【PtoP NEWS vol.19/2017.10】池の丸干し from インドネシア (エコシュリンプ)
井の頭池の「かいぼり」にインドネシアへの思いを馳せる
ナウなヤングのデートのメッカ、東京は吉祥寺にある井の頭公園は、今年めでたく開園100周年を迎えました。井の頭公園の見どころと言えば、神田川の出発点でもある井の頭池。カップルでボートに乗ると必ず別れると噂されるこの池は、それでも休日には所狭しと人工スワンが行き交い、天然カモはのびやかに泳ぎ回り、春には桜の花びらが色を添えます。
そんな井の頭池、かつては水が透き通っており、池底まで見えるほどだったそうです。しかし高度経済成長のあおりを受けて湧水量が減少。
その結果、池水の滞留時間が長くなったことで植物プランクトンが増加し、池の水は濁り、在来生物は減少し、外来生物が幅を利かせるようになってしまいました。そこで、100周年を迎えるにあたり、地元の人びとが「井の頭池をよみがえらせよう!」と立ち上がり、始まったのが「かいぼり」でした。
2014年から、数回に分けて行われたこの「かいぼり」。簡単に言えば、池の水を抜いて池底の土を天日干しすることと、そこにいる生き物を捕まえて仕分けし在来種だけを池に戻す、という取り組みです。それにより、土の地力が回復して水草が育ち、そこに在来種を戻すことで、本来の生態系に近づけていくことができるのです。もう誰も自転車を捨てたりしなくなるのです。
しかし、エコシュリンプを知る人にとっては、井の頭池は、エビの養殖池にしか見えません。目を閉じると、そこには平米当たり3尾の割合で放流された稚エビとバンデンが、仲良く泳ぎ回っています。
薄目を開けると、井の頭弁財天は養殖池にある管理人の小屋に見えてきます。思わずパンツ一丁でエビを獲りに入水したくなりますが、実際に入ってみると、池底はそれほど柔らかくはなく、エビもいませんでした。水も、インドネシアよりは冷たいです。その後は厳しい現実が待っています。
エコシュリンプの養殖池でも「かいぼり」
さて、インドネシアに広がる粗放養殖池には、ナウなヤングも人工スワンもいませんが、大人の階段を上るエビと魚はたくさんいます。
そして、古いところでは、めでたく300周年あたりを迎えているはずです。
乾季になると、「かいぼり」と同じように水を抜き、残ったエビや魚を獲り、池の底を天日にさらします。ヒトは吉祥寺でもジャワ島でも、同じようなことをして生きています。
水を抜いた養殖池は、赤道直下のガンガンの日照りにさらされ、池底の粘土質土壌は煉瓦のようにカチカチになります。
布団干しと同じで、これにより土が紫外線殺菌されるそうです。このカチカチ状態で1ヶ月くらい放置し、完膚なきまでに乾燥させるのが、本当の池干しのようです。その間に、池の土をひっくり返すこともあります。炎天下、数ヘクタールの池でこの作業をするのは、非常な重労働です。
地球の変化は養殖池にも
なぜエビ養殖のために土を大切にするのか?もちろん環境を整えるためなのですが、特に重要なのは、水草の生育です。
土づくりがうまくいかないと、いざ養殖を始めた時に水草が良く育ちません。すると、植物プランクトンの発生が少なくなり、稚エビが食べるエサが少ないことになり、結果的にエビの生育が悪くなります。
さらに、日中の光合成が減るために水中の酸素が不十分になったり、水面を覆う部分が少なくなることで昼夜の水温変化が激しくなったりと、見えないところでもエビの生育に影響を与えるそうです。もちろん、水草が多ければいいというものでもなく、適切な割合が望ましいです。
生産者に聞くと、「水面の40%を覆うくらいがいい」など、色々な意見を聞きますが、あまり共通見解はありません。各々の信念に基づいている部分もあるようです。
このようにエビの粗放養殖にとって重要な池干しですが、自然に依拠した養殖方法ゆえに、お天道様には逆らえません。
最近は地球温暖化の影響か、乾季と雨季の境目がはっきりせず、本来の乾季にも雨が降り続き、満足な「干し」ができないのです。
これがエビの生存率を悪化させている、と言う生産者もいます。昔から続く養殖方法に影響を与えるほどの環境変化は、決して小さくはなく、養殖池の池干し一つとってみても、実は地球はつながっているということを感じないわけにはいきません。日々の生活をちょっとでも見直すきっかけになれば、と思います。
若井俊宏(わかい・としひろ/ATJ)
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