レポート

フィリピン:遺伝子組み換えと闘う農民たち

2014年2月17日

昨年10月に発表されたフィリピンのMASIPAG(Farmer-Scientist Partnership for Development、農民と科学者の発展のためのパートナーシップ)による『10年の失敗—GMコーンに騙された農民たち』のビデオドキュメンタリー、MASIPAGの協力やAPLAのボランティアの協力で日本語字幕版を作成した。

遺伝子組み換え問題に関するビデオは数多くあるが、ここまで農民の口から遺伝子組み換えがもたらす問題がなまなましく語られたドキュメンタリーは類を見ない。

25分弱にわたるものだが、ぜひご覧いただきたい。

このドキュメンタリーではモンサントが遺伝子組み換えが何であるか、まったく農民には情報をもたらさないまま、高収穫、高利益を与えるという偽りの宣伝で農民を騙す形で導入されていくことが語られる。

安かった種子は高くなり、肥料や農薬は年々必要量が増えた上、値段も上がり、農民は債務で土地を失い始める。そして、それまで主食の一部にもなっていたトウモロコシの種子を失った時、彼らは自分たちの食べるトウモロコシを買わなければならなくなってしまったことに気がついた。

自分が作ったGMコーンを食べれば下痢になり病気になる。カラバオ(水牛)に食べさせたら死んでしまう、という証言は衝撃的だ。米国の農民にとってGMコーンは自分たちが食べるものではないし、家畜も工場のようなところで数ヶ月餌付けするだけなので、どんな健康被害があるのか、知ることは難しい。しかし、主食に近いものとしてトウモロコシを食べ、さらに家畜が家族のように長く付き合う存在であるフィリピンの農民にとってはそのGMコーンが健康に与える影響はずっとはっきりと見えるのだろう。それだけにこれは欧米で作られたドキュメンタリーよりもはるかに生々しいものになっているのだ。

さらにGMコーンの導入後、土壌流出が続き、農地が石ころだらけになってしまったという。さらにGMコーンにかける有毒な除草剤が周辺のバナナやマンゴーも病気にしてしまう。

トウモロコシは自家受粉で実を付ける大豆と異なり、花粉が遠くまで運ばれてしまうので、GMコーンを始めるとその周辺のトウモロコシも汚染されてしまう。GMコーンをやめたくても、自分だけやめても汚染されてしまうし、さらに強力な農薬が流れてきてGMコーン以外は育たない環境になってしまう。

遺伝子組み換えにより、農民は種子を失い、食料を失い、土地を失う結果となった。その一方で、モンサントやデュポン(パイオニア)などの遺伝子組み換え企業は大きな利益を上げている。

MASIPAG フィリピンにおける遺伝子組み換えトウモロコシの社会経済的影響

MASIPAGレポート『フィリピンにおける遺伝子組み換えトウモロコシの社会経済的影響』

こうした動きに対して、遺伝子組み換えをやめ、有機農業によって村を変えていこうとする動きが出ている。個々の農家だけで変えようとしてもGMコーンによる汚染や農薬流出もあって、変えることは困難だが地域がいっせいに変わることで、この悪循環を止めることは不可能ではない。

その困難な闘いがフィリピンで進められていることをまずこのビデオから知ることができる。

なお、このMASIPAGの調査は80ページの詳細なレポートにまとめられており、全文をダウンロードすることができる。

ダウンロードはMASIPAGのサイト: Socio-economic Impacts of Genetically Modified Corn In the Philippines (2013年9月 PDF 2.1MB)

2014年2月20日追記

印鑰 智哉(オルター・トレード・ジャパン政策室室長)
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