バナナ・プランテーションでの農薬空中散布を止めて! ~ドキュメンタリー・フィルム「毒の雨」(日本語版)~
フィリピン、ミンダナオ島にあるバナナ・プランテーションの一つで行われている農薬空中散布の問題を描いた衝撃的なフィルムです(約11分半、日本語字幕付き)。
舞台は南コタバト州ティボリ町。ティボリ町には、町名の由来となったティボリ族、オボ族、ビラーン族といった先住民族が人口の約70%を占め、標高の高い地域に住んでいます。彼らの多くはトウモロコシや米、野菜、根菜類などを生産する農民でした。2003年、現地資本のAMS社がプランテーション開発を計画すると、農地を25年間リースし、プランテーション労働者として働く道を選びました。このプランテーションは2009年、日系企業であるスミフルに経営権が移り、甘みがのった「高地栽培バナナ」として日本国内でも販売されています。
ティボリ町で空中散布が始まったのは2011年、町の中心部に近いエドワード村で始まりました。徐々に拡大する空中散布に対して、健康被害や暮らしへの悪影響を心配する住民の声が高まりました。このフィルムはダバオ市にある環境NGO、Interface Development Interventions Inc.(IDIS)が制作し、2015年6月9日、プランテーションにおける空中散布禁止法令制定を求めて、フィリピン政府下院環境委員会公聴会で上映されたものです。このフィルムで描かれている内容は、カトリック教会が、2014年9月、ティボリ町の3村で実施した医療調査ミッションの結果に基づいています。
調査では農薬の空中散布がもたらす健康被害や影響について、住民からさまざまな声が寄せられました。
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- 子どもを含む多くの住民が空中散布で飛散した農薬を浴びた経験がある。農薬により、腎臓、肝臓、呼吸器系の病気や頭痛、皮膚や目の病気などの症状が出ている。
- 一つの村では2014年、3カ月の間に3名の死者が出ており、住民は農薬の影響を疑っている。
- 水牛、牛、豚や鶏といった家畜、犬などが空中散布期間中に死亡した。
- 住民は、汚染をおそれて自家栽培用野菜や果物を食べないようになった。
- 子どもは農薬の飛散をおそれて屋外や校庭で自由に遊べなくなった。
- 屋外に干した洗濯物も農薬の匂いがする。
住民は決して会社にこの土地を出て行けと言っている訳ではありません。雇用の機会を提供してくれている会社には感謝しているとさえ述べています。住民の願いはただひとつ、健康被害をもたらしている農薬の空中散布を会社に止めてもらいたい、ということです。空中散布の様子と住民の切実なアピールをぜひご覧ください。
去る9月、ATJは日米の研究者、生協関係者、そしてバランゴンバナナの生産者や出荷団体スタッフらとティボリ町を訪問しました。
セミナー「フィリピン・ミンダナオと私たちの今を考える 『バナナと日本人』で描かれた問題は現在、どうなっているか?」報告
☆報告書は12月中にウェブサイトでアップします。
同行者のお一人、田坂興亜氏はアジア各国の農薬使用の実態や規制についての専門家です。
空中散布で使用される農薬は、シガトカ病の予防を目的とする殺菌剤です。労働者や住民の聞き取りから明らかになった農薬(図参照)について、田坂氏はこう説明します。
「私自身も日本代表を務めている国際農薬監視ネットワーク(PAN)は、健康被害の恐れが高い農薬をHighly Hazardous Pesticide(HHP)、高有害物質として指定して使用禁止を呼び掛けています。ここで挙げられた農薬のうち、プロピネブ以外の農薬はHHPに指定されたものです。さらに、マンゼブはEUが内分泌かく乱物質、いわゆる環境ホルモンに指定している農薬です。環境ホルモンは胎児の生殖器、免疫力や脳の発達に悪影響をもたらします。つまり、次世代にも被害がもたらされる恐れがあるということです。こうした危険な農薬が日常的に空から散布され、この下で暮らしている住民がいるということは大きな問題です。」
「毒の雨」の中で、住民の一人が「とくに被害を受けているのは子どもたちだ」と話しています。空中散布は、大気が安定している早朝から午前中に行われます。ちょうど子どもたちが通学したり、外で遊んでいる時間帯です。学校はバナナ畑に取り囲まれ、農薬が風に吹かれて学校に飛散している様子も見かけるそうです。9月訪問でもバナナ・プランテーションの真ん中を子どもたちが通学していました。(写真)
私たちも農薬空中散布の軽飛行機に遭遇しました。音がしたかと思ったら、わずか数秒後に頭上を通り過ぎていきました。幸いなことに、間一髪で農薬を浴びることはありませんでした(臭いは感じました)。各所に空中散布の日時を知らせる告知板が立っていましたが、そんなものがあっても逃げ切れないというのが率直な感想です。空中散布の怖さを身をもって感じた一瞬でした。
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ティボリ町の隣町、風光明媚な観光地としても知られるレイクセブ町にはバランゴンバナナ産地があり、生産者にはティボリ族も多くいます。2000年代前半、同町にもバナナ・プランテーション進出の計画が持ち上がりましたが、バランゴンバナナの出荷団体、高地アラー渓谷農事法人(UAVFI)代表のジェームズ神父らの活動により、進出を阻止した経緯があります。そして、2008年にはセブ湖流域で農薬の空中散布を禁止する町の条例制定にも関わっています。また、フィリピンで最も高いアポ山の中腹にあるマキララ町にもバランゴン産地があります。出荷団体のドンボスコ財団は、水源が汚染されることを防ごうと、EUの助成団体の支援を受けながら、バナナ・プランテーション拡大に長年反対してきました。
ミンダナオの生産者にとってバランゴンバナナは、まさしくプランテーションに頼らない生計の手段であり、コミュニティの環境を守るオルタナティブなのです。ATJは、そうした彼らの願いに寄り添って、ミンダナオの人びとの暮らしと健康、環境が守られるよう関わっていきたいと思います。
政策室 小林
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