投稿者: okubo
おみやげオブザワールド~「砂糖の島」ネグロス、「果物の島」ミンダナオ島。~
南北に広がるフィリピンには7,000以上の島々があり、それぞれの島の風景や特産物も異なっています。オルタートレード・フィリピン社(ATPI)が拠点を置くネグロス島はフィリピン中部に位置し、西州では特にサトウキビ農園が大きく広がる。名物のピアヤ(砂糖の入ったお焼きのようなもの)を売りにするネグロスの有名なお菓子屋さん「ボンボン」と「メルシー」の二社は、州都のバコロド市内をはじめ、バコロド空港周辺にも最近大型店舗を開店し、空港ではお土産のお菓子の箱を持った人を多く見かけます。


一方、南に位置するミンダナオ島は、フィリピンのフルーツバスケットと呼ばれるほど果物が豊富にある島で、日本のスーパーで売られているバナナやパイナップルなどの輸出用の果物もここで栽培されています。輸出用に限らず、国内で消費される果物も豊富にある。独特の強烈な匂いを放つことで有名なドリアンもこの島の名物です。


また、ポメロ(文旦)も有名で、ATPIの社員がネグロスから出張に行くと、ポメロやマンゴスチンなどネグロスではなかなか見られない果物をお土産に買って帰ります。
赤松結希(あかまつ・ゆき/ATJ)
※このレポートはPtoPニュース70号からの転載です。
台風ティノ被害!緊急支援を実施しました。
2025年11月4日にフィリピンに上陸した台風25号(フィリピン名:ティノ)、9日に上陸した台風26号(フィリピン名:ウワン)により、ネグロス島とルソン島北部のバランゴンバナナとマスコバド糖の産地の一部で大きな被害が発生しました。
幸い関係者の人的被害の報告はありませんでしたが、今回の台風では、鉄砲水、川の増水や強風による被害が相次ぎました。これに伴い、生産者たちの地域でも家屋の被害や作物への被害が報告されました。
マスコバド糖のサトウキビ産地
サトウキビの生産地があるネグロス島のマリアセシリアでは、鉄砲水が地域を襲い、丸太やごみの塊が住居数軒とサトウキビ畑を襲いました。地域の人は屋根の上に避難したり、トラクターを使って3往復し、子どもたちや老人を安全な場所へ避難させました。

水が引いた後には、土石流が運んだ残骸が1.5~2メートルほどに積み上がり残っていたそうです。この地域の生産者たちは、作物多様化の一環で果物の木を畑と畑の間に植林していました。その木がかろうじて土石流をせき止め、この木がなければ地域全体が土石流に巻き込まれ、死傷者が出ていただろうと話しています。

バランゴンバナナの生産地
バナナの産地のネグロス西州コドコドでは、バナナがなぎ倒されて全滅してしまいました。バナナの生産者を含む18世帯の家が強風や土石流の被害を受けました。コドコド以外の他の地域でも、バナナやその他の農作物の被害、家畜が流されるなどの被害が発生しました。


緊急救援を実施
こうした状況を受けて、バランゴンバナナとマスコバド糖の出荷団体であるオルタートレード・フィリピン社(ATPI)では緊急支援を実施することを決定し、ATJと姉妹団体のNPO法人APLAではこの緊急支援をサポートしました。

この緊急支援では、被災者に対して、食料や生活必需品をパックにした物資を配布しました(飲料水、お米5kg、缶詰、洗剤、石鹸、懐中電灯、タオル、ブランケット)。

現在は台風被害から生活を立て直すことが必要ですが、サトウキビやバナナからの収入は生産者たちの生活の支えとなっており、圃場の復興支援も計画されています。
ペルーから生産者協同組合の代表が来日!
2025年9月にATJの取り扱うペルーのコーヒー生豆の出荷団体コクラ・コーヒー生産者協同組合(COCLA)の代表ウラディミール氏と中南米フェアトレード生産者ネットワーク(CLAC)のパウロ氏が来社し、最近の状況に関する情報交換などを行いました。
短時間の訪問でしたが、品質のことに加えコーヒー価格の高騰について、産地での取り組みなどの話を伺いました。
COCLAとは1996年から生豆輸入を開始して依頼の長いお付き合いです。
直近の課題を聞いたところ、生産者は60~70代が多く高齢化が進んでいるということでした。組合では、彼らの老後の生活を支え、若い世代へコーヒー栽培を引き継いでいくために、現在は苗木やシェードツリー(コーヒーの木が日陰になるように植えられている大きな木)の栽培、さらに土壌改善に取り組んでいます。苗木の育成やシェードツリーはアグロフォレストリー※の取り組みのもと実施されています。乾期の水不足対策として、雨水を貯める灌漑設備も作ったそうです。また、奨学金制度を準備したり、品質評価担当者やバリスタを育成するプログラムも行い次世代の育成にも力を入れています。
来社翌日、二人はペルー大使館商務部主催のコーヒーのカッピングセミナーに参加。9種類の豆の中でCOCLAの豆は参加者から圧倒的な支持を得ており、ウラディミール氏も笑みがこぼれていました。
最近は生豆価格の高騰や物流コストの高騰でコーヒーの販売価格は上がるばかりですが、小規模生産者たちが安心してコーヒー栽培を継続できるよう、ATJでも販売を伸ばしていきたいと思います。
※アグロフォレストリーは、農業(Agriculture)と林業(Forestry)を組み合わせた言葉で、樹木を植えながらその合間に農作物や家畜を育てる持続可能な土地利用システムです。森林が多様な生物を育み環境を保全するように、農地にも樹木を共存させることで、土壌の地力回復や生態系の回復、病害虫の抑制、環境負荷の軽減などを目指します。
お店レポート Smile Sugar Project
Smile Sugar Projectでは、マスコバド糖を使ったスイーツなどの販売を通じて、フェアトレードを広める活動をしています。調味料のように日常的に誰もが使えるものに焦点を当ててフェアトレードを広めていくのがいいのではないか、という思いから今の形になりました。

お店を営む鈴木美和さんは、学生時代から国際協力に興味があり、色々なボランティア活動を行っていました。マスコバド糖とはそんな学生時代に出会いました。クッキーを作る時に使ったら美味し過ぎて、「なんだこれ!?」という衝撃を受け、それから20年以上使っています。大学4年の時には、フェアトレードをテーマにマスコバド糖にフォーカスした卒論研究のため、フィリピン・ネグロス島を友人と二人で訪問します。なんと現地で輸出元である当時のオルター・トレード社や製糖工場を訪問した経験もあります。
結婚を機に千葉県印西市に移り住み(現在は白井市で活動中)、「千葉ニュータウンにフェアトレードを広める会」を立ち上げ、地域での啓蒙活動を10年程続けていました。今の店舗になる前は、最初は自宅のガレージで販売をスタートし、マルシェの出店やワークショップの開催等を経て、2023年10月に「おやつとフェアトレードの店 tomoni」というお店を開店しました。

このお店は、ちょっと変わった形態で、 3つのお店が集まっての共同経営となっています。屋号には、3店舗共に、お客様と共に、地域と共に、生産者と共にという意味が込められています。
店内には、3店舗それぞれの個性が光るスイーツが並びま す。Smile Sugar Projectではフェアトレードの材料にこだわり、マスコバド糖を使ったシフォンケーキやカラメルソース、ナッツのお菓子などを販売しています。




元々お菓子作りは好きでしたが、「スイーツ作りが目的なわけではなくて、あくまでフェアトレードを広めるための手段として。だからフェアトレードの食材を使わないとSmile Sugar Projectのスイーツは意味がないんです」と鈴木さん。人生の中で暮らしや環境が変化して、やり方や表現方法は変わっても、めざすものはネグロス島を訪れたあの頃と同じ。マスコバド糖愛と行動力に溢れた、変わらない熱い想いがありました。

おやつとフェアトレードの店 tomoni
住所 千葉県白井市清戸719-4
定休日 平日を中心に営業 不定休
(鈴木さんは火・木在店)
※このレポートはPtoPニュース67号「つながるひろがるピートゥーピーの輪」からの転載です。
【バナナニュース368号】ジュドリコさんの暮らしと知恵~バランゴンバナナの根を使った伝統療法のお話~
フィリピン・ネグロス島のボナウォン村でバランゴンバナナを育てる、ジュドリコ・アリアーオさん(64歳)は、現在、ボナウォンのバランゴン農民協会の会長を務めています。

ジュドリコさんによると、ボナウォン村には代々伝わる「バナナの株の根を煎じて飲む」伝統療法があり、体調不良のときに用いられてきたそうです。



バナナの株の新鮮な根から切り取ったヒゲ根を細かく刻んでお湯に10分ほど(水出しの場合は一晩)浸して飲むのだとか。疲労が溜まっているとき、だるさが抜けないとき、頭痛がひどいとき、お腹の調子が悪いとき――様々な場面で効果があると語ってくれました。実際に飲ませてもらうと、どこかごぼう茶に似た香ばしい風味で、その土地に伝わる知恵と人のやさしさが心にしみる一杯でした。ジュドリコさんの暮らしには、自然とともに生きる知恵と、バナナに向き合ってきた長年の経験が息づいています。
この「バナナのヒゲ根茶(仮称です!)」の話をしていたときの余談。一緒にいたオルタートレード・フィリピン社のスタッフは「この話、初めて聞いたよ!」と驚いた様子でした。その流れで、「バナナにまつわる言い伝えって、ほかにもある?」と話題が広がりました。
すると、西ネグロス州出身のスタッフたちからは、「空腹のときにバランゴンを最初に食べるとおなかを壊す」という言い伝えがあるとのこと。ところが、同席していたジュドリコさんたちは「そんな話、聞いたことない!」とびっくり。同じネグロス島でも、西州と東州では伝統や風習が違う、そんな地域の違いを知る、ちょっとした発見のひとときになりました。
~パイオニア生産者が語るバランゴン35年の苦労と挑戦~
バランゴン生産者のパイオニア世代であるジュドリコさんは、1991年以来、約35年にわたり様々な困難を経験してきました。最も大きな被害をもたらしたのは、「BBTV(バナナ・バンチートップウイルス)」。感染によって長期間畑が使えなくなり、その後の収量も元には戻っていないと言います。「台風や干ばつも大変だったけれど、BBTVは本当にしんどかった」と、当時を振り返ってくれました。
2つの圃場を保有しており、現在0.2haの圃場に300本のバランゴンを植えています。2か所のうち、一つは、父親からひきついだ土地で、もう1か所は自分で購入した場所です。しかし、残念なことに、自身で購入した圃場のバランゴンはBBTVにかかってしまい現在はほとんど使っていない状態にあるそうです。収穫量が最も多かったのは2010年頃で、その後は減少傾向にあり、2014年にBBTVによるダメージを受けて以降、ピーク時の量に戻っていないそうです。
ジュドリコさんが圃場を紹介してくれました
現在使用している圃場は、急斜面の多い場所です。近年は、年齢とともに自分で管理をするのが厳しくなってきたので、手入れをするスタッフを1人雇って管理しています。


圃場には、バランゴンバナナと一緒に、ココナッツやマホガニーやアボカドなどを育てています。収穫された果物は主に自家消費用ですが、量が多い時には地元の市場へ販売をして、追加収入を得ることができています。
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おみやげオブザワールド~パプアのお土産事情~
今回は、インドネシア・パプア州のカカオ生産者協同組合のみなさんに、パプアのお土産事情について聞いてきました!
最初に組合員のマルティンさんにパプアの人はどんなものをお土産にしているのか聞いてみたところ、「お土産とか用意できていなくて申し訳ない…」と誤解されてしまい、慌てて「そういうつもりで聞いたわけじゃないですよ」と訂正する一幕も(笑)。

マルティンさんによると、パプアでは家族や知人へのお土産として、お米や魚(川魚が多い)などの食材を持って行き、それらを料理してみんなで食べることが一般的だそう。パプアの大自然の中で助け合いながら生活している彼ららしい文化ですよね。

組合で主にカカオ豆の買い付けを担当しているジョンさんにも伺ってみました。

ピナンというヤシ科のビンロウの種子(口の中で石灰と一緒に噛むことでタバコのように嗜むもの)を組合に未加入のカカオ生産者へのお土産として持っていくこともあるそうです。


ピナンを楽しみながらカカオの話をしつつ、組合の活動のアピールや勧誘にもつなげる営業っぷりで、商談アイテムとしてもお土産を活用しているそうです。
菅野桂史(すがの・けいし/ATJ)
※このレポートはPtoPニュース68号からの転載です。
揚げずに超簡単!大学芋
マスコバド糖のパウンドケーキ
ローストポーク マスコバドソースがけ
肉味噌
PtoP NEWS vol.70
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ブラックタイガーの養殖を続けていくために~生産者とATINAの挑戦~ fromインドネシア
エコシュリンプは、インドネシアで環境に配慮した粗放養殖で育てられたブラックタイガーです。稚エビ放流後は人工飼料、抗生物質を使わずにエビを育てるため、プランクトンなどの自然のエサが発生しやすいように養殖池の土づくり、水の塩分濃度の調整など、生産者がやるべきことはたくさんあります。生産者にエコシュリンプ養殖の課題について聞くと、ほぼ全員が口を揃えて、「昔に比べて収獲量が減少している」と言います。
収獲量が減少している背景には、気候変動や品質の良いブラックタイガーの稚エビの入手が難しくなってきていることなどが挙げられます。エコシュリンプを輸出しているオルター・トレード・インドネシア社(ATINA)では、この問題の解決に向けて取り組みを進めています。
バナメイエビ台頭によるブラックタイガーの稚エビ減少
エコシュリンプの生産者はハッチェリー(稚エビの孵化場)で育てられた稚エビを購入して、養殖池に放流をしています。しかし、近年ブラックタイガーの稚エビを生産するハッチェリーが減少しており、必要な時期に必要な量の稚エビを確保することが難しくなってきています。
ブラックタイガーの稚エビが減少しているのは、バナメイエビの養殖が拡大したためです。1983年に台湾で稚エビを大量生産する養殖技術が確立され、インドネシアでも同様の集約型のエビ養殖が広がりました。当時はブラックタイガーの養殖が主流でしたが、同品種に比べて塩分濃度の変化や病気に強く、また水底を歩き回るブラックタイガーと違ってバナメイは水中を泳ぎ回るので、高密度で養殖可能で効率が良いなどの理由からバナメイの養殖が増えていきました。2003年にはバナメイの養殖生産量はブラックタイガーを上回り、2007年にはインドネシアでもバナメイが一番生産される品種になりました。
多くの集約型養殖池がバナメイにシフトしたことで、規模の大きなハッチェリーもバナメイの稚エビ生産へとシフトしていきました。その結果、ブラックタイガーの稚エビを生産しているハッチェリーの数は減少し、現存のハッチェリーの多くは小規模なため、品質も不安定になっています。また、ブラックタイガーの親エビの需要が減少したことで、親エビを獲る漁師も減少しており、ハッチェリーが安定的に親エビを調達できないという問題も発生しています。
「昔は品質のよい稚エビを選んで買うことができました。しかし、今は選択肢がありません。品質も安定していないので、養殖池放流後の生存率も低くなっています」と多くのエコシュリンプの生産者は言います。
品質のよい稚エビを確保するための取り組み
この状況を改善するために、ATINAでは小規模ハッチェリーとエコシュリンプ生産者をつなぐ活動をしています。今まではハッチェリーの生産時期と生産者の稚エビ放流時期が合わないという問題がありましたが、ATINAが間に入って調整することで、ハッチェリーは安心してブラックタイガーの稚エビを生産でき、生産者は放流時期に合わせて稚エビを入手することができる仕組みができつつあります。

稚エビの品質が不安定な理由の1つに、出荷される稚エビの生育期間が短くなっていることが挙げられます。まだ若い稚エビを養殖池に放流してしまうと、生存率が低くなり、収獲量が減ってしまいます。この課題を解決するために、ATINAは2023年から東ジャワ州で稚エビの養育場の運営をはじめ、大きく育てた稚エビを生産者に販売し、放流する方法を導入しています。また、南スラウェシ州ピンラン県でも、生産者と稚エビの養育場の取り組みを始めており、品質のよい稚エビを入手できる仕組みの構築を目指しています。

ハッチェリーから直接購入するよりも価格は1.4倍程高いですが、多くの生産者が養育場の稚エビを放流すると収獲量が高くなると言っており、中には養殖池放流後のエビの生存率が12%から30%に改善された事例もあります。そのため、養育場からの稚エビを優先的に購入している生産者が増えています。


1.7㎝程になると出荷される
(ピンラン県の稚エビの養育場)
外部環境の変化を受けて、産地では様々な課題に直面しています。エコシュリンプ交易が始まって30年以上経ち、若い世代のエコシュリンプ生産者も増えています。これからもエコシュリンプの養殖を継続していけるよう、生産者・ATINAの挑戦は続きます。

黒岩竜太(くろいわ・りゅうた/ATJ)
※このレポートはPtoPニュース70号の特集からの転載です。
フランス・ゲランドからスタッフが来日!
サリーヌ・ド・ゲランド社(以下、ゲランド社)のスタッフ、フレデリック・アモンさんが1年ぶりにATJに来社しました。今年の収穫状況や塩職人について伺いました。

塩の収穫シーズンは6月中旬から9月中旬。この3ヶ月程の期間のうち、天候などの様子を見ながら30~35日かけて行われます。昨年は長雨により、塩の収穫開始が3ヶ月ほど遅くなるという異例の年でした。収穫量は毎年平均で約14,000トンあるところ、昨年は1980年以来の大不作で約700トンと最低量でした。
今年は6月中旬に始まりましたが、天候に恵まれたおかげで収穫開始から約3週間経った7月上旬には、すでに収穫期間の半分程度を終えることができました。その後、雨などの天候不良が続いて3週間程作業ができない期間があったものの、天候は再び回復し、いつもよりも早く8月末に終了しました。そして、今年は平均を上回る量の塩が収穫できたそうです。


ゲランドの塩づくりに必要なのは、日照、風、雨が降らないこと。快晴でなくとも少しの雨なら大丈夫ですが、日照と風は特に重要です。6~7月は日照時間が長く、良い条件が揃いやすい時期です。理想の気温は25~30℃、風向きはより乾燥する西風がベストとのこと。欧州の他の地域では、今年は酷暑になりましたが、入り江に囲まれたゲランドでは、あまり影響が出ずに済みました。



塩づくりの仕事の中でも職人の技が活きる特に難しいものが粗塩の収穫です。塩田の底面にある砂や土が混じらないよう、ラス(収穫用のトンボ型の道具。詳しくは、粗塩の収穫にこの道具あり!をご参照ください)を使って粗塩だけを収穫するのが非常に難しく、その技を習得するまでには約3年かかり、習得してはじめて塩職人となります。
ゲランドには塩職人育成のための学校があります。10人の受け入れ枠がありますが、現在在籍しているのは6人。若い人にもっと来てほしい、とフレデリックさんは話していました。今年は順調だった収穫作業の一方で、次世代の塩職人の育成は課題がありそうです。
聞き取り・まとめ 大麻真衣子
【バナナニュース367号】ボンボンさんからのお手紙(後編)~消費者と生産者をつなぐ~

ミンダナオ島のバランゴンバナナの生産者は、エルニーニョ現象による干ばつや、強風、豪雨などの自然災害にたびたび直面します。自然災害は圃場に大きな被害をもたらし、生産者の収入を減らします。それにより落胆する生産者もいますが、大半は、災害の後に圃場を再び整備し、バナナを植え直します。


バランゴンバナナの生産者は、どんなに困難な時でも、笑顔で「また植えよう。そうすればまた収穫できるから」と言える、とても強く、たくましい人々です。私たち農業指導員は、彼らが直面した困難と彼らが圃場に注いでいる努力の証人です。

バランゴンバナナを400株植えており、2004年から出荷しています。
「どうぞこれからもバランゴンバナナを応援してください。私たちはこれからも喜んで植え続けます。」
これが、生産者がいま一番伝えたいメッセージです。生産者の願いは、皆さんのひとつひとつの消費が圃場と生活を支える力となり、化学合成農薬を使わず、大切に育てたバナナを皆さんに安心して楽しんでいただけるという関係性が継続していくことです。

私は来年3月頃に日本を訪れる予定です。ぜひ皆さんに現地のことをお伝えし、寄せられた声を生産者にも届けたいと思っています。お会いできる日を心より楽しみにしています。
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食のギャラリー/塩「ポトフに粗塩」
【バナナニュース366号】ボンボンさんからのお手紙(前編) ~生産者と歩む日々~

こんにちは!ミンダナオ島で農業指導員をしているボンボン(通称。本名チャリー・ヴィリアヌエバ)です。定期的に圃場を訪問し、生産者の皆さんとコミュニケーションを取りながら、バランゴンバナナの栽培に関するアドバイスを行っています。
農業指導員の仕事
私が担当する産地のひとつ、南コタバト州ツピの圃場では、日々の栽培記録を取りながら新しい知識や技術を蓄積しています。例えば、バナナの間に植えられているココナッツの植え付け幅を調整してバナナの栽培に適した日陰の具合を見つけたり、天然由来の発酵液肥を散布したときのバナナの成長の様子を記録したりしています。こうしたデータを生産者と共有することで、安全でより良い品質のバナナの生産を支援しています。


仕事のやりがいについて
ミンダナオ島にある別の産地レイクセブは、バナナの圃場が山のあちこちに散在しています。ぬかるんで滑りやすい道など、産地にいくまでにはさまざまな困難がありますが、生産者と直接関わり、感謝されることは大きなやりがいにつながります。圃場訪問や生産者との交流は、民衆交易を継続・発展させるために欠かせない要素であり、バナナを適切に管理しながら栽培する上でも非常に重要な役割を果たしていると感じます。
また、レイクセブではバランゴンバナナ以外の収入源が乏しく、異なる文化的背景を持つ民族の人々と社会的に繋がれることも、私にとって大きな喜びです。だからこそ、生産者の努力を支え、持続可能な農業を実現することが私の大切な役割だと考えています。(後編に続く)
※動画中の揺れが強いため、視聴の際はご注意ください。
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史上最高値を記録したコーヒー価格 -2024年コーヒー生産の背景

コーヒー生豆の国際取引価格は、生産地から遠く離れたニューヨークの先物取引で決まります。2024年の春先、レギュラーコーヒーに使用されるアラビカ種の生産量が多いブラジルで、エルニーニョ現象に端を発した雨量不足から、収量が例年より少なくなる見込みであることが発表され、その後コーヒー相場は前年比の約2倍と大きく高騰しました。また、インスタントコーヒーや缶コーヒー等に使用されるロブスタ種を主に生産するベトナムでも、干ばつの影響で収量が半分以下となり、世界的なロブスタ種の供給不足の懸念が広がったことも、アラビカ種の価格を押し上げることになりました。その結果、コーヒーの国際取引価格は、先物取引開始以降過去最高値を更新しました。
欧州森林破壊防止規則(EUDR)の影響
コーヒーの価格を押し上げた別の要因に、EUで新たに適用が予定されている「欧州森林破壊防止規則(EUDR)」の発効があります。コーヒーのほか、パーム油、牛肉、大豆、カカオ、木材、ゴム、それらの派生製品を欧州域外から輸入、また欧州から輸出させる企業に対して、産地情報を把握のうえ、生産時に森林を破壊していないこと、生産国の法令に沿っていることを証明する書類の提出を義務付けるものです。当初は24年12月下旬から大企業に、2025年6月下旬から中小企業に適用される予定でしたが、調整がまとまらず、それぞれ1年間適用が延期されました(2025年6月18日現在)。EU各国のコーヒー消費量〈注〉を合計すると世界一になります。多くのコーヒー輸出業者が、EUDR規制の施行前に、在庫を確保するために買い付けを急いだため、コーヒー取引価格の一層の高騰を招いたといわれています。

対応に追われるコーヒー産地
EUはこれまでも違法伐採を規制するEU木材規制(EUTR)を実施してきましたが、それだけでは不十分との認識から、合法・違法問わず森林破壊そのものを対象にした規則の制定に踏み切ったようです。一方で、産地側では、森林を破壊していないことの証明書をどの機関がどのように証明するか、生産国にそうした法令が整備されているかの確認など対応に追われている状況です。確認や認証にかかるコストは、当然産地側で発生するため、それは輸出価格へ転嫁されることになります。
コーヒーの圃場までトレースできる情報をしっかりとりまとめている組織がある国とそうではない国では、新たなシステムの構築への対応が違ってきます。もしくは、EU向けの輸出をあきらめるか、といった選択になるのかもしれません。現時点では、日本向けに輸出されるコーヒーについては、特に森林破壊の有無を確認する法令はありません。ATJのコーヒー産地は、小規模生産者が多いため、森林を切り拓いての開拓事例は少ないと思われます(現時点で生産者への聞き取り、確認はしていません)。
ATJのコーヒー生産地では
ATJのコーヒー産地でも天候不順の影響が出ています。2024年の収穫期、中米のグアテマラでは、例年12月から収穫が始まるところ、10月~11月にかけて長雨と曇天が続き、コーヒーの実の成熟が遅れ、収穫も2ヵ月程遅れました。また、アフリカのタンザニアでは、開花自体は早かったものの、実が色づくまでに時間がかかり「奇妙な」年だった、との報告を受けています。

コーヒー栽培の条件には、土壌などの条件もありますが、乾季と雨季がはっきりとわかれ、一定の雨量と適度な日照時間が必要となります。近年、天候不順によりこの乾季と雨季のパターンが崩れ、各地で開花期や収穫期のずれが起きています。アラビカコーヒーは、標高の高い山間部の地域で収穫されますが、そうした地域では、機械を使うことは困難なため、収穫はすべて手摘みでおこなわれます。収穫期は多くの人手を必要としますが、収穫のピークがずれることで、季節労働者の確保が困難になる、収穫期間が長引くことで効率的に収穫ができなくなるなど、全体的なコスト増にもつながっているとのことでした。生産地では、コーヒーの取引価格が上がったとしても、こうした天候不順に対応するコストや手間が増えているため、そこまで大きく値上がりの恩恵を受けられないのが現状です。
産地側からは、こうした天候不順に対する対策をできることから実施していきたいと声が届いています。ATJが取り扱うペルー、メキシコ、グアテマラ、タンザニア、ルワンダの産地との取引においては、国際フェアトレード基準に基づき、コーヒーの品代に加え、フェアトレード・プレミアム(奨励金)を支払っています。このプレミアムの使用用途は協同組合や出荷団体に委ねられており、これまでは圃場の整備、コンポストの材料費、若手育成の費用などに役立ててきました。今後は、気候変動に強く、生産性の高い苗木の普及や確保、コーヒーの木を強い日照から守る日陰の役割を果たすシェードツリーを植えることなどにも活用していきたいとのこと。成果がすぐに出るものと、長期的に考えなくてはならないものがありますが、できることから取り組んでいくとのことです。

原稿を執筆している2025年6月19日現在、昨年に比べてアラビカ種の主要産地ブラジルの雨量と収量予測が比較的安定しているため、コーヒー相場は一時期の高止まりから、実に24%程下落しています。需要と供給のバランス、先物取引という性質上、日々価格が変わり不安定ななか、フェアトレードによる一定の価格保証が、少しでも生産者の役に立てばと考えています。
〈注〉国際コーヒー機関統計(2024年7月時点)
荻沼民/おぎぬま・たみ
㈱オルター・トレード・ジャパン商品部
※このレポートは姉妹団体のNPO法人APLA機関誌「ハリーナ」55号 PtoP最前線からの転載です。
世界的なカカオの価格高騰とパプアの生産者たちの変化 fromインドネシア・パプア州
オーストラリアの北方、赤道のすぐ南に位置する、世界第2位の面積をもつ島、ニューギニア島。ATJのチョコレートは、島の西半分のインドネシア・パプア州に住むカカオ生産者が育てたカカオ豆を使ってできています。2025年3月、一年ぶりにパプアを訪ねてきました。

1年前から変わったこと
私が初めてパプアを訪れた2024年3月頃は、ちょうど世界でカカオの相場が急騰している時期でした。原因は主にカカオの主要産地である西アフリカでの気候変動や病害による不作の影響だといわれています。その時点では、パプアにはそこまで価格高騰の波は押し寄せていなかったのですが、24年4月以降、次第にパプアにも他地域からバイヤーが買い付けに入り始め、価格の上昇とともに買い付け競争は激しくなっていきました。
初訪問の際、生産者であるパプアの先住民族と初めて会って話をしたとき、彼らはパプア人としての生活や価値観をすごく大事にしている印象を受けました。当時はまだパプアでもカカオの価格はそこまで急激に上昇はせず、じわりじわり上がっているような頃だったこともあり、カカオの収穫をお願いしても、ある生産者は彼の村のお祭りや地域の行事ごとの方が優先事項で、カカオの収穫はそれらが終わってからしますという感じで、なかなかお尻に火がつかないような、もどかしい状態でした。
それから時間が経ち、一年後に再びパプアを訪れたときには、カカオに対する生産者の意識が少し変わっていたように感じました。生産地の一つであるブラップ村のとある生産者の家の前には、豆を発酵させるための箱が新たに置いてあり、大人数で集まって乾燥豆の仕分けができるような屋根付きの作業場ができていました。

また、23年に結成された生産者組合で買い付け業務を担当しているジョンさんの携帯電話には、収穫した豆をはやく買い取りに来るよう、生産者から催促の電話が絶えずかかってくるような状況で、昨年は20人ほどだった組合のメンバーも、今年は50人ほどにまで増加しています。組合での業務が本格的に始まったことで、組合メンバーで仕事の予定や計画を立て、みんなで一緒に協力するようになったことは一番の大きな変化だとジョンさんは話していました。

組合の会合に参加して
ブラップ村の生産者組合では定期的に会合が開かれ、組合メンバーによる話し合いが行われています。その会合に参加し、昨今のカカオ価格事情や日本での販売状況を話したり、組合の近況報告などを伺ったりしました。彼らは組合として共通の倉庫や事務所をつくっていきたいと口々に話していました。

現状、組合からATJへの輸出を担っているカカオキタ社が村へ買い付けにくるまでは、組合で集めた豆はメンバーの家などで一時的に保管している状況です。施設だけでなく、ゆくゆくは村から直接コンテナで輸出ができるようになれば、と目標も膨らんでいます。パプアでは、これまで共同で何かをするといった考え方はあまり定着しておらず、あってもサゴヤシの木を協力して切り倒すといった作業をするくらいで、今のカカオ生産者組合のように連携して活動することは初めてなのだそうです。
また、彼らも、カカオの価格高騰はパプアに住む生産者の意識変化やモチベーションの向上につながっていると話していました。今後もカカオの価格は変動していくことが予想されますが、信頼関係で成り立っている民衆交易のつながりがあることで、しっかり売り先が確保され、また、市場価格に振り回されることなく安定してカカオの栽培に取り組むことができるこの関係性を、組合はこれからも大事にしていきたい、と伝えてくれました。
会合の最後には、日本からお土産として持参したチョコレートを試食中のブラップ村の生産者たパプア産カカオのチョコレートを渡し、自分たちで収穫したカカオ豆から作られたチョコを食べてもらうこともできました。


パプアの暑さでチョコレートが溶けてしまわないか心配でしたが、笑顔で喜んでもらえてホッと安心しました。組合メンバーたちの持つ熱意を考えると、彼らが自分たちでチョコレートを作るようになる日も意外と近いかもしれません。

菅野桂史(すがの・けいし/ATJ)
PtoPNEWS vol.69
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【バナナニュース365号】「困難があっても、家族のために、ただ前に進むだけ」~ティボリ族 デュエラ・ロゴンさん~
「農業は祖父の代からずっと家族で続けてきた仕事なんです」と語るのは、自然豊かなミンダナオ島・レイクセブに暮らす、ティボリ族のデュエラ・ロゴンさん(52歳)です。幼いころから父の働く姿を見て農作業に興味を持ち、のちに農業の専門学校でも学びました。

ロゴンさんは5人家族の父親で、3人の子どもたちはすでに成人しています(長男31歳、次男24歳、長女19歳)。長男と次男はすでに結婚し、それぞれの家庭を築いているそうです。子どもたちも同じく農業に携わっていますが、日雇いの仕事が多いそうです。ロゴンさん一家が暮らすラムカディ村も、他の農村と同じように、若者が安定した職を見つけるのは難しい状況が続いています。
かつては父親から引き継いだ土地の一部で、米の栽培をしていたそうですが、2022年からはバランゴンバナナの栽培を始めました。現在は4ヘクタールの圃場で、約70株のバランゴンバナナを育てています。さらに、他の生産者の圃場管理のサポートも行い、収入を得ています。
また、ロゴンさんの親戚もバランゴンバナナを栽培しており、親戚の圃場管理を手伝う機会も多いそうで、その作業が新たな収入源となっています。家族や親戚同士で協力し合いながら、この地域ではバランゴンバナナの栽培が徐々に広がっています。

最近は気候変動の影響で、農業にもさまざまな課題が立ちはだかります。「予期せぬ天候により作物が打撃を受け、思うように収穫できない年もあります。しかし、悩んでいても天気は変えられませんから、一つひとつやれることをしていくだけ」と笑いながら話してくれました。

そして、こう続けました。「どんな失敗やつらいことがあっても、バランゴンバナナの栽培はやめるつもりはありません。家族のために、ただ前に進むだけです」そう語るロゴンさんの笑顔は、力強く、とても穏やかでした。
ロゴンさんのエピソード番外編
実は、インタビュー前日、ロゴンさんの話に登場したバランゴンバナナを栽培している親戚ルニーさんの圃場を訪れていました。
クルビ村の生産者であるルニーさんの圃場は、車で麓まで移動したあと、舗装されていない坂道を30分ほど登った山の中腹に広がっています。


険しい斜面に栽培されているバランゴンバナナの圃場を歩くだけでも大変でしたが、ルニーさんたちは次から次へとバナナを収穫して出荷の準備をしていました。

雲行きが徐々に怪しくなるなか、ルニーさんの圃場からの帰り道で大雨に見舞われ、しばらく雨宿りを余儀なくされました。川のように水が流れたあとの道を、ドロドロになりながら、滑るようにして麓まで戻りました。


▼大雨に見舞われた圃場からの帰り道
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