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【バナナニュース310号】書籍のご紹介:『甘いバナナの苦い現実』(石井正子編著)

2021年1月27日

 バナナ出荷作業の労働条件の改善を求めると、組合事務所で2度火事が起こり、仲間が発砲事件で命を落とす。バナナ園の周辺では原因不明の発熱、咳、腹痛などを訴える人が少なくない。農薬の飛散から住民を守るためにバナナ園周囲に幅30mの緩衝地帯の設置が義務付けられているが、わずかな企業しかその義務を果たしておらず、行政も指導をしない。日本の店頭に並ぶバナナの8割を生産しているフィリピンにおいて実際に起きている理不尽な出来事が、この本には書かれています。

 

 今から32年前にバランゴンバナナの交易が始まりましたが、一つのきっかけとなったのが、『バナナと日本人』という本でした。不公正な労働条件や、農薬との関連が疑われる呼吸器系疾患や皮膚炎を訴える労働者が多いことに触れながら、バナナを食べる私たちだけが安全であればいいのかという問いが投げかけられました。「つましく生きようとする日本の市民が、食物を作っている人びとの苦しみに対して多少とも思いをはせるのが、消費者としてのまっとうなあり方ではあるまいか」と。

 

 産地の人びとの苦しみは改善されているのかという問題意識で書かれた本書では、南ダバオ州ダバオ市の空中散布禁止条例が最高裁で違憲であると判断された経緯も記されています。飛散する農薬により家畜が死んでしまうという家畜業界の陳情によってブキドノン州では空中散布禁止条例が制定された一方で、近隣住民がそれを求めたダバオ市では違憲とされました。「ブキドノン州は貴重な家畜がいて幸いでした。ダバオには、人間しかいません」という、条例を支持した人の言葉が悲しく響きます。
 バナナにまつわる苦しみが現在も続いているという現実。自分の身内が同じ苦しみを味わっていたら、改善策を講じるために協力するだろうし、手を差し伸べるだろうけれど、そうした思いが働かないのは、日本とフィリピンの地理的な距離だけでなく、私たちが知らなさすぎることにあるように思います。まずは知ることから。受け身ではなく主体的に考えて暮らすきっかけを与えてくれる本です。

 

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【PtoP NEWS vol.11/2017.2 特集】バナナ・プランテーションの現場から ~フィリピン・ミンダナオ島現地訪問で見えたもの~
報告書「フィリピン、ミンダナオと私たちの今を考える」

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