つながる、共感する、支え合う ~民衆交易フォーラム報告〜

2024年3月18日

2023年10月8日(日)、連合会館(東京都千代田区)にて民衆交易フォーラムを開催しました。民衆交易の開始から30年以上の年月を経て、生産者、消費者を取り巻く社会情勢、経済状況なども変わってきました。

あらためて、オルタナティブな貿易の仕組みとして、民衆交易がどのように始まり、どのような経過をたどって現在に至っているのかを振り返りつつ、今いる私たちがお互いに現在の状況を共有し合い、これからの民衆交易を一緒につくっていくため、本フォーラムを企画しました。

フォーラムには会場122名(フィリピン、インドネシア、パレスチナ、パキスタン、ネパール、韓国からの海外参加者24名を含む)、オンライン39名、計161名もの方にご参加いただきました。

午前の報告の部では、これまでの民衆交易の歩みをまとめた動画「ATJの歩みと商品紹介」上映の後、行岡良治氏(現・一般社団法人グリーンコープ・ワーカーズ・コレクティブ連合会顧問)による民衆交易が始まった経緯のお話に次いで生産者側より各商品の交易の歩み、そして日本と韓国の生協団体から民衆交易や産地交流の取り組みを発表してもらいました。

<報告内容>

・バランゴンバナナ、マスコバド糖:ノルマ・ムガール氏(オルタートレード・フィリピン社 ATPI)
・エコシュリンプ:ハリー・ユリ・スサント氏(オルタートレード・インドネシア社 ATINA)
・パレスチナのオリーブオイル:サリーム・アブガザレ氏(パレスチナ農業復興委員会PARC ※ビデオ報告)
・パレスチナのオリーブオイル:カレッド・ヒデミ氏(パレスチナ農業開発センター UAWC ※ビデオ報告)
・パプアのカカオ:ハンス・ルマロペン氏(カカオキタ社)
・パルシステム生協連合会:松野玲子氏
・生活クラブ生協連合会:伊藤由理子氏
・グリーンコープ生協連合会:日高容子氏
・韓国PTCoop:アン・ミンジ氏(韓国生協の取り組み)

▼「ATJの歩みと商品紹介」

午後は8つの小グループに分かれて交流しました。各グループには産地からの参加者が加わり、生産者、消費者からの質問にそれぞれ答える形で交流しました。折しも前日(10月7日)ハマスとイスラエルによる武力衝突が起き、それを受けて最初にUAWC代表のフアッド・アブサイフ氏よりパレスチナ情勢について報告がありました。イスラエル占領下での人権侵害や武力衝突によるガザ地区での被害を危惧するコメント、国境封鎖のおそれがあるため早急に帰国しなければいけないという説明に参加者はパレスチナの人びとが直面する困難に心を痛めました。

参加者からは「民衆交易の歩みを知ることができた」、「産地の皆さんと直接お話でき、他の日韓生協の取組みや理念を伺うことができて有意義だった」、「たくさんの出会い、気付き、交流に感謝したい」との感想が多数寄せられました。

多くの方が印象に残ったとコメントしたのが、行岡氏の報告でした。

▼民衆交易が始まって間もない頃の苦労やその覚悟など、初期から関わってきた行岡氏による当日の報告が動画でご覧いただけます。

・「マスコバド糖の交易はよいことだけではない。悲惨な状況を憎みゲリラとなった兄や姉の銃に化けるかもしれないが、子どもたちが死んでいるのだから、それでもやるのだ」というお話に大変感銘を受けました。背筋がより伸びましたし、そこまで覚悟してやっていたのだなと、とても感動しました。

・現地視察に行った組合員理事は、現地の子どもが紙袋のように軽いことに衝撃を受けて、「もっと何かできることがあるはず」と考えて、バランゴンバナナを取り扱うことになったというのも心に残りました。

・「フェアトレードがまずモノありきで行われる貿易であるのに対し、民衆交易はまず人ありきで、人との連帯から始まる」という言葉がすとんと腑に落ちました。

パレスチナの状況を懸念する感想もご紹介します。

・パレスチナのフアッドさんの発言には涙してしまいました。ひとりひとりの顔が見えることで、その後のニュースが本当につらいですが、顔が見える交流はとても大事なことであると再認識しました。

・パレスチナ問題は、あまりにも複雑すぎるような気がして、正直、私は避けてきました。けれど、同じ空間にいる彼からのお話が衝撃的で、目を背けてはいられないという気持ちになりました。帰宅してニュースを見ると、他国がパレスチナかイスラエルのどちらかを非難するというような報道がされていました。それらの報道からは、フォーラムで発言されたような、地域に根差してふつうに暮らしを営んでいる市民のことを感じ取ることはできませんでした。今回のフォーラムに参加していなければ、もっと表面的なものの見方しかできていなかったかもしれません。私自身も関心を持ち続けておきたいと思います。

フィリピンの参加者から「民衆交易が世代を超えて続いていくために、このようなフォーラムが継続的に行われ、成果と課題が共有され、次世代も民衆交易に関わっていくことができるよう願っています。」とのコメントがありました。今後も生産者と消費者が顔を合わせて交流するこのような機会を作り、民衆交易の輪を広げていきたいと考えております。

【動画】エコシュリンプを支える「監査人」

2024年3月7日

エコシュリンプ産地の今を伝える動画の第四弾のご紹介です。

エコシュリンプが決められた養殖基準に沿って育てられているかどうかを確認していく監査人の仕事は、 縁の下の力持ち的なポジションなので目立つことはありませんが、おいしくて安心安全なエコシュリンプを届けるために非常に重要な役割を担っています。

<監査人の仕事>

日が昇り、今日もイスマイルさんの1日が始まります。バイクにまたがり向かう先は養殖池!

今回の舞台であるピンラン県には、イスマイルさんを含む3名の監査人がいて、その3名でピンラン県にいる 約1000名の生産者を監査しています。1日3名ほどの養殖池を回り、日々監査を行っています。

監査人は、生産者と養殖方法について話し合い、よりよい養殖ができるようサポートも行っています。 生産者の頑張りだけでなく、監査人のサポートもあってこそのエコシュリンプなのです。

2人の娘のお父さんでもあるイスマイルさん。

続きはぜひ動画でご覧ください▼▼

エコシュリンプ産地の今を伝える動画は、今後も定期的に配信予定です。 次の動画も楽しみにお待ちください!

第一弾は、こちらから→ 粗放養殖ってどんな養殖?生産者が語る、その難しさやこれからの課題

第二弾は、こちらから→ エコシュリンプ生産者に聞いてみた!~課題や悩み、イマドキの養殖事情~

第三弾は、こちらから→ エコシュリンプの若手生産者にインタビュー!inインドネシア・スラウェシ島~

エコシュリンプ産地の今を伝える動画は、今後も定期的に配信予定です。次の動画も楽しみにお待ちください!

▶エコシュリンプとは?

【バナナニュース348号】父親としての責務を遂行せよ

2024年3月5日

ATPIスタッフ来日③

前号までの記事はこちらから→

フィリピンからスタッフが来日!① 

フィリピンからスタッフが来日!②

先月号に続き、今号も昨年11月に来日したオルタートレード・フィリピン社(APTI)スタッフのアーウィン・ソラノさんの紹介です。バランゴンバナナの民衆交易では、フィリピンの4つの島から約3,000名の小規模生産者があちこちに点在する圃場で栽培・収穫して、皆様にお届けしています。

山奥でも生産者がいる集落があれば集荷に行くので、バナナの管理は極めて地道で労力がいる作業です。出荷責任者であるアーウィンさんはネグロス島在住ですが、他の島の産地に年5~6回ほど出張して現場を確認する必要があり、品質や物流に問題が発生すれば更に訪問します。それに加えて日本に来ることもあり、1年に3~4ヵ月は家を空けることになります。パートナーは中東へ出稼ぎに出ており、アーウィンさんの出張中は、小学生の子どもたち二人は同居している義父母と一緒に過ごしています。

そんなアーウィンさんは、子どもたちへのお土産選びを「父親としての責務」と称していました。子どもたちと一緒にいられなくとも、遠距離出張だからこそできる重要な家族サービスと位置付けているようです。

一緒にミンダナオ島に行った際に、ほとんど毎晩家族と電話したり、熱心に子どもたちのお土産を選んだりしているのを見ていたので、昨年の来日の際には、不在の寂しさを拭えるような素敵なお土産を自然と一緒に探したくなりました。怪獣のフィギュア1つでも横浜、渋谷、池袋を回り、納得のいくお土産を見つけました。

ATJバナナ担当:小島

PARCによるガザ救援活動報告

2024年3月1日

ガザ地区で緊急救援活動を展開しているパレスチナ農業復興委員会(PARC)より、これまでの支援の実績報告が届きました。

図にあるように、50万人を超えるたくさんの人びとに食料や飲料水、生活必需品などを配布しています。こうした活動は複数の国際NGOからの資金援助を受けて行っています。

ガザも冬となり、寒い日々が続いています。特に家を追われて避難生活をしている人びとに対してはテントや毛布、衣服なども支給しています。

(注)食料引換券:指定された店から一定額の食料品を引換できる電子バウチャー。商店に在庫があった戦争初期にPARCが被災者に配布したもの。 

一方で、ガザ地区の食料事情は危機的な状況です。

国連人道問題調整事務所(OCHA)調整部長、ラメッシュ・ラジャシンハム氏は2月27日、国連安全保障理事会でガザ地区の食料事情について報告しました。報告のタイトルは、「停戦がなければ、ガザの飢饉は『ほぼ不可避』だ」という衝撃的なものです。以下、報告の要点をまとめました。

  • 軍事行動、治安の悪化、必要物資の搬入・搬出の大幅な制限によって、食料生産と農業は壊滅的な打撃を受けている。
  • ガザで長い間、重要な栄養源であり収入源でもあった漁業は、10月7日以降、出漁が禁止されている。戦争によって家畜の命も奪われ、もうひとつの重要な食料源と収入源が失われた。
  • 電気、燃料、水などの必要物資の不足により、食料生産は事実上停止状態にある。10月7日以前にガザで稼働していた5つの製粉工場は、11月に入ると操業を停止した。
  • 小麦粉、卵、乳製品といった商品は、ガザではほとんど入手できない。一方で入手可能な商品の価格は法外な水準にまで高騰している。
  • ガザ北部の2歳未満児の6人に1人が急性栄養失調と消耗症に苦しみ、ガザの全人口が、生き延びるためには極めて不十分な人道的食料支援に頼らざるを得ない状況に置かれている。
  • 電力・燃料の供給停止により水道施設が機能せず、食料生産と栄養失調、病気の予防に不可欠な水へのアクセスに大きな影響が出ている。
  • ガザ地区では、子どもたちや妊娠中・授乳中の女性の栄養不良が急増しており、特に深刻な問題となっている。さらに、慢性的な過密状態、適切な住居がなく寒さにさらされていることが栄養不足に拍車をかけ、大規模な疾病の流行を引き起こす条件を作り出している。

(原文)Mr. Ramesh Rajasingham updating the Security Council on food security risks in Gaza | United Nations Office for the Coordination of Humanitarian Affairs – occupied Palestinian territory (ochaopt.org)

こうした危機的な状況下でPARCの支援を待つ人がたくさんいるはずです。しかし、ガザ地区内で食料や物資を調達することはますます困難になっています。そのため、PARCは隣国ヨルダンのNGO (Jordan Hashemite Charity Organization)と連携して、ヨルダンを経由して西岸地区からガザ地区へ物資を搬入する手段を模索しています。この計画が一刻も早く実現することを切に祈ります。

広報室 小林和夫

食のギャラリー/マスコバド糖「オートミール」

2024年2月28日

食のギャラリー/マスコバド糖「きな粉ボール」

2024年2月28日

食のギャラリー/マスコバド糖「大学芋」

2024年2月28日

食のギャラリー/マスコバド糖「らっきょう」

2024年2月28日

「ガザの飢餓を止めろ」キャンペーン報告

2024年2月13日

パレスチナ農業開発センター(UAWC) 2024年1月28日 

イスラエルによる大量虐殺が始まって113日がたちました。死者の数は27,000人、負傷者は7万人を超えました。なかでも最も被害を受けたのは、最も弱い立場にある子どもたちと女性です。ガザ地区の状況は、イスラエル軍による封鎖によってさらに悪化しています。

封鎖によって、食料、清潔な水、医薬品といった必要不可欠な資源の入手が著しく制限され、今や200万人以上のパレスチナ人が、深刻な飢餓に直面しています。

こうした状況下でUAWCは、人道危機を少しでも和らげるため、活動を継続しています。

《活動進捗と成果》

キャンペーンでは食料パックや食事、野菜、衛生用品、衣料品など、さまざまな物資を合計84,000人もの人びとに届けました。

  • 食料や水:合計5,000個の食料パックを困窮した5,000世帯に届け、7,000世帯以上に毎日の食事を提供しました。また、15万人以上に水を配給しました。
  • 衣類と衛生用品:衣類と衛生用品をそれぞれ1,000世帯に提供しました。
  • 病院支援:地域医療を強化するため、ラファとハンユニスにある病院に食事を提供し、医療スタッフと患者の双方を支援しました。

このキャンペーンは、ジャバリア、ハンユニス、ガザ市の3つの地域に集中して行われ、援助を最も必要としている人びとに確実に届くようにしています。
この他に、約4,000人の羊農家に、家畜の飼料を支援しました。

《支援継続に立ちはだかる壁》

「ガザの飢餓を止めろ」キャンペーンは、現在、大きな困難と課題に直面しています。
封鎖と戦争により食料、水、医薬品など命を支える重要な物資は驚くほど不足し、急速に減少しています。また、高い需要に対して供給が全く追い付かない状況下で、これらの物資の価格が高騰しています。キャンペーンは物資を確保する困難に直面し、たとえ入手できる可能性があっても非常に高い価格で調達せざるを得ません。さらに、イスラエル軍の継続的な爆撃が、支援物資を配布したり受け取ったりする人々の安全を脅かしています。

戦争が長引き、封鎖によって救援物資がガザに搬入することが認められなければ、人道危機がさらに深刻化することは明白です。現在ある物資は、ほとんどが戦争前にガザ地区内で備蓄されていたものですが、急速に枯渇しています。物資を補充できないことは、住民の命に重大な脅威をもたらします。特にガザ地区の中部と北部では、住民の飢餓が憂慮すべきレベルに達しています。

食料不足の状況は、キャンペーンがなし得る能力をはるかに超えており、被災した人びとの緊急かつ膨大なニーズにすべて応えることは非常に難しい状況です。人びとが希望を持てず、支援も絶対的に不足しているガザ地区において、皆さまからのご寄付が支えるUAWCの活動は単に物質的な支援だけでなく、被災した人びとへの精神的支援にもなっています。希望と物質的なニーズが少しでも人びとに行き渡るようUAWCはその使命に全力を尽くす所存です。

……………………………………

<募金報告>

これまでに寄せられた支援金額は3,200万円を超えました。UAWC及びもう一つのオリーブオイル出荷団体であるパレスチナ農業復興委員会(PARC)には、これまでに各1,500万円を送金し、支援活動に活用されています。

オンラインセミナー「パレスチナのオリーブ生産者は今」報告

2024年2月9日

2023年10月7日のハマスによる越境攻撃をきっかけに始まったイスラエル軍によるガザの大量破壊・ジェノサイド攻撃は4ヶ月に及び、ガザ地区では多数の死者、負傷者が出ています。また、食料や水、電気、燃料、医薬品が極度に不足し、ほとんどの住民が避難生活を強いられているガザ地区の深刻な状況はメディアでも報道されています。

その一方で、ATJオリーブオイルの産地であるヨルダン川西岸地区の緊迫した状況はかなか情報が届きません。収穫期を迎えたオリーブの産地はどうなっているのか。産地や生産者の現在を伝えるため、ATJと姉妹団体のAPLAは12月13日(水)にオンラインで現地とつないで、「パレスチナのオリーブ生産者は今」を開催しました。パレスチナとの時差(7時間)のため、19時から21時という遅い時間帯での開催にもかかわらず、278名(事前登録者数は409名)の方々にご参加いただきました。

以下、報告の要旨をまとめました。

1)ヨルダン川西岸地区の人びと、農民が置かれている一般的状況について

パレスチナ農業開発センター(UAWC)代表 フアッド・アブサイフ氏

1993年に交わされたオスロ合意に基づき、ヨルダン川西岸地区はA、B、Cの三つのエリアに分かれた。このうち、面積の60%以上を占め、行政も治安もイスラエルが実権を握るエリアCには、イスラエル人入植者70万人、パレスチナ人30万人が住んでいる。オリーブ生産者のほとんどがこのエリアCに住んでいる。

エリアCに建設されている高さ11メートルの分離壁(現地ではアパルトヘイト壁と呼ばれている)は全長750キロに及び、パレスチナ人の家族や土地を分断している。自由に移動することが難しく、教育や医療へのアクセスといった基本的なことさえままならない。

また、オリーブ生産者はイスラエル軍や入植者の日常的な暴力にさらされてきた。2023年は暴力が増え、23年上半期には591件、10/7以降は毎日40-50件の暴力事件が発生し、オリーブ生産者はほぼ移動できない状況である。

2)2023年10月7日以降の西岸地区の状況及びオリーブ収穫について

アルリーフ社(パレスチナ農業復興委員会・PARCのフェアトレード事業会社)代表 サリーム・アブガザレ氏

パレスチナには900㎢もの土地にオリーブの木が植えられているが、入植者にオリーブの木が抜かれたり、農民への暴力が起きていた。例年10月-11月が収穫期だが、2023年はガザ地区での紛争と重なってしまった。入植者による収穫中の農民への280件もの攻撃、また、オリーブを運搬する車両を燃やす事件が起きている。10月28日には、アル・サウィヤ村で収穫中の農民、ビラール・サーレフ氏が入植者によって銃撃され、亡くなった。

収穫ができなかったオリーブはオイルにして1500トン相当、金額にして1050万ドルもの大きな損失が出た。自分の土地にとどまり、オリーブを収穫するという当たり前の権利が奪われてしまった。

3)オリーブオイル民衆交易事業の意義について

○ フアッド・アブサイフ氏
フェアトレードは生産者の暮らしを支える大切な取り組みだ。だが、パレスチナのオリーブは他の産地、商品とは違った重要性がある。生産者はイスラエル占領下で貧しくされた小農民で、入植者の暴力によって常に危険にさらされている特殊な状況下でオリーブを生産している。生産者、労働者、消費者にとって公正な価値、価格で取引されるべき。民衆交易は農民がオリーブ生産を続けることを保証し、尊厳を保ち続けるために非常な重要な手段である。
 
○ サリーム・アブガザレ氏
この21年間、日本や韓国の消費者からは遠いパレスチナからオリーブオイルという商品だけでなく、占領下に住む人びとの物語も伝えようとしてきた。パレスチナ人が農業や土地を愛し、土地にとどまり、耕し続け、質の良いオリーブオイルを生産し、消費者に届けたいという農民の姿もその一つだ。

この後、UAWCフアッド・アブサイフ氏、PARC事業部長のイザット・ゼダン氏より、ガザ地区・ヨルダン川西岸地区における緊急支援の進捗報告がありました。報告内容は両団体のこれまでの報告と重なりますので、以下の報告をご覧ください。

パレスチナ・ガザ地区で緊急支援物資配布が開始されました。

「Stop Gaza Starvation(ガザの飢餓を止めろ)」支援進捗報告

▼セミナーの様子はこちらよりご覧いただけます。

また、報告のうち西岸地区の一般的及び10月7日以降の状況、及びオリーブオイル民衆交易の意義を語ってくれた部分を20分程度のダイジェスト版にしました。ぜひ、ご覧ください。

セミナー後にご記入いただいたアンケートには、「現地の声を、当事者の言葉で、直接聞くことができてよかった」、「メディアからは分からないパレスチナでの現状、現実を知った。パレスチナ問題が身近になった」、「一刻も早い停戦のために自分にできることをしたい」、「ヨルダン川西岸地区ではこれまでも日常的にイスラエル軍や入植者による暴力行為があり、10月7日以降増加していることを初めて知った」、「困難な状況下で栽培されているオリーブオイルを利用することで、少しでも力になりたい」、「国は関係なく、人と人がつながる民衆交易の大切さを改めて感じた」、「胸が張り裂けそう。安心してオリーブオイルが生産できる平和な日が一日も早くきますように」、「救援カンパにも協力したい」といった感想、現地へのメッセージが多数寄せられました。

中でも印象的な感想、メッセージをご紹介します。

<感想>
「私たちが購入することで、不戦の意思表示をし続けたいと思います。」
「土地を奪われ傷つけられ、その加害者は正当に裁かれない。人としての尊厳が奪われている中、オリーブオイルを通して、パレスチナの誇りを届けて下さっているのだと思いました。」
「暴力におびえながらの農作業、命がけでオリーブを収穫している姿を目に焼き付きました。決して忘れることなく、心に留めます。そしてオイルをありがたくいただきます。」
「人は数であらわすものではなく、ひとりひとりに名前があり生活があることを繰り返しメッセージと
して伝えておられたことが印象に残りました。」

<現地へのメッセージ>
「オリーブの収穫寸前での攻撃に心がズタズタに切り裂かれてしまったことかと思います。どうかご無
事で。日本でみなさんのオリーブオイルを待っている組合員がたくさんいます。希望を失わないでく
ださい。」
「様々な攻撃、妨害がある中で、土地を愛し、耕し続け、その結果であるオリーブオイルを世界に届けていることは、大変勇敢な戦いであるのだと思います。」
「迫害や暴力により恐怖と不安の日々の中、私たちにオリーブオイルを届けてくれています。救援カン
パはもちろんですが、命がけで作ってくれたパレスチナのオリーブオイルを利用することもずっと続
けていきたいです。」
「私たちが民衆交易を続けることが強く平和を祈り、暴力に抗議する力になると信じます。」
「日々、報道されるパレスチナの状況に心を痛めながらも、今、何ができるか、焦燥感に駆られていました。当面、PARC、UAWCを支援することに努めたいと思います。」

パレスチナのオリーブオイルをATJに紹介し、パレスチナとの連帯のきっかけを作って下さったコリン・コバヤシさん(フランス在住の美術家・著述家・ジャーナリスト)にもご参加いただき、現地へのメッセージを頂きました。
「1日も早く戦争を終わらせて、古来から悠久に続いていたオリーブ生産が安心してできる日が来るのを心から祈ります。そのためには、パレスチナーイスラエル紛争の根源的な解決が不可欠です。皆さんの勇敢で強い意志に敬服し、心から声援を送ります。」

感想、メッセージをパレスチナの報告者の方々に伝えたところ、「コメント、ご支援・ご理解に励まされました。皆さんの連帯は私たちにとってかけがえのない貴重なものです」との返事がありました。

今後も現地の状況について適時、報告してまいります。

広報室 小林和夫

パレスチナでオリーブを栽培し続けるということ ―オリーブオイル民衆交易の意義

2024年2月8日
UAWCが建設した農道

パレスチナでは、4000年以上も前からオリーブの栽培が行われてきており、オリーブは文化の象徴でもありますが、そのオリーブの木がイスラエル軍や入植者に焼かれる、根こそぎにされるということが起きています。

守られぬ合意、継続する暴力

1967年、第三次中東戦争でイスラエルがパレスチナを軍事占領して以来、ヨルダン川西岸地区ではイスラエル人の入植が増加し、多くのパレスチナ人が土地を追われました。1993年にようやく和平交渉が始まり、イスラエルとパレスチナはオスロ合意にて、ガザ地区およびヨルダン川西岸地区の一部におけるパレスチナの段階的自治を定めました。

しかし、その後もパレスチナ自治区へのイスラエル人による入植は続いており、2023年末時点では、オスロ合意以前の3倍以上の土地が占有されています。イスラエル人は入植をするだけではなく、パレスチナ人による反発がおきても鎮圧できるようにイスラエルとの分離壁をパレスチナ人の土地の中に建設し、さらに検問所を設けることで、パレスチナ人の移動を制限しました。

オスロ合意によって、ヨルダン川西岸地区はA、B、C地区に分類されました。A地区はパレスチナに行政権と警察権がありますが、B地区では行政権だけ、C地区では行政権と警察権はイスラエルが握っています。分離壁やフェンスがいたるところにあるC地区に住むパレスチナ人は、自分の農地に行く時にも壁の所々に設けられているゲートでチェックを受けます。言われなき理由で通行できない日もあり、移動には大きな困難が伴います。

ガザ地区と西岸地区を合わせたパレスチナ全体の31%は農地で、そのうち54%がオリーブ畑です。C地区には、ほぼ全域にオリーブの木が植えられています。オリーブ以外にもアーモンドやデーツ(ナツメヤシの実)など多くの農産物がパレスチナの土地で生産されています。

そうしたパレスチナの農業と農家を支援するために、PARC(パレスチナ農業復興委員会)とUAWC(パレスチナ農業開発センター)がそれぞれ 1983年、1986年に設立されました。PARCはアル・リーフ社、UAWCはマウント・オブ・グリーン社という事業会社を設立し、オリーブを含めたパレスチナで収穫される農産物や農産加工品のフェアトレード事業にも取組んでいます。オルター・トレード・ジャパンは、この2つの事業会社からオリーブオイルを輸入しています。

自分たちの土地を守る

パレスチナの人びとは、自分たちの土地を守るために、農地を開墾します。そして人びとは今でも年間1万本のオリーブの木を植え続けています。開墾されておらず使用されていない土地は、イスラエルによって接収が正当化されるからです。

PARCやUAWCでは、農地を持続的に管理するための農道の建設や井戸の修復、灌漑用水路の維持管理に取組んでいます。農業に欠かせない水源の90%はイスラエルにより独占されているため、農業用水確保のために雨水を貯める大きな貯水槽や用水路の建設、また水が全くない村には水源から水をパイプで引いてくるなど、その村に合わせた方法で水の確保の支援をしています。

雨水用貯水槽の建設

しかしその努力の一方で、水源の重要性を知るイスラエルは、水源や貯水槽を意図的に攻撃し、破壊することもあります。農地へのアクセスを困難にし、水源を奪い、パレスチナ人が農地を放棄するよう仕向けます。

農村地域に住む多くのパレスチナ人は、日常的な暴力の下で生活しています。特にオリーブ収穫期の2023年10月以降、収穫間近のオリーブの実を盗む、木を伐採する、またパレスチナ人への直接的な暴力がさらに増加しています。元来オリーブの収穫は、家族総出で収穫に取り組む賑やかな年中行事です。

オリーブオイルの民衆交易は単にオリーブオイルを適正価格で購入し、生産者の生活を支える以上に意味があります。パレスチナのオリーブオイルを利用することは、パレスチナの人びとの土地を守り、文化の象徴であるオリーブとともに生き続けるパレスチナ人たちとの連帯を表明することにつながります。

鐘ヶ江良亮(かねがえ・りょうすけ/ATJ)

PtoP NEWS vol.60

2024年2月5日

PDFファイルダウンロードはこちらから→PtoP NEWS vol.60

<今月のおいしい!>乾季にはこれ!「サユールアサム」

2024年2月2日

「今月のエナック!(おいしい)」は、インドネシアのスープ「サユールアサム」。

※「エナック」はインドネシア語で「おいしい」という意味です。

酸っぱい野菜スープという意味のサユールアサムは、エコシュリンプ加工場工員、スハルニンさん(51歳)の家庭で最も人気の高い料理です。スハルニンさんの家庭ではさわやかな味が好まれて、暑い乾季には毎週1回は朝かお昼の食卓にあがる程です。この酸味は、一緒に煮込むタマリンドという木の実から出ます。味付けにはキャンドルナッツやガランガルといった東南アジア特有のスパイスも欠かせません。

もう一つの人気の理由は材料が手に入りやすく、安価なこと。八百屋さんではサユールアサム用にホウレンソウ、キャベツ、ハヤトウリ、もやしとピーナッツがセットになって売られています。また、自家製のスパイシーなトマト・サンバルを加えることもあります。

~サユールアサムの作り方~

【材料】
〇サユールアサム用野菜セット 1パック(空芯菜、スプラウト、キャベツ、ハヤトウリ、落花生)
〇スパイス

  • タマネギ 5個
  • ニンニク 3片
  • クミリ(キャンドルナッツという木の実の種子)3個
  • トウガラシ 2つ
  • ガランガル(ショウガ科の植物の地下茎) 2センチ
  • タマリンド (マメ科の植物の果実)1個

〇調味料

  • 砂糖

【レシピ】
①すべてのスパイスを臼ですりつぶす。
② 1リットルお湯を沸かし、ピーナッツとスパイスを入れる。
③ 10分ほど野菜が柔らかくなるまでゆでる。
④ 塩と砂糖を加えて味を調えて完成。
⑤ お好みによって自家製トマト・サンバルを加える。

~スハルンニさん家の食卓風景~

①果物 地場産のジェルック(オレンジ)とジャンブーアイル(グアバの一種)
②ごはん インドネシアの主食です。
③レンソと揚げ魚 レンソは緑豆のナゲットです。
④サユールアサム
⑤トマト・サンバル トラシ(エビのペースト)やトウガラシ、塩・砂糖を石臼(チョベ)ですりつぶしたサンバルは、欠かせない調味料です。料理の度に石臼でサンバルを作ります。
⑥クルプック 食事に必ず添えられる揚げせんべい。

~スハルンニさんの家族~

Q:ご家族は?
スハルニン:夫のヌル・アフマド(53歳、警備員)、娘のデラ・ヌール・アイナ(19歳、大学生)との3人家族です。
Q:普段は誰が料理をしているのですか?
スハルニン:私がしますが、時々娘がお手伝いしてくれます。
Q:1日に何回、誰と食事をしますか?
スハルニン:1日3食、家族全員で食事をとります。

インドネシアでは伝統的に食事は床に座ってとります。スハルニンさんの家では座卓もなく、主食のお米やスープ、おかずを大皿からそれぞれが取り分けたお皿を床の上に直接置いて食べます。

まとめ:小林和夫(ATJ広報室)

◆コラム「今月のおいしい!」では、産地の食事や食文化について紹介していきます。
前回の記事はこちら→フィリピンでも「ずいき」を食します。
フィリピンの代表的な家庭料理、醤油と酢で素材を煮込んだ「アドボ」が登場します。

【バナナニュース347】農民の厳しさを知っているから携わりたいと思った

2024年1月31日

~フィリピンからスタッフが来日!② ウィニー・ソベラノさん編~

フィリピンからスタッフが来日!①はこちらから

今回は、昨年来日したオルタートレード・フィリピン社(ATPI)スタッフのウィニー・ソベラノさんの紹介です。ウィニーさんは、現在ネグロス島の出荷責任者を担っています。入社から今年で24年目。ATPIで働き始めた理由を聞いてみました。

「きっかけは、学生時代のインターンシップでした。農学部の学生で、コースの一環でインターンとしてバランゴンバナナの現場に入りました。現場スタッフたちと各産地を回り、時には生産者の家に泊まらせてもらい、たくさん話をしました。その経験から、民衆交易の意義に感銘を受けて継続して働きたいと思い、卒業後の就職先として選びました。幸いなことに採用されてバナナの現場担当者になりました。自分も農家の出身です。フィリピンの農民たちの苦労や置かれている状況の厳しさを知っています。民衆交易(※)がどれだけ農民の助けになっているかを知り、自分もそれに携わる一人になりたいと思いました」。

来日中、ウィニーさんと接するなか、現場が抱える厳しさがありながらも、よりよくしていきたいと前向きな気持ちをもって積極的に仕事に向き合っている姿が印象に残りました。

来日中には、消費者との交流会で2016年にネグロス島を訪問したことのある方と偶然再会しました。お互いに名前を覚えており、旧友と久しぶりに会ったかのような二人。当時、現場担当者だったウィニーさんが今ではネグロス島の出荷責任者になっており、「長い時間が経ったんだね!」と互いに再会を喜びあっていました。

※モノ(バランゴンバナナ)を通じて生産者と消費者をつなげ、共に支えあう関係性を創る交易事業

<ウィニーさんの産地での仕事の様子>

車やバイクで入れない産地へは徒歩で向かいます(右側の赤い服がウィニーさん)。
生産者に日本での販売先である生協のカタログを見せて、どうやってバナナが販売されているかを説明している様子。 説明した生産者たちから、もっと栽培管理を頑張りたいので研修をしてほしいとリクエストがありました。
※来日中に出会った消費者の方から、出荷量が減ってしまう時にカタログへの掲載がないため、買いたいけど買えないという話を聞いたとのこと。今後は生産者にそのことも説明したいと話していました。
後日、産地へ戻って、生産者たちにバランゴンバナナの栽培管理についてレクチャー中のウィニーさん。

ATJバナナ担当:吉澤

カカオ生産者協同組合が立ち上がりました!

2024年1月25日
組合設立の話合い風景

カカオキタ社(カカオキタはインドネシア語で「わたしたちのカカオ」の意)がカカオ豆を買い付けているパプア州ジャヤプラ地方のカカオ収穫状況は、2023年は年初から思わしくありませんで した。昨年が豊作だったので、今年は裏年なのでしょうか。

しかし、ピンチをチャンスにという言葉があるように、豆の集荷に苦慮するなかでカカオ生産者たちの間で協同作業を組織化して経済的な力をつけよう、という意欲がわいてきました。

新代表の悩みがきっかけに

昨年カカオキタ社代表のデキーさんが闘病の末亡くなった後、今年 2月にデキーさんの一人息子ハンス(34歳)がカカオキタ社スタッフや生産者の承認を得て代表に就任しました。カリスマ性のある父親の後ろにいつも隠れていて、自信があるのはバスケットだけというちょっと頼りない?ハンス代表。その彼から、カカオ豆の収穫が不調で昨年同時期の半分にも満たず、このままでは日本の消費者にチョコレートを届けられない、どうしたものか、と相談を受けた時、産地のひとつブラップ村の生産者たちは「カカオキタ社を助けてあげなければ!」と買い付けの協力を申し出てくれました。

親戚や知り合いがいる地域を回ってカカオ豆を集め、それをブラップ村の有志で再乾燥・選別して、自社の倉庫で作業する必要がないくらい、きれいな状態でカカオキタ社に売ってくれたのです。お陰様で6トンのカカオ豆を委託加工先のスラバヤに向け出荷することができました。
この経験から、数名のブラップ村生産者が村を越えたカカオのネッ トワークを構築し、一次加工(発酵・乾燥・選別)を行う仕事に本格的に取り組みたいと考えはじめ、それが「協同組合を立ち上げよう!」という動きにつながりました。

組合設立の書類作成をする設立発起人たち

組織化の難しさを乗り越え、生産者たちの新たな挑戦がはじまる

ブラップ村とカカオキタ社のお付き合いはかれこれ7〜8年になりますが、デキーさんは最初の頃から協同組合を構想していました。生産者世帯が経済的に自立し、お金をパプア先住民族のコミュニティ内で循環させるために、「みんなで共同体経済を作ろう」と語っていたのです。しかし、生産者のやる気と覚悟が内部から立ち 上がってくることを待つという姿勢で、組織化を強制することはしませんでした。パプアの先住民族を組織化する難しさは、彼らの伝統的な生活習慣にもその理由があります。協同作業を必要とする農耕民族と違い、狩猟採集民族のパプア人は単独または身内で行動することが基本で、狩猟の際は犬を数匹従えて一人で森に入って獲物を仕留めるのです。異なった意見を調整しながら目標に向かって人びとをまとめるのは新しい挑戦です。

組合設立の書類作成をする設立発起人たち

組合を立ち上げるための話し合いでも、ついつい他人の発言をさえぎったり、一人で仕切ろうとする人が出たりと組織運営が前途多難であることは想像に難くありません。それでも、組合という枠のなかで話し合いをするなかで「誰でも発言権はあるよ」「透明性が大事だよ」という組合運営の民主的プロセスを喚起しながら、設立発起人20名の組合を登記することにこぎつけました。

名前の意味は”穏やかで清涼な川”

組合の名前は、”NGGAPU BU NGALI” (ンガプ・ブ・ンガリ)。ブラップ村があるグニェム地方の言語で”穏やかで清涼な川”という意味で、カカオ産地が広がる地域を流れる美しい清流「カリ・ビル (碧い川)」が組合のシンボルとなりました。

組合シンボルとなったカリ・ビル(碧い川)

設立目的は「わたしたち、一緒に、民衆経済を築きあげましょう」。デキーさんが民衆交易を説くとき常に強調していた、「生産者と消費者、その他関わる人たちすべてが一致協力して民衆による民衆のための経済(交易)を発展させていく」ということです。理事メンバーには生産者たちの強い要望で、カカオキタ社のスタッフも数名加わることになりました。ハンス代表は「組合活動を通じて鍛えてあげる」という生産者の意向で、副専務理事に指名されました。

ハンス代表と協同組合代表のヤフェットさん

カカオ生産者とカカオキタ社が協同組合のなかでがっぷり四つに組んで新たな可能性に挑戦します。どうぞご期待ください!

津留歴子(つる・あきこ/カカオキタ社)

【動画】パレスチナ・オリーブ生産者インタビュー

2024年1月16日

※このインタビューは、2023年10月7日ハマスとイスラエル軍の武力衝突前に撮影されたものです。

ガザ侵攻が始まって以来オリーブ産地のヨルダン川西岸地区でも緊迫した状態が続いています。現地パートナー団体によると今年収穫出来たオリーブは予定収量のうち35%のみで、65%は収穫できずそのままとなっているそうです。日常的に土地の不当な没収や暴力にさらされ、そもそもが理不尽な環境下だった人びとの暮らしがより厳しい状況になっています。

そうした状況だからこそ、生産者のことを知ってもらいたいという気持ちも込め、インタビューを掲載することにいたしました。

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これまで、男性生産者が登場する機会はありましたが、女性生産者は、実は今回が初めてです。

お話いただいたのは、ヨルダン川西岸地区にあるオリーブオイルの産地アル・ヤムン村に住む、ヌハ・アフマド・タイェブ・ホシイェさん。ホシイェさんの家族は、夫と5人の娘と4人の息子。9人の子どもがいるお母さんです。

自分たちの土地で色々な野菜を育て、家畜の羊や牛のミルクからチーズやヨーグルトを作り自家消費用にしています。そうした生活のなかでオリーブは大切な収入源です。

家族総出で作業する収穫の時期は、オリーブの木の下で薪をくべて家族みんなで料理をしたり、ピクニック気分で一家が一緒に楽しむことができるお祭りのような季節なのだそうです。「オリーブの収穫は大好き」と話すホシイェさんのうきうきした表情からは、家族との楽しい時を過ごしながら収穫作業をしている様子が伝わってきます。

生産者にとってオリーブ畑は、単に収入源のためのオリーブを育てるというだけでなく、家族との時間を共有できるかけがえのない場所でもあります。「私たちにとって土地はとても大事なもの」、そう語る彼女の「とても大事」の言葉の重みが心に響きます。

パレスチナ・ヨルダン川西岸地区の状況について

2024年1月15日

2023年12月20日

アルリーフ社

(パレスチナ農業復興委員会(PARC)のフェアトレード事業会社)

ヨルダン川西岸地区のパレスチナ人の都市・村落・難民キャンプに対する連日の侵攻

過去2カ月間、連日、イスラエル占領軍は、ヨルダン川西岸地区の各地、特にジェニン、ナブルス、トゥルカルム、ジェリコの難民キャンプに軍事侵攻を続けてきています。その主な目的は、抗議活動に参加したり、積極的に各種メディア・プラットフォームでイスラエルの占領による犯罪を暴露したりしているパレスチナ人の男性、女性、子どもを拘束することです。

10月19日にイスラエル占領軍により攻撃された西岸地区北部のヌル・シャムス難民キャンプの様子。
攻撃により3人が死亡し、多数の負傷者が出た。

2023年1月からイスラエル軍に殺害された(西岸地区の)パレスチナ人は505人以上となり、特に10月7日以降だけで302人以上が殺害されています。2023年は(西岸地区の)パレスチナ人にとって最も殉教者の多い年となってしまいました。イスラエル軍がガザ地区で2万人以上のパレスチナ人(その多くが子どもと女性)を殺害し、5万2586人以上を負傷させ、170万人以上の住民をガザ地区南部に避難させたことで、大規模な人道的大惨事と虐殺に見舞われていることは言うまでもありません。2023年のこの75日間が、イスラエルの占領下で暮らすパレスチナ人にとって、過去75年間を通しても最も恐ろしく残虐なものであったことは否定できないのです。こうした状況にもかかわらず、すべてのパレスチナ人は、解放のため、そして私たちの土地の占領と植民地化を終わらせるための闘いにおいて、立ち直る強さと粘り強さを失っていません。

ヨルダン川西岸地区におけるイスラエル占領軍のパレスチナ人拘束キャンペーン

10月7日以降、イスラエル占領軍はガザ地区での人質事件への対抗として、ヨルダン川西岸地区で4575人以上のパレスチナ人を拘束し、2221件の「行政拘禁(注)」を命じました。イスラエル占領軍とパレスチナの抵抗勢力との間の人質交換取引によってイスラエルの刑務所から最近釈放されたパレスチナ人の報告によると、パレスチナ人被拘禁者には、食料、衣服、毛布などが十分に与えられず、看守による継続的な激しい暴行や身体的嫌がらせを受け、ひどい状況で生活しているといいます。これは、イスラエルの占領政策である「緩慢な死」の一環であり、パレスチナ人被拘禁者に対する継続的な拷問と医療怠慢という形で長年にわたって続いてきたことです。

イスラエルの刑務所でパレスチナ人が耐えている恐ろしい状況と拷問により、刑務所内でパレスチナ人拘禁者が死亡するケースが複数発生しています。被拘禁者・元被拘禁者問題委員会によると、イスラエルの刑務所には現在、子ども255人、女性150人以上を含む7800人のパレスチナ人被拘禁者がいます。特に、イスラエルの看守による虐待、拷問、脅迫と闘わなくてはいけない女性の被拘禁者に対する状況はより深刻です。

この侵攻と逮捕・拘束のキャンペーンは、パレスチナ人に対する嫌がらせと虐待、被拘禁者の家族への脅し、パレスチナ人の財産の破壊、侵攻した地域のインフラに破壊を引き起こしています。

ヨルダン川西岸地区の経済状況の悪化

イスラエルによるガザ地区への攻撃が続くなか、イスラエルは、ヨルダン川西岸地区のパレスチナ自治政府の主な収入源となっている税収(イスラエル政府が代理徴収している)の移転を停止しました。その結果、パレスチナ人公務員は2カ月以上にわたり、月給を受け取っていません。そのうえ、イスラエル側で働く約13万9000人のパレスチナ人も仕事を続けることができなくなっており、パレスチナ市場に経済的災難をもたらし、失業率は急速に上昇しています。

これらイスラエルの占領がもたらす全てが、ガザ地区への侵略に反対するヨルダン川西岸地区での広範な抗議行動を阻止するために利用され、その結果、パレスチナ人の生活の多方面にわたるイスラエルによる支配が拡大しているのです。

西岸地区全体でイスラエル軍による検問所の数が激増し、強度を増しているため、以前に増してパレスチナ人の移動に制限がかかっている。

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イスラエルによる抑圧的なやり方と、ガザ地区における残忍な民族浄化が明らかにしているものは何でしょうか。

それは、イスラエルによるパレスチナ人の土地の占領を終わらせ、国際法に従ってパレスチナ人に独立国家を保証する真の政治的解決をめざし、パレスチナ人の闘争を人道・安全保障問題としてではなく政治問題として扱うことによってのみ、このすべてを終わらせることができるのだということです。

パレスチナ人は75年もの間、そのために闘ってきたのです。しかし、それにもかかわらず、いまだに犯罪者扱いされ、特にガザ地区では集団処罰の対象になっているのです。

注:起訴・裁判などの司法手続きを経ないまま収監・拘禁する制度

「Stop Gaza Starvation(ガザの飢餓を止めろ)」支援進捗報告

2024年1月15日

パレスチナ農業開発センター(UAWC)

2023年12月19日

10月7日から74日間にわたってガザ地区で続いている「ジェノサイド戦争」は、前例のない規模の破壊と(イスラエル軍による)意図的な戦略によって、「根絶のための戦争」へとエスカレートしています。この戦争によって、1万8500人以上のパレスチナ人の命が失われ、5万1000人以上が負傷した。破壊は人的被害だけにとどまらず、ガザ地区内の建物の60%以上が破壊され、1万人以上が行方不明となり、様々な地域のインフラが完全に破壊されました。

この戦争が際立っているのは、その残虐さにおいてだけでなく、農業や漁業といった食料生産に不可欠な民間インフラを組織的に標的にしていることです。イスラエル軍は、戦略的に、民間人の生活様式を混乱させ、破壊するために注力しており、それによってガザ住民の生存そのものを脅かしています。

現状で最も懸念されるのは、食料生産の基幹であるガザの農業が直面している甚大な破壊です。温室、農地、水道網、灌漑用井戸、農道、そして羊、鶏、牛などの家畜農場など、インフラの70%以上が破壊されています。最も深刻なのは、数千人の生計、そして栄養の供給源である漁業が受けている打撃です。漁船団の大部分が破壊されたり損傷したりして、すでに不足している食料資源をさらに減少させ、何千人もの漁師の生計に影響を及ぼしています。

イスラエルの戦時内閣による包括的封鎖がこの状況を悪化させ、食料、水、電気、燃料といった必要物資のガザへの流入を著しく制限しています。この封鎖は、戦争戦略の重要な要素であり、事実上、飢餓を武器として使用しているのです。これは、戦争における飢餓の使用を明確に禁止している国際法に著しく違反しています。

その結果、ガザは飢饉のような状態に見舞われており、100万人以上のパレスチナ人が生活必需品の切迫した不足に直面し、憂慮すべき規模の人道危機が引き起こされています。

「Stop Gaza Starvation(ガザの飢餓を止めろ)」キャンペーンの報告

目的と意義

  • 目標:戦争によって引き起こされた悲惨な状況からの救済、特に深刻な食料不足と必需品不足への対応。
  • 人道的重点:紛争の影響を深く受けている家族に、食料、水、衣料などの重要な物資を届ける。
  • 飢餓と苦しみの緩和:緊急援助だけでなく、食料安全保障や生活環境への長期的な影響を軽減するための活動も行う。

支援範囲

  • ガザ地区を中心に、加えて、ヨルダン川西岸地区の中で軍事活動や封鎖の特に激しい地域に積極的に働きかける。
  • 支援対象者:最も弱い立場にある子ども、高齢者、医療を必要とする人びとを優先的に支援する。

戦略的アプローチ

  • 協力と調整:現地のパートナー、コミュニティ・リーダー、国際組織と連携し、影響力とアウトリーチ活動を最適化する。
  • 物流の課題:援助物資を安全かつ迅速に届けるため、地域の不安定性を克服する。
  • 適応戦略:変化し続ける現場の現実、特に支援地へのアクセスや緊急ニーズに対応するため、継続的に戦術を見直す。

本キャンペーンでこれまでに実施できた支援の概要>

【ガザ地区】

受益者数:10月24日のキャンペーン開始以来、合計で1万9500世帯に達した。ラファ、ハンユニス、ジャバリアの地域に集中して支援をしている。

  • 約1万6500世帯に必要な飲料水を提供。
  • 約2500世帯に食料バスケットを提供。
  • 家や財産を失った500人の女性に対し、緊急のニーズを満たすための衣服を提供。

【西岸地区】

封鎖下にある地域の約120世帯に対して、家畜に必要な飼料を提供。羊の栄養補給と農業生計の継続に役立っている。

*なお、提供する物資は、地元の業者からの調達や10月7日以前の備蓄を活用し、迅速な援助展開が可能であった。さらに、地元の農場との協力は、リスク下での農業コミュニティの回復力を示している。

挑戦と困難

  • 戦争による生活必需品の在庫減少や物価高騰は、供給するための物資の獲得と管理における課題を増大させている。
  • 空爆による複雑な流通状況にもかかわらず、UAWCのチームは、最も弱い立場の人びとに支援を届けるという確固とした決意を持ち続けている。
  • ガザ地区内のUAWCの事務所や苗床は甚大な被害を受け、運営に支障をきたしている。

【バナナニュース346号】フィリピンからスタッフが来日!

2023年12月27日
学習会で熱弁をふるうアーウィンさん

2023年11月下旬、バランゴンバナナの輸出事業者であるオルタートレード・フィリピン社(ATPI)からバナナの生産管理と出荷を担当するアーウィン・ソラノさんとウィニー・ソベラノさんが来日しました。滞在期間中には、気候変動によるバナナ生産への影響について話をする機会が多々ありました。

「想像してみて!明日収穫できると思っていたバナナが台風によって一夜にしてなくなってしまうんだよ」とアーウィンさん。バナナは木に見えますが多年草の草。実の重みで強風が吹くとすぐに倒れてしまいます。2021年末には大型台風オデットの上陸で、ネグロス島のバナナはほぼ壊滅状態になりました。約1年数ヶ月後に回復し、天候に恵まれ豊作になったと思ったら、今年の7月と8月に再び台風がやってきました。その後も南西季節風の影響で長雨や強風が続き、バナナの成長にとっては厳しい天候が続きました。

特にネグロス島では、バランゴンバナナの売上が主な収入源の生産者もいます。「倒れてしまったバナナを前にがっくりする生産者に、またバナナを育てようと励ますのは心が痛い時がある。でも、再び立ち上がりバナナを育てる生産者たちは本当に強い心を持ち、忍耐力のある人たちだと思う」とも話してくれました。バナナはちょっとユニークな植物で、トモロコシやお米のように、被害後に植え直さなくとも、脇芽がポコポコ生えてくるという特性があります。だから復活しやすいという面もあるかもしれないね、とバナナならではの話もしていました。

生活クラブのデポーを視察。日本にしかない野菜を発見し興味津々でした。赤ちゃん連れの組合員さんがバナナを購入する場面にも遭遇し、うれしくて写真を撮影していたウィニーさん(左)。
イベントにてバナナの宣伝を頑張る2人

PtoP NEWS vol.59

2023年12月18日

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