オリーブの木は「スムード」のシンボル

オリーブオイルの産地、ヨルダン川西岸地区(以下、西岸地区)ではなだらかな丘陵地帯に広がる農地の54%に1,000万本以上のオリーブの木が植えられています。パレスチナを含む地中海東岸のレバント地方はオリーブの原産地であり、紀元前4千年頃からオリーブの木が栽培されてきたと言われています。食用はもちろん、薬用や美容、石けん原料として、またかつては灯火用としても活用され、パレスチナ人の生活になくてはならないものです。
畑に立ち入ることすらできない
西岸地区は1967年に起きた第三次中東戦争以来、イスラエル軍撤退を求める国連安保理決議242号にもかかわらず、半世紀以上にわたりイスラエルの軍事占領下にあります。現在、70万人以上のイスラエル人入植者が住んでおり、パレスチナ人への暴行やオリーブの木を引き抜いたり、燃やしたりする破壊行為を日常的に引き起こしてきました。イスラエル軍によるガザ地区のジェノサイドが始まった昨年10月7日以降、西岸地区でも状況は悪化し、2024年12月初旬までにイスラエル軍の攻撃等による死者は964人、負傷者は15,000人以上、また、入植者によるパレスチナ人への攻撃は2,500件以上にのぼります。人的被害だけではなく、2024年だけで21,000本以上の木(そのほとんどがオリーブ)が抜かれました。
たまたま年1回の収穫時期がガザ地区のジェノサイド勃発と重なってしまった2023年は、分離壁の反対側の農地への立ち入りが許可されなかったり、入植者の暴力を恐れ入植地近くで収穫ができず、約40%のオリーブ畑で収穫ができない状況でした。2024年もその状況は続いています。オリーブを主要な収入源としている10万世帯の農民にとって、経済的に大きな打撃です。

オリーブの木が攻撃される理由
なぜ、イスラエル軍や入植者は生産者やオリーブの木を攻撃するのでしょうか。オリーブオイル出荷団体、パレスチナ農業復興委員会(PARC)のフェアトレード事業会社であるアル・リーフ社代表のサリーム・アブガザレさんは「恐怖をパレスチナ人に植え付け、パレスチナ人が土地を離れるように仕向け、入植地を拡大する戦略としてオリーブを攻撃するのです。実際、現在の入植地のほとんどが、かつてはオリーブ畑でした」と言います。背景には、3年間放置した畑はイスラエルに合法的に接収されてしまうという法律があります。


オリーブの木は何千年もパレスチナ人がこの地に生きてきたことの証、パレスチナ人がこの地に根を下ろしていることのシンボルです。だからこそ、イスラエル軍や入植者はオリーブの木を攻撃し、引き抜こうとするのです。長年、占領下にあってオリーブの木は忍耐強く土地に留まり、占領に抵抗すること、すなわち「スムード」(アラビア語で忍耐、抵抗を意味する)のシンボルとなっています。
購入は生産者へのメッセージ
もう一つの出荷団体、パレスチナ農業開発センター(UAWC)代表のフアッド・アブサイフさんは「オリーブオイルは世界とつながるツールです。日本の人がパレスチナのオリーブオイルを買うことで、パレスチナのことを忘れていない、常に関心を示し、心配しているという生産者へのメッセージになります。日本の消費者にとっては1本のオリーブオイルかもしれませんが、それは日々困難に立ち向かいながら、祖先が暮らしてきた土地に留まり、命懸けでオリーブの木を守っている生産者の闘い、スムードへの大きな支援です」と話します。
ヨルダン川西岸地区の農民や人びとが日常的に直面する困難も、根本にはイスラエルによる軍事占領があります。国際法に従って軍事占領を終わらせない限り、オリーブ生産者が平和に暮らすことはできないことを痛感しています。ATJは媒介者としてモノ(オリーブオイル)に現地の状況や生産者の声、背景にあるコト(パレスチナ問題)をしっかりと乗せて伝えることで、多くの人にパレスチナ問題に関心をもってもらい、ガザ地区の封鎖や西岸地区の占領に終止符を打つ世論を形成していくことも重要な役割、責任だと実感しています。

小林和夫(こばやし・かずお/ATJ)
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