レポート

【PtoP NEWS vol.21】パレスチナでのオリーブ収穫

2017年12月25日
広がるオリーブ畑

広がるオリーブ畑

油の中の油 オリーブオイル

「太る」とか「ぬめぬめする」とか「脂ギッシュ」とか、割と否定的なイメージも少なくない「あぶら」。

しかしそれは、生命活動に必須の栄養素であり、エンジンを回すために必須の動力源であり、天ぷらを揚げるのに必須の食材でもあり、絵描きには必須の画材でもあります。今や「あぶら」は、人類の営みとは切っても切れない存在と言えます。

パレスチナのオリーブオイル

パレスチナのオリーブオイル

主に常温で液体のあぶらを指す「油」は、英語ではOil。その語源はオリーブです。ようやく日本でも認知度が高まりつつあるオリーブオイルは、つまり、油の中の油。それだけ長い人類との付き合いがあるのです。

調理、美肌、灯り、石けん、媚薬… 頼れる生活のパートナー

オリーブは、今から6000年くらい前には、すでに栽培されていたと言われます。そして、人びとはその実を搾ることで油を得ていました。

なお、それ以前の人類にとって、あぶらと言えば「脂」。これは、単純に狩りが中心の生活だったからですが、植物から油脂を得ることが難しかったからでもあるようです。

そんなオリーブの栽培が始まったとされるのが、パレスチナ周辺の地中海沿岸部。以来6000年にわたり、そこに住む人びとは、ずっとオリーブと共に暮らしてきました。

オリーブの古木

オリーブの古木

今でもレストランに行くと、ピッチャーに入ったオリーブオイルが机上に鎮座し、皆ドヤ顔で料理にかけまわしています。

聖書にも頻繁に出てくるこの油は、調理油としてはもちろん、ダイレクトに飲用されたり、美肌を保つために塗られたり、灯りを灯されたり、石けんにされたり、香料を溶かし込まれて媚薬にされたり、色々なモノの潤滑油にされたりと、八面六臂の大活躍をしてきました。

またオリーブの木そのものも、その堅く締まった木質から、材木として活用。搾りカスですら家畜のエサになるなど、オリーブは余すことなく使える、頼れる生活のパートナーなのです。

パレスチナを訪れると、今なお広大な土地にオリーブ畑が広がっています。ヒトよりオリーブの木の方が多そうです。丘陵地のため、ロバが入れるように段々畑チックに作られているところもよく見かけ、昔の人の知恵が偲ばれます。コンクリ舗装の道路と電線、そしてイスラエルによる入植地の姿さえ無視すれば、きっとその風景は、数千年前からあんまり変わっていないのではないでしょうか。

オリーブの実

オリーブの実

オリーブの花

オリーブの花

 

品質の良いオイルが取れるように

さて、モクセイ科であるオリーブは、年に一度花を咲かせ、年に一度実をつけます。その実が熟してくる10月頃が、オリーブの収穫期です。

スペインやイタリアの大規模農園のように、理路整然と植えられたオリーブの樹上を機械がまたいで摘み取っていくわけではありませんので、当然、収穫は地道な手作業となります。

収穫されたオリーブの実

収穫されたオリーブの実

パレスチナ自治政府によって「収穫開始」の合図が出ると(2017年は10月10日だったそうですが、現地パートナー曰く、「フライングするヤツも必ずいる」とのこと)、学校も官公庁も1週間お休みとなり、家族総出での一大イベントに。

恐らくは古き良き日本の、田植えや稲刈りと同じようなイメージなのでしょう。この時期になると、大人も子どもも、暇さえあればオリーブ畑で収穫作業です。

では具体的に何をするのかと言うと、地道に手で一粒ひと粒摘んだり、オリーブの木によじ登って砂場遊びのクマデのような道具でオリーブの実をしごいて回収したり、下から丈の長い器具で枝を震わせて落とした実をキャッチしたり、いたって素朴な作業です。

現在では、一番良いオイルが取れるとされる実の色が黒く変わる直前を見極め、昔の様に木や実をブッ叩くことなく丁寧に収穫することで、品質の良いオイルが取れるように心を砕いております。

集められたオリーブは、大体どこの村にもある搾油場へ。そこでオリーブオイルに姿を変え、タンクに保管されます。

これも、昔は収穫された実はボロい麻袋などに入れてロバでのんびり運ばれており、その過程で劣化してしまうため、今のような品質の高いオイルは取れなかったそうです。

収穫したオリーブはロバで運搬

収穫したオリーブはロバで運搬

現地の人はそういう昔風のオイルが好きなようですが、イスラエルの占領下においてパレスチナ産オイルの扱いは低く、適正価格で流通できない事情もあります。

生産者がきちんと生計を立てていくためには、品質を向上させ、域外へ輸出していくことが重要でした。

そこで、パートナー団体であるパレスチナ農業復興委員会(PARC)やパレスチナ農業開発センター(UAWC)は、生産者への農法指導や輸送時の管理方法の改善、また時間の短縮に取り組み、搾油場にも最新の機械を導入し、保管場には空気に触れないステンレスタンクを設置するなど、オイルの品質改善を進めてきました。

その結果、今では国際的に認められるレベルにまで向上し、皆様のお手元にも届いていることになります。

引き抜かれたオリーブの木

引き抜かれたオリーブの木

これだけ聞くと、牧歌的な暮らしが想起されますが、実際のパレスチナでは、周辺にイスラエル入植地が乱立し、入植者からの嫌がらせが後を絶ちません。

大切に育てたオリーブを切る、燃やす、引っこ抜くといった、極めて残忍かつ幼稚な行為が、頻発しています。

オリーブの木を植樹するパレスチナの生産者

オリーブの木を植樹するパレスチナの生産者

それらは全て、「パレスチナは神がユダヤ人に与えた土地」という妄想と、それに基づく排他主義による自己正当化の賜物です。

そんな理不尽な苦労を強いられているパレスチナの人びとが一生懸命育てたオリーブから取れたオイル、ぜひ一度手に取ってみてください。

若井俊宏(わかい・としひろ/ATJ)

大切に育てられたオリーブから出来たオイルは、“パレスチナのエキストラバージンオリーブオイル”として販売しています。

オリーブの木の下で

オリーブの木の下で

 

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