報告:セミナー「国際家族農業年と人びとの食料主権」
6月14日、上智大学グローバル・コンサーン研究所(IGC)主催「国際家族農業年と人びとの食料主権」と題したセミナーが愛知学院大学の関根佳恵さんを講師に開催されました。まずはその概要を速報します(下記の内容は関根さんのレジュメを元にオルター・トレード・ジャパン政策室が再構成したもので、関根さんの講演に忠実に起こした記録ではなく、文責はオルター・トレード・ジャパン政策室にあります。関根さんの講義に基づく詳しい内容は別途冊子にまとめる予定にしています。当日のセミナーの講演ビデオは上智大学Open Course Wareでダウンロードできます)。
なぜ今、国際家族農業年なのか?
今年2014年は国際家族農業年ですが、国連機関がそう決めた背景にはこの間の国際的な農業開発の反省があり、これまでの農業政策、開発政策を根本から見なおさなければならなくなった経緯があります。
それまでの世界の農業政策を支えてきた考えは小規模・家族農業は農業の近代化によって消滅する存在だ、というものでした。小規模・家族農業は市場競争を通じて淘汰され、大規模化、企業経営化していき、小規模・家族農業を担っていた農民は農業部門から他の産業部門に移ることになるだろうと考えられ、それゆえ、各国政府の政策も国際機関の政策も農業大規模化の支援と小農民の転業を進めることが軸になってきました。
しかし、そのセオリーが破綻します。大規模農業を支援し、市場の自由化を進めても社会は豊かにならず、そればかりか世界各地で生産手段を失った貧困層が増え、さらに大規模農業による環境汚染、資源枯渇が深刻化します。
この矛盾が誰の目にも明らかになったのが2007年~2008年に発生した世界的食料危機です。これまでの農業政策、開発政策を続けていけば、食料危機を起こさず、貧困をなくす世界の目標であるミレニアム開発目標(MDGs)も達成できないことが明らかになってしまいました。
この食料危機を受けて国連で食料保障上の対策が求められ、検討されるようになります。その中で、大規模、輸出志向型農業の持つ問題性が指摘される一方、小規模・家族農業が果たす役割の再評価が行われていくことになります。
国連の世界食料保障委員会(CFS)もこの過程の中でこれまでの政策に大きな反省が加えられ、また広く市民社会の意見を取り入れる機構改革も行われます。
見直される小規模・家族農業
小規模・家族農業が注目されるにつれて、意外な事実が明らかになります。世界の農業は大規模化の方向に向かっているだろうと多くの人が考えていると思いますが、実際には世界の圧倒的大多数は小規模・家族経営なのです。その実態は次のグラフを見ると一目瞭然となります。
右図は統計が活用可能な81カ国の農家の農地分配を示したもので、1ヘクタール未満が72.6%もあり、2ヘクタール未満含めると84.8%に達します。
南北米大陸やオーストラリアなどの大規模農業が大きな割合を占めているのは世界から見ると例外的存在であり、世界の農家のほとんどは小規模・家族農家なのです。
もっとも、小規模・家族農業では能率が悪く、十分な食料が得られないと思われるかもしれません。しかし、それも事実とは異なり、実際には単位面積当たりの収量は大規模経営よりも多いことがわかってきます。たとえば、中国には2億戸の小規模経営があり、世界の10%の農地を耕作していますが、その生産する食料は世界の20%に相当しています。そして、品質の面からも高品質な農産物は小規模経営で作られることが多く、しかもその生産は、石油資源への依存度が低く、利用する水資源も周囲の小規模農家と分けあって有効的に使われています。
世界的にも小規模生産者には兼業農家が多くいます。専業していないことは否定的に見られがちですが、気候変動など激しくなっていく状況の中で、外的災害から回復力を持てるという意味ではこうした多就業性はむしろプラスになります。また家族農業の半数以上は世界的に女性が担っており、女性の権利確立の上で重要な役割を担っています。
こうした小規模・家族農業は各国、地域、家庭における食料保障の基礎となっており、都市部の消費者への食料供給においても重要な役割を果たしています。そして、食料供給を超えて、雇用創出、貧困削減、社会統合、社会的不平等の是正など広く社会に貢献しており、さらには国土保全、景観維持、文化遺産保護、文化伝承などの機能も果たすと同時に、多様な農業生産によって生物多様性、環境保全でも有効な機能を果たしています。
危機と可能性のはざまにある小規模・家族農業
このように重要な小規模・家族農業ですが、これまで世界ではこの小規模・家族農業を追い詰める政策が進められてきました。たとえば途上国では1980年代に途上国の累積債務問題への対応として、世銀やIMFによって融資条件として構造調整政策の実施を求められてきました。その結果として大規模輸出志向型の農業開発が行われ、国内市場保護が撤廃され、多くの小規模・家族農家が離農し、都市でのスラム人口を形成してきました。
先進国でも高度成長期にGATT体制のもとで1960年代から貿易自由化が推進され、小規模・家族農業を支えてきたローカルな市場がグローバリゼーションを進める政策によって破壊されています。日本でもこうした変化の中で、農家の維持がより困難になってきています。
このような状況の中で、何をすべきでしょうか?
1つには小規模・家族農家が政治参加して、小規模・家族農業経営が成り立つように政策決定をできるようにしていくことが重要です。そして、民営化、市場自由化、規制緩和、国際価格協定廃止という新自由主義的な諸政策を見直していく必要があります。さらには小規模・家族農業経営が成り立つようにインフラ整備するなどの諸政策の実現が必要になってきます。
国際的潮流に逆行する日本の農業政策
日本政府は未だに失敗した1980年代型途上国発展モデルを継続しています。今なお、小規模・家族農家を支援するのではなく、農業への企業参入を推進し、輸出志向型の農業を進めようとしています。TPPや二国間自由貿易協定を通じて、工業の輸出を促進する取り引きに農産物市場が差し出され、大規模農業にその独占を許そうとしており、企業による農地所有解禁論まで出ている状況です。
EU諸国で小規模・家族農家の支援が政策として進められているのと対照的に日本政府の政策は小規模・家族農業、日本の食料主権を犠牲にする方向になってしまっています。また、日本の政府開発援助(ODA)は現在もなお、海外での大規模農業開発を進めています。こうした動向は国際的潮流に逆行するものです。
しかし、日本は世界の小規模・家族農業に大きな影響を与える経験と技術を持った国です。有機農業、産消提携、里山保全は世界のモデルにもなっています。日本には小規模・家族農業の大きな可能性があります。
未来は選べる
小規模・家族農業は消え行く存在であるとするセオリーは国際的にはすでに破綻しており、大規模化や企業による農業が進むべき必然であるわけではありません。小規模・家族農業を中心とした地域に合った新しいオルタナティブなモデルを構築し、政策を変えることで未来を選ぶことが可能になります。国際社会ではすでにそれに向け新しい一歩が踏み出されています。
こうした中で生まれてきた国際家族農業年のメッセージをこの日本でこそ活かしていけるかどうかが問われています。
セミナーでは関根さんの報告を受け、APLAの野川未央さんが東ティモールの小規模生産者支援に関わる中からの問題提起、上智大学グローバル・コンサーン研究所の星川真樹さんがペルーの小規模生産者の調査と関わりから見えてきたこと、そしてオックスファム・ジャパンの森下麻衣子さんが日本政府のモザンビークへの開発援助ProSAVANAの問題、一反百姓「じねん道」の斎藤博嗣さんが自立を求める自然農法農家としての経験を踏まえたコメントをしていただきました(コメントについては近刊予定の報告書に収める予定でおります)。
日本の農業政策・国内政策から日本の外交・援助政策まで関わる問題として、この小規模・家族農業の問題は存在します。民衆交易を通じて、南の国々の民衆とともにオルタナティブな社会をめざすオルター・トレード・ジャパンもこの国際家族農業年を日本やアジア、世界の政策を小規模・家族農業重視に変えさせる転換の年としていけるように、この課題に今後とも取り組んでいきます。続報にご期待ください。
(文責 オルター・トレード・ジャパン政策室 印鑰 智哉)
【関連資料】
Investing in smallholder agriculture for food security 111ページ PDF2.5MB
上記の円グラフはこの報告書の27ページ
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