ブラックタイガーの養殖を続けていくために~生産者とATINAの挑戦~ fromインドネシア
エコシュリンプは、インドネシアで環境に配慮した粗放養殖で育てられたブラックタイガーです。稚エビ放流後は人工飼料、抗生物質を使わずにエビを育てるため、プランクトンなどの自然のエサが発生しやすいように養殖池の土づくり、水の塩分濃度の調整など、生産者がやるべきことはたくさんあります。生産者にエコシュリンプ養殖の課題について聞くと、ほぼ全員が口を揃えて、「昔に比べて収獲量が減少している」と言います。
収獲量が減少している背景には、気候変動や品質の良いブラックタイガーの稚エビの入手が難しくなってきていることなどが挙げられます。エコシュリンプを輸出しているオルター・トレード・インドネシア社(ATINA)では、この問題の解決に向けて取り組みを進めています。
バナメイエビ台頭によるブラックタイガーの稚エビ減少
エコシュリンプの生産者はハッチェリー(稚エビの孵化場)で育てられた稚エビを購入して、養殖池に放流をしています。しかし、近年ブラックタイガーの稚エビを生産するハッチェリーが減少しており、必要な時期に必要な量の稚エビを確保することが難しくなってきています。
ブラックタイガーの稚エビが減少しているのは、バナメイエビの養殖が拡大したためです。1983年に台湾で稚エビを大量生産する養殖技術が確立され、インドネシアでも同様の集約型のエビ養殖が広がりました。当時はブラックタイガーの養殖が主流でしたが、同品種に比べて塩分濃度の変化や病気に強く、また水底を歩き回るブラックタイガーと違ってバナメイは水中を泳ぎ回るので、高密度で養殖可能で効率が良いなどの理由からバナメイの養殖が増えていきました。2003年にはバナメイの養殖生産量はブラックタイガーを上回り、2007年にはインドネシアでもバナメイが一番生産される品種になりました。
多くの集約型養殖池がバナメイにシフトしたことで、規模の大きなハッチェリーもバナメイの稚エビ生産へとシフトしていきました。その結果、ブラックタイガーの稚エビを生産しているハッチェリーの数は減少し、現存のハッチェリーの多くは小規模なため、品質も不安定になっています。また、ブラックタイガーの親エビの需要が減少したことで、親エビを獲る漁師も減少しており、ハッチェリーが安定的に親エビを調達できないという問題も発生しています。
「昔は品質のよい稚エビを選んで買うことができました。しかし、今は選択肢がありません。品質も安定していないので、養殖池放流後の生存率も低くなっています」と多くのエコシュリンプの生産者は言います。
品質のよい稚エビを確保するための取り組み
この状況を改善するために、ATINAでは小規模ハッチェリーとエコシュリンプ生産者をつなぐ活動をしています。今まではハッチェリーの生産時期と生産者の稚エビ放流時期が合わないという問題がありましたが、ATINAが間に入って調整することで、ハッチェリーは安心してブラックタイガーの稚エビを生産でき、生産者は放流時期に合わせて稚エビを入手することができる仕組みができつつあります。

稚エビの品質が不安定な理由の1つに、出荷される稚エビの生育期間が短くなっていることが挙げられます。まだ若い稚エビを養殖池に放流してしまうと、生存率が低くなり、収獲量が減ってしまいます。この課題を解決するために、ATINAは2023年から東ジャワ州で稚エビの養育場の運営をはじめ、大きく育てた稚エビを生産者に販売し、放流する方法を導入しています。また、南スラウェシ州ピンラン県でも、生産者と稚エビの養育場の取り組みを始めており、品質のよい稚エビを入手できる仕組みの構築を目指しています。

ハッチェリーから直接購入するよりも価格は1.4倍程高いですが、多くの生産者が養育場の稚エビを放流すると収獲量が高くなると言っており、中には養殖池放流後のエビの生存率が12%から30%に改善された事例もあります。そのため、養育場からの稚エビを優先的に購入している生産者が増えています。


1.7㎝程になると出荷される
(ピンラン県の稚エビの養育場)
外部環境の変化を受けて、産地では様々な課題に直面しています。エコシュリンプ交易が始まって30年以上経ち、若い世代のエコシュリンプ生産者も増えています。これからもエコシュリンプの養殖を継続していけるよう、生産者・ATINAの挑戦は続きます。

黒岩竜太(くろいわ・りゅうた/ATJ)
※このレポートはPtoPニュース70号の特集からの転載です。
新着レポート
-
コーヒー
東ティモールのメルカド(市場)から 2025年10月10日
-
エコシュリンプ
-
ゲランドの塩
フランス・ゲランドからスタッフが来日! 2025年10月6日
-
バランゴンバナナ
【バナナニュース367号】ボンボンさんからのお手紙(後編)~消費者と生産者をつなぐ~ 2025年10月3日
-
オリーブオイル
10/4(土)開催「停戦を、食料を、今すぐに」NGOからの報告会・キャンドルアクション 2025年9月26日
-
バランゴンバナナ
【バナナニュース366号】ボンボンさんからのお手紙(前編) ~生産者と歩む日々~ 2025年9月5日