レポート

【バナナニュース329号】コロナ禍の教育事情~その後の最新情報/2022年~

2022年8月1日

コロナ感染拡大が世界的に広がった後、フィリピンでは2020年10月から「遠隔教育システム(課題学習)」が実施されてきました。オンライン学習や学校から配布される課題を在宅で学習するという仕組みです。それが導入されてからもうすぐ2年が経過します。

2022年2月、教育省長官より、保健省が示した生徒・学校関係者が安全に過ごすための厳格な実施要項「学校安全評価(SSAT)」に合格した学校は対面授業を再開できることを発表しました。2021年11月~12月に実施された運用の試験期間中に、SSATに合格した学校リストを地方自治体が提出し、全国で6,686校が対面授業に向けて準備ができている状況でした。そのうち6,586校が公立学校、100校が私立学校でした。

一方、高等教育(大学、専門学校など)を監督する高等教育委員会(CHED)は、2020~21年には「フレキシブル・ラーニング(注1)」を実施していましたが、この方針を延長し、従来の教室で学習する対面方式に完全に戻ることはないという方針を出しています。もしまたパンデミックが来たときに、教育関係者を同じリスクにさらすようなことはしたくないという理由からです。 また、従来の対面式授業に戻ることは、オンライン用のテクノロジーの導入や教師の訓練、施設の改修などへの投資を無駄にすることになるとも言及しています。

【フィリピンの教育制度】
学校年度:6月~5月(4、5月は夏休みで長期休暇)
□ 小学校:幼稚園(5歳~)6年生(7年)
□ 中学校:7~10年生(4年)
□ 高校:11~12年(2年)
□ 高等教育:大学・専門学校など(高卒以降)

注1:時間や場所、聴講の有無などを選ばずに学習できる形態。必ずしもテクノロジーを駆使した手法に限らない。

生徒たちの心境と今

「遠隔教育システム(課題学習)」からようやく対面授業へと移行する運びになりましたが、移行期間であるがゆえに、学校によって状況は様々なようです。2021年9月にバナナニュースでご紹介した「コロナ禍での教育事情<都会編>」に登場したジェレミーアール君、ピート君、10月にご紹介した「コロナ禍での教育事情<農村編>」に登場したアナリザ&アイラ・ヴィリアメントさん姉妹ほか、合計5人の生徒たちに現在の様子を聞いてみました。

【都市・小学校の事例】

◆オルタートレード・フィリピン社スタッフ アーウィンさんの長男
ジェレミーアール君の場合(11歳)

自宅で学習中

ジェレミーアールくんの通うラ・サール大学付属小学校はネグロス西州バコロド市内にあります。2020年から2022年5月までオンライン授業が実施されてきました。2022年8月から2023年5月までは、「混合学習」が実施されることになり、週に2日間教室での対面授業、3日間オンライン授業が実施されることになりました。
「親にとっては、いくつかの教科において調査などのサポートをする必要があり、その時間をどう作るかが課題でした。オンライン授業に参加するためにパソコンを購入したり、インターネットの接続や電気系統の故障の時のためのバックアップ用の機材を準備したりと出費がかさみました。ただ、オンライン授業であれば子どもの感染リスクが減るのでその点は安心できました。

アイロンを手伝うジェレミーアール君

この間、息子も長期間にわたる自宅での学習の間に、どのように過ごすかを学んできました。運動をしたり、家事を手伝うなどです。私たち親も息子本人も、オンラインと対面との混合授業のあり方がよいと考えています。対面授業により先生と議論ができたり詳しく教えてもらうことができる一方、オンライン授業ではウイルスに感染するリスクを減らせるからです。投資した機材も活用できるし、昨今の燃料高騰で値上がりしている学校までの交通費も節約できます」と父親のアーウィンさんが話してくれました。

自転車で体を動かす時間を

【都市・中学校の事例】

◆オルタートレード・フィリピン社スタッフ ビクトリアさんの長男
ピート君の場合(14歳)

ピート君とお母さんのヴィクトリアさん

ピート君もネグロス西州バコロド市内にある私立学校セント・ジョセフ・スクール・ラ・サールに通っています。2022-2023年の学習年度は、新しく「同時併用クラス」と「課題学習」を選べる方式をとることになりました。夜間クラスに通う生徒は引き続き「課題学習」をすることも可能で、自宅でインターネットのアクセスがない生徒は教室での対面授業と「課題学習」の併用もできて、生徒が選択できるようになっています。
「同時併用クラス」とは、生徒たちを25人ずつの2グループに分けて、隔週で学校に登校するするという方式です。登校していない生徒たちは、同じ授業をオンラインで受けます。オンラインで参加している生徒たちは、教室での先生と生徒たちのやりとりを見聞きすることができ、教室とオンラインの生徒たちが同時にやりとりすることもできます。健康に問題を抱えている生徒など教室での授業に参加しない子は、オンラインで参加することもできます。

「同時併用クラス」の教室の様子

「2年も課題学習を自宅でしてきたので、学校での授業になれば先生から直接学べるし、やっとクラスメートと会うことができてうれしいです!」とピート君。お母さんのヴィクトリアさんは、「オンラインと教室での授業の併用により、徐々に通常の授業へと移ることができて満足しています。ウイルスへの感染の機会を軽減しつつ、先生から直接学ぶことの重要性や子どもの社会性を育むことができるからです。ただ今回の「同時併用クラス」により学費が4%値上がりし、コロナ禍の前に家庭教師に支払っていた費用より高くなります。我が家にとって息子の教育費は何より最優先なので、家計をどうやりくりできるか思案中です。片親である私にとって、教育を受けさせることが唯一子どもにできることだからです」と話します。

【農村・大学の事例】

◆サトウキビ生産者・ヴィリアメント一家
アナリザ(21歳)&アイラさん(20歳)姉妹

ヴィリアメント姉妹と両親

二人とも地元のラ・カルロータ市立大学へ通っています。学校までは、家から公共の交通機関を使い50分かかります。現在まで課題学習とオンライン授業が続いていて、学校での対面授業の再開についてはまだ通知がないとのこと。「課題学習だと充分理解できない内容があったり、インターネットの通信状態がよくないときは、学習がはかどりません。早く対面授業が再開してほしいです。より学習の理解を深めるために先生に教えてもらいたい。友だちと交流する機会も減り残念です」と二人は話します。ご両親はインターネットでの調査学習に頼りすぎていて充分学習内容の理解が進んでいないことを心配しています。「その分を私や妻が教えるというわけにもいきません…」と、父親のアルセーニョさん。

【農村・高等教育の事例】

◆バランゴンバナナ生産者(シライ市ランタワン) ドナ・ドーモさんの息子
マーク君の場合(18歳)

マーク君と家族。家族で営む商店の前で

ネグロス西州シライ市にあるランタワン高校へ通っています。学校は徒歩で20分ほどの場所にあります。2020年から自宅での課題学習が続いていましたが、2022年6月から教室での対面授業が再開しました。「課題学習は難しかったです。理解できない科目がありましたが、すぐに先生に聞けないもどかしさがありました。グーグルで調べたりもしましたが、僕の住んでいる地区はインターネットの電波が弱く、通信速度がとても遅いのです。インターネットの通信環境がいい場所を探し回るということをしていました」。お母さんのドナさんは「課題学習になったことで、新しい機械を購入したり、インターネットの通信費で出費がかさみました。村の中で小さな商店を開いていますが、収入はわずかです。そのため、肥育豚を育てて売ったお金を教育費に充てました」。

【農村・大学の事例】

◆バランゴンバナナ生産者(シライ市ランタワン) ルイサ・レゴドンさんの娘
ヴァネッサさんの場合(18歳)

ヴァネッサさん、学校にて

ネグロス西州タリサイ市にあるフィリピン・テクノロジー大学の3年生です。家から大学までは35km離れていて、コロナ禍以前は、公共交通機関(ジプニーとトライシクル)を使い、登校に約2時間かかっていました。そのため、彼女は大学近くに下宿して、週末に家に帰る生活を送っていました。コロナウイルスの感染が拡大してからは、2020~2021年の学校年度(2020年6月~21年5月)は課題学習で、2021年の途中からオンライン学習も始まりました。2022年6月からは学校での授業が再開されています。


課題学習だった時は、学校まで課題を取りに行かなくてはならず、その課題を決められた期日までに学校に提出しなくてはなりませんでした。コロナ禍で公共交通機関の運行が止まったり、地区ごとのロックダウンがあった関係で、課題の受け取りと受け渡しが難しくなり、バイクをレンタルして学校の行き来をしました。この影響で家計の出費がかさみました。「オンライン学習は課題学習よりずっとよかったです。分からないことなどを直接質問することができたからです。それでも対面授業が望ましいと考えていたので、再開してとてもうれしいです」とヴァネッサさんは話してくれました。
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