エコシュリンプ~スラウェシ島での新たなチャレンジ~ from インドネシア
遡ること27年前、オルター・トレード・ジャパン(ATJ)は、インドネシアから粗放養殖のブラックタイガー、「エコシュリンプ」の輸入・販売の事業を開始しました。
日本のエビ消費の裏側で
日本でエビの輸入が自由化されて以降、エビ好きな日本人の胃袋を満たすべく、天然エビが乱獲され、水産資源の枯渇が問題化した1960~1970年代。
それに代わるものとして、台湾で生まれた「親エビ革命(※)」というエビの養殖技術が、80年代にアジア各地に広がりました。
しかし、大量生産が可能な集約型養殖池の開拓により地域の自然が破壊され、養殖池では人工飼料や抗生物質が、収獲後にも薬が多用され、食品としての安全性が問題となりました。
「子どもたちも安心して食べさせられて、産地の環境にも負荷をかけないエビを買いたい」という消費者の願いと、集約型養殖池による環境破壊と汚染を非難し、「土地は子孫からの預りもの。次の世代へ引き継いでいかなくてはならないもの」という思いで粗放養殖を営む生産者との出会いから始まったエコシュリンプ事業は、ジャワ島東部から、スラウェシ島南部の生産者にも広がり、今に至ります。
※大量養殖のために、エビの眼を人為的に切断する技術。両眼を順番に切り落とす事で、エビは抱卵しやすくなり、稚エビの大量供給が可能となった。
後発産地スラウェシのジレンマ
ジャワ島東部では有機認定システムの導入や現地法人オルター・トレード・インドネシア社(ATINA)の立ちあげ、自社工場の設立と、エコシュリンプ事業を展開。
池への放流後に無給餌、無投薬の条件を満たす粗放養殖エビであることが、買入れ前に確認されている」というエコシュリンプの定義に適ったエビを日本の消費者に届けるために、生産者との関係強化・深化に取り組んできました。
一方で、後発産地であるスラウェシ島では、基準を満たすエビの買い付けを続けながらも、生産者との関係を深められないまま10年以上の月日が流れてしまいました。
とはいえ、ATINAはスラウェシの生産者との対話を通じ、また、刻々と変わる養殖環境の中で創意工夫しながら鋭意エビを育てている生産者の姿を目の当たりにし、いつかこのスラウェシ島でもジャワ島で取り組んできたような、エビの買い付けに留まらない活動を生産者と共に始めたいという思いを強くしていきました。
生産者のストーリーを伝える
2018年夏、ATINAは「アジアの水産物の向上のための協働体(ASIC)」と共に念願だったスラウェシ生産者との活動を開始しました。
ASICは、アジアに拡がる水産品の生産者組織、加工工場、環境NGOや認証団体などで構成された協働体で、バイヤーや輸出業者と共に地域の水産業の持続性や労働環境の改善などなど)などに取り組むことを目的に活動している組織です。
近年、持続可能な水産物に関する消費側の関心は高まり、そうした水産品の認証制度も徐々に認知されてきています。
一方で、認証制度を導入できるのは、費用負担が可能で複雑な記録作業やマネージメントの能力を備えた中規模、大規模の生産者団体や企業に限られており、市場に出回る水産品の供給を下支えする小規模な生産者にとっては高いハードルがあるのが現状です。
ATINAとASICは、認証制度に頼るのではなく、エコシュリンプの生産者のような小規模な生産者たちの生の声を拾い、生産者が持続的に粗放養殖を続けてゆくために必要な取り組みを行い、それを「ストーリー」として消費者に伝えることで、そのような水産物が消費者の選択肢の一つとなることを目指しています。
現時点では、今後の具体的な活動につなげてゆくためのワークショップを開催しています。テーマは、エビ産業における女性の活躍、生産者の組織化、環境変化によって影響を受けやすい粗放養殖を続けていくためのリスクヘッジなど、多岐にわたりますが、生産者の置かれている状況をより理解してゆくための大事なプロセスと考えています。
地道な活動ではありますが、これからもエコシュリンプ届けながら、スラウェシの生産者との取組みについても、お伝えしていきたいと思います。
山下万里子(やました・まりこ/ATJ)
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