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報告:『バナナと日本人』その後-私たちはいかにバナナと向き合うのか?

報告:『バナナと日本人』その後-私たちはいかにバナナと向き合うのか?

3月16日(日)午後、立教大学にてセミナー「『バナナと日本人』その後-私たちはいかにバナナと向き合うのか?」が、107名の参加者を得て開催されました。

身近になったバナナという農産物がフィリピンでの民衆の権利侵害と危険な農薬散布を伴って行われていることを衝撃的に暴いた鶴見良行著『バナナと日本人』(岩波新書1982)が発行されてから30余年がたち、その現状はどう変わったのか、今後の私たちのバナナを通じたフィリピン民衆との関係はどうあるべきなのか、オルター・トレード・ジャパン(ATJ)はその課題に取り組むべく、NPO法人APLAとともに調査活動を開始しました。

このセミナーはバナナ調査プロジェクトを多くの人たちとともに作るためのスタートイベントとして、フィリピンバナナの現状と調査課題を提起して頂きました。その報告骨子をお伝えします。詳しい報告は後日、発表予定です。

ミンダナオ予備調査報告-『バナナと日本人』以後のバナナと日本人を考えるために

講演される市橋秀夫氏報告1. 報告者:市橋秀夫氏(埼玉大学教員)
市橋氏の報告は2月に行われたミンダナオ島での予備調査をもとに、バナナプランテーションが拡大する同島において、バランゴンバナナ交易の役割と可能性について問題提起する内容でした。以下、報告骨子です。
最初に統計から見るフィリピンバナナの現状について。日本の輸入バナナの90%以上がフィリピン産、フィリピンのバナナの輸出先のトップが日本という二国間の相互依存的な関係性、バナナ貿易量の大部分を多国籍企業が占めていることは『バナナと日本人』が出版された30年前と似ている。また、ミンダナオでバナナ生産が過去20年間増えており、それに比例して日本のフィリピンバナナ輸入量も増加している。バランゴン輸入量は全体の0.17%を占めるに過ぎない。

予備調査で訪問した3産地、マキララ(北コタバト州)、レイクセブ、ツピ(以上コタバト州)は、政府がバナナ産業を強力に支援しているソクサージェン地方に位置する。バランゴン生産者には先住民族、ムスリム、島外からの入植者がおり、そうした生産者やバナナプランテーションに土地を貸し働く農民、元農園労働者などを取材することができた。

ミンダナオの生産者の社会経済・文化・政治的背景は、バランゴン民衆交易の出発点、ネグロスとは異なるし、今回訪問した3つの産地でもそれぞれに特徴があり、多様である。バランゴンバナナが生産者にとってそれぞれ異なる意味を持っていることが感じられた。持続的有機農業の推進といったネグロス島との共通な意義もあれば、先住民族のアイデンティティの保持、森林と水源涵養地域の保全、先住民族、ムスリムと入植者間の平和構築、プランテーションの進出阻止など、ミンダナオ固有の役割も予備調査では見えてきた。

マキララとレイクセブでは産地付近に高地栽培バナナプランテーションが進出していた。元農園労働者への取材では、ノルマのため翌朝まで残業するパッカー、農薬で深刻な健康被害を受けるプランテーション労働者の事例が確認された。さらに高地栽培バナナの展開によって森林破壊、水源域の汚染は拡大されているし、土地も巧みに支配している。鶴見氏が指摘した問題は継続している。

予備調査から見えてきた調査課題のひとつは、多国籍企業プランテーションの実態の全体像を明らかにすること。もう一つはプランテーションと日常的に対峙している状況を含め、それぞれのバランゴン産地の多様性、地域性に即したバランゴン交易の意義、役割、可能性について深めること。これらを、調査を通じて検証し、明確にしていきたい。

バランゴンバナナの今日的意義—2014年国際家族農業年に問い直す

講演される関根佳恵氏報告2. 報告者:関根佳恵氏(立教大学教員)

関根氏は多様化するブランドバナナの中で見えづらくなっているバランゴン交易の価値を、世界的に再評価されている家族農業の視点から捉え直すという問題提起をしました。以下、報告骨子です。

『バナナと日本人』で鶴見氏が痛烈に批判した過酷な労働条件、農薬多用、安全にも問題があるプランテーションバナナしか市場に流通していない状況下で登場したバランゴンバナナはオルタナティブとして評価された。しかし、栽培方法、品種、社会貢献などで差別化したブランドが続々と登場し、バランゴンとの違いが見えにくくなっている。

『バナナと日本人』が出版された1980年代は、多国籍アグリビジネスに対する批判が高まり、国際的に様々な規制強化が図られた。1990年代、アグリビジネスは企業の社会的責任(CSR)戦略を導入し自主規制を強化、2000年代に入ると環境、労働、品質に関する民間認証制度、有機栽培、フェアトレードなどの認証を取得することでブランド化を進めていった。こうした動きはグリーン・キャピタリズムと呼ばれる。しかし、実態はどうかというとコスタリカのプランテーションの事例が示すように、環境・労働基準取得していても殺菌剤が河川に放出されたり、労働組合すらないことも指摘されている。

農業のあり方を評価する指標として「生存機会」という考え方を提起したい。農民が生きていくために、土地や農業資材などの生産手段、労働力、資金、市場を取得できるかどうか、という視点である。多国籍アグリビジネスは農民に不完全なかたちでしか生存機会を保障せず、不安定と格差を生み出すと言わざるを得ない。

今年は国際家族農業年。2008年の食糧危機をきっかけに世界的に環境負荷が小さい、雇用創出、生産性の点から家族農業・小規模農業の社会的役割を再評価する動きが活発になっている。その背景には多国籍アグリビジネスとの取引によって豊かになった農民は一握りであること、大規模多投型農業が環境汚染、資源枯渇、労働者の収奪を生み出しているという問題がある。世界的にアグリビジネスによる大規模農業から家族農業・小規模農業を支援する方向への大きな転換が起きている。

バランゴンバナナはフィリピンの小規模生産者の自立、環境保護、食品安全を促す。そして多国籍アグリビジネスに対して、生産者に生存機会を保障する民衆交易という対抗軸が設定できるのではないだろうか。多国籍アグリビジネスの操業実態を明らかにして規制強化を求めていくことも大切であろう。

大規模化・企業参入を促す日本の農業政策は世界の潮流に逆行している。日本とフィリピンの小規模生産者が置かれた状況は似ている。これまで築いてきたフィリピンの生産者と日本人消費者の連帯に加えて、日比および世界各地の生産者同士の連帯を提案したい。

『人口・食料・資源・環境 家族農業が世界の未来を拓く—食料保障のための小規模農業への投資』

関根佳恵さんは国連世界食料保障委員会専門家ハイレベル・パネルのメンバーとして、家族農業の意義を検証するプロジェクトに参加され、その結果は世界食料保障委員会(CFS)から調査報告書として出版されている他、その日本語版が農文協から『人口・食料・資源・環境 家族農業が世界の未来を拓く—食料保障のための小規模農業への投資』として出版されています。

ネグロス島の今—多国籍アグリビジネスと小規模生産者

ネグロス島の状況を語るノルマさん以上2つの報告を受けて、フィリピンのバナナ出荷団体であるオルター・トレード社(ATC)に設立当社から関わるノルマ・ムガール氏より次のようなコメントがありました。

多国籍アグリビジネスによるバナナのプランテーションは、これまでミンダナオで大規模に展開されてきた。今、多国籍アグリビジネスはネグロス島でのバナナやパイナップルのプランテーション進出を虎視眈々と狙っている。すでに南部では100ヘクタールの圃場で作付が始まっている。

2015年、フィリピンでは東南アジア自由貿易協定(AFTA)により多くの農産物の関税が撤廃される。サトウキビも関税が低くなり、タイからの輸入砂糖にフィリピン産砂糖は競合できないと見られている。サトウキビに代わる収入源を探すネグロスの農園主の戦略と、近年異常気象によりかつてはなかった台風に襲われるミンダナオ島からのリスク分散を図る多国籍アグリビジネスの意図が合致した結果だ。

ネグロス島は有機農業の島として遺伝子組み換えフリーゾーン宣言していたが、ドールの進出とともに、遺伝子組み換え禁止を撤廃させようとする動きもあり、私たちは懸念している。

ネグロスもこれまでミンダナオで起きてきた労働問題、環境汚染などに今後直面するおそれがある。ミンダナオの状況を農地改革で農地を手にしたネグロスの農民に伝えていくこと、バランゴン交易が生産者の自立をしっかりと支援できる内実を持つことが大事だと報告を聞いて感じた。

2014年3月16日セミナー『バナナと日本人』その後

オルター・トレード・ジャパンは、これからフィリピン・ネグロス島、ミンダナオ島を中心にアグリビジネス・プランテーションバナナの実態、バランゴンバナナの民衆交易が生産者や産地の自立にどう役立っているのか、民衆交易の新たな役割や可能性、意義について実地調査を通じて検証していきます。可能な限り、市民、消費者の方たちの参加を得て、このプロセスを進めていきたいと考えております。

次回のセミナーは6月を予定しております。詳細は決まり次第、発表いたします。ぜひご参加ください。

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