【バナナニュース256号】ミンダナオ島ツピの干ばつ被害状況
バランゴンバナナは干ばつ被害に伴う収量の減少により、3月末以降、十分にバナナをお届けできない状況が続いています。今回の干ばつは、大規模なエルニーニョ現象(現在は終息)とフィリピンの乾季(2-5月)が重なったためにもたらされました。
5月下旬から雨が降りだし、現在フィリピンは雨季に入っています。しかし、5月までの干ばつの影響が大きく、収量の低迷が継続しています。回復は10月以降となる可能性があります。
干ばつの被害を最も受けた産地はミンダナオ島南コタバト州のツピ地域です。昨年の出荷量に比べて8割減少しており、現在の全体の収量不足の主要な要因となっています。ツピはバランゴンバナナ出荷数量全体の約3割を占め、東ネグロス州と並び出荷量が最も多い産地でした。
ツピの状況
6月上旬にツピを訪問してきました。雨は5月最終週から降り始めていますが、干ばつの被害は深刻で、収量は4-5か月間は大きく回復しない可能性があります。川の近くの畑、灌水にお金をかけることができる生産者などは、干ばつの被害を和らげることができていますが、そのような対応ができている生産者はごく一部。多くの生産者が大きな被害を受けています。
枯れてしまった株は1-2割ほどと推測されますが、生き残った株についても、親株からの収穫の見込みはなく、次の世代の株の成長を待つしかない状態です。親株に実がついても、実は非常に小さく(日本で売られているモンキーバナナ並みかそれよりも小さい)、生育不良のものばかりです。親株は幹が細く、乾燥気味で、これから実がなっても小さい実しか付ける見込みがありません。そのため、次の世代(脇芽)の生育に栄養を回すために親株を切り倒す作業が始まっています。
ツピでは他の果樹も深刻なダメージを受けていました。枯れてしまったドリアンやランソーネスの木を多く見かけました。一方、ツピの多くの畑でバランゴンと混植されているココナッツは、幸い干ばつの中でも収量がある程度維持された作物でした。
生産者によると、今年の干ばつの程度は過去に例のないものだったとのことです。今年は特に気温が高いことが特徴でした。
生産者たちは現在、干ばつの被害を受けた圃場の復興作業(見込みのない親株の切り倒し、植え替え、施肥等)に取り組み始めています。
ツピの生産者 アルバート・バラソさん
2014年からバランゴン栽培を始めた新しい生産者です。今年8月に60歳を迎え、奥さんは公務員です。約2,270本のバランゴンバナナを植えており、干ばつの前には1回の収穫で約30バンチ(全房)出荷できていましたが、今はその1/5の6バンチ程度です。
現在の主な収入源はコプラ(ココヤシの果実の胚乳を乾燥したもの)。「ココナッツはまだ干ばつの影響を受けていませんが、3-4カ月後に収穫するものは収量が落ちるだろう」と話していました。
干ばつ被害を受けたものの、バランゴンの作付けを今後も増やしていきたいと、前向きに語ってくれたバラソさん。
「1989年からツピで農業をしています。今年の干ばつは、期間は短かったのですが、非常に暑かったのです。昔、7か月間干ばつが続いた年がありましたが、そのときはそれでもトウモロコシの栽培ができましたが、今年はできないほどの暑さでした。
6ヘクタールの土地があり、2ヘクタールがバランゴン。その他は、ココナッツ、果樹、コーヒーなどを栽培していますが、皆干ばつの被害を受けました。ランソーネスやドリアンの木はいくつか枯れてしまいました。バランゴンについては、見込みのない親株を切り倒す作業を終えたところです。
バランゴンを始めたきっかけは、ココナッツと混植する作物を探していて、畑に近づくことのある孫のことを思うと農薬を使う作物は植えたくなかったので、バランゴンを選びました。また他の作物と違ってバランゴンは盗難被害にあわないので、安心して夜眠ることができるのもいいです(注)。今回は干ばつ被害にあってしまいましたが、今後も作付けを増やしていきたいと思っています。」
(注:ツピ地域ではバランゴンの市場がないため盗難被害にあわないという意味。ツピではラカタンなど他の品種のバナナが食べられています)。
ツピの生産者 アルボレダ・ゼナイダさん
教会の活動から帰ってきたところをインタビューしました。干ばつの被害で収入が落ち込み大変そうな状況でしたが、インタビュー中も横から明るい娘さんの茶々が入り、悲壮感までは漂ってはいませんでした。インタビュー後に畑にお邪魔しましたが、復興作業(見込みのない株の切り倒しなど)まで手が回っていない状況でした。
「6歳のときに家族でツピに引っ越してきました。1983年に21歳で恋愛結婚。当時夫は農業(ココナッツ・トウモロコシ・パイナップル・カルダバ(バナナ)等)とトライシクル(3輪タクシー)の運転手で生計を立てていました。私も一緒に農業を手伝いました。
子供は14歳~32歳の6人。長男は運転手の仕事をしています。3人が大学に入学しましたが、お金が足りず、3人とも卒業はできませんでした。ちなみに私はハイスクールを2年で中退。夫は大学を2年で中退しています。
2014年1月に夫を亡くしました。現在は、2人の娘、1人の息子、3人の孫と7人で暮らしています。そのうち、学校に通っているのは、14歳の息子(警官になるのが夢)と、9歳の孫です。
現在の収入源は主に農業で、その他に家の前で小さなサリサリストア(小さな雑貨屋)があります。1ヘクタールの畑には、バランゴン、ココナッツ、グヤバノ、その他の果樹が植わっています。
2002年からバランゴン栽培をしています。ココナッツの間にバランゴンを植えました。現在は午前中の3時間、畑に出て作業をしています。義理の息子が日曜日に畑を手伝ってくれています。またバランゴンに袋掛けをする作業は、14歳の末の息子がはしごに登って行い、私ははしごを下で支える担当です。
干ばつによる被害で1月からほとんどバランゴンからの収入はありません。天候が順調なときは週に150㎏くらいの収量が見込めるのですが、先週は20㎏ほどの収穫があった程度です。水源から遠いため、潅水は行えませんでした。ココナッツも干ばつの影響を受けています。
現在は収入が減っていて、食事の量を減らすことまではしていないですが、近所の金貸しからお金を借りています。5,000ペソ(約1.2万円)を借りて、毎日100ペソずつ返済し、60日かけて6000ペソを返済する仕組みです。畑の復興作業が目下の課題です。」
事業部商品一課 松本敦
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