1枚の写真から「サトウキビ畑の小さな休憩所」

2022年9月6日

マスコバド糖の故郷、フィリピン・ネグロス島。

原料となる、サトウキビの収穫は早朝から行われますが、朝からとても陽射しが強く、暑さが堪えます。しかも収穫された後のサトウキビ畑には、日を遮るものはありません。そんな中にぽつんと日陰を発見!よく見ると、サトウキビの柱に、サトウキビの葉っぱで作られた屋根。何とか大人二人が詰めて座って入れる位の小さなスペースですが、中は涼しく、とても快適でした。

生産者の知恵でできた即席の小さな休憩所。灼熱の太陽の下、生産者の疲れを癒す、つかの間のオアシスに違いありません。

中村智一(なかむら・ともかず/ATJ)

【バナナニュース330号】 世界的な経済危機がやってきて~バナナ生産者の状況~

2022年8月29日

現在、世界的な燃料高騰や食料価格などの上昇が続いていますが、フィリピンのバナナ生産者たちの生活にも大きな影響を与えています。今回は、ネグロス島とミンダナオ島の生産者に現在の暮らしぶりを聞いてみました。

◆エドアルド・カニエタンさん(ネグロス島東州)

2015年からバナナの出荷を始め、約1000本のバナナを育てていましたが、昨年の大型台風の影響で約8割のバナナが倒れてしまいました。台風前まではバランゴンバナナの収入は1回の出荷当たり1,000~1,600ペソでしたが、5月に出荷を再開した際の収入は600ペソ、7月には1,600ペソ分のバナナを出荷するまでに回復しました。

バナナが回復し始めた一方、世界的な経済危機がやってきました。これまでリッター当たり40ペソであった燃油が90ペソになり、配送コストが値上がりして町の市場へ農作物を売りに行けない時も出てきました。昨年はアボカドの販売で2,000ペソの収入がありましたが、今年は配送コストがかかるので収入は半減しています。日用品も、食用油がリッター当たり40ペソから44~50ペソへ、魚もキロ当たり230~250ペソで買えたのが280~320ペソへ値上がりしました。

田んぼを1.5ha持っており、収穫したお米の半分は自家消費用、半分は販売に回しています。肥料も1袋当たり900ペソから3,200ペソへ高騰してしまったので、肥料を少なくした結果、生産量も落ちてしまいました。その他、自家消費用に鶏やアヒルを育て、ヤギも販売用にと育てて何とか暮らしをやりくりしています。

バランゴンバナナは私の家族にとって大変貴重な定期収入になっていて、魚、砂糖、コーヒー、食用油、石鹸など日用品を購入する費用に充てています。畑の近くまで買い付けに来てくれるので、売上がほぼそのまま収入になります。

バランゴンバナナはこの不安定な経済状況において生き延びるための希望になっています。

◆ビエンベニード・トト・ベルマスさん(ミンダナオ島ツピ)

バランゴンバナナを出荷し始めてから15年が経ちます。最近バランゴンバナナの生産者組合の栽培指導員としても働くようになりました。600本のバランゴンバナナの株を育てており、月に約6,000ペソの収入があります。バランゴンバナナのほか、ランソーネス、マンゴスチン、ドリアン、ココナツ、バナナのサバ種などを栽培しています。

ここ最近、日用品や燃料が高騰したことにより、家計や農場経費の出費も慎重にしています。基本的な生活必需品のみ購入し、親族の集まりへの参加やモールへのショッピング、遠方への旅行は最小限にして、親戚や友達を家に招待するのも本当に必要な時だけになりました。

収入を増やすために、裏庭や畑の端に様々な野菜を植え、バナナのサバ種やカカオの苗を植え直しています。畑での仕事も見直しました。草刈り機を使用する代わりに、週末の朝早くにバナナの株の周りのみを手で草刈りしています。使用する鶏糞の量も予算に合わせて調整しました。これまで3か月ごとに撒いていましたが、6か月ごとにして労賃や配送コストの経費を減らすようにしています。

バランゴンバナナからの収入は月々の光熱費や鶏糞の購入、バナナの栽培作業を手伝ってくれる人への労賃に充てています。今回の危機があっても人生は続きます。そんな時は、より賢く、現実的にならなくてはと思っています。

※1ペソ=2.4円/8月12日のレートで換算

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粗塩の収穫にこの道具あり!

2022年8月25日

これはただのトンポではなく、1,000年を超える歴史を持つゲランドの塩田で粗塩の収穫を任され続けてきた唯一無二の道具です。およそ5mという長さは、塩田の真ん中まで無理なく届くように設計されたもの。

先端にあるプレートは塩に触れるため木製でなくてはならず、十分な幅を持ち、その断面は作業性を考慮した絶妙な角度に仕立てられています。素材の進化により持ち手だけは木でなくグラスファイバー製でもOKとなったそうですが、そのしなりを活かして卓越したコントロールで収穫する技術と共に、ほぼオリジナルのままで今に伝えられています。

さて、その他にあまり用途がなさそうなこのトンポ、当然入手経路も限られてきます。しかし、今ではこの由緒正しいトンポを使うこと自体が 「ゲランドの塩」の生産条件の一つであると同時に、そもそもこれがないと塩田を保ちながら収穫すること自体できないわけで、これはまさにゲランドの塩の命綱。そのため生産者組合では、塩職人がトンポ難民にならないように在庫を確保し、いつでも供給できる体制を整えているのです。あ、トンポの名前は「ラス」といいます。

若井俊宏(わかい・としひろ/ATJ)

ゲランドの塩が作られる様子はこちらから。

みんなの力を合わせて乗り越える~台風オデットの被害を受けて~

2022年8月10日

2021年12月16日から17日にかけてフィリピンを通過した大型台風22号(フィリピン名:オデット)により、バランゴンバナナ及びマスコバド糖の原料となるサトウキビの生産者たちは大きな被害を受けました。オルタートレード・フィリピン社(ATPD*1社長のノルマ・ムガールさんに被害を受けたネグロス島の復興状況を聞いてみました。

生産者からバナナの回復状況を聞くノルマ・ ムガール社長(右)

サトウキビ畑の状況

台風が通過した時期は、サトウキビの収穫シーズンが半分過ぎた<らいの頃でした。本来、サトウキビは強風に強い作物と言われていますが、今回の台風ではたくさんの茎がなぎ倒されました。その影響で糖分含有量が減り、砂糖としての生産量が減ってしまうおそれがありましたが、台風後の天候がよく、サトウキビの回復がよかったため、心配したほどの影響はありませんでした。ただ、泥にまみれたり、強風で絡まりあったサトウキビを収穫するのは困難を要し、通常より収穫に時間や労力がかかりました。そのため、余計にかかった人手の労賃は、災害支援の募金から補填しました。

まずはバナナ畑の復興を

台風の通過によりネグロス島の生産者たちのバナナは、ほとんどなぎ倒されてしまいました。今回の台風は今までになく最悪だったと生産者が口々に言っていました。どれだけ民衆交易のバランゴンバナナが生産者たちの暮らしを支える基盤だったのかを痛感しました。まずはバランゴンバナナを復興させることが生産者たちにとって最優先です。

それを実現するために、生産者たちに肥料(鶏糞)を配布し、散布してもらうことにしました。これまで施肥は限られた地域でのみ実施してきましたが、今回は村の中の橋が壊れたり、道路状況が悪かったりするために肥料を運搬できない地域を除いて全産地に配布しました。今年は乾季にも雨が降り、バナナの成育にとって好条件だったことも手伝って、葉っぱが元気で実の成長が早くなり、施肥の効果を多くの生産者が認識しました。

元気に育って回復中のバナナ

結の精神で

一時的に仕事がなくなってしまったバナナの買付や運搬を担う現場スタッフ、バナナの箱詰めをするパッキングセンターで働くパッカーたちも、生産者の畑に出向いて一緒に作業を実施してもらうことにしました。フィリピンには「バヤニハン」という、共同体での助け合い、相互扶助の制度*2がありますが、それをバナナの復興においても意識的に実施したのです。現場スタッフには対価として日当を支払いました。

普段はパッキングセンターでバナナの箱詰めをするスタッフたちも畑で作業

現場スタッフの中には生産者である人もいますが、雇用されて働いている人も多くいます。これまでは単にバナナを買い付けたり運搬したりすることが主で、生産者のことについて知る機会がほとんどない人もいました。今回生産者たちの畑に行くことにより、バナナが作られる背景や生産者のことを知るきっかけになりました。生産者や畑のことを知ることで、それが自分たちの仕事とつながっているという意識を持ってほしいし、これからも その意識を高めていかなくてはなりません。

今回の台風被害は甚大だったものの、施肥や 「バヤニハン」の実践はバランゴンバナナの生産者や現場スタッフの意識改革を促したとも言えます。施肥の効果もあり、バナナの回復が 1~2ヵ月早まっており、9月頃から前年の平均出荷量程度に回復する予定です。

今回の台風からの復興は、日本の皆さんからのご支援がなければ、すべての被災地へ手を差し伸べることはできませんでした。日本からの応援によって生産者たちも復興に向けて、また歩みだすことができました。すべての関係者が感謝と希望、目的をもって懸命に前に進もうとしたこの復興事業は、民衆交易の歴史の中に刻み込まれることでしょう。

インタビュー・まとめ 吉澤真満子(よしざわ・まみこ/ATJ)

*1オルター トレード・フィリピン社:バランゴンバナナ、マスコバド糖の輸出を担っている。

*2日本の農村社会にある「結(ゆい)」に相当。

エコシュリンプとブロッコリーのオリーブオイル炒め

2022年8月8日

エコシュリンプのトルティーヤ

2022年8月7日

フライパンで簡単!パエリア

2022年8月7日

”プリプリ”エビの水ぎょうざ

2022年8月7日

塩豆腐

2022年8月2日

PtoP NEWS vol.51 

2022年8月1日

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【バナナニュース329号】コロナ禍の教育事情~その後の最新情報/2022年~

2022年8月1日

コロナ感染拡大が世界的に広がった後、フィリピンでは2020年10月から「遠隔教育システム(課題学習)」が実施されてきました。オンライン学習や学校から配布される課題を在宅で学習するという仕組みです。それが導入されてからもうすぐ2年が経過します。

2022年2月、教育省長官より、保健省が示した生徒・学校関係者が安全に過ごすための厳格な実施要項「学校安全評価(SSAT)」に合格した学校は対面授業を再開できることを発表しました。2021年11月~12月に実施された運用の試験期間中に、SSATに合格した学校リストを地方自治体が提出し、全国で6,686校が対面授業に向けて準備ができている状況でした。そのうち6,586校が公立学校、100校が私立学校でした。

一方、高等教育(大学、専門学校など)を監督する高等教育委員会(CHED)は、2020~21年には「フレキシブル・ラーニング(注1)」を実施していましたが、この方針を延長し、従来の教室で学習する対面方式に完全に戻ることはないという方針を出しています。もしまたパンデミックが来たときに、教育関係者を同じリスクにさらすようなことはしたくないという理由からです。 また、従来の対面式授業に戻ることは、オンライン用のテクノロジーの導入や教師の訓練、施設の改修などへの投資を無駄にすることになるとも言及しています。

【フィリピンの教育制度】
学校年度:6月~5月(4、5月は夏休みで長期休暇)
□ 小学校:幼稚園(5歳~)6年生(7年)
□ 中学校:7~10年生(4年)
□ 高校:11~12年(2年)
□ 高等教育:大学・専門学校など(高卒以降)

注1:時間や場所、聴講の有無などを選ばずに学習できる形態。必ずしもテクノロジーを駆使した手法に限らない。

生徒たちの心境と今

「遠隔教育システム(課題学習)」からようやく対面授業へと移行する運びになりましたが、移行期間であるがゆえに、学校によって状況は様々なようです。2021年9月にバナナニュースでご紹介した「コロナ禍での教育事情<都会編>」に登場したジェレミーアール君、ピート君、10月にご紹介した「コロナ禍での教育事情<農村編>」に登場したアナリザ&アイラ・ヴィリアメントさん姉妹ほか、合計5人の生徒たちに現在の様子を聞いてみました。

【都市・小学校の事例】

◆オルタートレード・フィリピン社スタッフ アーウィンさんの長男
ジェレミーアール君の場合(11歳)

自宅で学習中

ジェレミーアールくんの通うラ・サール大学付属小学校はネグロス西州バコロド市内にあります。2020年から2022年5月までオンライン授業が実施されてきました。2022年8月から2023年5月までは、「混合学習」が実施されることになり、週に2日間教室での対面授業、3日間オンライン授業が実施されることになりました。
「親にとっては、いくつかの教科において調査などのサポートをする必要があり、その時間をどう作るかが課題でした。オンライン授業に参加するためにパソコンを購入したり、インターネットの接続や電気系統の故障の時のためのバックアップ用の機材を準備したりと出費がかさみました。ただ、オンライン授業であれば子どもの感染リスクが減るのでその点は安心できました。

アイロンを手伝うジェレミーアール君

この間、息子も長期間にわたる自宅での学習の間に、どのように過ごすかを学んできました。運動をしたり、家事を手伝うなどです。私たち親も息子本人も、オンラインと対面との混合授業のあり方がよいと考えています。対面授業により先生と議論ができたり詳しく教えてもらうことができる一方、オンライン授業ではウイルスに感染するリスクを減らせるからです。投資した機材も活用できるし、昨今の燃料高騰で値上がりしている学校までの交通費も節約できます」と父親のアーウィンさんが話してくれました。

自転車で体を動かす時間を

【都市・中学校の事例】

◆オルタートレード・フィリピン社スタッフ ビクトリアさんの長男
ピート君の場合(14歳)

ピート君とお母さんのヴィクトリアさん

ピート君もネグロス西州バコロド市内にある私立学校セント・ジョセフ・スクール・ラ・サールに通っています。2022-2023年の学習年度は、新しく「同時併用クラス」と「課題学習」を選べる方式をとることになりました。夜間クラスに通う生徒は引き続き「課題学習」をすることも可能で、自宅でインターネットのアクセスがない生徒は教室での対面授業と「課題学習」の併用もできて、生徒が選択できるようになっています。
「同時併用クラス」とは、生徒たちを25人ずつの2グループに分けて、隔週で学校に登校するするという方式です。登校していない生徒たちは、同じ授業をオンラインで受けます。オンラインで参加している生徒たちは、教室での先生と生徒たちのやりとりを見聞きすることができ、教室とオンラインの生徒たちが同時にやりとりすることもできます。健康に問題を抱えている生徒など教室での授業に参加しない子は、オンラインで参加することもできます。

「同時併用クラス」の教室の様子

「2年も課題学習を自宅でしてきたので、学校での授業になれば先生から直接学べるし、やっとクラスメートと会うことができてうれしいです!」とピート君。お母さんのヴィクトリアさんは、「オンラインと教室での授業の併用により、徐々に通常の授業へと移ることができて満足しています。ウイルスへの感染の機会を軽減しつつ、先生から直接学ぶことの重要性や子どもの社会性を育むことができるからです。ただ今回の「同時併用クラス」により学費が4%値上がりし、コロナ禍の前に家庭教師に支払っていた費用より高くなります。我が家にとって息子の教育費は何より最優先なので、家計をどうやりくりできるか思案中です。片親である私にとって、教育を受けさせることが唯一子どもにできることだからです」と話します。

【農村・大学の事例】

◆サトウキビ生産者・ヴィリアメント一家
アナリザ(21歳)&アイラさん(20歳)姉妹

ヴィリアメント姉妹と両親

二人とも地元のラ・カルロータ市立大学へ通っています。学校までは、家から公共の交通機関を使い50分かかります。現在まで課題学習とオンライン授業が続いていて、学校での対面授業の再開についてはまだ通知がないとのこと。「課題学習だと充分理解できない内容があったり、インターネットの通信状態がよくないときは、学習がはかどりません。早く対面授業が再開してほしいです。より学習の理解を深めるために先生に教えてもらいたい。友だちと交流する機会も減り残念です」と二人は話します。ご両親はインターネットでの調査学習に頼りすぎていて充分学習内容の理解が進んでいないことを心配しています。「その分を私や妻が教えるというわけにもいきません…」と、父親のアルセーニョさん。

【農村・高等教育の事例】

◆バランゴンバナナ生産者(シライ市ランタワン) ドナ・ドーモさんの息子
マーク君の場合(18歳)

マーク君と家族。家族で営む商店の前で

ネグロス西州シライ市にあるランタワン高校へ通っています。学校は徒歩で20分ほどの場所にあります。2020年から自宅での課題学習が続いていましたが、2022年6月から教室での対面授業が再開しました。「課題学習は難しかったです。理解できない科目がありましたが、すぐに先生に聞けないもどかしさがありました。グーグルで調べたりもしましたが、僕の住んでいる地区はインターネットの電波が弱く、通信速度がとても遅いのです。インターネットの通信環境がいい場所を探し回るということをしていました」。お母さんのドナさんは「課題学習になったことで、新しい機械を購入したり、インターネットの通信費で出費がかさみました。村の中で小さな商店を開いていますが、収入はわずかです。そのため、肥育豚を育てて売ったお金を教育費に充てました」。

【農村・大学の事例】

◆バランゴンバナナ生産者(シライ市ランタワン) ルイサ・レゴドンさんの娘
ヴァネッサさんの場合(18歳)

ヴァネッサさん、学校にて

ネグロス西州タリサイ市にあるフィリピン・テクノロジー大学の3年生です。家から大学までは35km離れていて、コロナ禍以前は、公共交通機関(ジプニーとトライシクル)を使い、登校に約2時間かかっていました。そのため、彼女は大学近くに下宿して、週末に家に帰る生活を送っていました。コロナウイルスの感染が拡大してからは、2020~2021年の学校年度(2020年6月~21年5月)は課題学習で、2021年の途中からオンライン学習も始まりました。2022年6月からは学校での授業が再開されています。


課題学習だった時は、学校まで課題を取りに行かなくてはならず、その課題を決められた期日までに学校に提出しなくてはなりませんでした。コロナ禍で公共交通機関の運行が止まったり、地区ごとのロックダウンがあった関係で、課題の受け取りと受け渡しが難しくなり、バイクをレンタルして学校の行き来をしました。この影響で家計の出費がかさみました。「オンライン学習は課題学習よりずっとよかったです。分からないことなどを直接質問することができたからです。それでも対面授業が望ましいと考えていたので、再開してとてもうれしいです」とヴァネッサさんは話してくれました。
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フィリピン 台風オデット復興事業<中間報告>

2022年7月29日

昨年12月16日夜から17日にかけてフィリピン中部を直撃した台風22号(フィリピン名:オデット)により、ネグロス島のバナナとサトウキビ、多数の生産者や事業関係者の家屋が全半壊する甚大な被害が出ました。オルタートレード・フィリピン社(ATPI)とオルタートレード財団(ATPF)では、海外の関係団体からの支援をもとにバナナとサトウキビの生産復興及び生活支援事業を進めてきました。ATPI社長のノルマ・ムガール氏をはじめとするチームがネグロスのバナナとサトウキビの全産地を訪ね、モニタリングした事業の進捗状況や台風から半年たった産地の様子を報告します。

モニタリングチーム(前列右から3番目がノルマさん)

<海外パートナーから多大な支援>

復興事業は主に収入が確保されるまでの生産者や事業関係者の当面の生活支援、バナナとマスコバド糖の原料となるサトウキビの生産復興からなります。総事業予算は1,248万ペソ(約2,800万円)でした。

ATPI/ATPFからの支援呼びかけに応え、マスコバド糖を輸入しているヨーロッパのフェアトレード団体、日本・韓国でバナナやマスコバド糖を扱っている生協・産直団体、APLAから合計9,663,137ペソ(約2,170万円)もの募金が寄せられました。ATPIとATPFは支援金をもとに、生活支援事業及びバランゴンバナナとサトウキビの生産復興事業を中心に支援活動を進めてきました。

  • 生活支援事業

〇食料支援
当面の食料として合計1,605家族に対し、10キロのお米を提供しました。内訳はバナナ生産者838名、サトウキビ生産者543名、「the BOX」(野菜宅配事業)生産者11名、現場スタッフやパッカー、製糖工場職員など213名です。

〇屋根材配布
家屋が全半壊した生産者254名(現場スタッフ1名を含む)を対象に屋根材(トタン板)を配布しました。倒壊したボホール島のパッキングセンター、ネグロス東州カクハ村のバナナ集荷所再建のために資材も支援しました。また、台風被害を受けたサトウキビ生産組合が共同で運営する養鶏場や農場12件にも、資材が提供されました。

【バナナニュース324号】<大型台風 22 号・その後> 屋根材の配布を実施しました

  • バナナ、サトウキビ生産復興事業

台風ではネグロス島の90%以上のバナナが被害を受け、十分な供給が出来ない状況が続いています。そのため、ATPI/ATPFはその復興を最重要課題としてこの間、取り組んでまいりました。

例年3月から本格的な乾季に入るため、苗の確保や植付が不安視されていましたが、今年はラニーニャの影響もあって乾季でも降雨があり、脇芽がよく育ちました。生産者は自分の畑で育った脇芽を融通し合い、株として新たに植え付けました。植えた株や、茎や葉が傷ついたバナナの成長を早めるため、ATPI/ATPFでは鶏糞をバナナ生産者へ配布しました。第1回目として2月より配布を始め、現在までにネグロス西州で190,705キロ、ネグロス東州で220,961キロを配布しました。土壌が肥沃でないため、施肥の効果が十分に出なかった地域も一部ありましたが、多くの産地では施肥によって予想以上のスピードでバナナが成長し、9月頃から前年の平均出荷量程度に回復する予定です。

【バナナニュース325号】<大型台風22号・その後2>バナナの畑の回復と生産者

【バナナニュース328号】<大型台風22号・その後4>結でバナナ畑の復興を

バナナ株の植付作業(東州マンサグマヨン村)
鶏糞の施肥作業(東州ボナウォン村)
成長中のバナナ(東州ドマゲッティ市周辺産地)

サトウキビも強風によって倒伏する畑が目立ちましたが、台風に比較的強いサトウキビはその後、順調に回復しています。さらに成長を促進するため鶏糞の配布を予定しています。

<台風被災後の生活について>

出荷するバナナがないため一時的に収入が途絶えたバナナ生産者は、この間サトウキビ農園や水田、トウモロコシ畑で仕事をしたり、都市部の建設現場で働いたり、お手伝いさんや魚の行商など何かしらの仕事を得て糊口をしのいできたそうです。また、バナナ生産者同様、バナナの買付担当、運搬担当やパッカーなど現場で働くフィールドワーカーも仕事が減り、収入が激減しました。ATPIではそうした現場スタッフの生活支援の一環として、倒伏したバナナ畑の片付けや整地作業、株の植付、鶏糞の配送と施肥などの作業を週2-3日してもらい、対価として作業賃を支払いました。現場スタッフからは以下のメッセージが届いています。

【バナナニュース327号】日本からのメッセージを届けました

ATPI/ATPFでは今後もバナナとサトウキビ生産の生産向上に向けて、産地での鶏糞の配布を進めています。

塩豚

2022年7月20日

普段使いで楽しめる!〜担当者がおすすめするマスコバド糖の魅力〜

2022年7月13日

黒糖のコクのある風味と、すっと溶けるような丸くて優しい甘さ。一般的な黒糖のえぐみが全くなくて初めてマスコバド糖を口にしたときは、 「黒糖だけど黒糖じゃない、マスコバド糖というお砂糖なんだ」と驚きました。ATJの歴史のあるロングセラー商品であるマスコバド糖の担当になって約半年、改めてマスコバド糖の魅力をお伝えしたいと思います。

あらためて、マスコバド糖とは?

「マスコバド」というのはフィリピン・ ネグロス島の昔ながらの製糖法の呼び名です。
工程はいたっ てシンプル。収穫されたサトウキビを細かくカットして搾汁し、そのジュースから不純物を取り除きます。シロップ状になるまで煮詰めていき煮詰めたジュースを乾燥機で乾燥させます。

パッケージの内容も変わりました。

これまでは大きなステンレス製のシャベルを使って手作業でかき混ぜていましたが、これには労力と時間が必要でした。そのため、 2021年から乾燥機を導入しています。昔ながらのシンプルな製糖法にこだわりつつ、改善できるところは取り入れて、いまのマスコバド糖は作られています。

マスコバド糖は他のお砂糖とどう違うの?

マスコバド糖はお砂糖の中では黒糖に分類されます。消費者庁食品表示課の定義によると、「黒糖とは、さとうきびの搾り汁に中和、沈殿等による不純物の除去を行い、煮沸による濃縮を行った後、糖みつ分 の分離等の加工を行わずに冷却して製造した砂糖で、固形又は粉末状のもの」とあります。糖みつ分の分離などを行っていないため、精製されている白いお砂糖と違ってカリウム、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルが残っています。黒糖やマスコバド糖はこれらのミネラルを多く含んでいるため、白いお砂糖と比べて、甘みだけではなく味わい深くなります。

上白糖との比較(100gあたり)

一般的な黒糖と比較すると、マスコバド糖は独特のクセが無いため、 白いお砂糖のようにお使いいただけます。ただ、黒糖なので色は濃く仕上がります。その点は要注意ですが、「白いお砂糖は控えたいけど、黒糖は風味が強すぎる」•••といったときにマスコバド糖がおすすめです。

おすすめの使い方は?

マスコバド糖はクセが無いので、調味料としてとっても使いやすいと思います。ぜひ、普段使いのお砂糖として使っていただきたいです。

煮物やスープに加えるとコクを出してくれたり、保水効果があるのでパウンドケーキやブラウニーに使っていただくと、しっとりした仕上がりに なりおすすめです。後味がすっきりしているので、料理のジャンルは問いません。


•••とはいえ普段白いお砂糖を使っている方にとっては、いきなりマスコバド糖に切り替えるのはハードルが高いかもしれません。実は私がそうでした 。そんな私がまずやってみたのはマスコバド糖ホットミルクで す。温めた牛乳にマスコバド糖を入れるだけで、コクがあって優しい甘さの美味しい牛乳になるんです。冷たい牛乳で作るときには、マスコバド糖と水だけで作った「マスコバド糖黒みつ」がおすすめです。牛乳1杯 に対して、大さじ1杯(甘党の方は2杯くらい)で、まるでカフェオレのようなドリンクになります。いつもの牛乳が抜群に美味しくなって、ついつい2杯目、3杯目に突入することも•••。飲みすぎにはご注意ください。

「マスコバド糖は砂糖ではなく天然のうま味調味料だ」、これはATJ 顧問の吉田友則シェフの言葉ですが、使い始めてみるとまさにそうだ と実感します。料理中にちょっと物足りないなというときに加えるだけで、コクのある風味になります。ぜひ普段の生活に取り入れて、その魅力をお楽しみいただければ幸いです。

藤山美穂(ふじやま・みほ/ATJ)

バナナスムージー

2022年6月27日

【バナナニュース328号】<大型台風22号・その後4>結でバナナ畑の復興を

2022年6月24日

2021年12月に大型台風22号がフィリピンを通過してから6ヵ月が過ぎようとしています(原稿執筆時6月中旬)。ネグロス島では、日本をはじめとする海外のパートナーたちから届いたたくさんの支援金で、復興作業が進められています。

今回の支援では、生活再建のほか、バナナ畑の復興を重点的に実施しました。具体的には生産者に鶏糞を配布し施肥をすることで、バナナの生育を促すというものでした。

台風がバナナをなぎ倒し、しばらくの間出荷が停止してしまうことは、その分の生産者たちの収入がなくなることを意味します。生産者それぞれが周りにある野菜や果物を食べたり、何かしらの仕事を得て生活をしてきたとはいえ、バランゴンバナナの民衆交易は生産者たちの暮らしを支える基盤だったことが改めて認識されました。

まずは「バナナの復活が生産者たちにとって最優先」として、現地では一丸となってバナナ畑の復興に取り組みました。

ネグロス東州・ボナウォン地域の生産者と現場スタッフたち

鶏糞を運搬するスタッフたち。場所によっては車で運び込めないので人力で生産者の畑まで搬入します。

生産者だけではなく、バナナの集荷作業に携わるスタッフたちも、一時的に仕事がなくなりました。その間、スタッフたちはバナナの生産者の畑へ出向き、肥料の配送や畑の整備、鶏糞の散布などを手伝いました。その作業の対価として日当が支払われています。

フィリピンには「バヤニハン」という結(※)の精神がありますが、その精神でスタッフたちも生産者と一緒に復興へ向けて取り組んでいます。スタッフたちにとっては、バナナが作られる背景や生産者のことを知るきっかけとなりました。

ネグロス東州・カクハでの作業の様子

畑で働くパッカー(通常はバナナの箱詰めをするためパッキングセンターで働いているスタッフたち)

こうした復興作業の元、バナナがよく育っており、予定していたより早く出荷量も回復に向かっているということです。

※集落で共同作業をする助け合い、相互扶助の制度

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PtoP NEWS vol.50 

2022年6月1日

PDFファイルダウンロードはこちらから→P to PNEWS vol.50

【バナナニュース327号】日本からのメッセージを届けました

2022年5月30日

2022年1月に動画「バランゴンバナナが届くまで」のご紹介、2月には大型台風オデットの被災状況をお伝えしました。その後、皆さまからたくさんのメッセージが届き、大変うれしく読ませていただきました。

その内容をバナナの出荷団体であるオルタートレード・フィリピン社(ATPI)へ届けました。4月下旬に、台風被害の回復状況を確認する会合があり、そこに集まった生産者や現場スタッフの皆さんと共有してくれたと報告がありました。

生産者からは、バナナの味を日本の消費者が気に入ってくれていること、子どもや家族と食べている様子が知れたこと、台風へのお見舞いへの感謝の言葉がたくさん述べられ、現場スタッフたちは、バナナの現場での作業や苦労に理解を示してもらえたことに励まされていたとのこと。

「本当は生産者と消費者が直接言葉を交わしあえることが一番ですが、コロナ禍で交流することがままならない時期が続いています。皆さんからメッセージが寄せられたことで、両者の思いをつなげていく機会が作れて感謝しています」と、ATPIスタッフのエリアさんからメッセージがありました。

以下、産地側へ届けたメッセージと、ネグロスから改めて届いたメッセージです。

【日本の消費者から届いたメッセージ】

※掲載可の方のメッセージを何通か抜粋しました。

いつも美味しいバナナをありがとうございます!
バランゴン畑を見れて感動しました。生産者の方が一株一株大切にお世話され…沢山のご苦労があって、この貴重なバナナが食べられるんですね。買付の方のクオリティコントロールも、安心出来ました。沢山の支えるスタッフさん含め、皆様の勤勉な働きに心から感謝致します。

いつもおいしくいただいているバランゴンバナナの生産地、生産者、発送に至るまでのスタッフのみなさんの働き振りや思いを動画で拝見して、バランゴンバナナにいっそうの愛着を持ちました。これからは食べるたびに皆さんのことを思い浮かべると思います。

いつも美味しいバナナをありがとうございます。
一歳の娘がバランゴンバナナが大好きで、毎日食べています。私も大好きです。これからも買い続けます!コロナや悪天候に負けずに、頑張ってください。

バランゴンバナナとマスコバド糖の大ファンです。 今回の巨大台風の被害、心よりお見舞い申し上げます。
産地のこと、生産者さんの今後の生活のこと、とても気がかりです。バランゴンバナナの収量が減ってしまうこと、承知致しました。これからしばらくは、バランゴンバナナが毎週手に入らなくても大丈夫です。出荷可能な範囲で、引き続き買い支えていきたいと思います。 台風被害からの一日も早い復興を心から願っております。

いつも美味しいバナナを作っていただきありがとうございます。
12月の大型台風の被害大変ですね。どこまで復旧できているのかなど状況を考えるといたたまれない気持ちになってます。何か私たちが協力できることは有りませんか? 応援してます。がんばってくださいね。

【ネグロスからのメッセージ】

■マリオ・モントンさん(ネグロス東州・マンティケル)
生産者兼集荷担当

日本の皆さん、バナナを継続して買ってくださり、ありがとうございます。私は生産者であり、地域の集荷も担っています。毎週のバナナからの収入は子どもを学校へ通わせるお金やお小遣い、肉や魚の購入に充てています。台風でバナナの出荷量が減ってしまいましたが、それでもバナナの回復に向けて生産者一同が一生懸命働いています。

■レリータ・オモソさん(ネグロス東州・カクハ)
生産者兼集荷担当

私たちの努力をお褒めいただき、大変うれしいです。バランゴンは、、おいしいバナナをお届けできるように、栽培期間中は無農薬で栽培し、衛生管理もきちんと行うなど手間ひまかけているので、他とは違う美味しさがあると思います。台風オデットの後、私たちはバランゴンを復活させて、今までと同じようにおいしいバナナを食べていただけるよう、畑の復興に取り組んでいます。 応援ありがとうございます。

■ルーベン・ニコラスさん(ネグロス東州・タンハイ)
地域開発担当者

日本の消費者の皆さま、バランゴンを買っていただき、本当にありがとうございます。今は少量しかお届けできませんが、7月か8月頃には台風被害から回復して少しずつ量が増えて出荷できるようになると思うので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。 地域開発担当者として、農薬・化学肥料の使用やバナナの病気がないように点検・確認をして、これからもよいバナナの生産に努めていきます。 今後ともよろしくお願いいたします。

■ベルナルディト・ヴィラロンさん(ネグロス西州・DSBV)
現場スタッフ

日本からのメッセージを聞いて感じたことは、一生懸命育ててきたバナナを、台風オデットの被害により、消費者の皆さんに届けることができなくなってしまい残念ということです。 現在、私たちは畑の復旧作業をしており、生産者がバナナを再び収穫できるよう手助けをしています。バランゴンバナナが大変な状況にもかかわらず、買い続けてくださり感謝申し上げます。生産者やATPIの社員にとって励みになります。

■ロナルド・ガジェレスさん(ネグロス東州・ボナウォン)
集荷担当

台風オデットの被害にもかかわらず、日本の消費者の皆さんが買い続けてくださったこと、本当にありがとうございます。たくさんバランゴンバナナをお届けできるように頑張ります。 このような災難の中、支援物資の提供やバナナの継続的な購入など、生産者を助けていただき、ありがとうございました。

■アレハンドラ・エンペニダさん
パッキングセンター・箱詰め担当者

消費者の皆さまからのメッセージを聞いて、私たちの状況を理解して買ってくださっていることがよく分かりました。バランゴンバナナを継続して購入してくださりありがとうございます。台風被害にあい、たくさんのバナナがダメージを受けましたが、ぜひ買い続けてください。今は少量しか出荷できませんが、その中でもみんな一生懸命に働いています。

エコシュリンプ事業30年の歩み fromインドネシア

2022年5月6日

生産者の創意工夫の積み重ねと土地の自然の力を活かした「粗放養殖」によって健やかに育まれたエコシュリンプ。稚エビ放流後は人工飼料・抗生物質を一切投与せず、収獲後も黒変防止剤、保水剤を使用していない安心・安全なエビの輸入が始まってから2022年で30年が経つことになります。

今でこそ生産者と消費者の交流なども可能となり、養殖池の確認などの管理体制も整い、生産者はエビ養殖だけでなく地域の課題解決にも取り組み始めていますが、輸入開始当初は手探りの状態でした。様々な困難に直面しながらも、多くの方々の支えもあり、今日まで続けることができているエコシュリンプ事業の30年の歩みを、一緒に振り返っていきたいと思います。

環境に優しい養殖エビとの出会い

エコシュリンプ事業が始まった1992年、日本人が食べるエビは主に東南アジアの国々から輸入されていました。マングローブ林などを養殖池に転換し、大量の人工飼料とエビの病気を防ぐために抗生物質を使用する集約型養殖池で育てられ、加工時にも黒変防止剤、保水剤が使用され、まさに「薬漬け」のエビを日本人は食べていました。

そのような状況下で、「産地の環境に負荷を与えず、家族が安心して食べられることができるエビが欲しい」という日本の消費者の想いと、ジャワ島東部のグレシックで「土地は子孫から預かりもの。だから壊さないようにしなければいけない」という考え方に基づいて、エビの粗放養殖に取り組んでいた生産者との出会いから、エコシュリンプ事業が始まりました。

当時、生産者との関係は粗放養殖エビの買付が中心でしたが、生産者や産地がわかるエビを輸入するというのは、画期的な取り組みでした。

2003年に現地法人であるオルター・トレード ・ インドネシア社(以下、ATINA)が設立され、養殖現場の管理体制を整え、外部委託していた冷凍加工も工場を借りることで内製化することで、養殖から製品加工、輸出までの一貫した管理体制を整えました。2013年からはATINA自社工場で加工をしています。

エビの売買を超えた事業をめざして

近年、インドネシアでは急速な都市化・工業化による地域環境の悪化が問題になっています。地域の自然の力を活かした「粗放養殖」を続けていくためには、地域の環境を守っていく必要があり、地域環境に対する生産者の危機意識は年々高まっています。

東ジャワ州の産地では、2012年にエコシュリンプ生産者とATINA職員が、エビの粗放養殖を続けていける地域環境を維持することを目的に、KOINという環境NGOを立ち上げました。KOINは川の汚染を防ぐために地域での石けん普及運動、マングローブの植林などといった活動を続けてきましたが特に大きな成果をあげているのがエコシュリンプ産地に隣接する村で行っているゴミ回収プロジェクトです。

ゴミ回収プロジェクト(東ジャワ州)

インドネシアでは、行政によるゴミ回収の仕組みが整備されていないため、KOINのメンバーは、ゴミ箱を設置し、回収する仕組みを自分たちで作りました。今では活動の一部が地域の行政に引き継がれるなど、持続可能な取り組みへと発展しています。

マングローブの植樹(スラウェシ)

南スラウェシ州の産地では、ATINAは「アジア・シ—フード・改良改善機構(ASIC)」との活動を通じて様々な活動をしています。今まで経験に頼って行ってきた粗放養殖を、水質検査など科学的に検証する取り組みをすることで、エコシュリンプが安定的に養殖できるしくみの構築を行い、マングローブを植林することで、良質な水の確保など環境を考慮した取り組みも行っています。養殖技術だけでなく、地域の女性を対象とした研修を通じて、女性の地位向上などにも取り組んでいます。

また、KOINの活動に触発されたスラウェシの生産者たちは、2020年にKONTINUという環境NGOを立ち上げ、スラウェシ島でも地域の環境問題を解決する取り組みが展開されています。

この30年間で、様々な課題を解決しながら発展してきたエコシュリンプ事業。生産者、ATINAの挑戦はこれからも続きます。

黒岩竜太(くろいわ・りゅうた/ATJ)

【バナナニュース326号】<大型台風22号・その後3>ボホール島のバナナ生産者たち

2022年5月2日

昨年12月に発生した台風オデットは、バランゴンバナナの産地の一つボホール島にも甚大な被害を与えました(ボホール島は輸入量の約2%)。台風の被災から4ヵ月経ち、生産者たちの様子を聞いてみました。多くの人がバナナだけに頼らず収入源を多様化することで、生活を成り立たせようとしています。

■ロベルト・カサルハイさん
バナナ以外に玉ねぎなど様々な野菜を栽培しています。台風の被災後は、一時的に収入が減ってしまうので大工の仕事をしています。畑の復興も進めていて、既に野菜が収穫でき始めています。バナナも新たに植え付けて、既に実がなり始めているものもあります。

■ヴィルマ・オラガーさん
バナナの生産者であると同時に、サリサリストア(地域の小さな商店)の店員をしています。夫がトゥバ(ココナッツで作るフィリピンの伝統的なお酒)を集荷する仕事をしており、時には海で釣った魚を販売したり、家で豚を飼育して、収入の足しにしています。台風後にはバナナの畑の復興も進めています。

■ジュニア・リオアさん
もともとは船員でした。妻は学校の先生です。2年前からバランゴンバナナを育て始めました。台風の被害により、バナナはほぼ全滅してしまいました。さらにはバナナの病害にもかかってしまい気落ちしましたが、またバナナを育てたいと思い、100株分の苗をもらいました。

■オクトバー・ガルベさん
バランゴンバナナの他には切り花と野菜を育てています。小さなサリサリストアも経営しています。またバナナを出荷したいと考えていて、現在畑の復興中です。

■エスター・ベルニルさん
台風被災後は、家が全壊してしまったので、義理の兄弟の家に仮住まいをしています。漁業、大工、豚の飼育をして収入に充てています。畑の復興も始めています。

ボホール島のバナナのパッキングセンターは台風で壊滅してしまい、日本からの台風被害のカンパ金の一部を再建のために届けています。出荷団体であるPFTAC(人々のためのフェアトレード支援センター)では、農業省や自治体へ支援を要請し、農業生産復興のための鶏糞や資金をバナナ生産者に支給しました。


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生産者へのメッセージは生産者に伝えていきます。よろしくお願いいたします。
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