【ハリーナ no.38 より】カカオの民衆交易とパプアの未来 ~カカオキタ社代表 デッキー・ルマロペン~
インドネシア・パプア州でのカカオ事業で最初のコンテナを出荷した2012年から数えてすでに5年がたちました。
私は当初から民衆交易を通じて、パプアのカカオ生産者が消費者の要望に応えられる品質のカカオを生産し、そのカカオから確実な収入を得て経済的に自立していく、という道筋を描きました。
その歩みはゆっくりですが、確実に進んでいると思っています。
カカオを通じて幸せになる
パプアの先住民族は豊かな天然資源と共に生きているのに、経済的にはいつも敗者で、自分たちの土地の上で開発の傍観者となっています。
しかし、パプアの人と自然に心を寄せてくれる日本の友人たちと民衆交易を通じて学び合うことで、わたしはパプア人の誇りと尊厳を回復できるのではないかと期待しました。
そして、カカオ事業を推進する母体、「カカオキタ社」を立ち上げました。インドネシア語で「キタ」は私とあなたを含む「わたしたち」という意味です。カカオを生産する人、加工する人、出荷する人、チョコレートを製造する人、売る人、食べる人、そしてカカオを育む大地と森をも含めすべての仲間が協働することをイメージしています。
カカオキタのビジネスのなかでは「みんなで一緒に幸せになる」という考えを大切にしています。例えば、カカオキタは原則、生産者個人から直接カカオ豆を買付けています。
効率性を考えれば、村にいるカカオ集荷人からまとめて買った方がよいはずです。
しかし、それでは一握りの人のみに恩恵が集中し、大多数の人びとと民衆交易を共有するチャンスが生まれないシステムになってしまいます。
生産者との関係づくりはカカオキタのスタッフが村々に買付けにいくとき、集まった生産者たちとカカオ栽培や村で起きていること、人の噂話など多面的に話し合うことで築き上げています。
そこからいくつかのプログラムが生まれました。
「カカオを売っても手元に現金が残らない」と嘆く母親の声に応える形で貯蓄プログラムをはじめました。
カカオの売上の一部をカカオキタが町の銀行に代行で貯金するシステムです。
また、カカオの収穫量が少ないと嘆く生産者たちからよくよく話を聞いてみると、カカオ畑の手入れができていない。
それでは皆で力を合わせて畑の手入れをしようということになり、実行したら収穫量が増えました。
こうして、生産者とのコミュニケーションを大事にすることが問題解決に少なからずつながっています。
知識と技術を分かち合うことで……
次なるステップはパプアの人びとがカカオ豆からチョコレート素材を製造し、お菓子にして地元で販売することです。カカオキタは小規模のチョコレート製造所とそこに併設するカフェをつくる構想を立てています。
このチョコ工房&カフェは、「人びとの集いと学びの場」になり、生産者はここで自ら育てたカカオからチョコレート菓子作りを学び、それを村や町で売り副収入を得ます。
カカオキタがチョコ製造で独占的に儲けるのではなく、その知識と技術を学ぶチャンスを生産者と分かち合い、各個人がそこから小さな経済活動をはじめていくというイメージです。
小さな活動が集まって協働組合に発展するかもしれません。みんなで幸せになる夢は膨らみます。
最後に。悲観的に聞こえてしまうかもしれませんが、率直に言ってパプアの未来は前途多難だと思っています。
パプア先住民族に真の指導者がいないこと、パプア人政治家・役人の汚職、インドネシアの他の島からの移住民との経済格差・競争など、パプア社会に内在している分断と紛争の火種が大きくなりつつあります。
そんななか、パプアの民衆が経済的に安定することは外部の問題に安易に翻弄されないためにも必要です。パプアの未来を考えるとき、先住民族の暮らしや文化を生かしながらパプア人自らが身の丈にあった経済活動の担い手になることがどうしても必要なのです。民衆交易を活かしてそれを実現したいです。
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