「『バナナと日本人』以後のバナナと日本人を考えるために」 ー3月16日セミナー報告書が完成しました。
ATJはAPLA、フィリピンのオルタ・トレード社(ATC)とともに、鶴見良行氏が『バナナと日本人』(岩波新書)で非難したフィリピン労働者の権利侵害と危険な農薬散布は32年後の現在、どうなっているのか、そして、バナナを通じたフィリピンの人々との関係はどうあるべきか、を明らかにすることを目的としてバナナ調査プロジェクトを立ち上げました。
バナナ調査プロジェクトを多くの人たちとともに作るためのスタートイベントとして、3月16日(日)午後、立教大学で開催されたセミナー「『バナナと日本人』その後-私たちはいかにバナナと向き合うのか?」を開催しました。
市橋秀夫氏(埼玉大学教員)
1.はじめに
2.フィリピンバナナと日本人
3.ミンダナオの現地予備調査
4.まとめ
報告2 バランゴンバナナの今日的意義-2014年国際家族農業年に問い直す-
関根佳恵氏(立教大学教員、当時、現在愛知学院大学教員)
・多様化するバナナの国内市場
・バナナと多国籍アグリビジネス…後退する多国籍企業規制
・「グリーン・キャピタリズム」の登場
・生存機会を保障する家族農業
・世界に逆行する日本政府の政策-国際家族農業年
・バランゴンバナナの今日的意義
・産消提携から産産連帯へ
フィリピン・ネグロスからのコメント:ネグロスにドールが進出する理由
ノルマ・ムガール氏(オルター・トレード社コミュニティ開発サービス部部長、当時)
市橋氏は報告の中で、日本市場でも多く見かける甘さを売りにした高地栽培バナナについて、「高地栽培バナナの農園で働いた元労働者への取材では、ノルマのため翌朝まで残業するパッカー、農薬で深刻な健康被害を受ける作業員の実態が垣間見られた。さらに、高地栽培バナナは、農薬による森と水源域の汚染を考えると、自然への影響はより深刻化したと考えられる」と、その問題点を指摘しました。そして、今後の調査課題として、ほとんど情報を持っていない多国籍企業プランテーションの実態の全体像を明らかにすること、産地を取り巻くバナナプランテーションと日常的に対峙しているミンダナオのバランゴン事業の意義、役割、可能性について深めることを提起しています。
一方、関根氏は高地栽培、有機栽培、フェアトレード、社会貢献などで差別化したブランドバナナが多く出回っている日本のバナナ市場の変化について、1980年代に高まった多国籍アグリビジネスの操業実態に対する国際的な批判に対応するため、多国籍企業が労働、環境基準を自主的に規制する企業の社会的責任(CSR)戦略=「グリーン・キャピタリズム」を導入した結果と説明しています。しかし、エコロジー、社会貢献しているように見えて実質は何も変わっていないプランテーションの操業実態について事例を挙げて示しています。そして、現在、FAOなどの国連機関でも家族農業、小規模農業の価値が再評価されている国際的な流れを紹介しながら、生産者の「生存機会」を保障する家族農業を基盤と、その自立を支援していることに民衆交易の優位性と意義があるのではないかと提起されています。
ノルマ・ムガール氏は2015年の米・砂糖の関税完全撤廃を睨んで、有機農業の島で遺伝子組み換えフリーゾーンのネグロス島にもドールやデルモンテが入り込みつつあり、遺伝子組み換え禁止の撤廃など働きかけている実態を報告し、いかに小規模生産者を守れるかが問われていることを訴えました。
まだ、予備調査の段階ではありますが、「『バナナと日本人』以後のバナナと日本人を考えるために」重要な報告、提言が盛り込まれた報告書です。
報告書はご自由にダウンロードできます。ぜひ、ご覧ください。
オルター・トレード・ジャパン政策室 小林和夫
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