海の農業 ゲランドの塩作り
ゲランドの塩というと、名前は聞いたことがあるという方も増えてきたかもしれませんね。
今、収穫の季節を迎えているゲランドの塩。奥深くて美味しい塩の世界へ、行ってみましょう。
1,100年以上続く自然と人間の営み
大西洋に突き出たフランスのブルターニュ地方。海に接する西海岸は、岩盤が露呈した荒々しい海岸と穏やかな入り江が交互に続きます。大小の入り江が入り組んだゲランド半島には、約1,800ヘクタールもの「ゲランド塩田」が広がっています。
この地で初めて塩田が整備されたのは3世紀、現在のような塩田技術は9世紀には存在したといわれています。つまり1,100年以上前から変わらぬ方法で、ゲランドの塩作りは続いているのです。
ゲランド塩田では、潮の満ち引きを利用して給水路から海水が引き入れられ、傾斜をつけて作られたいくつもの塩田を流れていきます。太陽と風により、水分が蒸発して塩分濃度が高くなり、飽和状態になったところで自然に結晶した塩を収穫します。
海と陸の間にある湿地で、海や太陽といった自然の営みに塩田という技術を組み合わせるのは、まさに海の農業。塩職人は塩田に毎日足を運び、陽射しや風向きなどを見極めながら仕事を進めています。収穫後、塩は保管庫に集められ、大きな山の状態で最低でも1年以上寝かせて余分な水分を取り除いてから、粗塩は袋詰め、細粒塩は粉砕などを経て完成します。
体も心も満たすミネラル豊富な天日塩
塩職人は、ラスと呼ばれる5m近い長さのトンボ状の道具を使って塩を収穫します。わずか水深数cmとなった塩田で、5m先にあるラスの先端を操り、底をえぐらないように塩だけを寄せ集めるのは職人のなせる技。収穫期の6月中旬から9月中旬まで、塩田の至る所に寄せ集められた塩の白い山ができあがります。
自然界のエネルギーが凝縮されたともいえるゲランドの塩は、マグネシウムやカルシウムなど塩化ナトリウム以外のミネラルも含みます。角がなくまろやかで奥行きのある味わいは、料理にうまみを与えながら、素材の味を引き立ててくれます。下準備から仕上げまで、ジャンルを問わず、さまざまな料理に使ってお楽しみください。
ゲランド社のスタッフ、フレデリックさんに聞きました!
現在まで脈々と受け継がれているゲランドの塩。近年の収穫状況や塩職人について、サリーヌ・ド・ゲランド社(以下、ゲランド社)のスタッフ、フレデリック・アモンさんに聞いてみました。6月30日時点、ゲランドでは昨年の2023年10月から毎日のように雨が続いており、今年の収穫はまだ始まっていないとのこと。一方、一昨年の2022年は晴れが続いたこともあり、例年の3倍もの収穫量となって保管場所が足りず、臨時の保管場所を作りました。収穫量が増えても、収穫は塩職人の手による人力のみで体力勝負。塩職人たちの体力が限界を超えないよう、その年の収穫量を調整したほどでした。天候や湿度、季節風など条件が絶妙に揃って成り立つゲランドの塩作りですが、天候不順の影響も否めません。
また、日本ではさまざまな第一次産業の作り手が減る中、ゲランドの塩職人はどのような状況にあるのかを聞いてみると、後継者を育成するためにゲランド社が設立した塩職人の学校には、IT企業で働いていた人や元為替トレーダーなども来ているとのこと。「都会での仕事」に疲れ、また違和感を覚え、自然に寄り添った生き方として、ゲランドの塩職人を選択する人たちがいるのです。これまでゲランドの塩職人と市民たちは、塩を作る技術の工業化や大量生産・消費、ゲランドでのリゾート開発などから、伝統産業と生態系を守り続けてきました。その想いは次の世代に受け継がれています。
大麻真衣子(おおあさ・まいこ/ATJ)
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