父の願い (ファラージさんの息子の手記)
イスラエル政府により行政拘禁され、4月30日からその不当性を訴えるハンガーストライキに入ったパレスチナ農業開発センター(UAWC)ののアブドゥル・ラザック・ファラージさんの長男であるバジルさんが中東情勢を伝えるニュースサイトに寄稿した手記が、父であるファラージさん、そしてパレスチナの人たちが直面している状況について伝えています。
(原文はこちら→http://mondoweiss.net/2014/05/palestinian-resists-occupation.htmlこの中でファラージさんが自ら語る動画(英語・スペイン語字幕)も含まれます)。
抄訳した文章を是非お読みください。
[box type=”shadow”]バジル・アブドゥルラザック・ファラージ
2014年5月28日
多くの人は「語らない方がいいストーリーもある」と言うでしょう。私はもうそれには同意できません。特に“語られることのない”ストーリーを思い出すだけで引き起こされる痛み、苦しみ、そして喪失感を感じる時は……。パレスチナのストーリーは、占領体制の中で、希望と想像をかき立てる武器でもあるのです。
私は、私の家族のストーリーの1つを皆さんと共有したいと思います。私自身が多くを学び、そして今も学び続けているこのストーリーは、特別なものでも唯一のものでもありません。パレスチナで数多く生まれ続けているストーリーの一つであり、そしてまた、パレスチナの民衆の甦る力とその広大な命への愛を思い起こさせるものなのです。
行政拘禁の最長拘禁期間は6か月です。その拘禁期限を迎える日まで、あと1か月、2週間、1週間……。あと1日、2時間、1時間。心配と不安のあまり私たち家族の胸の鼓動は激しくなるばかりです。待合室に集まった皆の胸にあるのは、不安そして何とか無事であってほしいという希望だけ。そして弁護士から告げられる言葉。「あなたの父親の拘留期間はあと6か月間延長された。これが行政拘禁ということだよ」
私たちは何も知らされないままに、不安の中で待つことの繰り返し。それが行政拘禁です。あと6か月、あと4か月。そしてまた6か月、あと4か月、3か月……やっと釈放を迎え、私たちは抱き合いながら涙を止めることができません。しかしまた、ある夜中に突然連れ去られ、私たちは再び不安のなかで父の戻りを待ちわびる日々が始まるのです。
私の父であるアブドゥル・ラザック・ファラージは、UAWCの財務担当をしています。しかし、現在51歳である父は、これまでの人生のうちで通算14年の月日をイスラエルの拘置所で過ごしたことになります。拘禁者は、弁護士や家族に会うことも許されていないのです。私たち家族は、なぜ父が拘禁されるのか、どこにどのような状態で拘禁されているのか知るすべすらありません。
現在わかっているのは、起訴も裁判もないままに拘禁されるという非人道的な行政拘禁に抗議して、他の行政拘禁者と共に父もハンガーストライキに入っているということです。父がハンストを行うのは、今回が初めてではありません。2012年には24日間のハンストに参加しました。その時には、父が国際赤十字を通してやっとのことで送ってくれた手紙をいつも肌身離さず持ち歩いていました。内容は、私たち家族のことを気遣う手紙でした。
度重なる拘禁にもかかわらず、私たち家族のこと、パレスチナの若い世代のこと、パレスチナの将来のことを常に考えてくれています。私自身を含むパレスチナの若者が、父と同じ道を歩まないようにと常に願ってくれています。パレスチナには、行政拘禁やハンストで身体が弱くなっても、揺るがない決意と強さをもって闘っている人々がいるのです。彼らは、パレスチナの人々が真に生き続けるために、すべてを賭けているのです。
私自身がそんな父と直接話をすることができた時間というのはとても限られていますが、周りの人からは「あなたの父親は意志が固く、決して屈しない」というようなことをたびたび耳にします。父は家に戻っても、私たちには、父の人生のことや拘禁中のことなどは、あまり多くを語らず、静かに家族との再会の時間を楽しんでいるかのようです。彼の沈黙は、愛と記憶や経験、情熱、家族のことなど、失われたストーリーを呼び戻しているかのようです。
私の母は、自分の夫が連れ去られるのを7回以上も見てきました。イスラエルの占領によって家が襲撃されるのを見てきました。彼女は、そうした状況の中でも、私たち兄弟のよりよい生活や夢がかなうことを願いながら、何年にもわたり私たちを育ててくれました。私たちの両親の愛、そして絶えることのない闘いと犠牲について語りつくすことはできません。また私たち家族の物語として封印しておきたいこともあります。私は真実の愛と生きるための闘いについて、私の家族から学んできたのです。
長引く占領によって私たちに「生きること」を諦めさせようとするイスラエルの試みむなしく、私たちは「生きること」をこよなく愛しています。私たちは決して諦めてはいません。なぜならば、私たちは生きるに値するからです。私たちは人間らしく希望をもって生きていきたいと願っているからです。
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