パプア州)に広がっています。
【参加費】500円(資料代として)
【お問い合わせ】
(株)オルター・トレード・ジャパン(ATJ)政策室 担当:小林
TEL:03-5273-8176
【申し込みフォーム】
終了しました。連絡されたい方はメッセージフォームからお願いします。
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世界で始まるモンサントの農薬残留検査
WHOの外部研究機関である国際がん研究機関(IARC)は2015年3月20日に、除草剤グリホサートを「おそらく発ガン性物質」という2Aのカテゴリーに指定しました。この発ガン性物質のカテゴリーは下記のようになっています。
- 1 :ヒトに対して発がん性がある
- 2A:ヒトに対しておそらく発がん性がある
- 2B:ヒトに対して発がん性があるかもしれない。
- 3 :ヒトに対する発がん性については分類できない
- 4 :ヒトに対しておそらく発がん性がない。
2Aの「おそらく発ガン性がある」と2Bの「発ガン性があるかもしれない」の違いについてですが、前者は実験動物での十分な証拠があるものであるのに対して、2Bは実験動物での証拠がまだ十分でないものという違いがあります。つまりグリホサートは動物においては発ガン性が確認された、という判定と理解できます(どちらもヒトの発ガン性に関しては証拠が限られたものであり、その証拠が得られた場合には1のグループとなります)。
このグリホサートはモンサント社が除草剤として1974年に特許を取得します。この除草剤をかけても枯れないように遺伝子組み換えされた大豆が1996年から大規模耕作されるようになり、その使用は年々、激増しています。2000年にはその特許は切れて、現在はジェネリックとなっており、世界各地で生産されています。
このグリホサートを原料に使った除草剤、特にモンサントのラウンドアップは遺伝子組み換え耕作地域で大量に使われ、その地域でガン患者が増加しているというニュースがここ数年、目立って報道されるようになりました。アルゼンチンやブラジルなどで、農業労働者や住民の子どもたちに遺伝子損傷が見られるという研究なども発表されています。
遺伝子組み換え作物だけでなく、このグリホサートは多くの作物に使われています。たとえば米国では小麦の収穫前に、収穫を容易にして、さらに収穫を増やすためにグリホサートが散布されることが多くなっています。中米やスリランカでは農業労働者が通常はまれな慢性腎炎で多数の死者を出しており、エルサルバドル議会はグリホサートを含む農薬禁止を決議し、スリランカも大統領令でグリホサートの禁止を決定、オランダでも部分的に規制が始まっています。
グリホサートが撒かれる地域の農業労働者、農民、住民だけでなく、グリホサートの残留した農作物を食べることによる健康被害に対しても、懸念が大きくなっています。その影響は消化器系の疾患、内分泌の異常、自己免疫疾患、不妊(男性、女性)、糖尿病、ガン、精神疾患、自閉症・認知症などの神経系の疾患など多岐にわたる可能性が指摘されています。
すでに米国の母親の母乳からこのグリホサートが検出されたり、ドイツで行われた尿検査でグリホサートが検出されるなど、人体からの検出も報告されていますが、これまで統一した大規模な調査は行われたことはありません。
今回、世界の遺伝子組み換え問題に関わる市民のグローバルなネットワークであるGlobal GMO Free Coalitionを通じて、フィード・ザ・ワールド(Feed The World)というプロジェクトが立ち上がりました。このプロジェクトは世界の市民に対して、グリホサートの母乳、尿、水道水の検査を有料で提供することで、市民自身が自分の体内、いつも使っている水道水の中にグリホサートが含まれているかどうかを知ることができるようにするものです(母乳の検査は今年後半開始予定)。
今年の10月に米国ではグリホサートを禁止する法案が提出される予定であり、カナダやブラジルなどでも同様の動きが現在あります。
日本ではこのグリホサートは100円ショップの園芸コーナーでも売っており、ホームセンターではモンサントのラウンドアップの販売コーナーがあるほど、その販売に規制は現在ありません。日本は世界で単位面積あたり農薬使用量が飛び抜けて多い国です。また、日本は世界でも最大級の遺伝子組み換え作物輸入国であり、グリホサートの残留量の高い作物が家畜の飼料や加工食品の原料として使われています。日本こそ、このグリホサートの被害について注意が必要な国といえるでしょう。
この検査は日本からも依頼することが可能です。懸念を持つ方はぜひご参加ください。
以下、英文のサイトになります。
Feed The World
グリホサートのテスト申し込みフォーム
Feed The World: 開始プレスリリース
世界で最初の市民を対象とした認証検査がグリホサート禁止圧力を高める
世界でナンバー1の除草剤があなたの体内に?
フィード・ザ・ワールド・プロジェクトが一般市民を対象とする世界で初めてで唯一のグリホサートの検査によって木曜日に立ち上がります。このプロジェクトは米国の女性と子どもに特別の焦点がありますが、史上初の認証された尿、水、そして近日中に母乳のLC/MS/MS グリホサート測定を世界の市民に提供します。これはグリホサートの販売と使用の禁止を導くでしょう。
世界保健機関(WHO)は3月にグローバルなバイオテク産業に衝撃を与えました。バイオテク産業の最大の稼ぎ頭である化学物質-グリホサート-を「恐らくヒト発がん性物質」(1)として分類したからです。
Feed The World (2)の理事、ヘンリー・ローランズは木曜日に以下のように述べています。
「グリホサートは私たちに有毒な食、水と空気をもたらす現在の農業システムの根幹です。自分たち自身や家族の体の中にどれほどの濃度のグリホサートが存在しているのかを市民が知ることをできるようにすることで、私たちはグリホサートを禁止することをめざします。フィード・ザ・ワールドは農民やビジネス関係者や政府が子どもたちの有害物質のない未来に向けて変えていくために、利益のある農業のオルタナティブのプラットフォームも同時に提供します」
フィード・ザ・ワールドによって提供される認証されたグリホサート検査方法 (3)は一般市民が自分たちの体内、あるいは水道水にどんなレベルのグリホサートがあるかを確かさを持って発見することを可能にします。
2014年に完了した小規模な予備的研究では米国の女性の母乳、尿、水からグリホサートが発見されましたが、この検査の際に使ったELISA試験法ゆえに米国環境庁(EPA)や他の政府規制機関がその結果を無視できてしまいました。EPAやその他の政府規制機関がグリホサートを元にしている除草剤に対して、グリホサートの禁止を含む厳しい行動を取るように圧力を強めるため、フィード・ザ・ワールドは認証されたLC/MS/MS 検査法を採用します。英国貴族院のメンバーである31代マー伯爵婦人(4)マーガレット・オブ・マーはこう述べます。
「将来の世代が健康で充足した生活を送るためには私たちは世界の女性たちに振り向かなければならない。グリホサートはおそらくガンを生じさせるとして知られている。そしてまだ知られないさまざまな医学的状況に生命を脅かす。私たちあるいは、私たちの子どもたちが影響を受けるかどうか、個人としては知ることができない。この重要なプロジェクトは世界の女性たちが自分たちの体内に、あるいは供給される水の中にグリホサートが入っているかどうか見つけることができる。さらなる汚染を避けて、そして最終的に私たちがグリホサートが私たちの食や水、空気の中にあることをもう我慢しないことを共に示すことに参加できる」
受賞の栄誉ある米国ドキュメンタリー映画の監督エド・ブラウンは、このフィード・ザ・ワールド・プロジェクトの最初から最後までの撮影を続けているが、彼はこう述べる。
「もし一度、この情報を知ったら、振り返ったり、無視したりすることはもうできない。この化学物質がこの惑星のほとんどどの人の体内にも発見されるということを理解することは、そしてその化学物質がたぶん発ガン性物質であるということは我々の時代でもっとも重大なストーリーである。だから私はそれを世界に伝えることを支援することを決めた。なぜならそれは我々人類全体の運命だからだ。」
Organic Consumers Association (5)とMamavation (6)を含む全米にわたるNGOと母親ブロガーはこの検査を広めることに同意署名している。
Feed the Worldプロジェクトはグリホサートを原料とする除草剤の販売をフェーズ・アウトさせ、2018年末前までに全面禁止させることを求めるために米国上院に提出される女性と子どもたちの権利法案 (7)を含んでいる。
尿と水の一般検査と同様にグリホサート検査法の確立と認証プロセスは米国の高く評された研究所で行われ、その研究所の詳細は2015年後半まで部外秘に保たれ、すべての方法が記述された論文の中にピア・レビューされた科学雑誌に掲載される予定である。母乳検査も2015年後半に始まる。
インディアナ医学大学とセント・フランシス病院の新生児集中治療ユニット(NICU)長である新生児学局の臨床学教授(8)のポール・ウィンチェスター博士はこう述べる。
「勇気と懸念を持つ市民は除草剤が実際にどこまで汚染しているのかを知るために行動しなければならない。人類史上でもっとも大量に使われた除草剤について私たちは私たち自身が検査を受ける機会を提供されている。ラウンドアップ(モンサントのグリホサートを原料とする除草剤)は雑草を殺すためだけでなく、収穫前の穀物の乾燥にも使われる。それは地下水、川の水、雨、雪、土壌、そして、食の中に存在していて、その量は増加している。ラウンドアップはあなたの体内に? あなたの赤ちゃんに? この除草剤は私たちの子孫にDNAに刻印していくの? これらの質問に答えるために力を貸してほしい。EPAはやろうとしない。政府はやろうとしない。化学企業はやろうとしない。GM進める農民たちはやろうとしない。食料品店はやろうとしない。もし、私たちがカップの中におしっこをして、その分析に支払わない限り、誰もやらない。あなたたちが真実を突き止めるために支援してくれることを願う」
このプロジェクトに対するグリホサートを原料とする除草剤を作る企業からの予想される反応は、発見されたレベルは人体には安全だというものだ。しかし、企業や政府規制機関が安全だとみなしているグリホサートの濃度が実は「有害である」ことを示す証拠を含む、グリホサートに関する健康や環境上の危険を指摘するとても明快な情報データベース(9)をフィード・ザ・ワールドは提供している。
ロンドンの分子遺伝学者、マイケル・アントニオウ博士はこう結論づける。
「グリホサートはひじょうに低い濃度であっても、内分泌(ホルモン)システムの撹乱などのメカニズムを通じてすべての年齢層で深刻な病に導き、有毒でありうるという証拠はますます増えており、この物質が人間集団全体の中でどれほど存在しているのかについて広い範囲の情報を得ることはさらに不可欠なことになってきている」
- http://www.reuters.com/article/2015/03/20/us-monsanto-roundup-cancer-idUSKBN0MG2NY20150320
- http://feedtheworld.info
- http://feedtheworld.info/glyphosate-testing-test-yourself/
- http://en.wikipedia.org/wiki/Margaret_of_Mar,_31st_Countess_of_Mar
- https://www.organicconsumers.org/
- http://www.mamavation.com/
- http://feedtheworld.info/glyphosate-bill-of-rights/
- http://www.neonatology.iupui.edu/faculty/paul-d-winchester/
- http://feedtheworld.info/glyphosate/
よくされる質問: このグリホサート検査ではどんな認証方法が使われますか?
グリホセート(N-(ホスホメチル)グリシン)を直接液体クロマトグラフィー – タンデム質量分析(LC-MS/ MS)を用いて分析されます。水および尿のサンプルはイオン交換カラムを用いる固相抽出によって分析されます。抽出されたサンプルは、LC-MS/ MSに注入され、検体は定組成溶離を介しオベリスクNカラム(SIELCテクノロジーズ、米国イリノイ州プロスペクトハイツ)を用いて分離されます。グリホサートのイオン化は負極性で作動するエレクトロスプレーイオン化源を用いて達成されます。分析物は、内部標準としての13C標識グリホサートを用いて多重反応モニタリングによって検出される。検体の定量は、8点較正曲線を用いた同位体希釈法によって行われます。分析は0.1 ng / mLでの検出限界を有する。観察内および間日間の精度は0.1〜80 ng / mLでの範囲の濃度の6%から15%までです。グリホサートの回収率はその分析の線形ダイナミックレンジ内の濃度で70から80%の範囲。
プレス問い合わせ(英語):
Henry Rowlands
Director
Feed The World – http://www.feedtheworld.info
Henry @ feedtheworld.info
+359886699802
遺伝子組み換えイネ: ゴールデン・ライスの危険
ここのところ、遺伝子組み換え米、ゴールデン・ライスをめぐって騒がしくなってきています。
遺伝子組み換えでビタミンAを強化した米、ゴールデン・ライスで発展途上国で深刻な問題になっているビタミンA欠乏症(VAD)に対応しようということで、フィリピンにあるIRRI(国際稲研究所)で開発が進んでいます。現在、商業栽培の開始の承認をめざして、活発なキャンペーンが行われています。
今年2015年3月には遺伝子組み換え推進論者であるパトリック・ムーアがゴールデン・ライスの承認を訴えるツアーをフィリピン、バングラデシュ、インド3カ国をめぐって行い、4月8日にはビル・ゲイツがIRRIを訪問しています。世界で最も富裕とされるビル・ゲイツはBill and Melinda Gates Foundationという財団を作っており、この財団は慈善活動を目的に掲げていますが、遺伝子組み換えに多額の投資を行っており、遺伝子組み換えを拒むアフリカなどでも遺伝子組み換え普及のために多額を投資しています。そして、このゴールデン・ライス開発のためにも1030万ドル(約12.3億円)という多額の資金をIRRIに寄付していると言われます。
それではこのゴールデン・ライスはビタミンA欠乏症の解決に役立つのでしょうか?
誤った解決策
フィリピンの農民や学者のネットワークである市民組織MASIPAGはこのゴールデン・ライスを不要で間違った解決策だと言います。ビタミンA欠乏症や他の栄養失調、飢餓は食品の中の栄養素が欠けているために起こされているものではなく、人びとが適切な食料にアクセスする権利が奪われている貧困状況が生み出しているものであり、社会経済的な問題です。現実にモリンガなどビタミンAを豊かに含む作物を取ることで十分解決ができることができるからです。
遺伝子組み換え作物はその耕作には農薬や化学肥料が不可欠となります。そして種子も高い費用を遺伝子組み換え企業に支払わなければならなくなります。伝統的な農業をやってきた農民にとってはとても負荷が高くなります。実際にフィリピンで2002年から導入が始まった遺伝子組み換えトウモロコシでは導入の結果、小規模な家族農家は借金を重ねて、農業をあきらめ土地を失うケースも出ています。農薬や化学肥料の投入により土壌が劣化する問題も指摘されています。遺伝子組み換えにより、企業は種子、農薬、化学肥料を売ることで利益を得ることができますが、農民の生活は厳しくなる一方になったとMASIPAGは研究調査結果を発表しています。
結局、遺伝子組み換えは農民を貧困化させてしまうことで、人びとの栄養状況をさらに悪化させる懸念がひじょうに強いということができます。
ゴールデン・ライスは安全か?
さらに、このゴールデン・ライスははたして人体にとって安全か、という問題があります。残念ながらこのゴールデン・ライスが人体に安全であるということを保障するデータはありません。逆に、ゴールデン・ライスが危険をもたらす可能性があることが指摘されています。
- 遺伝子組み換え米は米の遺伝子とウイルスやバクテリアの遺伝子を組み合わせたもの。米の中にそのような遺伝子を組み込むことの安全性は確認されていない。
- 遺伝子の安定性が損なわれる危険がある。
- カリフラワー・モザイク・ウイルス(CaMV)が組み込まれるが、この導入がDNAの撹乱材料になる可能性がある。
- 免疫を損なったり、人体に毒性を持ったり、あるいは逆に栄養を損なう可能性があるかないか、実験しなければならないが、データがない。
- 米は自家受粉なので、ゴールデン・ライスが花粉によって他の米を汚染する危険性は少ないとしているが、実際には自家受粉の場合でも花粉の飛来は大きな問題となる。
ゴールデン・ライスが促進されることで社会的にも農業生産が企業の手に握られてしまうという懸念がある上に、このような健康上、環境上の懸念が払拭されることなく、強まる状況で、ゴールデン・ライスが商業栽培に向けて宣伝されているのが現状だということができます。
アジアでの遺伝子組み換え農業の大規模推進をめざすトロイの木馬
このゴールデン・ライスはアジアに遺伝子組み換えを大々的に推進するためのトロイの木馬だとMASIPAGは批判します。
中国やインドで大規模に作られているBtコットンを除き、まだアジア地域での遺伝子組み換え農業の占める割合は大きなものではありません。フィリピンでは27%のトウモロコシが遺伝子組み換えになっていると考えられます。ベトナムは今年から遺伝子組み換えトウモロコシの栽培を開始すると報道されています。バングラデシュはBtナス(虫が食べたら死ぬBt毒素を作り出すナス)の栽培を始めましたが、2期連続、大凶作だったと報道されています。
このゴールデン・ライスはこうした停滞状況を一気に変えるために導入されようとしています。基本的に発展途上国向けのコメであり、日本に輸入されるものとして考えられているわけではありませんが、アジアでの農業、そして食の安全が大変な危険に晒されていることに対して、日本の市民社会からも懸念を表明する必要があると思います。
フィリピンはもちろん、インド、スリランカ、インドネシア、日本の農民・市民団体がゴールデン・ライスに対して反対の共同声明をあげています。https://www.facebook.com/photo.php?fbid=903582229663753 (2015年3月12日、英文)
「健康にいい」遺伝子組み換えに注意!
これまでの遺伝子組み換えは雑草対策や害虫対策が中心でした。消費者にとっての利益はまず存在しませんでした。これに対して、今後、「健康にいい」という名目で消費者にアピールする遺伝子組み換えが続々と登場しようとしてきています。ビタミンAを強化したゴールデン・ライスはその一例ですが、この他にもオメガ3脂肪酸を豊富に含んだ遺伝子組み換え大豆、アレルギーを治療する遺伝子組み換えイネなども登場しようとしています。しかし、どの品種も、確実な安全性を示すデータが明らかにされていません。そして、どれも遺伝子組み換えでなければ他の手法では解決できないという症状というわけではなく、他に手段があるにも関わらず、遺伝子組み換えを売るためにそうした機能が利用されているだけというのが実際ではないかと思います。
日本でも花粉症対策のイネなども作られて、すでに隔離圃場での実験栽培が認められています。今後、日本でもそうした「健康にいい」遺伝子組み換えが本格的に耕作され、市場に出てくる可能性もあります。
農業のあり方、健康の保ち方までがこうした遺伝子組み換え企業の利益によって変えられていってしまう可能性があります。医食同源といいますが、私たちの食生活と農業、健康と環境は密接に関わっています。日々の食事は、世界で起きているさまざまな問題と密接に関わっています。私たちの健康も世界の環境も共に守られる道をめざす必要があります。
参考
- ビル・ゲイツのIRRI訪問に関するMASIPAGのプレスリリース(英文)
http://masipag.org/2015/04/farmer-scientist-group-deplore-secretive-visit-of-bill-gates-to-irri-golden-rice-commercialization-possible-agenda/ - ゴールデン・ライスに関する情報(英文)
マリで国際アグロエコロジー・フォーラム
2015年2月24〜27日、アフリカのマリ共和国のニェレニで国際アグロエコロジー・フォーラムが開かれました。このフォーラムは昨年9月ローマで開催された国際アグロエコロジー・シンポジウムを受けて、開催されたもので、マリの小農民組織を中心に、アフリカの小農民組織、漁民組織、先住民族組織に加え、ラテンアメリカの団体も関わって開かれたものです。食料主権国際計画委員会(The International Planning Committee for Food Sovereignty、IPC)がFAOとの提携のもとに、このフォーラムを実現しています。
そのフォーラムの宣言は長文なものとなっていますが、アフリカの土地をめざして多くの資本が土地強奪に関わっている状況、遺伝子組み換えなどのアグリビジネスが殺到している状況を表したものであり、それに対抗する食と農の包括的な提言となっており、ぜひ読んでいただく必要があると考え、日本語訳を掲載します。この宣言には遊牧的な生活をおくる先住民族の状況を踏まえたものもあります。
国際アグロエコロジー・フォーラム宣言
ニェレニ、マリ、2015年2月27日
私たちは、小規模食料生産者と消費者の多様な組織と国際的運動を代表している。小農民(注1)、(狩猟採集民族を含む)先住民族とコミュニティ、家族農家、農村労働者、牧夫と牧畜民、漁民、都市住民からなる。私たちが関わる多様な組織を合わせると、人類が消費する食料の約70%を生産している。世界の主な仕事や生計の提供者であるのみならず、農業への最初のグローバルな投資者でもある。
私たちは、食料主権を構築する鍵であるアグロエコロジーを共通に理解し、それを推進し、企業による乗っ取りからアグロエコロジーを守るための共同戦略を練るために2015年2月24〜27日にかけ、マリのセリンゲのニェレニ・センターに集まった。私たちは、この美しい土地で私たちを歓迎してくれたマリの人々に感謝している。私たちの知識は、相手の声を敬意をもって聞くことと、いっしょに決定をしていく共同の営みに基礎をおいていることを、彼らは自分たちの経験を通じて私たちに教えてくれた。最近、波のように押し寄せる土地強奪から自分たちの土地を守るために時には命をかけて闘っているマリの姉妹兄弟と連帯する。この土地強奪は私たちの多くの国でも大きな被害を与えている。アグロエコロジーとは、命の循環の上にともに立つことを意味する。そして、それを追求することは、土地強奪に対する闘いの輪の中に、私たちの運動を「犯罪」として封じ込めようとすることに対する闘いの輪の中に立たなければならないことを意味している。
歴史に立脚し未来の夢を描く
私たち、メンバー、組織、コミュニティは、食料主権を、共同の闘いのための旗印として、また、アグロエコロジーのための大きな枠組みとして定義してきた。私たちが過去千年以上もの歳月のうえに発展させてきた祖先から引き継いだ生産システムは、この30〜40年に、アグロエコロジーと呼ばれるようになってきた。私たちのアグロエコロジーには、成功した実践や生産、農民から農民へと広げる運動、土地のプロセス、学校での教育が含まれ、私たちは、洗練された理論的、技術的、政治的構築を発展させてきた。
2007年、連帯を強化し、多様な関係者たちの間での共同の構築作業を通じて、食料主権の理解を広げ、深めるために、私たちの多くは、ここニェレニで開かれた食料主権フォーラムに集まった。同様に、私たちは、消費者、都市コミュニティ、女性、若者たち他とともに、多様な食料を生産する人びとの間での対話を通じてアグロエコジーを豊かにするために、アグロエコロジー・フォーラム2015に集った。今日、食料主権のための国際計画委員会(IPC)により、グローバルに、また地域的に組織化された私たちの運動は新たな歴史的な一歩を踏み出した。
アグロエコロジーに基づく小規模農民の食料生産の多様な形態が、ローカルな知を産み出し、社会的正義を広め、アイデンティティや文化を育み、農村地域の経済的活力を強化する。私たちが、アグロエコロジー的なやり方で生産することを選べば、小規模農民は、自らの尊厳を守ることになる。
多数の危機を克服する
いわゆる「緑の革命」や「青の革命(注2)」とよばれる工業的食料生産によって荒廃された食料システムや農村世界で、いかに私たちの現実を転換し、修復するか、その答えがアグロエコロジーだ。私たちは、アグロエコロジーは命よりも利潤を優先する経済システムへの抵抗の鍵だと私たちは考える。
私たちを毒づけにする食品を過剰生産する企業モデルは、土壌の肥沃さを破壊し、農村地域の森林破壊や水質汚染、海洋の酸性化、漁業を殺す原因である。欠かせない天然資源は商品化され、生産コストは高くなり、私たちを土地から切り離してしまう。農民たちの種子は企業に盗まれ、法外な値段で売りつけられるが、その種子は高くさらに農薬による汚染が伴う種子に変わってしまっている。工業型食のシステムが、気候、食料、環境、医療など多数の危機の主要因だ。自由貿易、企業の投資協定、ISD条項、炭素市場などの誤った解決策、土地や食料のマネー化の高まり。すべては、こうした危機をさらに悪化させる。食料主権の枠組みにあるアグロエコロジーは、こうした危機から前進するための共同の道を私たちにもたらす。
岐路のアグロエコロジー
工業型食のシステムは、その内部矛盾ゆえ、その生産と利潤をあげる能力を使い果たし始めている。土壌の劣化、除草剤耐性雑草、魚場の枯渇、病害虫で破壊されるモノカルチャーのプランテーション、ますます明らかになっている温室化効果ガスの排出、工業的なジャンクフードの食事により引き起こされた栄養不良、肥満、糖尿病、結腸疾患、癌といった健康の危機による被害はますます明らかになっている。
多くの国際機関、政府、大学、研究センター、NGO、企業などは、人びとからのプレッシャーで、ようやく「アグロエコロジー」を認めるようになってきた。けれども、彼らは、アグロエコロジーを工業型食の生産の持続性の危機を緩和する道具を提供する狭い技術のセットとして再定義しようとしている。そうして既存の権力構造は変えずに残そうというわけだ。環境に配慮するような表現でリップサービスをしながら、工業型の食のシステムにアグロエコロジーを適合させようとするやり方は、「気候にスマートな農業」、「持続可能」、「エコロジー的な集約化」、「有機食品」工業型モノカルチャー生産など、様々な名前がつけられている。私たちからすれば、これらはアグロエコロジーではない。私たちはそれらを拒絶し、アグロエコロジーのこの狡猾な盗用を暴露し、妨ぐために闘う。
気候、栄養不良などの危機の真の解決策は、工業型モデルに順応させることからはもたらされない。私たちは、それを転換させ、小農民、伝統的漁民、牧畜民、先住民族、都市農民などによる本物のアグロエコロジー的な食料生産に基づき、新たな都市と農村のつながりを創造する私たち自身のローカルな食のシステムを構築しなければならない。私たちは、アグロエコロジーが工業型食料生産モデルの道具となることを許すことはできない。私たちは、アグロエコロジーをその工業型モデルに対する本質的なオルタナティブだと考える。そして、人間性や母なる地球にとってより良いものへと生産と消費を変換するための手段だと考えている。
アグロエコロジーの共通する柱と原則
アグロエコロジーは、生き様であって、私たちが自然の子として学ぶ自然の言葉だ。それは、単なる技術や生産の実践のセットではない。それはどの領域でも同じやり方では実践できない。むしろ、私たちが多様な領域を超えて同様でありつつも、多様なやり方で実践されるとの原則に基づく。母なる地球と私たちが共通してわかちあう価値観を尊重しつつ、個々のセクタがそれ自身の地元の現実と文化の色で貢献するのだ。
アグロエコロジーの生産実践(間作、伝統漁業、移動放牧、作物、樹木、家畜、魚の統合、厩肥、堆肥、ローカルな種子、家畜育種など)は、土壌の中の命を育てること、養分の循環、生物多様性のダイナミックな調整、エネルギーの保全をすべてのスケールにおいて、エコロジー的な原則に基づく。アグロエコロジーは、工業から購入しなければならない外部から投入される資材の使用を劇的に減らす。アグロエコロジーでは、農薬、人工ホルモン、遺伝子組み換えなどの危険な新技術は必要ない。
土地はアグロエコロジーの根本的な柱だ。人びととコミュニティは、その土地との自分たち自身のスピリチュアルで、物質的な関係性を維持する権利を持つ。漁場を含めて、その土地と領域を管理するため、政治的にも社会的にも、慣習的な社会構造を維持し、発展させ、コントロールし、再建する権利が与えられる。これは、法律、伝統、関税、保有システム、組織、人びとの自己決定権と自治を全面的に認めることを意味する。
コモンズ(共有財産)への共同の権利とアクセスが、アグロエコロジーの大黒柱だ。私たちは、共有地へのアクセスをわかちあう。それは、多様な仲間たちのグループの故郷だ。そして、私たちは、アクセスを調節し、対立を避ける慣習的なシステムを洗練させてきたが、私たちはそれを守り、強化したい。
私たちの多様な知と学びの方法は、アグロエコロジーにとって基本となるものだ。私たちは、対話を通じて(知恵の対話)、知の作法を発展させている。私たちが学びのプロセスは、大衆的教育に基づく、水平で仲間から仲間のものだ。それらは、私たちの研修センターや村で生まれ(農民は農民を、漁民は漁民を教えるなど)、また若者と高齢者との知の分ち合いとして世代間で展開されるものでもある。アグロエコロジーは、私たち自身のイノベーション、研究、作物や家畜の育種選抜を通じて開発されている。
私たちが宇宙観の核は、自然と宇宙と人間との必要なバランスだ。私たちは、人間が自然と宇宙のごく一部にすぎないことを認める。私たちは、大地と生命の網とのスピリチュアルなつながりをわかちあう。私たちは大地と人びとを愛する。それなくしては、私たちはアグロエコロジーを守ることはできず、自分たちの権利のために闘えず、世界も養えない。私たちはあらゆる形での命の商品化を拒絶する。
家族、コミュニティ、共同体、組織、運動は、アグロエコロジーが繁栄する肥沃な土だ。共同的な組織化と行動によって、アグロエコロジーの拡大、地域の食のシステムの構築、企業による私たちの食のシステムに対する統制に挑戦することが可能になる。人びと相互の、そして、農村と都市住民との連帯が決定的な要素なのだ。
アグロエコロジーの自治が、グローバル市場の統制に取って代わり、コミュニティによる自治をつくり出す。それは、私たちが外部から来る購入された投入資材の使用を最小化することを意味する。それには、連帯経済の原則、そして、責任を負う生産と消費の倫理に基づくように市場を作り直すことが必要となる。それは、直接的で公正な短い流通チェーンを促進する。それは生産者と消費者との透明な関係性を意味し、リスクとメリットをわかちあう連帯に基づく。
アグロエコロジーは政治的なものだ。それは、社会の権力構造に挑戦し、変容させることを求める。私たちは、種子、生物多様性、土地と共有地、水、知、文化、コモンズのコントロールを、世界を養う人びとが手にすることを必要としている。
女性とその知識、価値観、ビジョン、リーダーシップは、前進するために決定的だ。移住やグローバリゼーションは、女性の仕事が増えることを意味する。けれども、女性たちは、男性よりも資源にはるかにアクセスできていない。彼女たちの仕事は認められず、評価されないことが多い。アグロエコロジーがその完全なポテンシャルを達成するには、権限、仕事、意志決定、報酬が平等に分配されなければならない。
若者も女性とともに、アグロエコロジーの発展のための二つの主な社会的基盤のひとつだ。アグロエコロジーは、私たちが社会の多くで進行中の社会的、エコロジー的な変容に寄与するため、若者たちにラディカルなスペースを提供できる。若者は、彼らの両親、年長者、祖先から学んだ集合的な知を未来へと運ぶ責任がある。彼らは、未来世代のアグロエコロジーのスチュワードだ。アグロエコロジーは、農村の若者にとって機会を産み出し、女性のリーダーシップを重んじる地域的で社会的なダイナミックをつくり出さなければならない。
戦略
Ⅰ. 政策を通じてアグロエコロジー的な生産を促進
- 社会的、経済的、自然的な資源問題へのアプローチにおいて、地域を重視し包括的な政策
- 小規模な食料生産者による長期的な投資を促進するため、土地と資源のアクセスを保障する。
- 資源の管理、食料生産、公的な調達政策、都市と農村のインフラ、都市計画で、包括的でアカウンタビリティのあるアプローチを担保する。
- 関連する地方政府や当局と連携し、分散型で真に民主化された計画プロセスを促進する。
- アグロエコロジーを実践する小規模な食料生産者や加工業者を差別しない、適切な健康や衛生規制を促進する。
- アグロエコロジーや伝統医療の健康面と栄養面を統合する政策を促進する。
- 伝統的な実践に基づき、伝統に共通性のある医療、教育、獣医サービスなどの移動サービスと同様に、遊牧民の牧草地、移住ルート、水源のアクセスを保証する。
- コモンズへの慣習的な権利を保障する。自分たち自身の種子を利用し、交換し、育種選抜し、販売する小農民や先住民族の共同の権利を保障する種子政策を保障する。
- 土地、天然資源へのアクセス、フェアな収入、知識交換や伝達の強化を通じて、アグロエコロジー的な食料生産に参加する若者を引きつけ、参加を支援する。
- 都市農業と都市郊外でのアグロエコロジー的生産を支援する。
- 伝統的なエリアでの野生生物の狩猟や採集や狩猟を実践するコミュニティの権利を保障すること。そして、彼らの生活圏がかつてそうであったような豊かさへのエコロジー的、文化的に復元を促進する。
- 漁業コミュニティの権利を保障する政策を実施する。
- 世界食料保障委員会(CFS)の保有ガイドラインとFAOの小規模漁場ガイドラインを実施する。
- 真の農地改革とアグロエコロジーの研修を含め、農村労働者の威厳ある暮らしを保障する政策やプログラムを開発し、実施する。
II 知識のわかちあい
- 新たなアイデアを含めて、世代間、そして、様々な伝統を超えた水平のわかちあい(農民と農民、漁民と漁民、牧畜民と牧畜民、消費者と生産者)。女性と若者が最優先されるべき。
- 研究アジェンダの目的、方法論の人びとによるコントロール。
- 歴史的な記憶から学びそのうえに経験を体系化する。
III 女性の中心的な役割を認識する
- アグロエコロジーのすべての領域で、女性の権利のために闘う。その中には労働者と労働の権利、コモンズへのアクセス、市場への直接的なアクセス、収入の管理を含まれる。
- プログラムとプロジェクトは、意思決定の役割とともに、すべての段階で、計画や実施の最も早期の公式化から、すべて女性を含めなければならない。
IV.地域経済を築く
- 地域の生産物のための地域市場を促進する。
- 生産者と消費者の双方を支援するため、オルタナティブな金融インフラ、機関、メカニズムの発展を支援する
- 生産者と消費者との新たな連帯の関係を通じて食料市場を作り直す
- 適した時期に連帯経済の経験と参加型認証システムの連携を発展させる
V.アグロエコロジーのビジョンをさらに発展させて広める
- エコロジーのビジョンをコミュニケーションを発展させる
- アグロエコロジーの医療と栄養面を促進する
- アグロエコロジーの地域的アプローチを促進する
- 若者たちがアグロエコロジーのビジョンを持続的に更新し続けられるように実践を奨励する
- 食のシステムでの食料廃棄物やロスを減らすためのカギとなるツールとしてアグロエコロジーを促進する
VI.同盟を築く
- 同盟関係を食料主権のための国際計画委員会(IPC)などと統合し、強化する
- 私たちの同盟を他の社会運動や公的研究組織や公的機関との同盟に拡大する
VII.生物多様性と遺伝資源の保護
- 多様性の管理を保護し、尊重し、保障する
- 自分自身の種子や家畜種を利用し、販売し、交換するため、種子を管理し、再生し、実施する生産者の権利を取り戻す。
- 漁業コミュニティが海洋や内陸の水路の管理で最も中心的な役割を果たすことを保障する
VIII.地球を冷やし、気候変動に適応する
- 「気候でスマートな農業」やそれ以外の誤ったバージョンのアグロエコロジーではなく、この文章で定義されたアグロエコロジーこそが、気候変動に格闘し適応する第一の解決策であることを国際機関や諸政府が認めるようにすること。
- 気候変動に対処するローカルなアグロエコロジーのイニシアチブの優良事例を識別し、文章化し、わかちあう。
IX.アグロエコロジーの企業や組織による乗っ取りを弾劾し闘う
- 遺伝子組み換えやその他の誤った解決策や危険な新技術を促進する手段としてアグロエコロジーを使おうとする企業や組織の試みと闘う
- 気候にスマートな農業、持続可能な集約化、工業型水産業の「微調整」といった技術的修正に隠された企業利益を暴露しよう
- アグロエコロジーのエコロジ―的な長所の商品化や金融化と闘おう
議長組織:Coordination Nationale des Organisations Paysannes du Mali (CNOP Mali)
La Via Campesina (LVC)
Movimiento Agroecológico de América Latina y el Caribe (MAELA)
Réseau des organisations paysannes et de producteurs de l’Afrique de l’Ouest (ROPPA)
World Forum of Fish Harvesters and Fishworkers (WFF), World Forum of Fisher Peoples (WFFP)
World Alliance of Mobile Indigenous Peoples (WAMIP), More and Better (MaB)
- 小農民と訳出した言語はpeasantsです。peasantやcampesina(スペイン語、ポルトガル語)にあたる日本語は歴史的経緯も踏まえると、百姓の方が近いと思われます。自然との生産活動に関わる多様な人を意味する百姓という言葉の復権は重要なことに思われます。
- 「緑の革命」とは化学肥料、農薬、F1種子がセットとなった工業型農業をもたらす技術パッケージによって成立する。「青の革命」は「緑の革命」の漁業版。集約的なエビ養殖など。どちらも生態系の破壊、小規模農漁業の債務負荷などをもたらし、その持続性に疑問符がついています。
英語原文は
DECLARATION OF THE INTERNATIONAL FORUM FOR AGROECOLOGY
アグロエコロジー特集サイトもご覧ください。
アグリビジネスと闘うブラジルのアグロエコロジーと世界の食料システムの危機
2月11日、明治学院大学で「日本アグロエコロジー会議第1回勉強会」が開かれました。400名もの参加者を得て、日本の有機農業を牽引してこられている金子美登(かねこ よしのり)さんが執筆された「アグロエコロジー推進宣言」が読み上げられました。
この学習会の中で、ATJ政策室の印鑰(いんやく)が「アグリビジネスと闘うブラジルのアグロエコロジーと世界の食料システムの危機」をテーマに報告を行いました。時間が限られていたために十分報告できませんでしたので、この場で改めて報告させていただきます。
世界的な食のシステムの危機とアグロエコロジー
現在、世界で食と農に起因する危機が大きな問題になっています。本日配付された資料には工業型農業モデルとアグロエコロジーとが対照されていますが、この対比がとても重要です。国連機関の中でもこれまで推進されてきた工業型農業モデルをすぐにアグロエコロジーに転換しなければ世界は破局的なことになると警告する報告が出ており、アグロエコロジーへの転換の必要性、緊急性が語られています。
しかし、一方、日本政府が「企業の農業参入」などと工業型農業の推進に固まっていますが、それはきわめて時代錯誤的な政策になっているといわざるを得ないと思います。
ブラジルでアグロエコロジーはどう生まれたか?
まずブラジルでアグロエコロジーがどのように生まれたかについて、概観したいと思います。
ブラジルでも1970年代頃から有機農業の実践が本格的に始まります。そして1980年にサンパウロ州農業技術者協会、ブラジル最初の有機農業の教習課程を開設します。講師は Ana Maria Primavesiさんと続木善夫さんでした。Ana Mariaさんは土壌の専門家でブラジルのアグロエコロジーの母と呼ばれている方で、オーストリア人移民、続木さんは日本人移民、移民の方たちがブラジルの有機農業の立ち上げに活躍されています。
ブラジルでは農地改革が大きな課題です。日本では農地改革が戦後行われますが、ブラジルではポルトガルの植民地時代以来の巨大地主が土地を独占しており、1988年憲法でも農地改革が規定されているのですが、地主層は政治権力を握っており、農地改革はなかなか進んでいません。有機農業を学ぶ人たちの中にこの有機農業と貧困層を救う農地改革という社会変革を結びつけようと考える人たちが出てきます。この人たちによってオルタナティブ農業運動が1980年代後半から活発になっていきます。
このオルタナティブ農業運動に『アグロエコロジー:持続可能な農業の科学的基礎』という本を通じてミゲル・アルティエリさんというチリ出身の学者の研究が伝わります。この概念がオルタナティブ農業運動に大きな影響を与え、科学としてのアグロエコロジーがさっそく取り入れられます。外国の学者の説を農民に押しつけるのではなく、地域の農民の伝統的な知恵と科学者の知見を対話させる中で、農民が自分の使う方法を選び取っていくという方法によって、ブラジルにおけるアグロエコロジー運動が始まっていきます。
アグロエコロジーとは何か?
ミゲル・アルティエリ氏は「アグロエコロジーとはエコロジーの原則を農業に適用するものである」と1983年に定義します。ここではアグロエコロジーとは科学的な原則であると同時に農業のあり方に関わる定義となっています。
しかし、現実に農業にエコロジーの原則を適用しようとしても、農業は実際の政治、経済に規定され、また文化のあり方とも関わっています。そのリンクを解明していかない限り、実現することができません。こうして農だけでなく、食のチェーン、消費者を含めた食のシステムすべてがその対象へと拡がっていきます。
こうした中で、アグロエコロジーは科学であると同時に、農業実践であり、政治的・社会的運動であるという3つの次元を含み込む概念に発展していきます。
ちなみにブラジルにはアグロエコロジー全国連合(Articulação Nacional de Agroecologia, ANA)というネットワークがありますが、学者・研究者・学生中心のブラジル・アグロエコロジー協会(Associação Brasileira de Agroecologia, ABA)もあり、このABAはANAのネットワークにも加盟しています。つまりANAのネットワークには農民も、社会運動も、学者も参加しています。
ブラジルのアグロエコロジーが直面した課題第1ラウンド
「緑の革命」との闘い
前に見たとおり、ブラジルでは農地を得た人びとが最初からアグロエコロジーを実践するケースもありましたが、一方で80年代、90年代は支配的な農業のあり方、つまり化学肥料、農薬、ハイブリッド種子の「緑の革命」パッケージを導入する人びとも少なくありませんでした。
しかし、そうした技術を導入した農園ではその後借金漬けとなるケースが続出し、さらに農薬被害なども出てきて、農地放棄することも出てきました。
一方、アグロエコロジーを選択した農園は生産力も上がり、成功率が高くなりました。10数年の試行錯誤を経て、MST(土地なし地方労働者運動)は2000年前後にアグロエコロジーこそ進むべき道と決断するに至ります。
この転換は大きな意味を持ったと思います。以前は農薬や化学肥料を使う農民たちと環境運動とが対立することもありました。しかし、今や農民運動も環境運動もアグロエコロジーに賛同し、互いを支援し合う関係に変わったからです。
ブラジルのアグロエコロジーが直面した課題第2ラウンド
遺伝子組み換えの侵略
ブラジルのアグロエコロジーが直面する問題、その第2ランドが、第2次「緑の革命」とも言われる遺伝子組み換えの「侵略」と書きました。大げさに思われるかもしれませんが、実際の事態を見ればそれが「侵略」といわざるをえないものなのです。1988年、ブラジルの裁判所は遺伝子組み換えの耕作を禁止します。しかし、この禁止にも関わらず、遺伝子組み換え大豆がアルゼンチンから密輸され、その栽培が既成事実化されてしまいます。その当時、ブラジルの世論も圧倒的に遺伝子組み換え反対でした。そして遺伝子組み換え禁止を公約として労働者党のルラが大統領に当選します。
しかし、その後、遺伝子組み換え大豆を耕作した大規模地主層の力に屈し、ブラジル政府は2005年、遺伝子組み換えを合法化してしまうのです。
こうして遺伝子組み換え大豆の耕作、そして後ほど、遺伝子組み換えトウモロコシ、コットンなどがブラジルに続々と入っていきます。ブラジルだけでなく、アルゼンチン、パラグアイ、ボリビアにも広がり、この地域は遺伝子組み換え企業が「大豆連合共和国」と呼ぶなど、遺伝子組み換え大豆に支配された地域に変わってしまいます。
こうした耕作地域では100ヘクタールに1人か2人の職しか生み出しません。100ヘクタールあれば小規模家族農業であれば地域にもよりますが50家族が生きることも可能であるにも関わらず、農民のいない農業が拡がっています。
遺伝子組み換え大豆の生産が国外の家畜飼料やバイオ燃料原料としての需要に駆られて急激に伸びたこともあり、土地の独占、森林破壊(実際には牧場が大豆耕作地に転換され、追い出された牧場が森林破壊するケースが多い)、そして農薬使用の激増が引き起こされました。アルゼンチンやパラグアイでも、出生異常、流産、ガン、白血病、糖尿病が急激に上昇してしまっています。ブラジルでは農薬の使用量が2008年に世界一位となってしまいました。それに対して農薬反対運動が全国的に取り組まれています。
遺伝子組み換えと健康被害
こうして拡がった遺伝子組み換えは健康にどのような影響を及ぼすでしょうか? そのことを考える上で、同様に遺伝子組み換え生産の集中している米国における疾病の動向がひじょうに参考になると思います。
米国では近年、慢性疾患が急激に高まっています。アレルギー、糖尿病、ガン、さらには自閉症や認知症という神経系の病気、さらには不妊などの問題も指摘されています。
この慢性疾患が急激に増え出したのが1996年の後、つまり遺伝子組み換えが登場してからです。これ自体は因果関係を立証するものではありません。しかし、そこになんらかの関連があると考える研究者は増えており、これらの病気と遺伝子組み換えとの関連を指摘する研究が最近山のように発表されています。
危険度が増す遺伝子組み換え
1996年から商業栽培ー流通を始めた遺伝子組み換えがもたらす健康被害についてその懸念が世界的に高まっていますが、これまでの遺伝子組み換えはそれでもまだ「古き良き」遺伝子組み換えだったと言えるのではないかと思えるほど、今後、危険度が大幅に増していく危険が高いことに注意いただきたいと思います。
その主要原因はモンサント開発の除草剤グリホサート(ラウンドアップは商品名)の効力が失われていることにあります。このグラフの青の線はグリホサートの使用量、赤いグラフはグリホサートをかけても枯れないスーパー雑草の出現数です。グリホサートが効かなくなっており、そのために散布量が増えていることがわかります。その結果、大豆やトウモロコシに含まれる残留農薬も増え続け、米国環境庁は2013年にこの残留農薬許容量を市民の反対を押し切って大幅に引き上げる決定を行いました(2014年に実行)。
輸入される遺伝子組み換え大豆やトウモロコシの有害性は以前よりも今後高まっていく可能性が極めて高くなります。
そしてさらに問題であるのは、新しい遺伝子組み換え作物の導入です。グリホサートだけでは対応できないとして、ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤、2,4-D、ジカンバなどをまぜて使うことを遺伝子組み換え企業は考えました。これに対して、米国でも大きな反対運動が起こり、50万人以上が反対のパブリックコメントを送るなど、2年にわたり、米国政府も承認できない事態が続きました。
しかし、昨年9月から今年1月にかけて、これらの遺伝子組み換えは相次いで承認されてしまう事態になっています。米国ではこの問題は大きな騒ぎになったのですが、日本ではマスコミは報道しませんでした。国会も社会も問題をほとんど知らないまま、2年前にすでに日本ではこうした遺伝子組み換えは米国に先んじて承認されてしまっています。
日本には遺伝子組み換え食品表示義務はありますが、ひじょうに緩い義務となっているため、家畜の飼料や加工食品に遺伝子組み換えが使われていてもその表示義務はありません。だから日本の住民はその肉や食品に枯れ葉剤が入っていることも知る術がありません。そのため、米国で生産がそうした新しい遺伝子組み換えが始まってしまえば知らない間に日本の食卓に上がって、胃の中に枯れ葉剤が入っていく事態になっていってしまいます。
この枯れ葉剤耐性の新しい遺伝子組み換えは現在、世界最大の市場である中国が承認していないため、まだ本格的な耕作が始まっていませんが、もし中国が認めてしまえば、米国だけでなく、南米、さらには南アフリカなどでも耕作が拡がってしまう可能性があります。
「モンサント法案」
しかし、遺伝子組み換えはどんどん拡大するという状況では必ずしもありません。その1つの要因は遺伝子組み換えの危険性に気がつく人が世界で増え、反対運動が日々強まっていることが上げられます。そしてもう1つの要因は農民の中に遺伝子組み換えの耕作から離反する動きも出ているからです。実際に、遺伝子組み換えの耕作国は20年近くたっても大きくは拡がっていません。遺伝子組み換え企業も減収の傾向を見せています。
それではこうした遺伝子組み換えに基づく工場型農業は衰退に向かっているのでしょうか? そうあってほしいのですが、政治的な力を持って、この農業モデルを維持しようとしています。
それがここで申し上げる「モンサント法案」の動きです。この名前はこの法案がラテンアメリカで出された時、モンサントに代表される遺伝子組み換え企業を利するものであり、またモンサントなどが米国政府を通じてさまざまな国に押しつけているものだとして「モンサント法案」という呼び名がつけられました。もちろん、そういう名前の法案が存在しているわけではありません。
この法案の原型は米国やインドでいち早く制定された法律にあると思われます。メキシコ、チリ、コロンビア、アルゼンチン、グアテマラにその法案が出され、コロンビアやグアテマラは成立してしまいます(ベネズエラでも似た動きがありました)。この法律が成立すると、農民が種子を保存することを犯罪として、登録された種子を毎年買わなければならなくなります。
自由貿易協定の締結により、多くの国がこうした国内法の整備が強制されています。ラテンアメリカではすべての国で大反対により実質的に廃案になりました(コロンビアは2年間凍結、グアテマラは法の成立後、裁判所が違憲判決、国会が撤回)が、チリやメキシコではTPPによって、廃案に追い込んだ「モンサント法案」が再浮上する懸念が持たれています。ラテンアメリカだけでなく、アフリカやアジアでも同様の法制定が進んでおり、EUでもそれは進みつつあります。TPPは中でも一番もっとも強権的な権利をアグリビジネスに認める自由貿易協定になると懸念されています。
そもそも遺伝子組み換え企業は化学企業であり、農業関連企業ではなかったのですが、遺伝子組み換え種子を作り始めた頃から、種子企業の買収を進め、現在では6つの遺伝子組み換え企業が世界の7割近い種子市場を独占しているといいます。こうした種子市場の独占と、自由貿易協定で強制する国内法により、遺伝子組み換えでないにせよ、農民に種子を買わせることを義務付けることができるようになります。そしてその種子は化学肥料や農薬なしには育てることが難しいものであり、その結果、農民は否が応でも化学肥料や農薬を買わなければならなくなってしまいます(ただし、家庭内菜園などは除かれ、商業流通を前提とした農業活動に限られてはいますが)。
つまり、農民が農薬を使わない健康な作物を作りたいと欲しても、消費者がそれを望んでも、こうした市場独占と法律により、それをできなくさせてしまう動きが世界的に進んでいるのです。
食料主権を確立しよう!
自分たちの食べたいものを選び、自分たちの作りたい作物を選ぶことができなくしてしまう。知らない間に枯れ葉剤の入った肉を食べ、農薬まみれの食品を食べることになってしまう。そんな危機的な世界の食のシステムを変えていこうという動きが世界で起きています。
食とは人間が生きる上でもっとも基本な行為です。作りたいものを作り、食べたいものを食べるというのは人間の基本的な権利でなければなりません。そして、人びとは食文化を自由に形成し、自分たちが依拠する食のシステムを選ぶ権利を持っているはずです。そうした権利、食料主権は今、アグロエコロジーの最重要課題であり、国際的な小農民の運動団体であるVia Campesinaは国際的に食料主権の確立とアグロエコロジー推進に向け運動を進めています。
アグロエコロジーが社会のオルタナティブの大きな軸に
世界の食料システムが少数の多国籍アグリビジネスに支配されようとしている中、アグロエコロジーそして食料主権の追求は農民の枠を超えて、社会の多くの人びとが関わる大きなテーマとなり、連帯の軸になってきています。
ブラジルでも農民、環境運動、反貧困運動、女性運動、先住民族、マイノリティ、消費者運動、労働運動、住民運動、医療関係者を巻き込む大きな動きになっています。MST(土地なし地方労働者運動)は最初は土地を持たない人たちの生存のための活動だった、しかし、今は、健康な食を社会に提供する使命が加わった、とMSTのリーダー、ジョアン・ペドロ・ステジルも語っています。
ブラジルのアグロエコロジーを支えるもの
農民や市民の自発的な動きだけではアグロエコロジーは成立しません。それを支える政府や自治体の動きが不可欠です。ブラジルの政府は大きな地主のための政策のみに関心を払ってきていますが、その中でもアグロエコロジーの運動の高まりに対して、いくつかの重要な政策を認めるにいたっており、それがアグロエコロジーの展開を発展させる基礎になっています。
2003年 種子法の中にクリオーロ種子条項成立
2003年 食料調達計画(PAA)
2009年 全国学校給食プログラム(PNAE)で地域の家族農家からの買い付け義務
2012年 アグロエコロジーと有機生産政策(2013年実施)
2014年 革新的な栄養ガイドラインを発表
先ほど、「モンサント法案」について触れました。種子が握られてしまえば食料生産の自由は奪われてしまいます。それほど大きな問題ですが、ブラジルではアグロエコロジー運動の成果で、農民の権利として種子の権利が勝ち取られています。これがクリオーロ種子条項で、農民が長く育ててきた在来種子の権利を認めるものです。クリオーロ種子は人びとの共有財産であり、それぞれが自然の恵みとして保存し、共有することができます。
2003年に作られた食料調達計画は貧窮者や戦略的な食料調達のために、家族農家から直接、国が農産物を買い付け、食料の権利を確保し、アグロエコロジー的な農業生産を振興させる政策です。2009年に学校給食プログラムは地域の家族農家からの30%の買い付けを義務付けます。このことにより、辺境地であっても、地域の家族農家がアグロエコロジー生産をしながら現金収入を得ることが可能になります。
こうした政策の獲得を経て、2012年の画期的なアグロエコロジーと有機生産政策が実現することになります。ブラジル政府は相変わらず大規模地主の影響力が強いのですが、草の根のアグロエコロジー運動がついにその政府の政策にアグロエコロジーを採用させるまでに至ったのです。2013年から政府の予算がアグロエコロジー振興のために、使われますが、それは官僚が勝手に決めるのではなく、その使い道まで、市民組織であるアグロエコロジー全国会議との協議によって決めることになっており、地域の農家が必要な種子バンクや貯水槽などその地域にもっとも必要なアグロエコロジー政策が追求され、実施され始めています。
世界化するアグロエコロジー
ブラジルの例を追ってきましたが、アグロエコロジーが盛んになっている国はキューバやブラジルだけではありません。英国でもアグロエコロジー研究はすでに年を重ねており、2013年には英国政府の政策を変えるためのアグロエコロジー連盟(Agroecology Alliance)が設立され、活動しています。フランスでは2013年5月 フランス、農業省、アグロエコロジー推進プロジェクトを開始し、2014年9月にはアグロエコロジーを推進させるために農業未来法が作られています。
国連でも2010年12月、食料への権利特別報告者のオリビエ・デ・シュッター(Olivier De Schutter)が人権の食料への権利のためにアグロエコロジーこそ進むべき道であると報告し、2013年9月には国連貿易開発会議が『手遅れになる前に目覚めよ』と題したレポートでアグロエコロジーへの転換の緊急性を訴えています。
2014年9月には国連食糧農業機関(FAO)がローマでアグロエコロジー国際シンポジウムを開催し、世界の学者が賛同するメッセージを表明しました。この場には日本政府の代表も参加しており、アグロエコロジーの振興に賛同しています。日本の政策への反映(日本国内の農業政策とODA政策)を求めていきましょう。
ジェンダー問題、若者との関係
農業が工業化されていく、工業型農業になっていく過程の中で、以前は大きな役割を果たしていた女性が工業型農業では排除されていきます。アグロエコロジーを進める中で、その問題が当然のことながら浮上していきます。右の写真の横断幕には「フェミニズムがなければアグロエコロジーはありえない」と書かれています。女性運動はアグロエコロジーを進める大きな要素です。
日本の地域がアグロエコロジーで再生していく場合にもこの問題は避けて通れないことと思います。アグロエコロジーとは単に農法の問題ではなく、社会のあり方、主体のあり方に関わるものなのです。
そして若者に対して何ができるかを問うことでもあります。ブラジルでのアグロエコロジー運動の中には若者の存在が目立ちます。大学でアグロエコロジーを学ぶ人の数も格段に増えており、新しい世代と古い世代の対話も活発になっています。
国際連帯の必要性
アグロエコロジーは地域によって当然取り組み方も違いがあります。気候や自然環境が違えば当然、そのアグロエコロジーのあり方も変わってくるでしょう。しかし、ブラジルのアグロエコロジー運動は当初から積極的に国際連帯を追求しています。特にアフリカの農民運動への連帯も活発に行っています。
工業型農業を進める多国籍企業が世界で破壊的な農業を進めようとすることに対して、それに対抗するアグロエコロジーが国際連帯で対抗するというのはいわば必須なことかもしれません。
現在、日本は食料の6割以上を国外に依存しています。その問題を考える上でも、日本で、どうアグロエコロジーを通じて国外の人びとと国際連帯していけるかは、日本社会にとってもとても重要な課題になってくると思います。
日本には世界に誇れる有機農業の実践経験があります。ブラジルでもこの日本人の経験は生かされており、この経験は世界的にも貴重なものだと思います。そうした経験を元にした日本独自のアグロエコロジーを発展させること、そしてそれを世界に向け発信することで世界に対しても貴重な貢献ができることと信じます。
オルター・トレード・ジャパンでは国内外の小規模生産者とともにこのアグロエコロジーの可能性を追求していきたいと考えております。そのために必要な情報や経験を多くの方たちと分かち合うことができればと思います。ぜひ、進めていきましょう。
印鑰 智哉(オルター・トレード・ジャパン政策室室長)
資料
アグロエコロジーと工場型農業の対比をしたThe Christensen Fundのインフォグラフィックの日本語版です(翻訳:日本アグロエコロジー会議第1回勉強会)
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上記の講演のプレゼン資料
オルター・トレード・ジャパンによるブラジルのアグロエコロジー全国連合事務局長インタビュー(12ページ)
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国際家族農業年で問われる日本の政策
2014年11月24日に立教大学経済研究所主催で開催された「国際家族農業年から始まる小規模家族農業の道ーフランス農業開発研究国際協力センター(CIRAD)の研究者を迎えて」(報告ページ)に続き、25日に参議院議員会館でフランスのCIRADの研究者と共に、院内集会が開かれました。国際家族農業年といってもそれが単なる啓発キャンペーンで終わってはならず、日本の農業政策、開発援助政策にも反映されなければならないからです。残念ながら直前に衆議院解散となり、議員の参加は得られませんでしたが、会議室がいっぱいになる状況で問題の重要さを感じている人たちの多さを感じさせるものとなりました。以下、その報告です。
はじめに
関根佳恵さん(愛知学院大学教員)
国連世界食料保障委員会(CFS)の専門家ハイレベル・パネル『食料保障のための小規模農業への投資』の執筆に日本から参加。専門は農業経済学。バナナ・ビジネス大手の多国籍企業ドール社の事業について調査・研究などにも携わる。
2014年は国際家族農業年です。2013年6月に国連の世界食料保障委員会の専門家ハイレベル・パネルが『食料保障のための小規模農業のための投資』というレポートを出しました。
今、国際社会には小規模家族農業への関心が非常に高まって、その意義を再評価する機運があるのですが、日本ではなかなかそうした動きが広まっていません。
日本の中でも国際社会の動きを知ってほしいということで、このレポートは『人口・食料・資源・環境 家族農業が世界の未来を拓く−食料保障のための小規模農業への投資』という書名で翻訳・出版されています。本日は、この研究の指揮を取ったピエール・マリー・ボスクさんというフランスの研究者のご来日の機会に合わせて、日本の皆さんと国際社会の情勢を共有して頂ければと思っております。
おとなりのジャン・ミッシェル・スリソーさんはピエール・マリー・ボスクさんの同僚で、同じく家族農業に関する本を出版されたばかりです。フランス語の他、もうすぐ英語版も出版される予定と聞いておりますので、日本語版もできればいいね、という話をしているところです。
このお二人は世界中で家族農業に関するセミナーを行っている方です。お忙しい中、日本にも来ていただき、昨日は立教大学で講演会を行いました。
本日の勉強会は、お二人が日本における家族農業、小規模農業が置かれている状況をぜひ知りたい、ということで実現しました。生産者が置かれている状況もそうですし、消費者団体がどういった運動をしているのか、という話をしていきたいと思います。
日本の状況を話していただき、最後にフランスのお二人からコメントをいただく形で進めていきたいと思います。
家族農業を破壊するTPP
山田正彦さん(元農林水産大臣)
元農林水産大臣。弁護士。司法試験合格後に五島で牧場を経営。次いで法律事務所設立。民主党鳩山内閣で農林水産副大臣、菅内閣で農林水産大臣。その間念願の農業者個別所得補償を実現する。TPPに反対し先頭に立って活動、現在に至る。
著書に『輸入食品に日本は潰される』(青萠堂)、『アメリカに潰される!日本の食―自給率を上げるのはたやすい!』(宝島社)、『中国に「食」で潰される日本の行く末』(青萠堂)、『小説 日米食糧戦争 日本が飢える日』(講談社)、『口蹄疫レクイエム 遠い夜明け』(KKロングセラーズ)、『「農政」大転換』(宝島社)、『TPP秘密交渉の正体』( 竹書房新書)、など多数。
みなさん、こんにちは。昨日(11月24日)は広島の庄原でTPPの話をしてきたところです。その場には農水省の農政局の人たちも来ていました。そのなかで私は、「今年は国際家族農業年ではないか」「明日はフランスからピエールさんたちが衆議院議員会館に来て話してくれるそうだ」と話したところでした。すると、その農水省の人たちは「先生、私たちはいま、それとはまったく逆のことをやらされています。いかに大規模化するか、いかに企業に農業をやらせるかということばかりで、心痛いものです。TPPしかりです」と言っていました。
2009年に民主党政権に交代し、私が農林水産大臣になったとき(2010年)、農水省の大講堂に課長以上の全員に集まってもらいました。このとき私は最初に、「日本のように中山間地域が7割という島国において、農業の大規模化、近代化という農林水産省の政策は間違いである」と話しました。同時に、「その間違いの象徴たるものは私だ。私は29歳の時に大型畜産で豚8,000頭飼って当時4億の借金を背負った。いま多くの大規模酪農農家がどれだけの負債を負って、どれだけ苦しんでいるか、わかっているだろうか? しかし日本でも、たったの6頭の酪農家が立派に利益を上げているケースがあるではないか。だから日本は、これからは小規模家族農業、これでこれから農業政策をやっていくんだ」と申し上げました。
そして私は、これまで農業団体を通じて流していた数千億円の補助金を止めて、直接、農水省と農家の人たちとの間で契約をして、戸別所得補償制度を始めました。これはバラマキと批判されましたが、すべての農家に対し、小さな農家にも大きな農家にも平等な所得補償政策にしたのです。するとこれまでは右肩下がりだった農家所得は、たったの1年で17%増加したのです。若い人も、農業に戻ってくれるようになりました。実際、みなさんにも喜ばれました。これから先、日本も戸別所得補償制度を進めながら、同時に法案化した6次産業化を図り、作るだけではなくそれを加工して売るようにして付加価値を高め、農家が少しでも所得を増やせるようしていたのです。
家族農家を追い払うTPP
ところが、ちょうどその1年後にTPPが突然、閣議で出されました。みなさんご存知のように、TPPはまさにアメリカ型の近代化です。農業について言えば大企業が主体となり、小さな農家は奴隷農業のように働かされるというような形です。種子にしても、例えばモンサント社の種子を買わなければ、自分のうちで残した種子をもう一度植えるということもできません。もちろん関税の問題でも日本の農業はだめになってしまいますが、これは関税だけの問題だけではありません。自給率は14%になってしまうと言われており、そのような大変なことを本気でやろうとしているのです。
農水省もその準備として、近代化、合理化などと言いながら、もう一度、農地の集約を行おうとしています。自民党政権はTPPを進めるために、まず今年、戸別所得補償制度を半分にしました。今まで私の時には、米1俵(60kg)で1万5,000円の所得補償という制度で、それより価格が割れた場合、それに上乗せしていました。これを半分に減らした結果、庄原の講演会で価格を聞いた話では、8,000円になっていると言うんです。庄原で5段の棚田をずっと作り上げてきた70歳くらいの農家の方は、「山田さん、もう来年はやめます」という話をされていました。
このようにどんどん農業をやめさせて、どんどん耕作放棄地を作らせる一方、3,000億円の農業予算をつけて大型農業生産法人や株式会社にその土地を取得させてようとしています。最終的には、まさに企業による農業の工業化というものをめざしているのです。しかし、日本は農地の7割が中山間地域の国です。たとえば昨日、私が行った広島の庄原のようなところは、あと10年、20年経てば、残念ながらイノシシとシカとサルの森に変わってしまうのではないかという思いがしています。
日本にも遺伝子組み換え耕作?
これは食の安全という面においても大変な問題です。これまでなんとか家族農業をやっていたけれども、農業をやめようという動きが加速しています。北海道では、一年に6%くらいの勢いで酪農家が辞めている状況です。
昨日、北海道からある30ヘクタールの小麦を作っている小麦農家の方がいらっしゃいました。その方は、アメリカのモンサントに呼ばれてアメリカに行ったそうです。以前は、アメリカでは「小麦は絶対に遺伝子組み換えはやらない」と言っていました。それは、家畜が食べる大豆やトウモロコシと違って、小麦は人間が食べるからです。それなのにいま、アメリカの小麦業界の会長が「私に小麦も遺伝子組み換えでやる」と言っていました。すでにモンサント社は北海道の農家を米国に招いて、盛大な振る舞いをして、自分たちがお金を出してやるから小麦のモンサントの遺伝子組み換えをやれという話がもう進んでいます。大変驚きました。アメリカはTPPのなかで、遺伝子組み換えの食品表示はしてはならないと、はっきり要求してきています。
こうしたことからも、まずTPPを阻止することが大事です。いま一所懸命、「TPP交渉差止・違憲訴訟」の準備を進めています。一人2,000円で会員になっていただき、ぜひみんなで闘いたい。TPPは、憲法に定められた基本的人権や生存権(憲法25条)を脅かし、ISD条項により国の主権、立法主権も司法主権も失われます。さらに国民の知る権利(憲法21条)にも関わり、秘密交渉で協定締結後4年間秘密保持条項があるというのは大変な問題ですので、ここでなんとかしなければということで、みなさんに訴えていきたいと思います。
関連サイト
TPP交渉差止・違憲訴訟の会
生協活動を通じた家族農業・自然・食・地域を守る運動について
山本伸司さん(パルシステム生活協同組合連合会 理事長)
日本生活協同組合連合会 常任理事、社会福祉法人ぱる 理事・評議員、一般社団法人互恵のためのアジア民衆基金 理事、NPO日本有機農業生産団体中央会 理事
パルシステムは首都圏で約140万世帯が加入する生協で、年間の事業高はおよそ2,000億円です。パルシステムが進めている取り組みには「産直」、つまり農家と消費者を結ぶということが我々の運動の根幹にあります。
生産者と消費者の分断された関係を繋ぎ直す生協運動
われわれ生協の立場からすると、スーパーマーケットのように低価格、かつ値札の価格だけでものを売る、つまり生産者と消費者を分断し、顔の見える関係を遮断して、お金だけで食べ物を手に入れるという行為、これがすべての問題の根源にあるのではないかと思います。まず、自分の食べるものをどこの誰が作っていて、どのように作られているかを知ることが非常に重要な消費者の権利と考えます。
例えばお米について、パルシステムでは有機栽培米や、減農薬、減化学肥料栽培、つまり農薬や化学肥料の使用を削減したお米を予約登録で買う仕組みを作っています。田植え前に予め登録し、収穫後から1年間、登録者に届けられます。基本的には、年間を通して同じ価格で提供しますが、あまりに価格が変動するときは双方が話し合って変えていきます。現在では全体で約20万人を超えるみなさんが登録し、取扱量の約半数を予約登録で届けています。
これによって、生産者は安心して作ることができ、農薬や化学肥料を削減することができます。天候不順によって大量に害虫が発生したり、何らかの危機が起きたりした場合には、あらかじめ生産者から情報が入り、消費者と議論しながら、栽培履歴や確認したことを変更することも認められるということになっています。
日本の場合、有機栽培認証制度は非常に複雑で、しかもお金のかかる方式になっています。そのためパルシステムは、生産者に認証を受けるだけの経済的余裕がない場合、有機認証機関と独自に契約し、専門子会社(ジーピーエス)が認証するという仕組みを取っています。
このような取り組みによってパルシステムは、お米全体で約3万トンを取り扱うまでになりました。しかし、それでも今年は、非常に危機的状況になっています。予約登録以外の5割を取り扱うカタログでの販売は、一般価格と比べてあまりに差が広がるとどうしても売れ行きが伸びず、苦戦してしまうのです。その打開策のひとつとして、お米の価値をどれだけ組合員や消費者に伝えることができるかがポイントになります。
食べるということは環境を体内に取り入れること
価値を伝える活動のひとつが、交流体験です。田植えから始まり、草取り、それから収穫、冬の田起こし、といったようなことまで含め、年間延べ1万5,000人ほどが農家の元へ行き、交流しています。
それから田んぼの生きもの調査という活動もあります。田んぼに生息するイトミミズなど小動物を調べるというものです。それを定期的に繰り返すことで、この田んぼと食べる人の親和性が高まります。つまり田んぼと仲良くなるということです。これにより、生産者が見えるだけでなく「田んぼで育てられたお米を自分たちの体に取り入れる」という考えが深まります。
食べるということは、環境を体内に取り入れるということです。食べることの価値、命の価値というものを実感するということがそのお米の価値創造につながると考えています。
そうでないと、ただの商品になった瞬間にどうしても価格で比較し、自分たちのお米は高いのではないかという疑問を抱くことになります。しかし、交流と生きもの調査と価値についての深い理解が産地との結びつきによって深化していくことで、ほかと比較しない、創造的な食が実現すると考えます。
消費者には食を通して自然を守る義務がある
パルシステムでは「遺伝子組み換えにNO」との立場で、生産物に関する遺伝子組み換えの表示をしています。たしかに、日本では原料やそのまま食べるものに関しては遺伝子組み換えでないものを使うことができますし、条件つきですが主原料で使用している場合も表示によって選択できます。しかし調味料や使用が少量の副原料になると、これらには遺伝子組み換えの表示義務がありません。パルシステムでもできるだけ排除していますが、残念ながら完全には排除できないのが現状です。それについてはきちんと表示をして、消費者がわかるようにしています。
規模の小さな生産者や日本の中山間地の農業を大切にするという点でいうと、私たちの生協には環境を守るという方針があります。生協はただ安ければいい、よりよいものをより安く、という大きな流れも一方でありますが、生協の組合員は森を守り、自然を守る、そのことが消費者の権利であると同時に義務であると考えています。
たとえば北海道では、かつて酪農の土地を作るために原野を切り拓き、その結果、川や海が汚されホタテなどさまざまな海の生態系を崩壊に導きました。しかしこの60年間、野付漁協では、森を育て、川を育てたことで、魚介類や昆布などを復活させました。それを産直で私たちが買い、一部を森を守るための賦課金として産地に還元するという活動に取り組んでいます。
また沖縄ではリゾート開発によって、サンゴが破壊されてしまいました。恩納村漁協では、地元のサンゴをいったん陸上に揚げて育てて増やし、それを再び海に戻すという活動を続けています。北海道の例と同様、私たちがもずくを購入すると、サンゴ復活のための賦課金を付けて還元しています。こうした取り組みによって、野付漁協や恩納村漁協では安定した漁業を実現し、いま後継者が増えつつあります。
産直の世界化と食・地域・環境を守る協働作業
農村や漁村を守っていくためには、都市における消費者の自覚的な取り組みが必要です。それは決して倫理的な問題だけではなく、食べることの意味、おいしさの原点を知り、自然を守りその豊かさの恵みをいただくことで、消費者は本当に豊かな食生活を営むことができるようになります。こうした都市と農村の循環構造を生協が意識的に組み合わせていくということを、ひとつの日本のモデルとし、できれば世界へ広げていきたいと考えています。
たとえば、オルター・トレード・ジャパン社(ATJ)とともに、フィリピンのネグロス島やルソン島におけるバナナの栽培に取り組んできました。それからタイなどにおけるバナナなどの産直活動も進んでいます。こうした形で、日本の産直の循環、生産と消費の連携、協働を、世界の取り組みの中に広げていきたいと思っています。
いま政府は大企業、多国籍企業を導入して、日本の農業を多国籍企業の支配下に置こうとしています。その先端で協同組合の破壊、特に農協への攻撃が行われています。もちろん、私たちは農協についてすべてが正しいと思っているわけではありません。しかし、根本的にこういった農業地帯、漁業地帯の自立を保持している協同組合への攻撃は許されないものです。多国籍企業や新自由主義を支援する政策にはきちんと対抗し、すべての協同組合の仲間や市民団体とともに家族農業を守り、豊かな地域社会、自然との共生を守っていきたいと思っています。
関連サイト
パルシステム
地球市民皆農運動へ
斎藤博嗣さん(一反百姓「じねん道)
2005年東京から茨城の農村へ移住。一反百姓「じねん道」の屋号で、妻と子供2人の家族と共に世界一小さい百姓(One Field Farmer)を実践中。農的ワークライフバランス研究家、T&Tオルタナティブ研究所研究員。福岡正信著『緑の哲学 農業革命論~自然農法 一反百姓のすすめ~』(春秋社)の編者。
2005年東京から茨城の農村・阿見町へ移住し、一反百姓「じねん道」の屋号で、妻と子供2人の家族と共に世界一小さい百姓(One Field Farmer)を福岡正信・自然農法で実践しています。
国際家族農業年に関連する、フォーラムに聴衆として、イベントにはトークゲスト及び出展者として参加しました。
・2014年9月18日東京、「“小さな農の”のあり方」~国際家族農業年に考える~ 食糧フォーラム2014 JAとNHK主催、農林水産省後援
・2014年10月19日東京、「土と平和の祭典2014」種まき大作戦実行委員会主催、NPO法人全国有機農業推進協会共催、農林水産省後援
農民とともに生き、農民から学ぶ姿勢が必要
私は2つの集いの方向性に注目しています。消費者でしかなかった都市生活者が、農へ回帰する視点を持ち始めていること。また逆に農村側でも新たな農や地域の担い手として都市住民を多様な形で積極的に呼び込む動きが加速しています。生活の中に少しでも農的生活を取り入れ、ライフスタイルを転換しようとする多くの若い世代からも、社会変革の一つとして農を捕らえる機運が高まっているように感じます。
私の一反百姓としての視点。世界に視野を広げれば、持続可能な家族的小規模農業は、食糧を確保するだけではなく、生物多様性の保全をはじめ、未来世代の地域や地球環境にも貢献しうる暮らし方であることが認識され始めています。農民を支援しようという目線ではなく、各国で家族農業を実践し、生きる上で本当に必要なことを身につけている農民とともに生き、農民から学ぶ姿勢が必要なのではないでしょうか。
私たち一反百姓「じねん道」は、2005年の新規就農以来、在来種、固定種の種子を大切に自家採種しながら、在来大豆や古代米を栽培したり、切り出した薪を燃料に、杵や臼で手作りした味噌や黄な粉などの農産加工品を販売してきました。
しかし、2011年原発事故以降、自然農法の農産物をお客さんに喜んで頂く農業をこれまで通り営むことが、「じねん道」の伝えたいメッセージなのか、自問自答を繰り返し夫婦で話し合いました。あらゆる難問は人間がつくりだした問題であり、世界中の皆が土に向かい、農にたずさわり、本気になって種を蒔いたら、永続的に問題が解決できるという思いに駆り立てられました。
私たち「じねん道」は自然農法を実践しながら、10年かけて家族みんなで自家採種した種を販売することを通して、Everyday Greenpic 「百姓は毎日が緑の祭典」をスローガンに、「国民皆農運動」を展開しています。
画家になるより、画中の人に
19世紀、暗い室内で静物画を描いていた画家の中から、印象派の画家たちが光のある郊外へ飛び出して、自然そのままの風景や働く農民達を、尊敬の念を持ってキャンバスに描いたことは、当時は革命的なことでした。私たち「じねん道」の先生、自然農法の創始者・福岡正信さんは「画家になるより、画中の人になろう」とおっしゃっていました。「画家になって外側から農民を描くのではなく、みずから耕すものになれ」ということです。ミレーの「落穂ひろい」、ゴッホ「種まく人」の画の中の農民になろう。
「D’où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?」
「我々は何処から来たのか? 我々は何者か? 我々は何処へいくのか?」
この言葉、ポール・ゴーギャンの描いた絵画の命題に答えるものとして、「我々は土から生まれ、我々は土に育ち、我々は土に還る」。
国際家族農業年を機に、一人一人が「新しい農民」に、世界市民として参加する「地球市民皆農運動」を提案します。
関連サイト
一反百姓「じねん道」
日本の農民運動から国際家族農業年、国際連帯を考える
真嶋良孝さん(農民運動全国連合会副会長)
国際的農民運動を展開するビア・カンペシーナの日本組織・農民運動全国連合会の副会長。著書に『いまこそ、日本でも食糧主権の確立を!』本の泉社、2008年、『食料主権のグランドデザイン』(共著)農山漁村文化協会、2011年がある。
農民連は第二次世界大戦前の土地を耕す農民の小作争議と戦後の農民の闘いを受け継いで組織を作りました。今年で設立25年になります。
私たちは家族農業経営の自立的発展をめざすことと安全・安心な食料を日本の国民に供給することを大きな目的に運動しております。
私たちの戦略的課題は大きく分類して4つあります。
1. すべての農民階層を対象にして運動すること。
2. 日本農業の自主的な発展を求めること。
3. 国民諸階層との連帯を追求すること。
4. 国際連帯を追求する。
これらの問題を説明しながら、今、日本の小農民、家族経営が直面する課題について意見を述べます。
大企業に狙われる農地、世界的規模での農民追放
第一の点、すべての農民階層といっしょに運動するということです。日本は歴史の古い国ですけれども、今のように大多数の農民が自作農、家族経営になってから、まだ65年の歴史しかありません。私は65歳なのですが、私が生まれた年が農地改革の終わった年でした。
農地改革のポイントは戦前の半封建的な寄生地主制度を解体して、農地はそれを耕す農民自らが所有する原則を確立したことでした。同時にこれは新しい地主を作らないという意味でも大事なことだったと思います。新しい地主階級というのは言うまでもなく資本です。特に今の農地制度では株主会社による農地の取得や利用を厳しく制限していますけれども、これは日本の農地改革制度の特徴だったと思います。おそらく世界を見てもここまで徹底した規制をやっているのは日本だけだと思います。
この原則に対する攻撃が今、極めて熾烈になっています。安倍政権と経団連、あるいは経済同友会などが日本の家族経営を規模が小さすぎる、効率が悪い、あるいは老人農業だと攻撃し、戦後の農地改革の負の遺産だとまで言って、農業の戦後レジームである農地制度を解体し、企業に農地を開放する、言ってみれば、企業のための農地改革、とも言うべきことが今たくらまれています。
日本資本主義の一つの側面は土地投機を事とする土地資本主義で、とても行儀の悪い資本主義だと思います。もし、資本に農地を開放してしまうと、ごく一部の農地で工業的農業をやるでしょうけれども、大部分の農地は投機にさらされ、やがては耕作放棄され、あるいは産業廃棄物の捨場になってしまうことは間違いのないと私は思います。
実は農地改革は農地所有の上限を3ヘクタールまでに限定し、均一的な小農を作ることにしました。私たちがすべての農民階層を対象にして運動をするという根拠はここにあります。65年たって、そうとう大規模な農家も出現しています。現に農民連のメンバーの中にもたとえば千葉で100ヘクタールというメンバーもおりますし、北海道でも大規模な酪農も展開している。
私はかつてのように大規模な農家と小規模な農家が対立するというのは日本では本質的な問題ではなくて、やはり資本と農民の対立、あるいはこの政権で言えば、資本・政府と農民の対立、これが対立の主な側面だろうと思います。
アメリカの農村社会学者、F・アラーギは「世界的な構造再編と市場自由化のもとで、ナショナルなレベルでの階層分解が問題なのではなく、むしろ世界的規模での農民の追放が焦点になっている」と言っていますが、私はまったく同感であります。
もはや自給率ではなく輸入依存率と呼ぶべき
2点目の日本農業の自主的な発展ということですが、対米従属の戦後政治の下で土地利用型の農業、たとえば麦、飼料穀物、大豆などがアメリカの余剰穀物の受け入れのために、安楽死させられました。代わりにアメリカの穀物を使った、いわば加工型畜産、それから野菜や果実などの園芸農業に特化させられてきました。私はTPPというのは最終的な日本農業の解体政策だと思います。
これは農水省の試算ですけれども、TPPのもとで日本のカロリーベースの自給率は39%から13%に下がる、さらに試算してみたのですが、穀物自給率は3%くらいに下がってしまいます。ヨーロッパの人たちを前にこれを自給率と呼ぶのは恥ずかしい気持ちがします。39%の自給率ではなくて、61%の輸入依存率と呼ぶべきだというのが正しいのではないか、というのがフランスなどからの忠告でした。日本は今、1日3食のうち2食を輸入に頼るといういわば買い食い民族にさせられているわけですが、これが13%になりますと、3日のうち8食は輸入依存ということを意味します。
すでに日本人はたっぷりアメリカ産の遺伝子組み換え作物のモルモットにされていますし、日本の消費者の食に対する不安には大きなものがあります。
日本の人口は世界の2%にあたります。2%の人口の日本が世界に出回る農産物の10%を買い集めている。「世界がもし100人の村だったら」のたとえでいいますと、100人の村のたった2人が村の市場に出回る10人分の食料を買い集めていて、その結果15人が飢えている、子どもはそのうち4、5人が飢えているという状況になります。こういう状況は耐え難い、日本で生きるものとしてこういう事態を打開していくのが本当の国際連帯だと思います。
世界化始めたSanchokuと国際連帯
3点目の国民諸階層との連帯ですが、私たちは3つの分野で活動しています。
1つは産直提携の運動です。日本では農民と生協がさまざまな議論をして産直を始めましたが、間違いなく、その源流の1つは私たちが担ったと自負しております。国連世界食料保障委員会の専門家ハイレベル・パネル(CFS/HLPE)報告は、アメリカのCSA、フランスのAMAPとならんで日本の産直を高く評価して下さっています。アジアのビア・カンペシーナの中でも相当産直を宣伝したのですが、アルファベットの”Sanchoku”が少しずつ定着し始めています。
アメリカやヨーロッパの学者さんたちの方の研究を読んでみても「生産者と消費者の結びつきの回復」を多国籍企業の食料支配に対抗する「民主的な食料レジーム」の不可欠の前提として強調しています。私はよく「たかが産直、されど産直」と言うのですが、私たちはそういう運動に力を入れています。
2つ目は労働者や女性、消費者の方たちと協力して、24年前に「国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会」、略称食健連を立ち上げて、TPPはもちろんいろんな場面で活動しています。
3つ目に、私たちは農民連食品分析センターを立ち上げました。遺伝子組み換えの分析もできるようになりましたし、3・11の後は放射能の測定をできる機器も購入しました。それらを通じて中国産のほうれん草の残留農薬を告発したのも私たちでしたし、どこからもひものつかない、市民社会からだけカンパをいただいて市民社会のための分析活動としてやっています。
最後に国際連帯の問題であります。ビア・カンペシーナに加盟しておりまして、さまざまな活動で連携を強めておりますけれども、つくづく私が感じますのは日本のような国で農民運動をやるのは結構大変でして、農民は孤立しがちですけれども、国際連帯の中で私たちが得た確信や勇気は大きなものがありました。
国際家族農業年は1年限りですけれども、今年をスタートに、小規模農業・家族農業がその役割を未来永劫にわたって発揮しつづけることができる世界をつくるために奮闘したいと思います。
ありがとうございました。
Globalize Struggle!
Globalize Hope!
関連サイト
農民運動全国連絡会 http://www.nouminren.ne.jp/index.shtml
国民の食糧と健康を守る運動全国連絡会 http://www.shokkenren.jp/shokkenrentoha.html
農民連食品分析センター http://earlybirds.ddo.jp/bunseki/
ODA戦略から見る日本の農業政策
−プロサバンナ事業からODA大綱見直しへ
森下麻衣子さん(オックスファム・ジャパン アドボカシー・オフィサー
慶応義塾大学法学部法律学科卒業。外資系投資銀行を経て、国際交流を手がけるNGOの開発教育プログラムに従事。2010年より現職。途上国の貧困問題にまつわる様々な政策課題について、日本政府へのアドボカシー(政策提言)やメディアへの情報発信を担当。主な担当分野は、食料、農業、土地収奪、気候変動など。2012年末よりモザンビークにおける日本の大規模農業開発事業であるプロサバンナに関する調査提言活動に他団体とともに携わる。
オックスファムは世界の貧困問題や途上国支援などに取り組むNGOです。私は主に食料問題と農業、気候変動の分野に関する調査・政策提言を担当しています。ODA政策から見た日本の農業政策の問題を話してみたいと思います。
公的資金に変わる官民連携
今はODA先細りの時代とも言えます。日本をはじめ、先進国で続く財政難、経済が停滞していている一方、新興国が台頭してきていますが、先進国のODA増額の見通しは非常に暗いと言わざるをえないと思います。その中で新たな資金源を探そうという動きが生まれ、途上国内で財源を確保しようとしたり、あるいは新たな財源としての金融取り引き税の議論が生まれたことなどが出てくることも象徴的なのではないかと思います。気候変動の分野でもまったく同じです。いわゆる公的資金だけで気候変動対策といっても限界があるので、どうやって民間資本を導入しようかという話になってくる。
民間の資金の導入、官民連携が強化という流れがあります。海外ではPPP、Private Public Partnershipsと言われます。こうしたトレンドは世界的に言えることでたとえばG8でPPPは盛んに推進されています。
ちょうど2年前のキャンプ・デービッドのサミット、2012年に食料安全保障と栄養のための新しい同盟(ニューアライアンス)が立ち上げられました。これは、G8諸国とアフリカのパートナーを指定し、目標としては貧困削減を掲げていますが、その手法はあくまでも官民連携で民間の農業投資を増やすために官、つまり政府は民間企業のための政策環境整備を行なうということがメインになっています。このパートナーシップを結んだアフリカの国はそのG8諸国との合意に基いてたとえば種子や土地に対する海外からの規制をなくし、海外からの農業投資を入りやすいように制度を変えていくという流れになっています。
このG8ニューアライアンス以外でもこのPPPがトレンドになっています。これはオックスファムが9月に発表した報告書ですが、アフリカで行われている農業開発にまさしくPPPのブームが来ていることを示す地図になります。各国でニューアライアンスが導入されているパートナーシップを結んでいる国にはエチオピアやタンザニアもあります。これ以外にも、いわゆる回廊開発というのがあります。幹線道路だったり、昔の鉄道だったり、その中心を開発していく。モザンビークのナカラ回廊開発も、そこのインフラ整備だったり、環境を整えることで民間の投資を呼び込んでいこうという形を取り、使われるレトリックは似たものになっています。
米国などの農業大国が押しているだけではありません。日本もこの一端に関係しています。
プロサバンナ事業ー日本の農地の約3倍の地域に大規模輸出向け農業
プロサバンナ事業は日本とブラジル、モザンビークの三角協力による農業開発プログラムで、北部のナカラ回廊地域の農業開発をめざすものです。この地図の緑の部分がプロサバンナの対象地域となっています。全部で1450万ヘクタールという面積になり、日本の全農地の約3倍ですので、いかにその規模が大きいかをわかっていただけると思います。
この事業は1970年台に20年間にわたって日本の支援で行われたブラジルのセラード開発、これによってブラジルは大豆の一大輸出国となっていくわけですけれども、これをモザンビークで再現しようというのが当初のコンセプトでした。そのためにこのナカラ回廊一体を農業開発して、民間の資金を入れて産業として育成させてこのナカラ港からアジアへと大豆を輸出していくという話でした。
当初日本としてはこれはまさにWin-Winのプロジェクトだということで、モザンビークの農業開発にも資するけれども、日本は大豆の輸入先の多角化を図ることができると言われてきました。 このプロジェクトは農業開発だけではありません。このナカラ回廊開発という中味を見てみますと、ここにODAの円借款の事例があげられていますが、ナカラ港の改修工事に約79億円、道路の改修工事のために120〜30億円の円借款プロジェクトを組んでいます。日本とモザンビークの間に投資協定に調印して、今年1月には安倍首相が訪問して、700億円の支援を約束するなどの動きがあります。
プロサバンナ事業が抱える大きな問題
しかし、プロサバンナ事業は大きな問題を抱えています。モザンビークの農民はほとんどが小規模家族農業なのですが、2009年にこの事業の政府間合意がなされて以来、彼ら農民との対話や協議は一切なしでこうした大きな事業が進んでしまっていました。政府間合意からようやく2年たってはじめて、現地の農民組織はこの話を聞いたわけです。自分たちに何の相談もなく、こんな話を進めているのはどういうことだ、ということでいろんな批判や懸念の声があがるようになってきます。
現地の農民団体はこうした農業開発のあり方は私たちが望んでいるものではない、と安倍首相への事業差し止めのための公開書簡を出しました。それにはUNACという農民団体、もっとも歴史のあり、もっとも大きな農民団体をはじめ、さまざまな市民団体がこの公開書簡に署名をし、この事業の一時停止と抜本的見直しを要求するに至りました。
それから対話が続けられてはいるのですが、なかなか話が進まないというのが現状です。
農民が必要としているものは何か?
私はこの事業へのモニタリングに参加して2年くらいになりますが、2回ほどモザンビークの現地を訪問しました。この事業はさまざまな問題を抱えてすべてを短い時間で説明できないのですが、大きな論点として事業対象地における深刻な土地収奪の問題があります。そもそもプロサバンナ事業は環境整備をしてそこに民間投資を呼び込むというもので、ずっとインフラの工事などが進められてきて、こういったことに民間企業は敏感に反応しますから、実際に投資は多く流入しています。大規模な農地をモザンビーク政府が国内外の大企業に貸し出しをする中で現地の農民たちがきちんとした説明もないまま土地を追い立てられているという問題が実際に発生しています。
農業開発事業として本来であれば最大のステークホルダーである現地の農民たちの声を聞きながら進めなければならないのに、こうした対話がされていない。
最近はこうした批判に対して、日本政府もかなり言うことを変えてきていまして、プロサバンナ事業というのは実は「小規模農家支援です」というわけですね。もともと言ってきたこととかなり違うことを言うようになりました。それ自体はひじょうに喜ばしいことなのですけど、どうもこのプロジェクトのパートナーであるブラジル側との足並みは揃っていない。パートナーのブラジル政府にとっては事業で進める際に、機械化され工業化された農業のあり方が念頭にある。
プロサバンナ事業で日本政府が言っている小規模農家の支援の中味も、契約栽培に非常に偏りがあって、グローバルなマーケットにつなぐことが小農か支援なのだというビジョンでやってしまっています。
こうしたプロサバンナ事業が提示している課題に対して、現地の農民団体を昨年2回ほど招聘して、議員会館でも勉強会をやり、さまざまな議員の方々にお話をして回りました。その際にとある議員に、「それでは君たちはどんな支援を望んでいるのだ」と質問されました。それに対してこの農民団体の人は明確な答えを持っていました。
「モザンビークの小規模農業にはインフラが足りていない。けれども、一番必要なのは自分たちの食料を奪い、海外に輸出するための港であったり、道路ではない。必要なのは小さな村と村の市場をつなぐための道路であったり、持続可能な環境負荷の低い農業を行うための小規模な灌漑設備だ。また毎年タネを買うことを強いられる遺伝子組み換えの種子を導入されるのではなく、小規模農家自身が選んで守ってきた伝統品種、固定種など有用な種子を残し、保存していくためのシステムを作るための支援が必要なのだ」ということでした。
まさにそこで言われていることはこの集会に集まられている方たちが実践しているような小規模家族農業でうたわれている内容だと思います。
政府が進める官民連携企業型農業ー企業中心開発
このようにいうと、プロサバンナ事業のようなものは日本だけではなくて他の国もやっているじゃないかと言われることがあるのですが、それは確かにそうで、実際にモザンビークの土地収奪に直接あからさまに関わっている企業に日本企業は今のところいません。
ただ一方で、こういう方向性は日本政府が明確に打ち出している問題で、たとえばこれは2013年2月28日に行われた当時の岸田外務大臣の外交演説ですが、「諸外国の活力を取り込んでいくため、ODAや、在外公館をも活用しつつ、地域の中小企業も含めた日本企業や自治体の海外展開を積極的に支援します。さらにエネルギー・鉱物資源・食料などの安定的な確保のため、供給国の多角化なども含め、「資源外交」を強化します」と述べています。
昨年開催されたTICADでも安倍総理大臣がアフリカに必要なのは支援ではなく投資なのだ、農業分野でもそうなのだと言っています。
「いま、アフリカに必要なものは、民間の投資です。それを生かす、PPP、すなわち官民の連携です。これを、新たなリアリティとして認めると、アフリカ支援のやり方は一新しなければなりません」(安倍首相のスピーチ)
今、ODA大綱の見直しの議論も行われていますけれども、ODA大綱の中でも、今までは貧困削減のためには教育や保健医療分野での協力がうたわれていたのに、現在は経済成長を実現するための官民連携が打ち出されていますので、これは明確な方針として政府によって打ち出されているものだと理解できると思います。
国内の農業問題と発展途上国の支援をつなげて考えることの重要性
オックスファムは国際協力NGOとして食料問題に取り組んできています。世界の飢餓人口の中の約6割が小規模農家だと言われています。やはりこのこと自体が、私たちの世界の食料システムが何かおかしいのではないか、ということを物語っていると思います。小規模農家支援を私たちも打ち出しておりまして、やはり貧困削減のためには食料の増産だけが解決ではない、今も十分に食料は生産されているわけですから、食料の増産で問題が解決できるのであれば、すでに飢餓問題は解決されているはずです。飢餓状態で苦しむ人たちがどのように食料にアクセスできるかということに着目して、食料政策や農業政策を展開していく必要があると考えています。
こうした場を私はとても楽しみにしておりました。国内の農業政策に取り組んでおられる方たちはもちろん足下のことが大事なので、国内の問題に取り組んでいる。一方、日本の外交戦略、ODA戦略を議論している人たちはなかなか日本国内の農業の足下のことが不得手というか、視点を置くことができていない。この2つの議論の中に断絶があるように感じております。でも、これはコインの表と裏のことだと思います。
つまり日本国内の農業を守るということと世界の途上国で起きていることとは関係があるわけです。この関係性、連帯を通じて、それぞれ1つ1つ小さな取り組み、多様な取り組みを、面としてつなげて、広がりをもたせるために、ぜひみなさんといっしょにがんばっていきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
関連サイト
オックスファム・ジャパン http://oxfam.jp/
ピエール・マリー・ボスク(Pierre-Marie Bosc)さん
フランスの農業開発研究国際協力センター(CIRAD)の上席研究員。サハラ砂漠以南のアフリカにおける農業イノベーションや農業開発に関する研究を中心に手がける。2005年には、農業生産者組織が自然資源の管理において果たす役割について、著書を発表。これまで、家族農業とグローバリゼーションに関する研究プロジェクトに複数、参加している(1998年、2002~2004年)。国連食糧農業機関 (FAO)、国際農業開発基金(IFAD)およびフランスが連携して組織する世界農業ウォッチ(World Agricultural Watch International Initiative)の立ち上げに関わり、現在はその科学者コーディネーターを務める。2013年に国連世界食料保障委員会(CFS)の専門家ハイレベル・パネルルが発表した報告書『食料保障のための小規模農業への投資』の執筆では、研究チームの代表として指揮をとった。
大変充実した内容のご報告をいただき、ありがとうございます。
まず、農業は他産業のような単なる経済活動ではないということを強調する必要があると思います。そして他の経済活動と比べてはいけない、特別なものなのです。というのは、農業は環境と密接に関わっていて、先ほど山本さんが言われたように、食べるということは環境を体内に取り入れるということですので、このように人間と密接な関係にある経済活動は他にないと思います。
このように農業の特殊性を重視しますと、やはり、生産するという行為と社会との関係がひじょうに重要だと考えます。
農業の近代化が進み、どんどん画一化されたものをたくさん作る。さらには、人間が食べるために作るのではなくて、加工食品企業のために作られるものが増えました。生産者から直接消費者に行くのではなく、加工する企業の手を通って市場に行くという流れができてしまい、もともとあった生産者と消費者のつながりが切断されてしまいます。
このようなシステムができあがって、生産者と消費者との顔の見えない農業のシステムができています。それには限界が来ていることも、ここで確認できると思います。確かにそれは効率がよいと言われてきたかもしれないけれど、それが効率がいいと断言するためには、そこで発生するさまざまなコストを無視しなければならなくなります。
たとえば環境破壊という大きなダメージ、そして失業、そのような問題が出ています。今までは、このような社会的コストを計算せずに効率がいいと言っていたのにすぎないのです。ですから、現在の食のシステムは本来的に効率がいいものとは言えません。
さまざまな国々でいろいろな問題が出てきています。みなさんのご報告の中にもあったように食の安全の問題、たとえば狂牛病の問題とか、食の衛生の問題が出てきています。そして環境破壊も進んで、水の汚染も起きていて、飲める水にするためには様々な化学薬品を入れるなどの処理をしなければならない現状がある国も多く発生しています。昨日の会に参加された方は覚えておられると思いますが、やはりパラダイムシフトが必要だと思います。
このパラダイムシフトは、やはり生産者と消費者を結ぶ「つながり」を再生させるということが大事だと思います。そのことを考える時に、日本の提携というのはひじょうに興味深い事例だと思います。
最後に森下さんのご報告にあるように、北と南の問題に分けて考えることはできないです。北の国々と南の国々の条件は違うとしても、切り離して考えることはできません。なぜならば、その背景にある経済のシステムは北でも南でも同じシステムだからです。日本でもEUでもモザンビークでも同じ経済のシステムがあります。やはり政治家たちもこのことを理解しなければなりません。
私たちはこの報告書の作成にあたって、まず最初に南の国々に絞って考えるのか、それとも北の国々も南の国々もいっしょに考えるのか、という議論をしました。その時の結論は、小規模農業に投資するかしないかは決して南だけの問題ではないというものでした。
現在は企業によるグローバルなモデル、世界規模のモデルがありますが、これは今後もずっと使い続けなければいけない固定的なモデルではなく、政策を変えればモデルを変えることができますし、農業の方向転換をすることもできます。
小規模農業をやっている人たちがそれで生計をたてられるようになるような政策を執っていけば、農業のあり方も変わっていきます。もちろん小規模農業を衰退させていくような政策を取れば衰退していくでしょう。ただし、小規模農業をサポートするような政策を取れば新しい食のシステムを作り出すことができます。
そして、それはきっと今日の話にもあったように農村部、都市部以外の地域と都市部をつなげる食のシステムになるのではないか、とみなさんの話を聞きながら思いました。
小規模家族農業では労働が非常に重要で、労働にどんどん投資しなければなりません。家族の世帯主だけが働くのではなく、家族のメンバーも労働に加わることになります。
社会保障においても、農家を守るための社会保障システムが必要だと思います。農家のための社会保障のためには、集団的投資という考え方を取ることが重要です。われわれの報告書の中でもそのような社会保障制度が職の保障、食料の保障にもつながると書いています。
よくこの社会保障等は国家予算に負担をかける要素として考えられますが、そうではなく、これは一種の社会への投資だと考えて、農業を社会的に守るための社会保障制度にしていくことが提案できることだと思います。
私が卒業した大学で農業を教えていた教授が、19世紀の最後の方に発言された言葉を引用して、「農業とは地域の科学だ」と言いました。1つのモデルを作っても全国で通用することはないし、同じ行政区域でも通用しないかもしれません。農業においては、それぞれの地域の状況、自然環境、その地域の生態系をよく知るために投資をする必要があります。今までのような化学、化学薬品を中心に進めてきた農業ではなくて、生物学をもっと重視した農業が重要だと思います。やはり生態系をみんなが十分に理解できる、それぞれの自然環境を理解していくことができるように投資していく必要がありますし、知識を増やしていくためにも、「地域の科学」に投資していく必要があります。
ジャン・ミッシェル・スリソー(Jean-Michel Sourisseau)さん
フランスの農業開発研究国際協力センター(CIRAD)の上席研究員。社会経済学者。家族農業とその戦略やパフォーマンスについて研究している。編著書『家族農業と来たるべき世界』が、その英語版『Family Farming and the Worlds to Come』とともに近刊予定。
まずみなさんの報告でいいと思ったのは、みんさんが「農業の工業化」に対して危機感を持っていて、それを共有できていることです。そしてそれが限界に来ているということもここで共有できている。ここにいるみなさんはそれを意識しながら、それぞれの現場でがんばっているというのが目に見えてうれしくなりました。
パルシステムのご報告にあった提携のモデルは、ひじょうに良いシステムでどんどん広げることはいいことだと思います。それを日本の外にも持っていくということは有効だと思います。
斎藤さんのお話にあったように農業が芸術とか暮らし方ともつながってくるというのはいい話ですね。その体験をこれから話して、書き留めて、そして発信してほしいと思います。
今年は国際家族農業年ということですが、この家族農業という概念が広められたのは国連組織だけでなく、市民社会の役割がとても重要でした。この家族農業の概念を生かしてくれたのは市民社会です。これは社会の変化としても捉えることができると思います。農家の方たちもよりハイレベルな場で発言できるような立場になってきていますので、地元の農家のコミュニティとハイレベルな場で意思決定する人たちとのリンクを作ることができます。
関根さんのお話にもありましたが、2014年というのはスタートなので、これがきっかけで新しい社会のあり方、新しい市民社会のあり方を発見することができるのではないかと思います。これは、いろいろな場面で市民社会が発言をしたり、他のステークホルダーと交流したりするチャンスが増えて、市民社会が会議を開けば人が集まってくるということを示していると思います。
森下さんのご報告にあった「農業の工業化」と関連して、マダガスカルの土地収奪のケースについてお話したいと思います。マダガスカルでは、大規模農業でも農地面積は3000ヘクタール以下に制限されています。というのは大規模農業には大きな問題があって、失敗することも多くあります。
大規模農業に対抗していくという姿勢も大事ですけれども、同時に大規模農業の成功と失敗をきちんと記録することもひじょうに重要だと思います。成功する時もあれば失敗する時もあるので、大規模農業が失敗した例というのは小規模農業を推進するときにチャンスになります。というのは農業に必要なのは巨額の資金だけではありません。農業はひじょうに複雑な科学で、そこには天候、土地の特殊性、現地のコミュニティ等、さまざまな要素がからむのですが、時に大規模農業をやる人はそうしたことを理解していないので、失敗することがあります。
森下さんのご報告と関連するのですが、国家が自国の中で、もしくは外交の中で違う政策を行うことがあります。自国の中でも外でも同じ政策を取ることもあります。ブラジルの場合、アフリカでは大規模農業を推進しようとしています。しかし、ブラジル国内では家族農家をサポートする政府です。ひじょうに複雑な問題です。
私たちの関心は、農業の生産の面に集中しすぎてしまっているのかもしれません。私たちはともすると、「食品加工というものは、もう私たちが触れられない領域になってしまった」、「そこは企業がやるものだ」というふうに思ってしまっているかもしれません。「食品加工やマーケティングは企業にまかせるものだ」、「企業に取られてしまった」と考えてしまっているかもしれませんが、グローバルなシフトがあればそこにはもしかしたら、小規模の家族経営のビジネスの可能性もあるかもしれない。それは食品加工を行う小規模家族経営の会社かもしれません。
先ほど種子を取り戻して自分のところで自分の種子を使えるようにするという話がありましたし、生産者と消費者を直接つなぐ話もありました。そういう話の中で食品加工をしていく小規模家族経営の会社の可能性にも注目していく必要があるかもしれません。
山田正彦さん
日本の経済学者・宇沢弘文先生が亡くなられました。宇沢先生が亡くなる三日前にTPPのことを大変心配なさって、訴訟について自分もよびかけ人になるというご連絡をいただきました。宇沢先生が言っておられたのは、「農業や教育、環境、水、空気等は新自由主義、いわゆる市場原理ではだめなんだ」ということでした。
その意味では、今日ピエールさんの話にもありましたように、いわゆる社会保障、農家に対する所得保障―「人に対する投資」という言い方をされましたが―が重要だと思います。私もフランスに行ってみて、所得保障があってはじめて、家族農業がやっていけるということが分かりましたし、やはり、われわれにとってそれがとても大事だと思っているのです。
私のいなかは五島列島の小さな漁村ですが、そこの漁民の人は「一畳の畑があれば4〜5人家族のが一年間に必要とする野菜を作ることができる」と言います。本当にそうかなと思いますが、実際にそうやっているというのです。その時に必要な野菜をその都度収穫して、収穫したらタネを撒くという形でみなさんやっています。日本人はこうやって知恵を出して、生きてきたわけです。そうしたことは可能なのです。
最後にお願いしたいのは、TPPを阻止しなければ日本の家族農業も日本の農業もなくなってしまうと思うので、みなさんにも訴訟に参加していただければと思います。よろしくお願いいたします。ありがとうございます。
写真提供:奥留遥樹さん
「国際家族農業年から始まる小規模家族農業の道」セミナー報告
2014年11月24日、立教大学経済研究所主催で「国際家族農業年から始まる小規模家族農業の道ーフランス農業開発研究国際協力センター(CIRAD)の研究者を迎えて」と題されたセミナーが開催されました(案内)。
以下はその簡単な報告です(編集者の責任で編集したものです。その責任は編集者にあります。文責印鑰智哉[いんやく ともや]ATJ政策室室長)。
国際家族農業年と日本農業
セミナー開催の経緯
3月16日に立教大学で開かれたセミナー「『バナナと日本人』以後のバナナと日本人を考えるために」において、バランゴンバナナの民衆交易によって小規模生産者、家族農業を守ることの意義を考えました。その家族農業のテーマを、6月14日に上智大学グローバル・コンサーン研究所主催で行ったセミナー「国際家族農業年と人びとの食料主権」において集中的に扱いました。
今回のセミナーはこのテーマをさらに深めるために、フランスの農業開発研究国際協力センター(CIRAD)のお二人をお招きすることになりました。CIRADのピエール・マリー・ボスクさんは世界食料保障委員会(CFS)から諮問を受けた専門家ハイレベル・パネルの小規模農業に社会的リソースを投入する際に障害になるものが何なのかを検証するチームのリーダーとして報告書を作成しています。その報告書は日本語でも農文協から『人口・食料・資源・環境 家族農業が世界の未来を拓く—食料保障のための小規模農業への投資』として出版されています(参考資料)。
日本における小規模家族農業の課題
小規模家族農業は食料保障、持続できる資源利用、雇用などの観点からもその重要性が指摘されています。日本では98%の経営主体が家族農業ですが、日本では高度成長期以降、農業は製造業の輸出促進のために外交カードとして切り捨てられる存在となり、GATT、WTO体制の下で自由化、WTO多角的交渉が暗礁に乗り上げた以降は自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)を通じた自由化により、農業保護政策は削られてしまい、現在は日本の農業はその存続すら危ぶまれる状況になっています。農業経営の規模拡大、企業の農業参入が政府の基本方針となっており、これを支える考えとしては政府による市場介入・規制を行わず、自由な市場に任せることが経済・社会にとって望ましいとする新自由主義があります。
そして、その政策は日本国内ばかりでなく、政府開発援助としてアフリカのモザンビークに1400万ヘクタールという巨大な大規模輸出向けモノカルチャーを持ち込むような政策にも現れています。日本企業の利益優先政策と言うことができます。
国際社会は今、小規模家族農業が持っている力、可能性に着目して、それを重視する政策に移ってきているのに、日本政府の政策がそれに逆行しています。
日本の小規模家族農家が存続するためには、中長期の国家戦略の制定と予算の配分が必要であり、それに向けて、農家自身が積極的に政策立案に参加できる透明性のある政治プロセスが必要です。そうしたプロセスを作り出すためにも多様な社会勢力が連帯していくことが必要になります。
小規模家族農業が発展していくためには新自由主義を超える説得力(正当性)あるモデルの提示が鍵になりますが、実際に、日本には世界に誇る有機農業、産消提携、里山保全などの実践があります。私がお会いした福島の農家の方も、そうした新しいモデルをたくさん作っていると話してくれました。
国際家族農業年はもうすぐ終わってしまいますが、小規模農業を見直す始まりの年にしていきましょう。
国際家族農業年の意義と家族農業が直面する課題
世界食料保障委員会(CFS)と専門家ハイレベル・パネル(HLPE)
私はCFSからの諮問を受け、HLPEの小規模農業に社会的リソースを投入する際に障害になるものが何なのかを検証するチームのリーダーとなりました。ここで簡単にCFSとHLPEの仕組みを説明します。
2009年にCFSが改革されます。改革の後は市民組織、NGO、農民組織、民間企業の参加して意見を反映させることができるようになりました。それ以降、CFS HLPEは多くの農業に関する独立したレポートが発行するようになりました。
HLPEには3つの組織層があります。まず食料保障に関して国際的に認知された15人の学者による運営委員会があります。その運営委員会が選出したプロジェクトチーム。このプロジェクトチームが討議・調査して、見解をまとめ、リーダーがレポートを提出します。そして、このHLPEのチームとCFSと運営委員会をつなぐ役割を果たす事務局があります。
このHLPEの参加者は出身団体を代表ぜずに個人ベースで参加します。所属にとらわれず、独立した見解を出すことが重要だからです。報告書は草稿段階でWeb上に発表され、個人や関係組織がコメントができます。論争をよぶテーマにおいても組織から自由に議論が可能な仕組みになっています。
チームでは特に以下の4つの点を検討しました。
1.家族農業と労働問題、2. 市場、3. 小規模農家が抱えるリスク、4. 農場以外への投資。小規模家族農家にとって、家族の健康はその生産継続にとってリスクになりえます。そのリスクをどのように軽減するか。市場の問題では小規模農家自身による自己消費があります。これは決してマイナスのことではなく、さまざまな面で小規模農家の生産強化につながってくるもので戦略的に重要であると考えています。
農業を効果的に行っていくためには農場を越えた公共財の投入や整備などの必要があります。市場へのアクセス含めて、国家的レベルでの政策がなければ解決できない問題です。
小規模農業こそが世界の基軸、その発展のためのニューディールを
以前は小規模農家は減っていくという過程がありました。しかし、この図のインドやブラジルの例ではむしろ小規模農家が増えています。小規模農業が世界の大半を占めています。2ヘクタール以下が世界の85%を占めています。5ヘクタール以下ならば95%に達します。これは南の世界ばかりでなく、EUでも10ヘクタール以下が80%を占めます。
小規模農業は経済的に重要な存在です。社会的にもセーフティネットとして機能することができます。政策を変えれば小規模農業を生かせることになります。農業の多様なあり方を可能にする政策こそが必要なのです。
その実現のためには農民の権利として政策決定に参加できることであり、私は今こそ、あのフランクリン・ローズベルトが提唱したニューディールになぞらえて、小規模農家のためのニューディールが必要だ、と考えています。
21世紀における世界の家族農業
これまでの農業発展モデルは以下のようなものでした。第一次産業に依拠した経済から構造的に多様化された経済になること、農業から他の産業セクターや都市への労働者の大量の移動、より大型機械による機械化農業、資本集約的な短期的な農業経営。耕作から作物の販売まで産業化のシステムを作ること。しかし、その農業発展モデルは何をもたらしたでしょうか?
農民のいない世界をもたらす「農業発展モデル」
この図は農業のGDPに占める割合や農業における雇用を示したものですが、結果として農民のいない世界に向かいつつあります。
そしてこうした農業モデルは脆弱です。化石燃料や鉱山物質に依存しており、汚染を生み出し、水資源、土壌の保全、そして生物多様性維持などの点で、持続性には限界があります。グローバルな変化に対して回復力もかけており、南の国々だけでなく、北の国々においても農民を債務の時限爆弾に縛り付けてしまいます。農民は世界各地で社会的に疎外されており、市民社会の中に断絶がもたらされています。
先進国にとってこの農業発展モデルは将来性のないものとなっています。そして発展途上国にとってはこの農業発展モデルを採用することは現実的でありません。
特にアジア、サハラ以南のアフリカにとって雇用問題は大きな問題です。世界には13億の人びとが農業で働いています。その多くが家族農家であり、78%はアジアに集中しています。
パラダイムシフトが必要だ
これまでの農業発展モデルにとらわれていればこうした矛盾を抜け出すことはできません。私たちはパラダイムシフトすることが必要なのです。
そのためには農業だけでなく、世代間の対立やジェンダー間の不平等を解決していくことや地域のインフラ作り含めたポリシー・ミックスが不可欠です。
市場の自由化と農業~TPPをめぐる問題と日本農業
ピエール・マリーさん、ジャン・ミッシェルさんのお話を伺って、私たちはパラダイム転換が求められていると強く感じました。そのパラダイム転換とは従来の量的な成長こそ進歩であるとする考え、そして、大規模化こそ効率的であるという考え方、工業化こそ社会を豊かにする、という考えから新たな価値に基づいたパラダイムに変わらなければならないと感じました。
日本の農業を取り巻く社会情勢を概観しますと、30年間に農家の数は4分の1になっています。これだけの減少を見せた産業は農業だけです。日本の農業はGDPの1%に過ぎなくなっており、これが農業は不要だとする論、農業自然衰退論の根拠とされています。しかし、衰退する産業は不必要な産業ではないと私は考えます。
農業は人の命を育む唯一の産業です。ですから、市場原理をいれてはいけない産業であり、国が全責任をもって保護・育成すべき産業なのです。それをしないというのは国家の役割の放棄といわざるをえません。
TPP参加で国際競争力を持った農業が再生されるのか?
TPPの経済効果は10年後に3.2兆円と試算されています。この3.2兆円とはGDPの0.6%に過ぎず、しかも10年かけて0.6%の増加です。しかも10年後以降は横ばいになる、あるいはどうなるかはわかっていません。その一方で、農業被害は3兆円(米が34%、豚肉15%、牛肉12%)と言われています。
TPPが成立すれば農業では食べていけずに失業者が確実に増えます。失業者が増えますが、日本には増大する失業者を吸収する産業は日本にはありません。現在の日本の経済社会とは成熟社会であり、ものがあふれています。ものつくりは限界状態です。
アベノミクスで円安になっても輸出が増えないのはその証左です。ですからTPP締結後に発生する失業者を吸収できないことになります。それなのにも関わらず、日本政府は日本でものを作り、輸出して外貨を稼ぐという量的成長こそが経済成長だという20世紀的な古いドグマに未だに縛られています。
農業とは文化であり、歴史であり、風習です。それはその国の成り立ちを表すものであり、農業に市場原理を持ち込むこと自体誤った経済政策といわざるをえません。
それではどうすればいいのか、私は21世紀の日本の成長産業は農業と観光であると考えています。
コメント:新しい共生原理に基づくパラダイムへ
国際的な動きが変わり始めていると思います。国連、特にFAOの農業政策やその他の機関の開発政策、地域政策が変わり始めています。特に農業の分野で一番顕著に動いています。
これまでの開発のパラダイムは農業の近代化でした。企業的な農業から生活としての農業に変わろうとしています。生活に密着した農業は多様な価値がある。そうした視点がはっきり出てきました。
産業としての農業、企業としての農業に対して、生活としての農業、社会としての農業に視点が移ろうとしています。競争原理に変わり、生活原理、共に生きる原理として共生の原理が明確に意識され始めています。
日本という立場が問われていると思います。米国型農業に対して、多様な農業が日本にはあります。日本から世界に提起すべき貴重な宝の山があります。国連で家族農業の方向性が示された以上、それを日本に持っている日本はこれを見直して、世界に提案していくべき時に来ていると思います。
注:
このセミナーの内容は翻訳出版予定があります。またジャン・ミッシェル・スリソーさんの最新の著作の翻訳出版も検討されています。
写真提供:奥留遥樹さん
農業開発研究国際協力センター、CIRADは国際的な農業開発政策について発展途上国と協働する研究公的企業です。詳しくはCIRADのWebサイトをご覧ください。
『人口・食料・資源・環境 家族農業が世界の未来を拓く-食料保障のための小規模農業への投資』
国連世界食料保障委員会専門家ハイレベル・パネル 著
家族農業研究会 共訳
農林中金総合研究所 共訳
発行:農山漁村文化協会(農文協)
ATJオルタナティブ・スタディーズ・シリーズ No.2
「国際家族農業年と人びとの食料主権」
ー6月14日セミナー報告書
2014年7月28日発行/A4 28ページ
2014年6月14日に行われたセミナーの内容を収録。国際的な小規模家族農業を重視する潮流の背景に焦点を当てる。無料ダウンロード 詳細
「国際家族農業年と人びとの食料主権」報告書
6月14日、上智大学グローバル・コンサーン研究所主催で「国際家族農業年と人びとの食料主権」をテーマに愛知学院大学の関根佳恵さんを講師としたセミナーが開かれました。
その報告集ができました。今年2014年は国連により国際家族農業年と定められています。しかし、なぜ今年が家族農業年なのか、単なるイベントではありません。そこには現在の大規模農業に対して小規模家族農業に転換しなければ食料保障や気候変動などの問題に対応できなくなってしまうという危機意識があります。
日本ではTPPなどの自由貿易交渉に関連して、輸出できる強い農業を、とか、農業への企業参入を促すことばかりが強調されますが、これを支える発想は関根さんによれば1980年代に発展途上国で行われていたものと変わりがないとのこと。なぜ、国際的な論議と日本で流れる情報が食い違うのか、まずは国際的潮流を学ぶことが必要になっています。
関根さんは世界食料保障委員会の下で作られる専門家ハイレベル・パネルのメンバーとしてこの国際的議論に日本から参加され、このセミナーでは、なぜ家族農業重視の潮流が生まれたのかを丁寧に説明していただいています。
この問題は日本国内の農業政策に留まるものではありません。日本はこれまで海外で大規模農業開発に政府開発援助を行ってきましたし、現在もモザンビークで開発計画を進め、大きな批判を受けています。これもまた問い直される必要があります。
日本の農民の実践と共に海外の農業開発問題(フィリピン、東ティモール、ペルー、モザンビーク)に関わる方のコメントもいただきながら、日本がめざすべき農業政策、食料政策を考えます。
内容(全28ページ 12MB)
テーマ | 発言者 |
---|---|
国際家族農業年と人びとの食料主権 | 関根佳恵氏 愛知学院大学 |
フィリピン・ネグロスと東ティモールの経験から | 野川未央氏 APLA |
小農経営の問題・障壁を理解する重要性についてーペルーの事例から | 星川真樹氏 東京大学 |
モザンビークにおけるProSAVANA援助計画と小農民の求める政策 | 森下麻衣子氏 オックスファム・ジャパン |
家族農業こそ世界市民の最先端 | 斎藤博嗣氏 一反百姓「じねん道」 |
この報告書はダウンロードして自由にお使いいただけます。ぜひ、ご活用ください。
オルター・トレード・ジャパン政策室は小規模家族農業生産者と民衆交易を通じてつながっています。日本で活動される方たちとも協力しながら、小規模家族農業の重要性を今後も明らかにしていきます。
ぜひご注目ください!
オルター・トレード・ジャパン政策室室長 印鑰 智哉
報告:セミナー「国際家族農業年と人びとの食料主権」
6月14日、上智大学グローバル・コンサーン研究所(IGC)主催「国際家族農業年と人びとの食料主権」と題したセミナーが愛知学院大学の関根佳恵さんを講師に開催されました。まずはその概要を速報します(下記の内容は関根さんのレジュメを元にオルター・トレード・ジャパン政策室が再構成したもので、関根さんの講演に忠実に起こした記録ではなく、文責はオルター・トレード・ジャパン政策室にあります。関根さんの講義に基づく詳しい内容は別途冊子にまとめる予定にしています。当日のセミナーの講演ビデオは上智大学Open Course Wareでダウンロードできます)。
なぜ今、国際家族農業年なのか?
今年2014年は国際家族農業年ですが、国連機関がそう決めた背景にはこの間の国際的な農業開発の反省があり、これまでの農業政策、開発政策を根本から見なおさなければならなくなった経緯があります。
それまでの世界の農業政策を支えてきた考えは小規模・家族農業は農業の近代化によって消滅する存在だ、というものでした。小規模・家族農業は市場競争を通じて淘汰され、大規模化、企業経営化していき、小規模・家族農業を担っていた農民は農業部門から他の産業部門に移ることになるだろうと考えられ、それゆえ、各国政府の政策も国際機関の政策も農業大規模化の支援と小農民の転業を進めることが軸になってきました。
しかし、そのセオリーが破綻します。大規模農業を支援し、市場の自由化を進めても社会は豊かにならず、そればかりか世界各地で生産手段を失った貧困層が増え、さらに大規模農業による環境汚染、資源枯渇が深刻化します。
この矛盾が誰の目にも明らかになったのが2007年~2008年に発生した世界的食料危機です。これまでの農業政策、開発政策を続けていけば、食料危機を起こさず、貧困をなくす世界の目標であるミレニアム開発目標(MDGs)も達成できないことが明らかになってしまいました。
この食料危機を受けて国連で食料保障上の対策が求められ、検討されるようになります。その中で、大規模、輸出志向型農業の持つ問題性が指摘される一方、小規模・家族農業が果たす役割の再評価が行われていくことになります。
国連の世界食料保障委員会(CFS)もこの過程の中でこれまでの政策に大きな反省が加えられ、また広く市民社会の意見を取り入れる機構改革も行われます。
見直される小規模・家族農業
小規模・家族農業が注目されるにつれて、意外な事実が明らかになります。世界の農業は大規模化の方向に向かっているだろうと多くの人が考えていると思いますが、実際には世界の圧倒的大多数は小規模・家族経営なのです。その実態は次のグラフを見ると一目瞭然となります。
右図は統計が活用可能な81カ国の農家の農地分配を示したもので、1ヘクタール未満が72.6%もあり、2ヘクタール未満含めると84.8%に達します。
南北米大陸やオーストラリアなどの大規模農業が大きな割合を占めているのは世界から見ると例外的存在であり、世界の農家のほとんどは小規模・家族農家なのです。
もっとも、小規模・家族農業では能率が悪く、十分な食料が得られないと思われるかもしれません。しかし、それも事実とは異なり、実際には単位面積当たりの収量は大規模経営よりも多いことがわかってきます。たとえば、中国には2億戸の小規模経営があり、世界の10%の農地を耕作していますが、その生産する食料は世界の20%に相当しています。そして、品質の面からも高品質な農産物は小規模経営で作られることが多く、しかもその生産は、石油資源への依存度が低く、利用する水資源も周囲の小規模農家と分けあって有効的に使われています。
世界的にも小規模生産者には兼業農家が多くいます。専業していないことは否定的に見られがちですが、気候変動など激しくなっていく状況の中で、外的災害から回復力を持てるという意味ではこうした多就業性はむしろプラスになります。また家族農業の半数以上は世界的に女性が担っており、女性の権利確立の上で重要な役割を担っています。
こうした小規模・家族農業は各国、地域、家庭における食料保障の基礎となっており、都市部の消費者への食料供給においても重要な役割を果たしています。そして、食料供給を超えて、雇用創出、貧困削減、社会統合、社会的不平等の是正など広く社会に貢献しており、さらには国土保全、景観維持、文化遺産保護、文化伝承などの機能も果たすと同時に、多様な農業生産によって生物多様性、環境保全でも有効な機能を果たしています。
危機と可能性のはざまにある小規模・家族農業
このように重要な小規模・家族農業ですが、これまで世界ではこの小規模・家族農業を追い詰める政策が進められてきました。たとえば途上国では1980年代に途上国の累積債務問題への対応として、世銀やIMFによって融資条件として構造調整政策の実施を求められてきました。その結果として大規模輸出志向型の農業開発が行われ、国内市場保護が撤廃され、多くの小規模・家族農家が離農し、都市でのスラム人口を形成してきました。
先進国でも高度成長期にGATT体制のもとで1960年代から貿易自由化が推進され、小規模・家族農業を支えてきたローカルな市場がグローバリゼーションを進める政策によって破壊されています。日本でもこうした変化の中で、農家の維持がより困難になってきています。
このような状況の中で、何をすべきでしょうか?
1つには小規模・家族農家が政治参加して、小規模・家族農業経営が成り立つように政策決定をできるようにしていくことが重要です。そして、民営化、市場自由化、規制緩和、国際価格協定廃止という新自由主義的な諸政策を見直していく必要があります。さらには小規模・家族農業経営が成り立つようにインフラ整備するなどの諸政策の実現が必要になってきます。
国際的潮流に逆行する日本の農業政策
日本政府は未だに失敗した1980年代型途上国発展モデルを継続しています。今なお、小規模・家族農家を支援するのではなく、農業への企業参入を推進し、輸出志向型の農業を進めようとしています。TPPや二国間自由貿易協定を通じて、工業の輸出を促進する取り引きに農産物市場が差し出され、大規模農業にその独占を許そうとしており、企業による農地所有解禁論まで出ている状況です。
EU諸国で小規模・家族農家の支援が政策として進められているのと対照的に日本政府の政策は小規模・家族農業、日本の食料主権を犠牲にする方向になってしまっています。また、日本の政府開発援助(ODA)は現在もなお、海外での大規模農業開発を進めています。こうした動向は国際的潮流に逆行するものです。
しかし、日本は世界の小規模・家族農業に大きな影響を与える経験と技術を持った国です。有機農業、産消提携、里山保全は世界のモデルにもなっています。日本には小規模・家族農業の大きな可能性があります。
未来は選べる
小規模・家族農業は消え行く存在であるとするセオリーは国際的にはすでに破綻しており、大規模化や企業による農業が進むべき必然であるわけではありません。小規模・家族農業を中心とした地域に合った新しいオルタナティブなモデルを構築し、政策を変えることで未来を選ぶことが可能になります。国際社会ではすでにそれに向け新しい一歩が踏み出されています。
こうした中で生まれてきた国際家族農業年のメッセージをこの日本でこそ活かしていけるかどうかが問われています。
セミナーでは関根さんの報告を受け、APLAの野川未央さんが東ティモールの小規模生産者支援に関わる中からの問題提起、上智大学グローバル・コンサーン研究所の星川真樹さんがペルーの小規模生産者の調査と関わりから見えてきたこと、そしてオックスファム・ジャパンの森下麻衣子さんが日本政府のモザンビークへの開発援助ProSAVANAの問題、一反百姓「じねん道」の斎藤博嗣さんが自立を求める自然農法農家としての経験を踏まえたコメントをしていただきました(コメントについては近刊予定の報告書に収める予定でおります)。
日本の農業政策・国内政策から日本の外交・援助政策まで関わる問題として、この小規模・家族農業の問題は存在します。民衆交易を通じて、南の国々の民衆とともにオルタナティブな社会をめざすオルター・トレード・ジャパンもこの国際家族農業年を日本やアジア、世界の政策を小規模・家族農業重視に変えさせる転換の年としていけるように、この課題に今後とも取り組んでいきます。続報にご期待ください。
(文責 オルター・トレード・ジャパン政策室 印鑰 智哉)
【関連資料】
Investing in smallholder agriculture for food security 111ページ PDF2.5MB
上記の円グラフはこの報告書の27ページ
「『バナナと日本人』以後のバナナと日本人を考えるために」 ー3月16日セミナー報告書が完成しました。
ATJはAPLA、フィリピンのオルタ・トレード社(ATC)とともに、鶴見良行氏が『バナナと日本人』(岩波新書)で非難したフィリピン労働者の権利侵害と危険な農薬散布は32年後の現在、どうなっているのか、そして、バナナを通じたフィリピンの人々との関係はどうあるべきか、を明らかにすることを目的としてバナナ調査プロジェクトを立ち上げました。
バナナ調査プロジェクトを多くの人たちとともに作るためのスタートイベントとして、3月16日(日)午後、立教大学で開催されたセミナー「『バナナと日本人』その後-私たちはいかにバナナと向き合うのか?」を開催しました。
市橋秀夫氏(埼玉大学教員)
1.はじめに
2.フィリピンバナナと日本人
3.ミンダナオの現地予備調査
4.まとめ
報告2 バランゴンバナナの今日的意義-2014年国際家族農業年に問い直す-
関根佳恵氏(立教大学教員、当時、現在愛知学院大学教員)
・多様化するバナナの国内市場
・バナナと多国籍アグリビジネス…後退する多国籍企業規制
・「グリーン・キャピタリズム」の登場
・生存機会を保障する家族農業
・世界に逆行する日本政府の政策-国際家族農業年
・バランゴンバナナの今日的意義
・産消提携から産産連帯へ
フィリピン・ネグロスからのコメント:ネグロスにドールが進出する理由
ノルマ・ムガール氏(オルター・トレード社コミュニティ開発サービス部部長、当時)
市橋氏は報告の中で、日本市場でも多く見かける甘さを売りにした高地栽培バナナについて、「高地栽培バナナの農園で働いた元労働者への取材では、ノルマのため翌朝まで残業するパッカー、農薬で深刻な健康被害を受ける作業員の実態が垣間見られた。さらに、高地栽培バナナは、農薬による森と水源域の汚染を考えると、自然への影響はより深刻化したと考えられる」と、その問題点を指摘しました。そして、今後の調査課題として、ほとんど情報を持っていない多国籍企業プランテーションの実態の全体像を明らかにすること、産地を取り巻くバナナプランテーションと日常的に対峙しているミンダナオのバランゴン事業の意義、役割、可能性について深めることを提起しています。
一方、関根氏は高地栽培、有機栽培、フェアトレード、社会貢献などで差別化したブランドバナナが多く出回っている日本のバナナ市場の変化について、1980年代に高まった多国籍アグリビジネスの操業実態に対する国際的な批判に対応するため、多国籍企業が労働、環境基準を自主的に規制する企業の社会的責任(CSR)戦略=「グリーン・キャピタリズム」を導入した結果と説明しています。しかし、エコロジー、社会貢献しているように見えて実質は何も変わっていないプランテーションの操業実態について事例を挙げて示しています。そして、現在、FAOなどの国連機関でも家族農業、小規模農業の価値が再評価されている国際的な流れを紹介しながら、生産者の「生存機会」を保障する家族農業を基盤と、その自立を支援していることに民衆交易の優位性と意義があるのではないかと提起されています。
ノルマ・ムガール氏は2015年の米・砂糖の関税完全撤廃を睨んで、有機農業の島で遺伝子組み換えフリーゾーンのネグロス島にもドールやデルモンテが入り込みつつあり、遺伝子組み換え禁止の撤廃など働きかけている実態を報告し、いかに小規模生産者を守れるかが問われていることを訴えました。
まだ、予備調査の段階ではありますが、「『バナナと日本人』以後のバナナと日本人を考えるために」重要な報告、提言が盛り込まれた報告書です。
報告書はご自由にダウンロードできます。ぜひ、ご覧ください。
オルター・トレード・ジャパン政策室 小林和夫
セミナー国際家族農業年と人びとの食料主権にご参加を!
日本では「輸出できる農業」、「農業への企業参入」ばかりが強調され、マスコミを賑わしています。しかし、国連機関が大きく方針を変更して企業的大規模農業経営から小規模家族農業への転換を推進するに至っていることをご存じでしょうか?
国連農業食糧機関(FAO)、国連貿易開発会議、国連環境計画などは小規模生産の優位性を指摘し、そして気候変動や飢餓問題への対処のために、大規模農業の推進をやめ、小規模生産に迅速に転換することを求めています。
国際的NGO、GRAINはその小規模生産の必要性を見事にまとめています。
GRAIN: Hungry for land: small farmers feed the world with less than a quarter of all farmland
大規模農業では大量の化学肥料と農薬を使った農業を大型機械を使って行います。農業に投入されるエネルギーと農産物から得られるエネルギーを比較すると、圧倒的に投入されるエネルギーが大きいのです。化石燃料を大量につぎ込んで見かけの生産性を上げているが、長期的には土壌の破壊、化石燃料の枯渇などにより、持続可能性が疑われています。
土地面積当たりの生産性を比較した場合、むしろ小規模農業の方に軍配があたります。持続性、生産性ともに小規模農業が有利なことになります。
そして小規模農業は多くの職と食料を保障します。世界の平均的な小農民は2.2ha以下の土地で生活を営んでいますが、たとえば南米の大規模農場では100haあたり1人未満~2人程度の職しかもたらさないといいます。大規模農場が進出した地域では生きられる人の数が減ってしまうのです。
GRAINによると、小規模生産者は現在世界の25%の農地しか保持していませんが、非工業化諸国では8割の食料生産を担っているといいます。しかし、その小規模生産者が今、危機に陥っています。
国際金融資本や穀物メジャー、遺伝子組み換え企業などのアグリビジネスの連携の元、各国政府での規制緩和が進み、大規模経営の農場に小農民は圧迫され、離農を余儀なくされるなど、小規模生産者の農業生産は縮小しつつあり、一方、大規模農場の規模は拡大しつつあります。
これが世界にもたらす社会的、環境的破壊は小さくありません。
大規模農業によって蝕まれる女性の権利
現在、世界の食料生産の担い手の過半数を占めるのが女性です。しかし多くのケースで女性の権利は認められていません。世界の人口爆発をコントロールするにはこうした女性の権利を認めることがもっとも有効な政策になりますが、女性の土地の権利の承認などは遅々として進みません。
さらにこうした大規模農園の進展により、女性農民の役割は周辺におしやられ、代わりに機械の操作など賃金労働は男性に占められ、女性は清掃などの役割に追いやられてしまいます。もちろん大規模農園では単位当たりの職が小規模農業に比べて桁違いに少なくなってしまいます。
失業層、飢餓層を生み出すこうした大規模農業経営がこれ以上進むと、危険であることに気がついたFAOなどの国連機関が小規模生産の支援に方向を転じたことは重要な意義があると思われますが、逆に言えばそれだけ世界の食料生産は危機的な状況にあるといえます。
残念ながら日本ではまだその意味が十分報道されていません。そこでATJは上智大学グローバル・コンサーン研究所(IGC)と協力して、セミナー「国際家族農業年と人びとの食料主権- 国連食糧農業機関(FAO)のパラダイム転換を学ぶ」を開催します。
講師はFAOの国連世界食料保障委員会専門家ハイレベル・パネルのメンバーとしてFAOの小規模農業への投資の重要性を検証する作業グループの提言作成に加わった関根佳恵さん。この問題の第一人者です。
この問題は日本の農業政策だけでなく、日本政府のODAにも大きく関係していきます。さらにいうなら、日本や海外での雇用問題から社会全般に関わってくる課題です。
ぜひ、ご参加ください!
国際家族農業年と人びとの食料主権- 国連食糧農業機関(FAO)のパラダイム転換を学ぶ 2014年6月14日 上智大学
オルター・トレード・ジャパン政策室室長 印鑰 智哉
種子の権利を守る国際行動
4月17日は小農民の闘い国際デーです。国際的な小農民の組織、ビア・カンペシーナは今年この日に種子の権利を守る国際的な行動をよびかけています。
なぜ種子の権利を守る国際行動なのか?
なぜ種子の権利を守る国際行動が必要なのでしょう? 種子の権利にどのような脅威が迫っているのでしょうか? 種子は言うまでもなく、農民にとってそれなしには農民としての生存が不可能なほど重要な存在です。農耕開始以来、農民は種子を守り、育ててきました。しかし、今、この種子と農民の関係が大きく変わりつつあります。
いわゆる先進国では形や大きさなどバラバラな多様な実りができる従来種の種子ではなく、規格通りの工業品のような農産物が求められ、F1種子の開発が盛んになります。農民が種取りをして、保存していた種子は種子企業が開発するものとなり、やがて種子企業が種子の権利を独占するようになってきました。その種子企業は巨大化し、世界の種子市場の独占が進んでしまっています。
農業がいつの間にか、こうした極少数の多国籍企業に握られるようになってきました。かつて農民が地域の気候に合った多様な種子を持っていたのに、それが種子企業が売り込む画一的な少数の種子に変わっていきます。また、農薬や化学肥料の使用により農業生産を高めようとする「緑の革命」は先進国だけでなく、南の広汎な地域に広められていきました。
かつての種子と違い、こうした種子は特定の農薬や化学肥料を使わなければなりません。結果として、農民は種子も農薬・化学肥料も買わなければならなくなってきます。世界の農薬企業も独占化が進み、そのトップはすべて遺伝子組み換え企業であり、種子も農薬もセットで売り込みます。石油などの化石燃料を大量に使う農業は環境汚染や気候変動ガスの原因となります。産業システムに従属する農業によって小農民の立場はより脅かされる時代となってきています。
種子を保存することが禁止される時代!?
さらに、農民が収穫の中から一部を次の耕作のために種子を保存したり、それを使って種まきをすることが違法となり、農民は登録された種子企業から毎年買わなければならない、もし違反したら犯罪者となる、こうした法律が世界各地に拡がろうとしています。
こうした法律はドイツやフランスなどではすでに成立しており、EU全体でも法案が提出されて審議されています。ヨーロッパばかりでなく、こうした法律制度は世界各国、特にラテンアメリカやアフリカに近年自由貿易交渉を通じて押しつけられてきています。
こうして農民の種子の権利を否定し、種子企業の特権を認めることは特に南の地域の農民にとっては巨大な打撃を与えます。南の地域では農民たちが自分たちの種子を自分で保存し、共有し、生産を続けている割合がひじょうに大きいからです。特にアフリカではその大部分がそうした生産になっているといいます。南の地域の農民が種子や農薬を買う農業に転換しなければならない場合、そもそも彼らが生産を継続できなくなる可能性が高く、小規模生産者としての生存に関わる問題になります。土地を失い、生きる糧を失い飢餓に直面する確率が高いのです。
一方、種子企業にとっては最後のフロンティアである南の地域の農民の権利を奪うことは彼らにとって大きな市場と利益を確保することになります。それゆえ、種子企業は投資ファンドや政府といっしょになってアフリカに進出の機会を狙っています。また、彼らは、この間、彼らの国際ロビー活動の成果である植物の新品種の保護に関する国際条約UPOV条約を南の国々に批准を求め、その条約を根拠に市場開放・独占を狙っています。
世界の飢餓、環境にも大きな影響を与える闘いが世界で繰り広げられているわけです。こうした動きは中南米でも拡がっていますが、農民たちは黙っているわけではありません。
中南米で拡がる「モンサント法案」への反対運動
中南米で農民の種子の権利を否定し、種子企業の知的所有権の農民の権利への優越を認める植物種苗法案が続々と登場しています。これは最大の種子企業であるモンサントを利するものとして通称「モンサント法案」として大きな批判を浴びています。特に中南米ではこの法案は同時に遺伝子組み換え作物の商業規模での栽培問題と密接に結びついています。
- メキシコ
- メキシコでは2012年3月に農民の種子の権利を否定する植物種苗法案が登場しましたが、農民や環境団体の反対運動が同月に廃案に追い込んでいます。注1
- コロンビア:
- コロンビアでは2010年、米国やEUとの自由貿易協定によって、農民が政府に未登録の種子を使うことを禁止する法律が成立。しかし、2013年8月、コロンビア農民の全国的な抗議行動により、コロンビア政府はこの成立の施行を2年間凍結を発表。注2
- ベネズエラ:
- チャベス前大統領が遺伝子組み換え反対を打ち出しましたが、周りを遺伝子組み換え作物栽培大国に囲まれ、ビジネスセクターには遺伝子組み換え合法化を狙う勢力があり、その間でのせめぎ合いが続いていますが農民運動側がこの農民の種子の権利を確立する活動を強め、成果を得ています。注3
- チリ:
- TPP参加国でもあるチリはUPOV条約を批准し、それに基づき昨年、新植物種苗法案の制定しようとしました。しかし、全国的にこの法案がモンサント法案であるとして反対運動が高まり、2014年3月、この法案の審議を政府が撤回しました。注4
- アルゼンチン:
- アルゼンチンはモンサントの南米進出の橋頭堡となった南米で初めての遺伝子組み換え栽培国ですが、遺伝子組み換え種子の特許の支払いは認められていません。この事態にアルゼンチン大統領は米国まで赴き、モンサントの種子工場の誘致と種子法の改定により、モンサントの知的所有権、および種子企業の権利を認めようとしています。モンサントの種子工場建設に対しては住民の座り込みにより建設が止まり、環境影響評価書の不備により建設停止命令が裁判所から出て、世論を敵にする事態が生まれています。種子法の改悪が懸念されていますが、遺伝子組み換え大豆耕作に伴う環境汚染に反対する住民、小農民、環境運動の反対運動は高まっています。
- ブラジル:
- ブラジルは2005年、種子法を改定し、遺伝子組み換え企業の知的所有権を認めつつも、一方で、クリオーロ種子条項を作り、小農民が自分たちの種子を使う権利を認めています。この権利承認をもとに、さらにブラジルの小農民運動はアグロエコロジーと有機生産政策をブラジル政府の公式政策とすることに成功しており、政府は小農民の種子の権利を守る政策を取っています。
狙われるアフリカ
アフリカではその人口の大部分が小農民であり、その圧倒的多数の農民は自分たち自身の種子を活用する農業を営み続けています。政府開発援助などを通じて「緑の革命」でそうした自立的な農業から種子・農薬企業に依存する農業への転換が図られていますが、アフリカではまだ従来の農業が守られている地域が多く残っています。
種子企業にとってはアフリカは最後のフロンティアであり、このアフリカでこの種子の法律を変えさせることに多くのエネルギーを注ぎ込んでいます。
米国政府は特にこの間、アフリカ諸国に対して食料援助と引き換えに遺伝子組み換えの合法化などを含む改革を要求してきましたが、アフリカで本格的な商業栽培を承認した国は南アフリカのみで他の国は長く抵抗を続けてきました。
しかし、こうしたロビー活動のもと、すでにスーダン、エジプト、ブルキナファソでも遺伝子組み換えの栽培が始まっており、ケニア、ウガンダ、モザンビークでも試験段階に突入してしまっています。
人口の大多数を占める小農民の自立性を奪う農業モデルの押しつけは大規模な飢餓の発生や環境破壊につながる可能性がひじょうに高く、世界の市民組織が声をあげています。
こうした多国籍企業に押しつけられる農業モデルではなく、地域の生態系にあった農民主体の農業を取り戻すべきとして、ビア・カンペシーナは家族農業・農民主権に基づくアグロエコロジーの推進を掲げています。
将来を作り出すアグロエコロジー
もし現在起きている対立をバイオテクノロジー企業による農業の技術革新をめざす近代農業対小農民による古い農業と見るならば問題を取り違えることになってしまうでしょう。
ビア・カンペシーナなどの世界の小農民運動が唱道するアグロエコロジーとは決して古い農業に戻ることではなく、生態系の力を生かした農業に関する技術の体系を意味し、その科学の実践として実現可能な新しい農業のあり方を提唱するもので、すでに大学や研究機関で専門的な研究がなされています。アグロエコロジーの適用により従来農法に比べ、生態系への影響も抑えながら、生産も高めることができるといいます。
一方、バイオテクノロジー企業による農業モデルとは、下記の点で決定的な問題点が指摘されます。
- 農薬、化学肥料の使用により大量の化石燃料に依存する農業であり、気候変動の原因を作り、持続できない。
- 使われる農薬や化学肥料は土壌の有機的なシステムを破壊し、汚染や土壌流出など深刻な環境破壊を生む
- 大規模機械化農業を推進し、小農民を農業生産から追い出してしまう。
- 大規模機械化農業は雇用者が決定的に少なく、社会的に大きな問題を引き起こす
世界の小農民と生きられる環境を追い込むバイオテクノロジー産業が進める農業モデルとは異なる小農民の主体性を取り戻す動きがこのビア・カンペシーナによる農民の種子の権利を守る運動ということができるでしょう。
TPPと種子の権利
TPPに限りませんが、自由貿易交渉を通じて、こうした種子企業の種子の独占権が確立され、農民の種子の権利が奪われていく動きが生まれていることに注目する必要があると思います。
2009年、バイオテクノロジー産業のロビー団体であるバイオテクノロジー産業団体(BIO)は米国通商代表部に対して、TPP参加各国が種子企業の知的所有権を擁護するように求めています(注5)。
バイオテクノロジー産業とは決してモンサントやダウ・ケミカルなどの米国企業だけではありません。日本にも多数のバイオテクノロジー産業が存在しています。こうした企業は利害を共にしているといえるでしょう。日本の農産物市場だけを見れば米国対日本、あるいは農産物輸出国対日本という図式が成立し、マスコミの報道もそれに集中してしまいますが、実際にはそれ以外にも、バイオテクノロジー産業対世界の小農民という図式も存在しています。
この図式は報道されることはなく、人びとが知らない間に日本を含み世界的に農民の権利が奪われるプロセスが進行してしまいつつあるといえるでしょう。
種子はいわば人類共通の共有財産(コモンズ)であり、それを活用していくことは人びとに自由に開かれた権利であるべきでしょう。そうでなければ種子の多様性も奪われ、食の文化の固有さも奪われ、多国籍企業が食を決めていってしまうことになってしまいます。
南米の地域の中では遺伝子組み換え以外の種子を得ようと思っても困難な事態が生まれているところがあります。人びとが食べたいものではなく、種子企業の都合で提供される作物、それは今後、遺伝子組み換え作物になってしまうかもしれません。農民には植えたいものを植える権利、消費者には選ぶ権利があるでしょう。
この種子の権利を守る行動日に私たちの種子の権利、ひいては食の権利を取り戻すことを考えたいと思います。
印鑰 智哉(オルター・トレード・ジャパン政策室長)
参考Webサイト:
Via Campesina On April 17 We Defend our Seeds and Fight Against the Seed Industry
報告:『バナナと日本人』その後-私たちはいかにバナナと向き合うのか?
3月16日(日)午後、立教大学にてセミナー「『バナナと日本人』その後-私たちはいかにバナナと向き合うのか?」が、107名の参加者を得て開催されました。
身近になったバナナという農産物がフィリピンでの民衆の権利侵害と危険な農薬散布を伴って行われていることを衝撃的に暴いた鶴見良行著『バナナと日本人』(岩波新書1982)が発行されてから30余年がたち、その現状はどう変わったのか、今後の私たちのバナナを通じたフィリピン民衆との関係はどうあるべきなのか、オルター・トレード・ジャパン(ATJ)はその課題に取り組むべく、NPO法人APLAとともに調査活動を開始しました。
このセミナーはバナナ調査プロジェクトを多くの人たちとともに作るためのスタートイベントとして、フィリピンバナナの現状と調査課題を提起して頂きました。その報告骨子をお伝えします。詳しい報告は後日、発表予定です。
ミンダナオ予備調査報告-『バナナと日本人』以後のバナナと日本人を考えるために
報告1. 報告者:市橋秀夫氏(埼玉大学教員)
市橋氏の報告は2月に行われたミンダナオ島での予備調査をもとに、バナナプランテーションが拡大する同島において、バランゴンバナナ交易の役割と可能性について問題提起する内容でした。以下、報告骨子です。
最初に統計から見るフィリピンバナナの現状について。日本の輸入バナナの90%以上がフィリピン産、フィリピンのバナナの輸出先のトップが日本という二国間の相互依存的な関係性、バナナ貿易量の大部分を多国籍企業が占めていることは『バナナと日本人』が出版された30年前と似ている。また、ミンダナオでバナナ生産が過去20年間増えており、それに比例して日本のフィリピンバナナ輸入量も増加している。バランゴン輸入量は全体の0.17%を占めるに過ぎない。
予備調査で訪問した3産地、マキララ(北コタバト州)、レイクセブ、ツピ(以上コタバト州)は、政府がバナナ産業を強力に支援しているソクサージェン地方に位置する。バランゴン生産者には先住民族、ムスリム、島外からの入植者がおり、そうした生産者やバナナプランテーションに土地を貸し働く農民、元農園労働者などを取材することができた。
ミンダナオの生産者の社会経済・文化・政治的背景は、バランゴン民衆交易の出発点、ネグロスとは異なるし、今回訪問した3つの産地でもそれぞれに特徴があり、多様である。バランゴンバナナが生産者にとってそれぞれ異なる意味を持っていることが感じられた。持続的有機農業の推進といったネグロス島との共通な意義もあれば、先住民族のアイデンティティの保持、森林と水源涵養地域の保全、先住民族、ムスリムと入植者間の平和構築、プランテーションの進出阻止など、ミンダナオ固有の役割も予備調査では見えてきた。
マキララとレイクセブでは産地付近に高地栽培バナナプランテーションが進出していた。元農園労働者への取材では、ノルマのため翌朝まで残業するパッカー、農薬で深刻な健康被害を受けるプランテーション労働者の事例が確認された。さらに高地栽培バナナの展開によって森林破壊、水源域の汚染は拡大されているし、土地も巧みに支配している。鶴見氏が指摘した問題は継続している。
予備調査から見えてきた調査課題のひとつは、多国籍企業プランテーションの実態の全体像を明らかにすること。もう一つはプランテーションと日常的に対峙している状況を含め、それぞれのバランゴン産地の多様性、地域性に即したバランゴン交易の意義、役割、可能性について深めること。これらを、調査を通じて検証し、明確にしていきたい。
バランゴンバナナの今日的意義—2014年国際家族農業年に問い直す
関根氏は多様化するブランドバナナの中で見えづらくなっているバランゴン交易の価値を、世界的に再評価されている家族農業の視点から捉え直すという問題提起をしました。以下、報告骨子です。
『バナナと日本人』で鶴見氏が痛烈に批判した過酷な労働条件、農薬多用、安全にも問題があるプランテーションバナナしか市場に流通していない状況下で登場したバランゴンバナナはオルタナティブとして評価された。しかし、栽培方法、品種、社会貢献などで差別化したブランドが続々と登場し、バランゴンとの違いが見えにくくなっている。
『バナナと日本人』が出版された1980年代は、多国籍アグリビジネスに対する批判が高まり、国際的に様々な規制強化が図られた。1990年代、アグリビジネスは企業の社会的責任(CSR)戦略を導入し自主規制を強化、2000年代に入ると環境、労働、品質に関する民間認証制度、有機栽培、フェアトレードなどの認証を取得することでブランド化を進めていった。こうした動きはグリーン・キャピタリズムと呼ばれる。しかし、実態はどうかというとコスタリカのプランテーションの事例が示すように、環境・労働基準取得していても殺菌剤が河川に放出されたり、労働組合すらないことも指摘されている。
農業のあり方を評価する指標として「生存機会」という考え方を提起したい。農民が生きていくために、土地や農業資材などの生産手段、労働力、資金、市場を取得できるかどうか、という視点である。多国籍アグリビジネスは農民に不完全なかたちでしか生存機会を保障せず、不安定と格差を生み出すと言わざるを得ない。
今年は国際家族農業年。2008年の食糧危機をきっかけに世界的に環境負荷が小さい、雇用創出、生産性の点から家族農業・小規模農業の社会的役割を再評価する動きが活発になっている。その背景には多国籍アグリビジネスとの取引によって豊かになった農民は一握りであること、大規模多投型農業が環境汚染、資源枯渇、労働者の収奪を生み出しているという問題がある。世界的にアグリビジネスによる大規模農業から家族農業・小規模農業を支援する方向への大きな転換が起きている。
バランゴンバナナはフィリピンの小規模生産者の自立、環境保護、食品安全を促す。そして多国籍アグリビジネスに対して、生産者に生存機会を保障する民衆交易という対抗軸が設定できるのではないだろうか。多国籍アグリビジネスの操業実態を明らかにして規制強化を求めていくことも大切であろう。
大規模化・企業参入を促す日本の農業政策は世界の潮流に逆行している。日本とフィリピンの小規模生産者が置かれた状況は似ている。これまで築いてきたフィリピンの生産者と日本人消費者の連帯に加えて、日比および世界各地の生産者同士の連帯を提案したい。
ネグロス島の今—多国籍アグリビジネスと小規模生産者
以上2つの報告を受けて、フィリピンのバナナ出荷団体であるオルター・トレード社(ATC)に設立当社から関わるノルマ・ムガール氏より次のようなコメントがありました。
多国籍アグリビジネスによるバナナのプランテーションは、これまでミンダナオで大規模に展開されてきた。今、多国籍アグリビジネスはネグロス島でのバナナやパイナップルのプランテーション進出を虎視眈々と狙っている。すでに南部では100ヘクタールの圃場で作付が始まっている。
2015年、フィリピンでは東南アジア自由貿易協定(AFTA)により多くの農産物の関税が撤廃される。サトウキビも関税が低くなり、タイからの輸入砂糖にフィリピン産砂糖は競合できないと見られている。サトウキビに代わる収入源を探すネグロスの農園主の戦略と、近年異常気象によりかつてはなかった台風に襲われるミンダナオ島からのリスク分散を図る多国籍アグリビジネスの意図が合致した結果だ。
ネグロス島は有機農業の島として遺伝子組み換えフリーゾーン宣言していたが、ドールの進出とともに、遺伝子組み換え禁止を撤廃させようとする動きもあり、私たちは懸念している。
ネグロスもこれまでミンダナオで起きてきた労働問題、環境汚染などに今後直面するおそれがある。ミンダナオの状況を農地改革で農地を手にしたネグロスの農民に伝えていくこと、バランゴン交易が生産者の自立をしっかりと支援できる内実を持つことが大事だと報告を聞いて感じた。
オルター・トレード・ジャパンは、これからフィリピン・ネグロス島、ミンダナオ島を中心にアグリビジネス・プランテーションバナナの実態、バランゴンバナナの民衆交易が生産者や産地の自立にどう役立っているのか、民衆交易の新たな役割や可能性、意義について実地調査を通じて検証していきます。可能な限り、市民、消費者の方たちの参加を得て、このプロセスを進めていきたいと考えております。
次回のセミナーは6月を予定しております。詳細は決まり次第、発表いたします。ぜひご参加ください。
フィリピンの遺伝子組み換えによる被害をインドネシア農民に伝える
フィリピンで遺伝子組み換えトウモロコシが導入された後、農民がどう影響を受けたか、調査に基づき作られたドキュメンタリー『10年の失敗—GMコーンに騙された農民たち』に日本語版を作成し、先日公開しましたが、インドネシアで活動するATINA(オルター・トレード・インドネシア)やオルター・トレード・ジャパンの姉妹団体APLAに関わるボランティアの方に翻訳いただき、インドネシア語版が登場しました。
以下にそのインドネシア語版を掲載します。
もしインドネシアの友人をお持ちでしたら、ぜひご紹介いただければ幸いです。インドネシア語版のリンク(YouTube)。日本語版はこちら
インドネシアへのモンサントの進出
モンサントは遺伝子組み換え種子を商業栽培を米国で始めてほどない時期にインドネシアでも遺伝子組み換えコットンを承認させるための活動を始めています。遺伝子組み換え種子を環境審査なしに承認させるために1997年から2002年にわたり、インドネシア政府高官140人以上の役人とその家族に賄賂を贈ったことが暴露され、またその間に無理矢理始めたBt綿(虫が食べると死んでしまうBt毒素を作り出すように遺伝子組み換えされた綿)の栽培も干ばつや害虫の被害が出て、農民との争いとなり、2003年12月にモンサントは一時、インドネシアから撤退します。
しかし、その後、再び、インドネシアに戻り、現在は2つの種子工場を稼働させ、1万トンのハイブリッド種子を生産し、その30%はタイやベトナムに輸出されています。
さらにモンサントはインドネシアからフィリピンに遺伝子組み換えトウモロコシの種子を輸出する計画を持っていると報じられています。ベトナムが遺伝子組み換えの大規模商業栽培が始まる可能性もあり、そうなってしまえばインドネシアが東南アジアの遺伝子組み換え種子工場の拠点になってしまうことが懸念されます。
今年、本格的な遺伝子組み換え商業栽培が始まる可能性
モンサントばかりでなく、インドネシア企業によって、干ばつに耐性のあるとする遺伝子組み換えサトウキビが開発され、インドネシア政府は世界に先駆けてその栽培をすでに承認しており、インドネシアで本格的な遺伝子組み換え栽培が今年2014年に着手される可能性があります。
また遺伝子組み換えトウモロコシの栽培も今年2014年から始まるという情報があります。遺伝子組み換えの本格的な栽培により、フィリピンの農民に起きたことがインドネシアの農民に起きる可能性が高まっています。
こうした現状を考える時、インドネシアでフィリピンの経験を伝えていくことは大きな意味があると考えます。姉妹団体のNGO、APLAと連携しながら、こうしたアジアの農民の経験を共有していきます。
フィリピン:遺伝子組み換えと闘う農民たちもぜひご覧ください。
- 『遺伝子組み換え食品の真実』 アンディ・リーズ著/白井和宏氏訳(白水社)の181〜184ページ。
モンサントがインドネシアに入り込み、わいろで環境調査をパスして、Btコットンの栽培を始め、大失敗して撤退した経緯が書かれています。 - Monsanto Business Practice in Indonesia http://www.monsanto.com/newsviews/pages/business-practices-in-indonesia.aspx
モンサント社自身によるインドネシア賄賂事件の自己批判文書。日本モンサント株式会社のサイトでは見つけることができません。 - How Monsanto brought GM to Indonesia http://www.gmwatch.org/index.php/news/archive/2005/9630-how-monsanto-brought-gm-to-indonesia-1012005
GMWatch(遺伝子組み換え問題に関わる代表的NGO)によるインドネシアへ2001年Btコットンが持ち込まれた時の状況を説明した記事(2005年) - 2013/05/18 Monsanto eyes RI’s corn rise on new seeds http://www.thejakartapost.com/news/2013/05/18/monsanto-eyes-ri-s-corn-rise-new-seeds.html
Jakarta Postの記事(2013/05/18)。遺伝子組み換え種子をフィリピンに、と。 - 2013/09/27 Cultivation of GM crops, plants urgent: Farmers http://www.thejakartapost.com/news/2013/09/27/cultivation-gm-crops-plants-urgent-farmers.html
Jakarta Postの記事(2013/09/27)2014年に遺伝子組み換えサトウキビ、遺伝子組み換えトウモロコシの栽培が始まる可能性を伝える。
畑で遊ぶ子どもたちから見えたバランゴンの意味
フィリピン駐在中のオルター・トレード・ジャパン社員、黒岩竜太からの報告です。
バランゴンバナナ集荷中、集荷トラックの付近で遊ぶツピの子供たち。収穫を行っていたバランゴンバナナの畑の管理人の孫とその友達です。
バランゴンバナナの買付中に生産者の子供などや近所の子供が買付所付近に集まっている風景はネグロスなどでよく目にし、特に気になったこともなかったのですが、フィリピンに駐在してから多くの大手多国籍企業のバナナプランテーションを見て、このような風景がバランゴンバナナならではの特別な風景であるということを気づかされました。
大手多国籍企業のプランテーションは閉鎖的で、もちろん子供が中で遊んでいるのを見たことなどありません。むしろ、農薬散布が行われているので、子供が中で遊んでいたら辞めさせたいぐらいです。
バランゴンバナナは開放的で、圃場で子供たちが遊んでいたり、買付中に近所の人が集まってきたりします。管理面を考えるとより閉鎖的にしていった方がいいのかもしれませんが、このように地域の人たちが集まってくるというのはバランゴンバナナの良さの1つだとも思いますし、大手プランテーションとの大きな違いの1つだと感じました。
バランゴンセミナー開きます。3月16日東京池袋 ぜひご参加を!
フィリピン:遺伝子組み換えと闘う農民たち
昨年10月に発表されたフィリピンのMASIPAG(Farmer-Scientist Partnership for Development、農民と科学者の発展のためのパートナーシップ)による『10年の失敗—GMコーンに騙された農民たち』のビデオドキュメンタリー、MASIPAGの協力やAPLAのボランティアの協力で日本語字幕版を作成した。
遺伝子組み換え問題に関するビデオは数多くあるが、ここまで農民の口から遺伝子組み換えがもたらす問題がなまなましく語られたドキュメンタリーは類を見ない。
25分弱にわたるものだが、ぜひご覧いただきたい。
このドキュメンタリーではモンサントが遺伝子組み換えが何であるか、まったく農民には情報をもたらさないまま、高収穫、高利益を与えるという偽りの宣伝で農民を騙す形で導入されていくことが語られる。
安かった種子は高くなり、肥料や農薬は年々必要量が増えた上、値段も上がり、農民は債務で土地を失い始める。そして、それまで主食の一部にもなっていたトウモロコシの種子を失った時、彼らは自分たちの食べるトウモロコシを買わなければならなくなってしまったことに気がついた。
自分が作ったGMコーンを食べれば下痢になり病気になる。カラバオ(水牛)に食べさせたら死んでしまう、という証言は衝撃的だ。米国の農民にとってGMコーンは自分たちが食べるものではないし、家畜も工場のようなところで数ヶ月餌付けするだけなので、どんな健康被害があるのか、知ることは難しい。しかし、主食に近いものとしてトウモロコシを食べ、さらに家畜が家族のように長く付き合う存在であるフィリピンの農民にとってはそのGMコーンが健康に与える影響はずっとはっきりと見えるのだろう。それだけにこれは欧米で作られたドキュメンタリーよりもはるかに生々しいものになっているのだ。
さらにGMコーンの導入後、土壌流出が続き、農地が石ころだらけになってしまったという。さらにGMコーンにかける有毒な除草剤が周辺のバナナやマンゴーも病気にしてしまう。
トウモロコシは自家受粉で実を付ける大豆と異なり、花粉が遠くまで運ばれてしまうので、GMコーンを始めるとその周辺のトウモロコシも汚染されてしまう。GMコーンをやめたくても、自分だけやめても汚染されてしまうし、さらに強力な農薬が流れてきてGMコーン以外は育たない環境になってしまう。
遺伝子組み換えにより、農民は種子を失い、食料を失い、土地を失う結果となった。その一方で、モンサントやデュポン(パイオニア)などの遺伝子組み換え企業は大きな利益を上げている。
こうした動きに対して、遺伝子組み換えをやめ、有機農業によって村を変えていこうとする動きが出ている。個々の農家だけで変えようとしてもGMコーンによる汚染や農薬流出もあって、変えることは困難だが地域がいっせいに変わることで、この悪循環を止めることは不可能ではない。
その困難な闘いがフィリピンで進められていることをまずこのビデオから知ることができる。
なお、このMASIPAGの調査は80ページの詳細なレポートにまとめられており、全文をダウンロードすることができる。
ダウンロードはMASIPAGのサイト: Socio-economic Impacts of Genetically Modified Corn In the Philippines (2013年9月 PDF 2.1MB)
2014年2月20日追記
25年目のオルタナティブをめざして
上田誠(オルター・トレード・ジャパン代表取締役)
今年2014年は国連食糧農業機関(FAO)が定める国際家族農業年です。なぜ、今年が国際家族農業年となったか、そこには大きな危機意識があります。このまま企業的大規模経営農業が進んでいくと、世界の飢餓や貧困が増加し、気候変動がさらに激化し、地球規模で破局的問題に陥るという認識が広がりつつあるのです。
グローバリゼーションの拡大に伴い、多国籍企業の影響力はより強大になり、日本を含めた世界規模の問題となってきました。実際、フィリピンではミンダナオ島など遺伝子組み換えトウモロコシ畑が広がり、その影響で自立した生産者の営みはより困難な状況に陥っている地方があります。フィリピンはもちろん、日本を含むアジアでも、EUや米国、アフリカ、ラテンアメリカでも食の安全よりも、多国籍企業の利益を追求する大規模農業が力を拡大してきました。
私たち日本人の食生活にも遺伝子組み換え食品はすでに深く浸透しています。日本に輸入される大豆の75%以上、トウモロコシの80%以上、ナタネの77%以上が遺伝子組み換えになっていると言われ、日本の食料依存、特に遺伝子組み換え依存はますます高まりつつあります。
安心できる食を確保していくことは、それを生産する国内外の小規模生産者を守る活動と切り離すことはできないとATJは考えます。近年、アグリビジネスによる大規模農業に支配されない小規模生産者主体の農業を作り出す運動が世界各地に現れています。日本ではまだ聞き慣れぬ言葉ですが、アグロエコロジーという生態系を守り、食の安全と職の確保を求める農業運動がラテンアメリカでもアフリカでも大きく成長しつつあります。
この動きは、南の国だけでなく、フランスや米国、英国などの国々で現在の農業に対するオルタナティブであり、気候変動を抑え、飢餓問題を解決できる農業であるとして注目され始めています。すでに、フランス政府の政策にも反映され始め、FAOはこのアグロエコロジーを世界的に推進するために国際的な小農民運動団体であるVia Campesina(ビア・カンペシーナ)と連携することを発表しています。
こうした流れの中に今年の国際家族農業年があります。国連貿易開発会議は「手遅れになる前に目覚めよ」という激烈なタイトルを持つ報告書で企業的大規模経営モノカルチャー農業を小規模家族農業、アグロエコロジーへの転換を一刻も早く進めることを求めています。
国際家族農業年は、家族農業が持つ社会的、文化的、自然的な役割と価値が、小規模生産者のくらしを改善し、持続的な生産を実現し、現在私たちが直面している飢餓人口の削減や貧困の削減といった様々な問題に対抗しうる力となりうることも、提示しています。
世界で生まれているこうした流れはオルター・トレード・ジャパン(ATJ)にとっても重要な動きです。 私たちATJは民衆交易という生産と消費の場をつなぐ交易を通じて、「オルタナティブ」な社会のしくみ・関係を作りだすことを目的として、フィリピンを始めとする各国の生産者・パートナーとつながりを深めてきました。
フィリピンでは多国籍企業が生産するプランテーションバナナではなく、裏庭にあるバランゴンバナナの交易を通じて、小規模生産者の自立を求めて取り組みを進めてきています。同様の地域に根差した取り組みは、インドネシア、東ティモール、パレスチナ、ラオス、そしてパプアに現在広がっています。
2014年、ATJが民衆交易を開始してちょうど25周年を迎えます。同年に国際家族農業年が決定されたことに深い意味を感じます。なぜならば、ATJが25年間のアジアの小規模生産者との取り組みを通じて感じている私たちの危機感と、国際家族農業年にはっきりと現れた世界農業の危機認識が重なったからです。
残念ながらこうしたオルタナティブを求める世界の動きは日本ではほとんど報道されません。企業的大規模経営農業、「競争できる農業」ばかりが推奨され、TPP交渉や国家戦略特区などを通じてそうした農業が政府の支援を受け、強化されようとしています。しかし、残念ながらそこに日本と世界の安心できる食の未来は見いだせません。
ATJはこうした世界のオルタナティブな試みに光をあてるため、「世界のオルタナティブ」というWebサイトを開設しました。世界で躍進するアグロエコロジーのさまざまな試み、遺伝子組み換えやアグリビジネスと対決する小規模生産者の動き、消費者・市民の取り組みなどをお知らせしていきます。
そして、その第一歩として、フィリピンのパートナーとともに、バランゴンバナナを通じた民衆交易が切り開く可能性を共同で調べる調査プロジェクトを開始いたします。そのプロジェクトをみなさまと共に進めていくために2014年3月16日に『バナナと日本人』その後 -私たちはいかにバナナと向き合うのか?と題したセミナーを開催いたします。
今後も世界のネットワークを活かして、「ひとからひとへ、手から手へ」わたされる民衆交易によって共同体・地域づくりを進めながら、オルタナティブを求める世界の小規模生産者の営みを伝え、今後も食と職、農と地域のあり方を豊かにしていくための提言と取り組みを進めて行きます。
ぜひ、みなさまもご参加いただけますよう、よろしくお願いいたします。
セミナー詳細: 『バナナと日本人』その後 -私たちはいかにバナナと向き合うのか? 2014年3月16日14:00~17:00 東京・池袋立教大学にて
チョコラ デ パプア ビデオメッセージ
パプアの先住民族コミュニティが大切に育てたカカオで作ったチョコラ デ パプア、いよいよ、日本で発売が始まりました。
オルター・トレード・ジャパンの津留が初めてカカオの出荷をオール・パプア(すべてのプロセスをパプア先住民族自身が行なう)で取り組んだ意義を語ります(冒頭のみフリッカー[画面のちらつき]が少し出ますがご容赦ください)。