レポート

世界的なカカオの価格高騰とパプアの生産者たちの変化 fromインドネシア・パプア州

2025年8月21日

オーストラリアの北方、赤道のすぐ南に位置する、世界第2位の面積をもつ島、ニューギニア島。ATJのチョコレートは、島の西半分のインドネシア・パプア州に住むカカオ生産者が育てたカカオ豆を使ってできています。2025年3月、一年ぶりにパプアを訪ねてきました。

畑を案内してくれるサルモンさん

1年前から変わったこと

私が初めてパプアを訪れた2024年3月頃は、ちょうど世界でカカオの相場が急騰している時期でした。原因は主にカカオの主要産地である西アフリカでの気候変動や病害による不作の影響だといわれています。その時点では、パプアにはそこまで価格高騰の波は押し寄せていなかったのですが、24年4月以降、次第にパプアにも他地域からバイヤーが買い付けに入り始め、価格の上昇とともに買い付け競争は激しくなっていきました。

初訪問の際、生産者であるパプアの先住民族と初めて会って話をしたとき、彼らはパプア人としての生活や価値観をすごく大事にしている印象を受けました。当時はまだパプアでもカカオの価格はそこまで急激に上昇はせず、じわりじわり上がっているような頃だったこともあり、カカオの収穫をお願いしても、ある生産者は彼の村のお祭りや地域の行事ごとの方が優先事項で、カカオの収穫はそれらが終わってからしますという感じで、なかなかお尻に火がつかないような、もどかしい状態でした。

それから時間が経ち、一年後に再びパプアを訪れたときには、カカオに対する生産者の意識が少し変わっていたように感じました。生産地の一つであるブラップ村のとある生産者の家の前には、豆を発酵させるための箱が新たに置いてあり、大人数で集まって乾燥豆の仕分けができるような屋根付きの作業場ができていました。

カカオ豆の発酵作業

また、23年に結成された生産者組合で買い付け業務を担当しているジョンさんの携帯電話には、収穫した豆をはやく買い取りに来るよう、生産者から催促の電話が絶えずかかってくるような状況で、昨年は20人ほどだった組合のメンバーも、今年は50人ほどにまで増加しています。組合での業務が本格的に始まったことで、組合メンバーで仕事の予定や計画を立て、みんなで一緒に協力するようになったことは一番の大きな変化だとジョンさんは話していました。

屋根付きの新しい作業場

組合の会合に参加して

ブラップ村の生産者組合では定期的に会合が開かれ、組合メンバーによる話し合いが行われています。その会合に参加し、昨今のカカオ価格事情や日本での販売状況を話したり、組合の近況報告などを伺ったりしました。彼らは組合として共通の倉庫や事務所をつくっていきたいと口々に話していました。

組合の会合の様子

現状、組合からATJへの輸出を担っているカカオキタ社が村へ買い付けにくるまでは、組合で集めた豆はメンバーの家などで一時的に保管している状況です。施設だけでなく、ゆくゆくは村から直接コンテナで輸出ができるようになれば、と目標も膨らんでいます。パプアでは、これまで共同で何かをするといった考え方はあまり定着しておらず、あってもサゴヤシの木を協力して切り倒すといった作業をするくらいで、今のカカオ生産者組合のように連携して活動することは初めてなのだそうです。

また、彼らも、カカオの価格高騰はパプアに住む生産者の意識変化やモチベーションの向上につながっていると話していました。今後もカカオの価格は変動していくことが予想されますが、信頼関係で成り立っている民衆交易のつながりがあることで、しっかり売り先が確保され、また、市場価格に振り回されることなく安定してカカオの栽培に取り組むことができるこの関係性を、組合はこれからも大事にしていきたい、と伝えてくれました。

 会合の最後には、日本からお土産として持参したチョコレートを試食中のブラップ村の生産者たパプア産カカオのチョコレートを渡し、自分たちで収穫したカカオ豆から作られたチョコを食べてもらうこともできました。

パプアの暑さでチョコレートが溶けてしまわないか心配でしたが、笑顔で喜んでもらえてホッと安心しました。組合メンバーたちの持つ熱意を考えると、彼らが自分たちでチョコレートを作るようになる日も意外と近いかもしれません。

生産者組合の皆さんと

菅野桂史(すがの・けいし/ATJ)

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