レポート

史上最高値を記録したコーヒー価格 -2024年コーヒー生産の背景

2025年9月3日
コーヒー豆の収穫(グアテマラ)

コーヒー生豆の国際取引価格は、生産地から遠く離れたニューヨークの先物取引で決まります。2024年の春先、レギュラーコーヒーに使用されるアラビカ種の生産量が多いブラジルで、エルニーニョ現象に端を発した雨量不足から、収量が例年より少なくなる見込みであることが発表され、その後コーヒー相場は前年比の約2倍と大きく高騰しました。また、インスタントコーヒーや缶コーヒー等に使用されるロブスタ種を主に生産するベトナムでも、干ばつの影響で収量が半分以下となり、世界的なロブスタ種の供給不足の懸念が広がったことも、アラビカ種の価格を押し上げることになりました。その結果、コーヒーの国際取引価格は、先物取引開始以降過去最高値を更新しました。

欧州森林破壊防止規則(EUDR)の影響

コーヒーの価格を押し上げた別の要因に、EUで新たに適用が予定されている「欧州森林破壊防止規則(EUDR)」の発効があります。コーヒーのほか、パーム油、牛肉、大豆、カカオ、木材、ゴム、それらの派生製品を欧州域外から輸入、また欧州から輸出させる企業に対して、産地情報を把握のうえ、生産時に森林を破壊していないこと、生産国の法令に沿っていることを証明する書類の提出を義務付けるものです。当初は年月下旬から大企業に、年6月下旬から中小企業に適用される予定でしたが、調整がまとまらず、それぞれ1年間適用が延期されました(2025年6月日現在)。EU各国のコーヒー消費量〈注〉を合計すると世界一になります。多くのコーヒー輸出業者が、EUDR規制の施行前に、在庫を確保するために買い付けを急いだため、コーヒー取引価格の一層の高騰を招いたといわれています。

グアテマラのコーヒー産地・ウエウエテナンゴの風景

対応に追われるコーヒー産地

EUはこれまでも違法伐採を規制するEU木材規制(EUTR)を実施してきましたが、それだけでは不十分との認識から、合法・違法問わず森林破壊そのものを対象にした規則の制定に踏み切ったようです。一方で、産地側では、森林を破壊していないことの証明書をどの機関がどのように証明するか、生産国にそうした法令が整備されているかの確認など対応に追われている状況です。確認や認証にかかるコストは、当然産地側で発生するため、それは輸出価格へ転嫁されることになります。

コーヒーの圃場までトレースできる情報をしっかりとりまとめている組織がある国とそうではない国では、新たなシステムの構築への対応が違ってきます。もしくは、EU向けの輸出をあきらめるか、といった選択になるのかもしれません。現時点では、日本向けに輸出されるコーヒーについては、特に森林破壊の有無を確認する法令はありません。ATJのコーヒー産地は、小規模生産者が多いため、森林を切り拓いての開拓事例は少ないと思われます(現時点で生産者への聞き取り、確認はしていません)。

ATJのコーヒー生産地では

ATJのコーヒー産地でも天候不順の影響が出ています。2024年の収穫期、中米のグアテマラでは、例年12月から収穫が始まるところ、10月~11月にかけて長雨と曇天が続き、コーヒーの実の成熟が遅れ、収穫も2ヵ月程遅れました。また、アフリカのタンザニアでは、開花自体は早かったものの、実が色づくまでに時間がかかり「奇妙な」年だった、との報告を受けています。

コーヒー栽培の条件には、土壌などの条件もありますが、乾季と雨季がはっきりとわかれ、一定の雨量と適度な日照時間が必要となります。近年、天候不順によりこの乾季と雨季のパターンが崩れ、各地で開花期や収穫期のずれが起きています。アラビカコーヒーは、標高の高い山間部の地域で収穫されますが、そうした地域では、機械を使うことは困難なため、収穫はすべて手摘みでおこなわれます。収穫期は多くの人手を必要としますが、収穫のピークがずれることで、季節労働者の確保が困難になる、収穫期間が長引くことで効率的に収穫ができなくなるなど、全体的なコスト増にもつながっているとのことでした。生産地では、コーヒーの取引価格が上がったとしても、こうした天候不順に対応するコストや手間が増えているため、そこまで大きく値上がりの恩恵を受けられないのが現状です。

産地側からは、こうした天候不順に対する対策をできることから実施していきたいと声が届いています。ATJが取り扱うペルー、メキシコ、グアテマラ、タンザニア、ルワンダの産地との取引においては、国際フェアトレード基準に基づき、コーヒーの品代に加え、フェアトレード・プレミアム(奨励金)を支払っています。このプレミアムの使用用途は協同組合や出荷団体に委ねられており、これまでは圃場の整備、コンポストの材料費、若手育成の費用などに役立ててきました。今後は、気候変動に強く、生産性の高い苗木の普及や確保、コーヒーの木を強い日照から守る日陰の役割を果たすシェードツリーを植えることなどにも活用していきたいとのこと。成果がすぐに出るものと、長期的に考えなくてはならないものがありますが、できることから取り組んでいくとのことです。

原稿を執筆している2025年6月19日現在、昨年に比べてアラビカ種の主要産地ブラジルの雨量と収量予測が比較的安定しているため、コーヒー相場は一時期の高止まりから、実に24%程下落しています。需要と供給のバランス、先物取引という性質上、日々価格が変わり不安定ななか、フェアトレードによる一定の価格保証が、少しでも生産者の役に立てばと考えています。

〈注〉国際コーヒー機関統計(2024年7月時点)

荻沼民/おぎぬま・たみ
㈱オルター・トレード・ジャパン商品部

※このレポートは姉妹団体のNPO法人APLA機関誌「ハリーナ」55号 PtoP最前線からの転載です。

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