コーヒー・プレミアム七変化 from 東ティモール(PtoP NEWS vol.36 2020.02 特集)
東ティモールは、激しい独立闘争の末、2002年に主権回復を果たした新しい国。それまでポルトガルとインドネシアの支配下におかれて差別的な扱いを受けたり、産業の発展や教育の充実などから遠く切り離されていたりして、今なお十分な国力があるとは言い難い状況です。
なぜ、プレミアムを始めたのか
そんな東ティモールで暮らす市井の人びとにとって、ほとんど唯一とも言えるまとまった現金収入につながる農業が、コーヒー栽培。2007年、東ティモールのコーヒー豆をATJが輸入することになったのは、もちろん安定した価格で買い続けることで生産者の暮らしに寄与していくことが第一ですが、彼らが今あるコーヒー栽培を基盤として、彼ら自身の手で暮らしを良くしていける仕組みにつながるよう、一緒に取り組んでいくためでもありました。
しかし、いざ始めてみると、それを実行するには、あまりにも現場における原資やら何やらが足りなさすぎる……という実態が、改めて浮き彫りになりました。
例えばそれまでの生産者のあり方は、とりあえず摘み取ったコーヒー果実を仲買人などの言い値で販売する、といったもの。「良いものを作って今より高い価格で売れるようにする」というような発想も、希薄だったと言わざるを得ません。嗜好品であるコーヒーを安定的に販売していくには、一定水準以上の品質は不可欠。生産者との直接の関わりの中でそれを実現していくには、彼ら自身が知識と技術を身に着け、果肉を剥いたパーチメントの状態まで持っていけるようになることも重要でした。
それには、マキナ・ドゥラス・カフェこと果肉除去機(写真左)が必要な他、ある程度の水も使うわけで、場合によっては自分たちの飲み水すら十分でない中で、とてもコーヒー生産にまで回せないというような、袋小路に直面したこともしばしばでした。
そんなわけで、コーヒーの交易を通じて見えてきた課題を少しずつでも解決していくにあたり、プレミアムとして基金を積み立てて活用していくというプログラムが始まったのでした(現在は、パーチメント1kgあたり10セントを、買取価格に上乗せする形で村ごとに積み立てています)。
現地の主体であるAlter Trade Timor社(ATT)は、形はATJの現地法人ですが、実質的には東ティモール人メンバーが運営している組織。そんな彼らが、同じ東ティモール人目線で必要なものを見極め、運用しています。
多種多様な基金活用法
東ティモールのコーヒー産地は山間部に点在し、地理的条件が村ごとに異なるため、必要なものもさまざま。
そのため、基金も色々な形に化けていきます。たとえば冒頭の写真は、ライゴア村のコーヒー畑。山に植わっているので、斜面がやたらと多いのです。
畑のメンテナンスはおろか、収穫や運搬すら難儀するこの地形を整えて道をつくることに基金を使い、車が近くまで入れるようになりました。買い付け業者も入りやすくなり、その分生産者が市場にアクセスしやすくなるのです。
水源から距離がある村では、貯水タンクが人気(オイレオ村)。樋や管で水を引いてきてタンクに貯蔵し、コミュニティで共有します。
引いてきた水は、生活用水としてはもちろん、前述のパーチメントづくりの他、野菜づくりや養魚の溜池などにも活用されます。
ゴムヘイ村では、畑に蒔いた作物の種や養魚の溜池づくり(写真①)も、基金の一部から充当しました。
その他にも、ジャコウネコ(※)の飼育を始めるグループがいたり(リスメタウ村、写真②)、養鶏に使われたり(レキシ村、写真③)、独立運動の際に壊れた教会の再建費用に充てられたり(ウルレテフォホ村、写真④)と、実に多岐にわたって基金が活用されています。
正直、まだまだ潤沢にあるとは言えない限りある基金を、東ティモール人同士で、需要に応じて身の丈に合った使い方を相談して決めているところが、このプロジェクトの最大の特徴。まさにこの事業を始めたときに目指したあり方の一つが、現在このような形で前に進んでおります。
※ジャコウネコ…アジアの森林などに生息し、コーヒーの果実を食べる。その種つまりコーヒー豆はフンとして排泄され、そのコーヒーは「コピ・ルアック」として珍重されている。
若井俊宏(わかい・としひろ/ATJ)
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