映画紹介『バナナの逆襲』
監督:フレドリック・ゲルテン、WG FILM スウェーデン [第1話 2011年・87分][第2話 2009年・87分] 予告編
映画 「バナナの逆襲」は、ジャーナリストでもあるスウェーデン人のフレドリック・ゲルテン監督の「Big Boys Gone Bananas! *(ゲルテン監督、訴えられる)」第1話)と「Bananas! *(敏腕?弁護士ドミンゲス、現る)」(第2話)の二作品で構成されている。第2話が2009年、第1話が2011年に製作されているので、時系列では、ドミンゲス弁護士がニカラグアのドール・フード・カンパニー(以下、ドール)[1]のバナナ農園で働く労働者が農薬被害にあったと同社を訴えたあと(第2話)、その記録映画を公開しようとしたところ、今度はゲルテン監督がドールに訴えられる(第1話)、という流れである。あえて順番を逆にしてあるのは、観客の探究心をあおるためか。
使用禁止された農薬とバナナ農園労働者
ともあれ、物語の発端は第2話。オープニングに、高級車に乗った人物の登場。その派手なキャラクターに一瞬イヤな予感がよぎらないでもない。この人物は、強烈な個性が光るドミンゲス弁護士。しかし予感に反し、ドミンゲス弁護士は、危険性を知りながらドールが使い続けた農薬DBCPにより健康を害した労働者の存在を知り、立ち上がる。
ニカラグアのバナナ農園の様子は、フィリピンにある多国籍企業の日本輸出向けバナナ農園とそっくりである。広大な土地にバナナだけが整然と栽培されている風景。防護服などを身につけずに農薬を噴霧する低賃金労働者。あたかもフィリピンを描いているような錯覚に陥る。
労働者は農薬による健康被害を訴える。しかし、公害健康被害の問題とよく似ていて、訴訟を勝ち取るほどの因果関係を証明することは難しい。そのなかで、これなら証明できるとドミンゲス弁護士らが絞り込んだのがDBCPによる無精子症の被害であった。結局、ロサンゼルスの法定で、原告12人のうち6人の被害について会社側の責任が認められたが、ドールは上訴し、2016年2月時点では決着はついていない[2]。驚いたことに、DBCPは、1979年に製造中止され、1980年にフィリピンで使用が禁止されたのにもかかわらず、1986年までフィリピンのバナナ農園で使われていたという[3]。2009年、私はバナナの取材でミンダナオ島のバナナ労働者にインタビューを実施したことがあったが、無精子症の恐ろしい話は語り継がれていた。
裁判の様子を記録映画にし、ロサンゼルス映画祭コンペティションで上映しようとしたところ、ドールが主催者に上映中止を要求し、監督を名誉毀損で訴えた。この過程を描いたのが第1話である。監督はドールの脅しに屈する主催者とドールの両方と闘うはめに。不屈の精神をもつことがうかがえる監督ではあるが、さすがに憔悴していく。そんな監督に一筋の光が差し込む。母国スウェーデンのブロガーが「上映できないのはおかしい」と発信。世論を動かし、国会議員が議事堂で上映した。その後、第1話は世界各国の映画祭で受賞する。
バナナを食べる責任として
『ハリーナ』の読者には説明するまでもないが、映画に描かれる多国籍企業のバナナ農園における農薬使用と労働者の健康被害の問題は、日本でも注目されたことがある。1982年に鶴見良行氏が『バナナと日本人:フィリピン農園と食卓のあいだ』(岩波書店)を出版し、多国籍企業と結びついた権力者、低賃金で雇用される生産者、生産者の農薬健康被害の実態を明らかにした。それから30年以上が過ぎた。しかし、フィリピンのバナナ労働者をめぐる環境はあまり変わっていない。
例えば、フィリピンでは、スミフル・ジャパンにバナナを輸出している現地法人スミフル・フィリピンによる空中農薬散布に反対する運動が起こっている。住民は空中農薬散布による健康被害を訴えているが、因果関係を証明することは難しい。一方、農薬は農園以外にも散布され、風に乗って飲み水に混入し、飛行機の騒音が学校の子どもたちの学習の妨げになっている。私自身、こうした状況を目の当たりにして、両スミフルに対応策を要求しているが、現地からの情報によると大きな改善は見られないという。ゲルテン監督の行動力に勇気をもらった今、消費者の責任としても、引き続き改善を要求していきたい。しかし、日本輸出向けバナナのフィリピンにおける空中農薬散布の問題について、日本に動いてくれる国会議員はいるのだろうか。スウェーデンの状況がうらやましいばかりである。
石井正子(立教大学異文化コミュニケーション学部)
*この記事はAPLA機関誌『ハリーナ』33号(20116年8月1日発行)より転載したものです。
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[1] 日本の株式会社ドールとは資本関係はない。
[2] 毎日新聞(2016)「農民VS米大企業、映画にしたら訴えられた:「バナナの逆襲」フレドリック・ゲルテン監督に聞く」2016年2月29日。http://mainichi.jp/articles/20160229/dde/012/200/005000c(2016年6月9日参照)
[3] オルタートレード・ジャパン(2016)「アメリカで使用禁止の農薬をニカラグアで使い続けた企業の倫理的責任を問いたい:『バナナの逆襲』フレドリック・ゲルテン監督インタビュー」https://altertrade.jp/wp/archives/12135(2016年6月9日参照)
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