【バナナニュース319号】コロナ禍の教育事情<都会編>
フィリピン教育省は、2020年第3四半期より「遠隔教育システム」を導入しました。物理的な教室での対面授業がなくても、生徒が知って身につけ、理解しなければならない可能な限りの必須授業、概念、知識や技能を網羅する内容となっています。
それに伴い、生徒たちは在宅学習やオンライン学習で教育を受けています。「遠隔教育システム」はフィリピンすべての公立・私立学校で実施されています。
今号と次号では、バランゴンバナナやマスコバド糖の生産地であるネグロス島の都会と村での教育事情をご紹介します。都会では通信環境が比較的整っているので、私立学校などではオンライン授業も実施されています。
今回は、“都会編”として、バコロド市(ネグロス西州州都)の私立学校のオンライン学習と在宅学習の様子をお届けします。バナナや砂糖の出荷団体であるオルタートレード・フィリピン社の子育て中のスタッフ2名の事例です。パンデミックの時代に学校教育を続けるために、自分たちや子どもたちが直面している心情や困難について語ってくれました。
◆オンライン学習 【私立学校の事例】
オルタートレード・フィリピン社スタッフ アーウィンさんの長男
ジェレミーアール君の場合
ラ・サール大学付属校の遠隔教育は、SHIFTED(School-Home Integration for Technology Enhanced Education/学校-自宅を統合したテクノロジー強化型教育)と呼ばれています。 1年目の期間は2020年8月~2021年5月、2年目の期間は2021年8月~2022年5月です。
遠隔教育の内容
SHIFTEDでは、CANVASプラットフォーム(eラーニングプラットフォーム)を使用して、デスクトップやノートパソコン、スマートフォンやタブレットを使ったバーチャル授業を実施しています。
授業のスケジュールは学年によって異なりますが、ジェレミーアール君の場合、午前中の授業は8~12時、午後の授業は13~15時となっています。 学校は月曜から木曜までで、金曜は体を動かしたり、その他の課外活動をしたりする「自分の時間」と定められています。
授業は2部構成で、午前中は「オンライン授業」で、すべての学生がログイン/参加することが義務付けられています。 各学生にはユーザー名とパスコードが割り当てられ、各科目には会議用のリンクが用意されています。 そこで先生が授業を行い、生徒たちはバーチャルに交流します。 授業中はカメラをオンにしておく必要があり、1科目あたりの授業時間は通常30~45分です。 午後、生徒は課題に取り組みますが、ログインやオンラインにする必要はありません。 ただ、先生は生徒の質問や説明に答えるために、常にオンラインで待機します。 試験や小テストは、午前・午後いずれの授業のパターンでも実施されています。午後の授業の場合、学生にはテストを完了するための制限時間が与えられます。
実際にオンライン授業を経験してみて
「インターネットの接続が非常に悪いと授業が中断され、生徒たちはよく先生に『補講』をお願いしています。また、バコロド市では特に雨季に頻繁に発生する停電に備えて、予備のスマートフォンやノートパソコンが必要で、その費用がかさみます」とアーウィンさんは言います。
生徒の理解力や学習能力は限られているので、保護者が積極的に関与して、子どもが教科を完全に理解できるようにサポートする必要がありますが、アーウィンさんと母親のジョアンさんは共働きで、しかもジョアンさんは海外出稼ぎ労働者であるため、子どもを支えていくのが難しいときもあります。
「ジェレミーの学習の遅れを補うために、教えたり、調べ物をしたり、課題を手伝ったりすることは、私たち親にとっても大きな調整が必要です。 私たちは子どもをサポートするために特別な努力をしなければなりません。 学校の授業料、雑費、書籍などの費用はこれまでと同じですが、これからはオンライン学習に必要な費用を追加する必要もあります。 スマートフォンの購入、バッテリーとインバーター付きの太陽光発電、デスクトップの定期的なメンテナンス、個別指導のための家庭教師代、そして子どもの学校での学習を指導・支援するための十分な時間が必要です」とアーウィンさんは付け加えています。
◆在宅学習 【私立学校の事例】
オルタートレード・フィリピン社スタッフ ビクトリアさんの長男
ピート君の場合
セント・ジョセフ・スクール・ラ・サールは、DARE(Digital, Adaptable, Responsive Education)と呼ばれる代替学習システムを導入しました。 昨年7年生にピート君が編入した際に、ヴィクトリアさんは、オンライン学習の要件を満たす準備ができていなかったため、代わりに在宅学習をすることにしました。 学校側がオンライン学習・在宅学習のどちらでも質の高い教育を提供してくれると信じているからです。 ピート君は以前、バゴ市の公立学校で学んでいましたが、昨年、家族の永住権がバコロド市に移ったのを機に、私立学校に転校しました。
遠隔教育になってから
「息子にとっても、片親である私にとっても、非常にチャレンジングなことです。 私は働くシングルマザーですが、毎週金曜日に学校に行って、1週間の間に完成した課題を返却し、次週の新しい課題を手に入れなければなりません。 そのため金曜日は出社時刻に間に合わずよく遅刻をしてしまいます。 息子は最初、勉強すべき教材の多さと、指導してくれる先生がいないことにショックを受けていました。 1つの教科につき、教科書、プリント、学習教材、答案用紙があります。 彼は9教科を履修していますが、全てを学習することは彼に大きなストレスを与えています」とビクトリアさん。
ビクトリアさんは、息子の勉強を指導できない罪悪感を感じていますが、生活のために働かなければならないので仕方がありません。彼女はピート君に、このような困難を経験することで、責任感のある人間になれると励まし、教育が非常に重要であることを常に伝えていると言います。 ピート君は昨年度、すべての科目に合格しましたが、成績は平均的なものでした。
2年目も在宅学習を選択
今年度、ピート君は8年生になり、在宅学習に慣れてきたことと、1日のうちで自由になる時間があることから、在宅学習を続けたいと希望しました。ビクトリアさんは、オンライン学習に移行させ、クラスメートとの交流を図りたいと考えていましたが、自分がよしとする学習方法を押し付けることはせず、今後もピート君の選択をサポートしていきたいということです。
今年度、学校では在宅学習用の課題の印刷を中止しました。 その日の学習教材は、ビデオ、パワーポイント、ワードなどの形式で、保護者が学校のフェイスブック・ページから毎週アクセスして取得するようになりました。 これは、膨大な量の教材を読む意欲のない生徒がいるなかで、生徒が授業をよりよく理解するために学校が採用している方法の一つです。 ただし、ビクトリアさんは、引き続き毎週金曜日に学校に行って答案用紙を提出し、その週の新しい答案用紙をもらう必要があります。
「私も息子も、遠隔教育の難しさにどうにか適応し、少しずつ対処しています。 学校がいつも私たちの心配事を聞いてくれて、生徒のためになる方法を探してくれていることに感謝しています。 息子が勉強だけでなく、良い人間に育ってくれることをいつも祈っています。 一人親であることは簡単なことではありません。毎日が挑戦です」とビクトリアさんは話してくれました。
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